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ジジのクリシェな冒険  作者: 万里小路 信房
第三章

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第30話(全36話) 混迷する世界

 アイ城の主であったヴァンパイアを倒し、あたしたちはその城をもらう手続きをするために王都に戻った。面倒な事務処理から王宮内での礼儀作法の講習まで、全部カミーユがやってくれた。手慣れたもんだった。アルチュールは、

「カミーユはすごいな。どこで学んだろう?」

 と率直な驚きを口にしていた。

 そういえば、ここでアンナと初めて出会ったんだった。前回はアンナがやってくれたことを、今回はカミーユがやっている。やっぱりお似合いの幼なじみなのかなってぼんやりと考えた。


 叙爵の儀式自体はあっけないものだった。豪華な衣装を着る時間、控の間で待つ時間の方が長かった。広い控の間にはあたしたちのような人が何人もいた。ようやく呼ばれて、謁見の間に入ると、あたしたちは部屋の端の方で、宰相が儀式的な言葉を述べるのを、ただ聞いているだけだった。

「汝、アルチュールをアイ城主に任じる。適切に領地を治めるように」

 とかなんとかクリシェな言葉で、それが終わるとすぐに退出。控の間に戻ってきた。宰相にとっても、居並ぶ廷臣、騎士団員にとっても、これは退屈な日常の業務に過ぎないんだろう。特段の感情がある訳じゃない。きっとアルチュールみたいな単純なやつだけが、「王さまのお目にかかれた」と目を輝かせる、単なる形式に過ぎないのだ。


 控の間に戻るまでは前回と同じだった。だけど、控の間で証明の巻物を待っていると、部屋に一人の男性が入ってきた。

 オリビエ卿だ。オロール王女付きの騎士。以前は何度か顔を合わせていた。が、今回は会うのははじめてだ。彼は部屋を見渡し、カミーユを見つけると、まっすぐにこちらへ近づいてきた。カミーユは努めて平静を装っていたが、指先がかすかにふるえ、緊張しているのがあたしにはわかる。別人を演じている時に、本当の自分を知っている幼なじみが現れたのだ。彼は自分がうまく隠し通せていると過信していたのだろう。それがこんなにもあっけなく露見してしまったのだから、その心中は察するに余りある。

 オリビエ卿はあたしたちに優雅に挨拶し、それからカミーユに静かに話しかけた。

「カミーユ殿、少々お話がございます。私についてきていただけませんか?」

 カミーユは無言でうなずき、オリビエ卿とともに部屋を出て行った。

 あたしたちは取り残された。アルチュールが少し不思議そうな顔をしていたけど、他の誰も特に気にする様子はなかった。あたしだけが、カミーユが隠していたことがオロール王女にバレてしまったんだな、内心で確信していた。

 しばらくたって、カミーユが巻物を手に戻ってきた。その表情は、先ほどまでの緊張から解放されたように、幾分か明るく見えた。


 それからだった、カミーユがアルチュールに女の子を紹介しようとし始めたのは。

「おれの妹のような子なんだけど、おまえとお似合いだと思うんだ」

 アルチュールは女の子には興味ないみたいで、その話が出るたびに曖昧に断っているんだけど、カミーユはしつこかった。やめとけよ、アルチュール。その娘は君を刺し殺すよ。




「さて、みんなレベルも上がって、上級職に昇格できそうだな」

 「遠い日の思い出」亭の、いつもの古びた木製の卓。貴族様になったところで、あたしたちの日常はあまり変わらない。いつもの場所でベルナールが、そんなメタなことを言いだした。でも転職できるのは事実だ。

「なんにしようかな?」

 あたしがつぶやくと、レティシアが大きな目をあたしに向けて言う。

「ジジは剣士とかいいんじゃない? 戦士系はいいよね、選べるものがあって。私なんか教会での地位が上がるだけ。司祭が司教になるだけだよ」

「聖堂騎士って選択肢もあるんじゃないか?」

 カミーユが脇から口をはさんだ。

「そうね、それもあるわね。でも私、血を見るのが嫌いだし……」

 卓に一瞬の沈黙が生じた。これには説明が必要だろう。レティシアはメイスやウォーハンマーのような殴る武器を使っている。一方聖堂騎士は騎士だから剣や槍といった鋭利な武器を使う。鋭利な武器は血が流れるから、よろしくないというのが彼女の教会の教義だ。でもメイスで殴っても血は流れるし、時には剣よりも悲惨な結果を招くこともある。レティシアは、自分が「血塗れの聖女」と呼ばれ始めていることに全く気付いていない。

