第5話 冒険者になろう
5話まで毎日午前6時に投稿します。
第1章、全10話の予定です。
短い間ですが、お付き合いください。
第5話の語り手は、主人公のアーザムです。
色々仕込んでいるようですが、うまくいくのでしょうか?
第5話 冒険者になろう
「アーザム。おはようございます」
玄関ホールにケレスの元気な声が響く。
買ってからひと月、ガリガリな身体もメシと運動で健康的にふっくらし、髪も伸びてジョリジョリがなくなった。
ジョリジョリ感を求めて髪を切ることを勧めたらガチ泣きされた。
格好は特注の鎧だ、通気性のいいシャツとズボンを着て、鉄板の裏に分厚いフェルトを貼った、胸当て、小手、脛当をベルトで止めてる。
その上にポケットをたくさん付けたジャケットを着て、体に密着する背負い袋を背負ってる。
武器は、右手には金属の金剛杖、左手には盾、腰には折れた魔剣を打ち直した小剣、ポケットにスリングを入れてる。
いっぱしの冒険者に見える。
「ヘルメット」
「イヤ、可愛くない」
若緑色に染めた革の帽子をかぶる。
なにがいけないんだ?
ドラゴンを模したヘルメットを棚に戻した。
準備ができた。
俺の声にケレスが元気よく答える。
「オッス! 授業を始める!」
「ハイ!」
「おまえは、タンクだ」
「ハイ!」
「タンクの仕事はなんだ!」
「ハイ!」
「そうだ! ヘイトを取ることだ!」
「ハイ!」
「次はなんだ!」
「ハイ!」
「前線を作り維持することだ!」
「ハイ!」
「そして、必要なら勝利のために死ぬまでがタンクの仕事だ!」
「え? ケレス死ぬの?」
「え? なんのことだ? 今日は冒険者登録に行く日だろう? 興奮しちまったぜ!」
「馬車で行くんでしょ。楽しみ」
「歩いて行ってもいいんだが、商人街を出ると馬鹿がちょっかいかけてくるんだよな」
「アーザム、カラカルとイズルスが待ってるよ」
ケレスが跳ねながら表に出て行った。
カラカルと下男の少年イズルスが馬車を準備して待ってる。
冒険者ギルドにさっさと行くか。
イズルスは、父に将来の手駒にとアルゼルとウルスラと一緒に付けられた同年代トリオだ。
乱暴者だが、家の者がいれば問題なく抑えられる。
ケレスと二人きりにしないよう気を付けよう。
イズルスがミンチになる。
カラカルはケレスのことについて何も言わなくなった。
この1ヶ月の間、ボコしても反抗してこないケレスを安全と判断したのかもしれない。
ケレスも最後には盾で受けられるようになっていた。
カラカルも本気で排除する気なら、普段使いの剣なんか使わないでアレを使うだろうし。
だけど魔剣の代わりどうしよう。
俺が勝手に+2って呼んでるクラスの魔剣は、そうそう手に入らないんだよな。
冒険者ギルドにはすぐ着いた。
西部劇みたいなドアを俺が先頭に立って入る。
冒険者達の視線が集まる。
ケレスは緊張しながら周りを警戒する。
カラカルとイズルスは落ち着いたものだ。
カウンターに着くと、顔に大きな傷の入った大男がいる。
「こいつの冒険者登録を頼む」
「ケレスはミルクが欲しい」
大男はなんともいえない顔をして俺を見て諦めたように続ける。
「ガッハッハ、嬢ちゃんここはガキのくるとこじゃねえんだ。家に帰ってママのおっぱいでも飲んでな」
「ケレスはガキじゃない 表に出ろギタギタにしてやる!」
ケレスはシャドーボクシングをしながらドヤ顔で鼻息荒く答える。
「アーザムの旦那、いつまで続けるんで?」
「満足したからもういいや」
「では確認ですが本当にアルミでいいんですか? シルバーの旦那の紹介ならブロンズでも、試験を受ければアッパーでもいいですよ」
「やっぱり冒険者は最下層からのし上がるのが醍醐味でしょ?」
「旦那がやるわけじゃないでしょうに」
「書類は届けさせたので足りるでしょ? 手続きよろしく」
まだシャドーボクシングを続けてるケレスの頭を掴むと適当なテーブルを陣取る。
「アルミって何?」
「冒険者章のことを全然知らない奴にとりあえず渡す冒険者章。錬金術で作り放題だから安物の象徴のアルミ。ギルドが冒険者と認めればブロンズに、戦闘ができればブロンズアッパー。ダンジョンに入るには一人でもシルバーがいないと入れない。人外の領域に足を踏み入れるとゴールド。ケレスにはゴールドになってもらう」
「ふーん。それで『身分不相応な装備もってんじゃねえか。俺様がもらってやるよ』っていう人は?」
冒険者章には興味ないのかよ。
「今日は来てないみたいだな」
ちょっと遊び過ぎたかな? イズルスがイラついてる。
「奴隷が旦那様になめた口をきくな! 旦那様がいるのにそんな口をきく奴いるわけないだろ! 冒険者ギルド、娼婦ギルド、どっちも出資してるんだぞ! 旦那様に逆らったら両方のギルドから睨まれるんだ。そうなったらどうなるかわかってるのか!」
わかるわけないだろ女の子になに言ってるんだ?
