33 デートの先行はもらった!
昼休み。
中庭のベンチへ栞と桜井先生を呼び出すのも、久々に感じる。このところ、校内でのささやかなデートばかりだったからな。
「急にどうしたのよ。事前に言ってくれれば、今日もお弁当作ってきてあげたのに」
嬉しそうなんだか、怒ってるんだか分からない栞。
「私も、今日はお菓子を手作りしてくる時間がなかったな。どうだ、この際、お菓子の代わりに私を食べるか?」
チェリーブロッサム・グッドケージはと言えば、普通のテンションでとんでもない爆弾発言をかましてくる。まあ冗談のつもりなんだろうけれど、教職を志す者としてそれで良いのか。
いつものように僕の左右に座った二人を交互に見て、僕は頭を下げた。
「実は、二人に謝らないといけないことがあって。今日は、それを伝えるために呼んだんです」
「うむ、分かった。私は貴様のことなら、何でも受け止めるぞ。どんな変態的なプレイであっても、完璧に調教されてみせよう」
「僕の性癖に関する内容ではないんですけど……」
やはり桜井先生、ドM気質である。
「あの、実はですね。先日、成り行きで星加さんの家に行ってしまいまして」
「はあ⁉」
栞が目を見開き、大きな声を上げた。
「信じられない。あたしというものがありながら、そこら辺の泥棒猫なんかと!」
「……一応断っておくけど、僕はまだ湯川さんと付き合っているわけじゃないからな?」
先日のことを、僕は簡単に説明した。今後のヒロインたちとの関係性について星加さんに相談しようとしたら、なぜか家に連れて行かれたことを。
不慮の事故で星加さんの胸を揉んでしまったことと、星加さんのタンクトップの下がノーブラだと判明したことについては、彼女の名誉のために伏せておいた。というか、それをバラしたら僕の身にも危険が及びそうだし。
「でも、別におうちデート的なことをしたわけじゃないです。そこは安心して下さい。飲み物を奢ってもらって、相談に乗ってもらって、少しだけゲームで対戦させてもらってから帰っただけですから」
言い訳めいた僕の台詞に、桜井先生が「そうか、良かった」と安堵する。
「私はてっきり、二人で恋愛映画を見ているうちに良いムードになってきて、若気の至りで過ちを犯してしまったのかとばかり思ったぞ」
「もうちょっと生徒を信頼して下さいよ!」
「? おうちデートとはそういうものではないのか?」
「……」
とりあえず、桜井先生とおうちデートをするのは僕が高校を卒業してからにしようと思った。
「それで、井上。だからどうだと言うのだ。貴様は私と湯川に罪を告白し、懺悔し、『何でもするから許してくれ』とでも言うつもりか? ならば、私のヒモになってくれ」
話が飛躍しすぎだし、隙あらば僕をヒモにしようとするのはやめてほしい。
「謝るのはもちろんです。いくら成り行きでとはいえ、まだ校外でちゃんとデートをしていない二人よりも先に、星加さんとデートしてしまったのは誠実な態度ではありません。そこは本当に申し訳ないです。……でも、だからこそ僕は、公平を期すために二人ともデートをしたいと考えています」
僕は真剣な表情で言った。
「星加さんの言うような秘密の個別デートをするのが本当に正しいことだとは、僕には思えません。よって、星加さんの案を僕なりに改善して、個別にデートはするけど秘密にはしないことにします。デートに関する情報は、僕たち5人の中で共有しようかと」
「ちなみに、その5人の中には星加七海も含まれているのか?」
「はい。まあ、その、何と言いますか、責任を取る意味もあるので」
「責任?」
「いえ、何でもないです」
僕の個人的な問題なので、さすがにここまでは共有しなくて良いだろう。胸を揉んでしまった責任を取るというのは。
「ふむ。私や湯川と貴様で、一対一のデートをするという解釈で良いのだな?」
「はい。……ええと、いかがでしょうか?」
もしこの案すらも却下されたら、僕にはもう後がない。下手の考え休むに似たり、再びである。
ハラハラドキドキしながら桜井先生の返答を待っていたら、それよりも早く栞が「良いわよ!」と元気に言った。
「そういうことなら、先攻はあたしが貰うわ!」
「先攻?」
「桜井先生より先に、あたしがあんたとデートするってことよ」
「デートする順番をカードゲーマーみたいに表現するな!」
カードゲーマーなら、じゃんけんやコイントスで先攻後攻を決めるのが普通だと思うんだけどな……。何で「あたしが先攻ね!」って宣言した奴が先攻になるんだよ。言ったもん勝ちかよ。
一般的に、カードゲームだと先攻が後攻より少し有利になる。1ターン早く動けるのだから当然かもしれない。まあ後攻だって1ターン目からドローできたりして、悪いことばかりじゃないんだけれど。
「ていうか、湯川さんの独断で先攻後攻を決めるのは良くないだろ。ちゃんと桜井先生と話し合ってからにしないと。ほら、先生からも何か言ってやって下さいよ」
「うむ。そういうことならば、私が貴様らを引率しよう!」
「……え?」
思わず、ぽかんと口を開けてしまった僕と栞を前に、桜井先生は慌てて補足した。
「か、勘違いするなよ。万が一、二人の間に間違いがあってはいけないからな。井上は星加七海の家でやましいことはしていないと言ったが、ひょっとしたら、ひょっとしたらだぞ、私たちに伏せていることが何かあるかもしれない。そして、星加七海とえっちなことをした可能性があるということは、湯川ともえっちなことをする可能性があるということだ。教職を志す者として、私には貴様らが不純異性交遊をしないよう監督し、正しい道を示す義務がある」
もうちょっと生徒を信頼して下さいよ(本日二回目)。