 沈黙を破ったのはアルチュールだった。

「ジジが嫌じゃなかったら、僕が剣士になりたいんだけど?」

 彼が遠慮がちに言う。ナイスフォロー。

「いいよ、アルチュール。似合うと思うよ。両手で火炎剣をあやつる剣士」

「俺は義賊になる」

 カミーユが後に続く。

「ほら、世の中はこんなに乱れているだろう? 戦火に傷つき、貧困に苦しむ人々が増えている。今の時代、弱い者の立場を考えられる存在が必要だと思うんだ」

 カミーユの言葉を聞いて、アルチュールが彼を見つめた。目が潤んでいる。

「エライ、エライよカミーユ。僕のやりたいことはまさしくそれなんだ。これからも一緒にやっていこう」

 今にも抱き着きそうな感じだ。そうやって人の言葉にすぐ感動する。悪いやつに騙されるなよ、アルチュール。

「俺はウィザード」

 ベルナールが唐突に言った。相変わらず空気を読まないやつ。

「じゃ、あたしはキャプテン。パーティに指揮役がいないと始まらないでしょ?」

 あたしがそう言うと、レティシアが応えた。

「意外だね。貴女がそんなことを考えるなんて」

 彼女は心底意外そうな顔をしている。彼女はあたしのことをどう思っているんだろう? 今回こそ、絶対に問いただしてやる。

「いいんじゃないかな。ジジはいつも先を見通してる感じだし、これからの冒険には指揮役が必要になってくるだろうしね」

「そうそう、バラバラにやるより一体になってやった方がいい時もある。頼むぜ、キャプテン」

 アルチュールとカミーユからのフォローが入る。

「じゃ、みんな新しいクラスが決まった訳だし、そのための手続きをしましょう。あたしの場合は儀式が必要みたいだし、解散しましょう」

 レティシアはそう言ったけど、その後は結局いつものように宴会になった。卓にはジョッキと料理を乗せた皿が並ぶ。そして、夜が更けるまで、あたしたちは笑い、語り合った。あたしたちの日常は、貴族になろうがなんだろうが、本質はなにも変わらない。




 アルチュールが貴族になり、あたしたちの環境も変わったところもある。これまでのような冒険だけしている日々とは異なり、社交的な場に出る機会も増えたのだ。それで持ち物の管理や雑用、特に儀礼的な衣装を世話してくれる従者を雇うことになった。

 不思議なことに前と同じメンバーが集まった。アルチュールにはバスチアン、ベルナールにはシルヴァン、レティシアにはクレマンス、カミーユにはモルガン、そしてあたしにはイヴェット。宿命という見えない力の働きを感じる。


 ベルナールの従者兼弟子のシルヴァンはエルフで、当然彼より年上だ。ベルナールはあたしが初めて会った時から三十センチも身長が伸びて、今ではあたしより背が高い。シルヴァンと同じくらいの身長だ。口の悪さは相変わらずだが、彼の身長の変化は、あたしたちの経験した時の流れを感じさせてくれる。


 この十人の大所帯で、馬車と馬を連ねてアイ城に向かった。そこで騎士たちと今後の領地経営について話し合った。その後、あたしたちは王国西部へ旅立つ。その直後、王都でクーデタがおきたという情報が飛び込んできた。世界は激動し、混乱の度合いが日に日に増している。


 王都を揺るがしたクーデタにより、長らく宰相を務めていたオフィウクス公が失脚した。首謀者は大貴族のキグヌス大公だという。大公は現国王を廃し、アドリアン王子を王位につけて、その後見役になったんだって。オフィウクス公は市民に人気がなかったから、王都は大騒ぎ。格好いい王子さまが王さまになったと、最初は歓喜に沸いたそうだ。