やっぱりケレスは首を傾げてる。
ガタガタ、冒険者達が立ち上がる。
仕事の時間か。
俺に会釈してギルドを出て行く。
ギルドは仕事の待ち合わせ場所も兼ねてるからな。
俺は手を振って応える。
ん?
イズルスが真っ青になって固まってる。
怖いなら静かにしてろよ。
「旦那できやした」
お、やっとできたか。
トレイにアルミでできたペンダントが乗ってる。
ケレスが物珍しそうに見てる。
アルミの小さな板に名前と受取人が刻印されている。
名前にはケレス、受取人には店名を入れてある。
ようはドッグタグ、死んだら店に届けられるようにした。
俺はネックレスの鎖を取ると、首輪に冒険者章を付けた。
「よし、これでおまえも冒険者だ」
「ハイ!」
ケレスは単純に喜んでる。
「早速冒険だ!」
またカウンターに行くと迷惑そうな顔をされた。
大金ってわけじゃないけど結構な額出資してるのに。
「第一歩は薬草集めだ!」
「薬草なんて重要なもの、専門家が集めますよ。ギルドには荒事しか来ませんよ」
「おかしいな? あいつの申請書類と一緒に依頼書、入ってはなかった?」
「……やめてください。錬金術師ギルドの利権を侵害する気ですか?」
「大丈夫。家で使う香料だから全然薬草じゃない」
「確認します。……薬草じゃねえな。依頼受領しました。ケレスに依頼します。日暮れにはギルドに戻って報告を入れる。さっさと雑草取りに行ってください」
「香料だって」
さすがに睨まれた。
王都の北北東の小門、あまり人の通らない寂れた門を抜けて1時間程歩いた原っぱに来た。
「ここが採集地だ。依頼書は見ただろう。その雑草の葉っぱの先だけを集めるんだ。似た葉っぱも多いから気を付けろ。ってどうした?」
鎧を脱いでラフな格好になっているケレスは不満げだ。
「鎧は?」
「暑いだろう? こんなところ角鼠しか出ないよ。おまえの頑丈さなら、目ん玉に突っ込まれても無傷だよ」
「武器は?」
「熊とか剣虎じゃなければいらないよ」
「なんか聞いてた冒険と違う」
「最初はこんなもんだ。ほらこの籠いっぱいにするんだぞ。日暮れまでに集まらなければ、明日も取るんだぞ。さっさと行ってこい」
「旦那様。籠いっぱいにするなら3日は掛かるんじゃないですか?」
「かかるだろうな。だがこれであいつには忍耐を学んでもらうんだ」
「それより、もっと見通しのいいところで待ちませんか? 繁みから角鼠が出そうで」
「そうだな俺とカラカルの間にいるようにしろ。魔法が使えないイズルスには危険だ」
しまった。
自分の忍耐力を計算に入れてなかった。
暇だ。
もしかして明日も待つのか?
まだケレスを外出させるのは不安だよな。
この世界は街中でも女は一人で歩けないからな。
俺でもまだ15だからな。
カラカルがいないで一人だと、なめられて強盗にあうからな。
ケレスを外出させたら死体の山の前で途方にくれてる姿しか思い浮かばん。
日本の安全が恋しいよ。
「アーザム」
「もう飽きたのか? 冒険者と言うものは忍耐も必要で……」
「集め終わった」
「うそだろ? 適当な雑草取ったんじゃないだろうな? ちょっと見せてみろ」
籠をひっくり返す。
「あー! せっかく集めたのに!」
ざっと見た感じは香料しかない。
「角鼠はどうした? 邪魔されなかったのか?」
「平気だよ。ほら」
信じられない。ケレスの手の上で角鼠がおとなしくしてる。
警戒心バリバリで少しでも近づくと切れて突っ込んでくるバーサーカーだぞ、どうなってるんだ?
「怯えてるから逃がすよ」
角鼠が離れて行く。
ちょっと離れてはお辞儀していく姿が芸が細かい。
「ほら葉っぱ籠に詰めたから帰ろ。エラッタおばあちゃんが初冒険成功祝いのごちそう作ってくれるの。楽しみ」
なんでやる前から成功なんだよとツッコミもできないまま、ケレスに引っ張られて帰った。
カラカルが何か言いかけたのも気にできなかった。
ごちそうは最高だった。
次の日、冒険者ギルドに行ったら、報告なしで依頼放棄になってた。
ケレスの初冒険は黒星で終わった。
アーザムには無理だったようです。
次回、第6話 初心者冒険者講座
新キャラが語り手です。
11月9日午前6時に投稿します。
諦めたアーザムはプロにまかせることにしたようです。
ヒロコレ計画はどうなってしまうのでしょうか?




