表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
372/373

64

ルチルは、全てを伝えようと心に決めていたけど、いざ話そうと思うと口の中が乾いて喉がヒリついた。

アズラ王太子殿下に限って「どうして今まで話してくれなかったの? 僕のこと信じてくれていなかったの?」と言わないと思っているが、もしかしたらがあるかもしれない。

それに、「気持ち悪い」と嫌われる可能性だってある。

だってルチル自身が、自分に対して嫌悪感を抱いてしまったのだから。


ルチルは、イチから人生をやり直していることを忘れないようにして、この世界での年齢でいるように心がけていた。

だけど実際は、結婚もしてやることやっているのに、対等じゃなくどこか子供と思っていたなんて、吐き気がするほど最低なことをしていたのだ。


いや、違う。

今までだって、信頼していなかったわけでも、頼っていなかったわけでもなかった。

アズラ王太子殿下の負担にならないように厳選してきただけだ。

ただそれは、まだ成熟していないからという理由で……


そう、結局はそこに行き着き、その場その場で自分の都合のいいように考えていただけになる。

矛盾しまくりもいいところで、一気に自分のことが嫌いになった。


きっとアズラ王太子殿下は、説明をしている間に、この気持ちを見透かすだろう。

そうしたら、ルチルを敬愛してくれていた想いが消えてしまうかもしれない。

1つおかしいと感じたら、次から次へと温かい心が冷えていくかもしれない。

大切に育ててきた愛情は萎み、宝物になっている思い出たちは、思い出したくない記憶に変わってしまうかもしれない。


湧きあがった自分への不快感に、そんな訳の分からない恐怖が浮かんでしまったのだ。


だから、前世の話を切り出しやすいように、段階を踏んでいこうとしていた。

でも、アズラ王太子殿下が、ルチルに前世があることを導き出していたとしたら?

その上で今まで愛してくれていたのなら、不安や恐怖など捨ててしまっていい。

今やルチルの秘密なんて、前世のことくらいしかないのだから。


アズラ王太子殿下の驚き方から察するに、きっとこの思い付きは当たっているはずだ。

大きな愛でルチルの全てを受け止め、包み込んでくれていることを再認識し、熱くなる瞳の奥を誤魔化すように、一思いに告げることにした。


「まさか……この金色の瞳は飾りで、本当は未来を視ていたのではなく、前世でアズラ様に関する本を読んでいたってご存知だったんですか? その本のアズラ様がスケベすぎてエロが爆発していたから、目の前にいるアズラ様と似ても似つかないと驚いていたことも?」


「え? 僕が……え?」


「私が生み出しているスイーツも魔道具も、全て私の発案ではなく前世を基にしたものということも?」


「そうなの?」


「まぁ! さすがはアズラ様。ご慧眼すぎて頭が上がりませんわ」


「ルチル、話が噛み合ってないよ」


一気に捲し立てていた口を、アズラ王太子殿下に摘まられた。

アズラ王太子殿下は、親指と人差し指で挟んだルチルの唇をムニムニして、微笑んでいる。


「1つずつ教えてくれる? あ、でも、その前に僕の予想を話しておくね。僕の考えでは、ルチルは前世は女神で、神の国に住んでいた。だから、色んな人の人生が書かれた禁書を読むことができて、僕の一生を知っていた。どうかな?」


「違いますよ」と言いたいが、ルチルの唇を堪能している指が離れてくれない。

ルチルがわざと抵抗するように、唇を尖らせたり、ニッコリと横に引き伸ばしたりすると、アズラ王太子殿下は楽しそうに笑いながら指を離してくれた。


色々とツッコミたいことはある。あるが、アズラ王太子殿下のルチルバカが天井を超えていて、いや、感覚が壊れていてよかったと安堵した。

盲目すぎて狂う前に正しい道に戻ってもらわないといけないと分かっているが、今だけは闇堕ちしていることに感謝してしまう。


「……合っています。どうして分かったんですか?」


ルチルは、もうその設定でいいやと、アズラ王太子殿下の妄想に乗っかることにした。


こことは違う世界の話を一から説明するのは大変だ。

だって、何もかも異なってくるし、「違う」と否定したところで「どうして隠すんだろう? 女神以外あり得ないのに」と平行線にしかならない気がするからだ。


だから、重要な部分である「ルチルには前世の記憶があり、アズラ王太子殿下の未来を知っていた」を受け入れてもらえたら十分だと考えたのだ。


「ルチルの全てを愛したくて、ずっと見続けてきたからね。ルチルの言動、ルチルの心の在り方が、崇高すぎて人離れしていると、ずっと思っていたんだ。ルチルが女神じゃなかったら、神なんて存在しないよ」


アズラ様……自信満々に恍惚した顔で惚気るなんて、ちょっと怖いからね。

常軌を逸するって言葉がぴったりなほど、輝いている瞳に狂気が含まれているよ。


神様にだって会ったことあるのにね。

一歩間違えたら思い込みが激しいストーカーさんだからね。

紳士の皮を被った犯罪者になっちゃうよ。

あたし、監禁されちゃう。


って、冗談は置いといて軌道修正しとかないとだわ。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