 信じられない。

 キグヌス大公は生まれが良いだけの、人のいいおじさんだ。それに同じ大貴族同士でオフィウクス公と利害が一致していた。おそらく周りの権力欲に駆られた連中に担ぎ上げられたんだろう。かわいそうに。ひとがいいのに付け込まれ、騙されて、気づいたら大変な状態に巻き込まれている。彼はいつもそんな役回りだ。


 アドリアン王子が王位についたってことは、オロール王女はうまく逃げられたってことかな? 王位継承順位は王女が第一だから、本来なら次の王位は王女の所に来るはずだ。それが、王子が王冠を得たってことは、大公は王女の確保に失敗した? あるいは王子こそが首謀者か? あの気位ばかり高い王子、王の器じゃないんだけどな。


 こんな先行きの見えないクーデタ、上手くいきっこない。実際、大公の軍事力で王都ポロフレのあるスコルピウス州をなんとか制圧しているって状況らしい。他の諸州や王領は様子見を決め込んでいる。各地の貴族たちは自領で騎士たちに動員をかけている。無政府状態、内乱の一歩手前といったところだ。

 最初は盛り上がっていた王都の市民たちも、すぐに手のひらをかえして、キグヌス大公の施政に抵抗しているらしい。


「混沌の力が強まっている。誰かが禁断の魔法を使っているんだ」

 ベルナールが移動の最中にポツリとつぶやいた。おめーだよ。おまえの知らないおまえが、時を遡る禁断の魔法を使っているんだ。

 ベルナールは世を見透かしたような態度で、そんな独り言をいうやつだ。実際あたしより年下のくせにあたしの何十倍もの知識を持っている。

 あたしの知っている世界はこんなに殺伐とはしていなかった。ベルナールのよく言う、混沌と秩序のバランス、とかいうやつだ。あたしのやっていることが、こんな風に世界をバラバラにする原因なんだろうか。




「とうとうドラゴンか」

 アルチュールが、まるで夢見るようにつぶやいている。このごろのあたしたちは、稼ぎのためというより世直しのようなことをやっている。王都で起きたクーデタ以来、各地で混乱が広がり、人々の生活は荒れ果てた。あたしたちは報酬を度外視して、地域の平穏を脅かす脅威、モンスターやら野盗やらを退治してまわっている。


 ここは現在の政府首班、大貴族キグヌス大公の領地の一つ。人々はドラゴンの脅威におびえて暮らしている。アルチュールはお人よしだから、単純に強くなって、人の役に立てることを喜んでいる。カミーユはドラゴンの貯めこんでいる財宝と、ドラゴンスレイヤーの称号に目がくらんでいる。

 レティシアは相変わらずぼんやりとしているが、荒れ果てた土地を見て心を痛めているのがわかる。耕作が放棄された農地が点々と広がる光景は、耕せる土地が耕されていないのを心底嫌う彼女にとって、耐えがたいものなのだろう。

 ベルナールは……、相変わらず、何を考えているのかわからない。


 今回も牛を囮にして、ドラゴンの巣穴を見つけた。

 ベルナールが魔法で明かりをつけて、カミーユが前方を警戒し、レティシアがマップを描いて、アルチュールとあたしが臨戦態勢でダンジョンを踏破。途中色々あったけど、それは省略して、ドラゴンのねぐらに到着する。


 レッドドラゴン。強力な炎のブレスを吐く。ベルナールが目くらましの魔法を使い、レティシアが耐火の加護を祈りながら、アルチュールの両手剣、カミーユのフォールション、あたしのエストックでブレスの前に打撃を与える。

 そしてドラゴンのブレス。レティシアが対ブレスの盾を構え、あたしたちはその後ろに隠れる。凄まじい熱気。あたしの銀の髪も少し焦げた。嫌な臭いがする。結構ダメージを受けたけど、致命傷じゃない。その後はあたしが魔法の弓で指示した箇所をみんなで集中攻撃した。何度かブレスを食らったけど、あたしたちの連携は完璧だった。流れるようなエレガントな戦闘だった。


