32 共犯者の大発見
「けど、その方法だと少し卑怯というか、騙してるみたいじゃないですか? 皆、僕が自分だけとデートしに来てくれたと思っているかもしれないのに、実際には全員とデートしてたことになりますし。すぐに皆から不満が出ることはないでしょうけど、ゆくゆくはかなり面倒な状況になりそうなんですけど」
「……ふふ~」
僕の反論を受け、星加さんは意味深に微笑した。
「そんなことを言い出したらさ~。今日私と井上君がこうして会ってるのも、ずるいってことになっちゃうよん?」
「あ。いや、それは」
しどろもどろになった僕を見つめ、彼女はいつになく蠱惑的な表情で囁く。
「――共犯だねえ。私たち」
共犯関係になってしまった。
さりげなくスルーされているけれど、僕の二つ目の案、すなわち「皆が仲良くなれば全部解決!」に彼女が全く触れなかったのは、仲良くする気がないからだろうか。栞と桜井先生はともかく、立花先生と星加さんはまだ友情が成立するのではと僕は希望的観測をしていた。どうも最後の希望は失われたらしい。
「どうする? 井上君。個別デート続行作戦、我ながら良いアイデアだと思うんだけどなあ」
「えーとですね……すみません、今ここですぐに結論を出すのは難しいかもです」
「ううん、ゆっくりで良いんだよ~。ぜひぜひ、前向きに検討してみてねえ」
今の星加さんは、平常運転のゆるふわな表情に戻っている。さっき「共犯だねえ」と言われたときは、一気に雰囲気が変わって驚いた。こんな顔もできるんだと思った。女性にはいくつもの顔がある。
彼女のアドバイスにも、一理あるとは思う。思うけれど、一つだけ留意すべき点がある。それは、完全なる第三者として助言をくれた前回とは違い、今回星加さんは第4ヒロインとして、一応この恋愛バトルロワイアル(立花先生命名)に参加している点だ。第4ヒロインとしての自身の立場を強めるため、自分にとって有利なアイデアを僕に提案した可能性も否定できない。
事実、星加さんは僕を家に連れ込んだことを「共犯」を表現し、僕に罪悪感を抱かせた。そして、個別デートを重ねる作戦ならばその罪悪感を払拭できることをほのめかしてきたではないか。恐ろしく巧みな頭脳プレーである。
ベッドから立ち上がり、僕は言った。
「その手には乗りませんよ、星加さん。僕は立花先生たちを裏切るわけには……」
いかないんです、と続けようとして、足元に転がっていた猫のぬいぐるみにつまずいた。バランスを崩し、片足でけんけんするようにして、そのままふらふらと前方へ倒れてしまう。
「うわっ⁉」
「ふにゃあ⁉」
反射的に、腕を前に伸ばしたのがいけなかった。僕の左手は星加さんの座っているゲーミングチェアを、そして右手が星加さんの胸を掴んでしまっていたのである。
ああ、終わった。僕の人生はこれにて終了だ。少年漫画のラッキースケベじゃないんだから、現実ではきっとセクハラで逮捕される。桜井先生じゃないんだから、積立おっぱいとして認められることもあるまい。
「ご、ごめんなさい!!」
咄嗟に手を離し、僕はせめてもの誠意を示すべく、土下座した。
「不可抗力だと言い訳するつもりはありません。お詫びに切腹します」
「そこまでしなくていいよ~⁉」
赤面してはいるが、怒ってはいないようだ。星加さんは胸を手で庇い、ぶんぶん首を振っている。
「元はと言えば、私があんなところにぬいぐるみ置いといたのがいけないんだし。……そ、それに、嫌じゃなかったもん」
「え?」
台詞後半が、ボソッと言われたのでよく聞き取れなかった。
「何でもないよん。ただ、触るにしても、もう少し優しく触ってほしかったかな~。私、今タンクトップ一枚で、下着付けてないからさあ」
「大変失礼しました……」
僕はますます深く頭を下げた。
星加さんに相談に乗ってもらったことで、僕を取り巻く状況はますますカオスになった感がある。けれども、一つだけ良いこともあった。シュレーディンガーのタンクトップ問題が、無事に解決したことである。星加七海のタンクトップの下は、ノーブラだったのだ。
感触が若干硬く感じられたことから、パッド付きのタンクトップだと推察される。さすがに、パッドなしかつノーブラの線はなかったか。とにかく、これでもうノーブラか否かで頭を悩ませなくて良くなった。迷いを捨て、脳をクリアにできる。粉骨砕身、身を挺して、僕が自己犠牲を払って突き止めた真実は、まさしく天国だった。
こうして僕は、成り行きで星加さんとおうちデートをした挙句に手違いで胸を揉み、ついでにタンクトップの下がノーブラだったという世紀の大発見をしたのである。