 ドラゴンを退治したあと、前回はキグヌス大公が感謝のパーティを開いてくれたけど、今回はなし。大公も今はそれどころじゃないんだろう。その代わり地域の人たちに盛大にもてなしてくれた。そうそう前回の最大の戦果だった執事は、今回は手に入れられなかった。




 後世の歴史家たちは、この時代をワの国にとって、最悪の時代であったと見解を一致させる。

 国内では大貴族キグヌス大公の専横が続き、長きにわたって統合を保ってきた王国は、今や千々に乱れ、王国としての体裁を辛うじて維持しているに過ぎなかった。


 東の隣国、イの国はこの状況を看過しなかった。彼らはこの機を逃さず、ワの国への侵攻を開始した。その勢いは凄まじく、瞬く間に数州を占領するに至る。この侵攻の指揮をとったのあh、当代きっての傑出した戦略家と青史に名を刻むことになるジェラール将軍であった。

 ジェラール将軍はまず国境の要塞化された城を巧妙に孤立させた。そして攻城兵器の集中投入と開城交渉の硬軟取り混ぜた駆け引きで早期に無力化した。その勢いのまま、国境の数州を荒しまわった。それらの地域の貴族たちの中には早々にイの国に忠誠を誓う者も現れる。


 王国は内にも外にも大きな問題を抱えていた。その問題は結局、罪のない民衆の上に降りかかる。王都周辺では国内の分裂のため、物資の供給が滞りがちとなり、物価が高騰する。それだけではなく、キグヌス大公の軍隊の食糧確保のため徴発が行われた。王都以外でも兵を集めるため、その食料を運ぶため、成年男子が駆り出されていた。王国の内側はそれでもまだ良い方だった。イの国の侵攻を受けた国境地域では、村々に対し、敵味方を問わず略奪が行われ、家屋が焼き払われている。


 このようにしてワの国では、あるいは負担に耐えかねて、あるいは家を失って流浪する者たちが数多く生まれた。彼らにはもはや逃れる場所など存在しない。その一部は生きるために野盗となり、また国内の混乱に拍車をかけることとなった。




 世の中は乱れていく一方だった。あたしたちのワの国はほとんど国の形を成していなかった。政治は混迷しているし、他国からは攻められるし、さらにしばらく静かにしていた魔王軍が周辺の地域への略奪を再開し、人の住まぬ地が広がり続けている。なぜこんな状況になったのか? 以前はこんなではなかった。変化が激しすぎる。このあまりにも激しすぎる変化の理由を、ふとした機会にベルナールに尋ねてみた。

「世の中はな、混沌の勢力と秩序の勢力のせめぎあいでできているんだ。どっちがいいとか悪いとかの話じゃない。混沌の力が強まれば、変化が生まれ、新しい考え方や技術が生まれる。秩序の力が強まれば、変化が起きず、安定がもたらされる」

 ベルナールはできの悪い弟子に教えるように、かみ砕いて冗長な説明をした。

「でも、今は秩序なんて消えちゃったみたいだよ?」

 ベルナールの演説をさえぎって質問する。彼の話は長すぎる。要点だけ言えよ。

「どっかの誰かが禁断の魔法を使っているんだ。だから天秤が混沌の方に傾き過ぎている。秩序の方に重りを乗せないと、世界は終わるよ」

 まるで他人事のようにベルナールは世界の破滅について語った。




 ドラゴン退治のあと、あたしたちの名は広く知れ渡るようになった。そんなある日、奇妙な人に話しかけられて、ここではない、月が三つもある別の世界に連れてこられた。

 そこであたしたちは、とある国のお姫さまを助け、傾きかけた王国を救った。で、その過程であたしはトロールパワーゴーントレットというトロール並の腕力を与えてくれる魔法の防具を手に入れた。


 この世界の武器屋で「銃」というものを見かけた。黒い粉で弾を飛ばす筒のようなもので、歩兵用の長いマスケットと騎兵用の短いピストルがあった。黒い粉に火をつける方式が火縄とか火打石とかいくつか種類がある。

 店の奥の中庭で試し撃ちをさせてもらった。的に向かって行く弾は狙いから大きく逸れる。トールマンのが放つ弓矢と同程度の精度しかない。あたしの腕が悪いというよりもそもそも正確に当てるためのものではないらしい。腕に関係がないということは初心者でも十分に役に立つということだ。一緒に来ていたベルナールに聞いてみた。

「ねえ、ベルナール。これ、集団で一斉に撃てば、命中率なんて関係ないんじゃない? 扱いも簡単そうだから初心者でも十分戦力になるよ。これ、あたしたちの世界でも作れないかな?」

 ベルナールは首を振ってこたえた。

「筒はできるよ。でもその黒い粉がな。それの成分は硫黄と木炭と硝石だ。その硝石っていうのはおれたちの世界には存在しないよ。あきらめな、ジジ。ほら、お姫さまの所で透明な器でワインを出してくれるだろう? あれも硝石製。あんなものも、おれたちの世界には存在しない」

「ふーん」

 相変わらず、ベルナールは話が長い。あたしは途中までしか聞いていなかった。惜しいな。トールマンがそこそこ弓が放てるようになるまで二十年近くかかるんだって。それと較べてこの「銃」ってのは簡単だ。一日あれば撃てるようになる。便利だな、と思い、後ろ髪をひかれるようにして、その日は武器屋を後にした。


 悪い魔法使いと戦うのにあたしはピストル騎兵と竜騎兵を組織した。珍しい武器をどうしても使ってみたかったというのが最大の理由だ。

 結果から言うと、ピストル騎兵はイマイチだった。トールマンに馬上で弓を放たせるよりは、多少マシかなって程度。ピストルを持った騎兵が敵部隊に向かって突進し、最接近したところでピストル撃って、旋回して戻ってくる。敵をうまく混乱させることができたら、そのまま剣を抜いて突撃する。

 だけど、相手がベテランだと、ピストルの弾なんてそうそう当たるものじゃいって知ってるから、撃たれても微動だにせず、全く効果がない。馬上からアトゥル=アトゥルで槍を投げた方がよっぽどマシだよ。

 一方、竜騎兵は役にたった。これはマスケットを持たせた歩兵を馬に乗せたもので、戦うときは馬から降りる。あたしたちがソフィー姫を悪い大臣の塔から救い出した時に、この竜騎兵が大活躍した。

 アルチュールは、姫さまを鞍の前に乗せて馬を駆る。それを追撃する悪い魔法使いの私設軍隊、モンスターも混じっている。

 あたしは要所要所で竜騎兵を止めて下馬し、一斉射撃を加えて、敵の追撃を足止めしては、また撤退するというのを繰り返した。脇ではベルナールとお姫様付きの魔法使いイレーヌが、同じようにして、協力して魔法をくらわす。そうしてなんとか無事にお姫さまを宮殿に連れ帰ることができたのだ。


 すべてが終わり、悪い魔法使いを倒し、ソフィー姫が無事戴冠式をすませて、新しい女王が生まれた夜、アルチュールはソフィー女王に告白されていた。

「ここに残って、この国の王になってくれませんか?」

 だって。ヒューヒュー。同じ王女さまでも、あたしはこっちの方がいいと思うな。以前からアルチュールとオロール王女をくっつけたがっていたカミーユは、この二人の関係を複雑な顔をして見ていた。

「貴方はもう、十分に女王の器です。それに私以上に、貴方を支える人も大勢います」

 こいつ、愛の告白だってことに気付いていないんだろうなーって思う。


 一方では、また別のロマンスも進行していた。ベルナールがイレーヌに告白されていたんだ。

「元の世界に戻るの?」

「ああ」

「ここに残ればいいのに。女王さまの宮廷魔法使いになったら? こっちの魔法、面白いっていつも書庫にこもってたじゃない」

「ああ、でも俺にはむこうの世界でやらなくちゃいけないことがあるんだ」

「それって、ベルナールじゃなくちゃいけないの?」

「ああ、ほかの人間じゃできないことだ」

「ここに残って。あなたが好きなの」

「俺も、君のことが好きだ」

 ベルナールがイレーヌを抱き締めた。

「でも、何も言わずに行かせてほしい」

 こっちはチューまでしてた。そうそうこれこれ。あたしがやりたかったのはこんな単純なクリシェな展開なんだ。

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