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夜になり、ルチルはアズラ王太子殿下と手を繋ぎながらソファに腰掛け、今日知ったことを伝えた。

寝室で2人っきりになって早々に、ルチルが「お話したいことがあります」とアズラ王太子殿下に声をかけたのだ。

笑顔で「なに?」と首を傾げていたアズラ王太子殿下だったが、ルチルがリバー特製の防音の魔法陣の紙をドアに貼ってからは、真剣な雰囲気に変わっていた。


「そっか。デュモルがルチルに遺言を残していたんだね」


「はい……」


ルチルは、朗らかに微笑むアズラ王太子殿下に体を預けるようにもたれた。

気遣うように優しく背中を撫でてくれるアズラ王太子殿下の手に、心が安らいでいく。


「ルチル、話してくれてありがとう」


「いいえ。明日の四大公爵家会議よりも先に、アズラ様にお話ししておきたかったんです」


「うん、そう思ってもらえたことが嬉しかったんだ。だから、ありがとう」


ルチルが伝えたことは、ケープが兼業してくれていること、何でも屋のヴァイトを匿ったこと、ヴァイトによってもたらされた話になる。

アズラ王太子殿下は、特に質問をすることなく、時折相槌を打つだけだった。


もしかしたら全部知っていたのかもしれないと考えたが、ルチルバカのアズラ王太子殿下のことだ。

注意したい気持ちを抑えて、ルチルの気持ちを優先してくれただけだろう。

そして、たぶん怒られるのはオニキス卿だろう。

彼はそういう役割も、きっと担ってくれている。


「アズラ様。実は……まだお伝えしたいことがあります」


「何でも協力するよ。話して」


「今まで誰にも話さず、死ぬまで打ち明けないと決めていたことなんですが」


ルチルを慈しむように撫でてくれていた手が止まった。

軽く抱きしめてきた腕は、締め付けがないのにルチルに縋り付いているように感じる。


「どうされました?」


「何を言われるんだろうって、ちょっと緊張しちゃって……」


「一緒ですね。私も嫌われたらどうしようって緊張しています」


ルチルからも柔らかく抱きしめ返し、アズラ王太子殿下の胸に顔を埋める。


「僕がルチルを嫌うことは、絶対にないよ」


「……どうでしょうか。さすがに頭がおかしいって距離を取られるかもです」


「ないよ、ない。僕の全てでルチルを愛しているんだよ。それだけは疑わないで。信じてほしい」


「そうですね。本当にたっくさん愛してもらいました。私は幸せ者ですね」


「これからもずっとルチルだけを愛するよ。だから、ずっと一緒にいようね」


「はい。しわくちゃになっても一緒にいましょうね」


「……うん……うん」


静かに泣き出してしまったアズラ王太子殿下に驚きながら、ルチルの手はあやすようにアズラ王太子殿下の背中を叩き始めた。


朝も泣いていたけど、アズラ様って今情緒不安定なのかな?

でもなぁ、あたしとは喧嘩もなく、ただただ戯れるだけだったし、フロー様たちのことはそこまで心配してそうでもなかったしな。


だとしたら、何か追い込まれているとか?

こんなに精神的に追い詰められるような仕事を請け負っているとか?

王太子とはいえ、まだ子供なのにそんな仕事……じゃなくて、この考えを改めるって決めたんじゃない。

ずっと側で見続けてきた男の子は、もうあたしが考えているほど子供じゃないのよ。

立派な大人なのよ。


本当に、まだまだ前世の考え方に引っ張られているのかもなぁ。


18歳を幼い子供だとは思っていない。

前世だって進路を決めなきゃいけなかったし、社会人として働いている子もいた。

だけど、大人と呼ぶには青くて、きちんと未来を歩んでいけるか見守る年齢でもある。


でも、ここでは一人前なんだよね。

あたしも、アズラ様も、アンバー様たちみんなも1人の成年者として自分の足で立って、重い責任を背負っている。

物事の道理や善悪をどんな時でも冷静に判断しなきゃいけない、甘えが許されない立ち位置で、現実と向き合っている大人だ。

だから、あたしはアズラ様と楽しいことや嬉しいこと以外でも、色んなことを分けるようにするべきなんだ。


そう考えを改めて、黙っていようと思っていたケープのことも話した。

アヴェートワ公爵家が力になってくれてと濁してもよかったけど、心から信頼しているという意味を込めて明かした。

そして、誰にも言ってこなかったことを伝えようと思っている。


「泣いちゃってごめんね。もう大丈夫だよ。話して」


体を少し離し、微笑んでくるアズラ王太子殿下の瞳には、ルチルへの愛がはっきりと見て取れる。

温かく穏やかで優しく甘い。

それでいて、瞳の奥には激しく燃えている熱を感じる。


「実は、アズラ様の見た目もですが、魂がラピス・トゥルールにそっくりだそうです」


大袈裟に瞳を瞬かせたアズラ王太子殿下は、「ん?」と溢した。


「僕の話なの?」


「え?」


「え?」


お互い頭の上にハテナを浮かばせながら、首を傾げ合う。


「ごめんごめん。ルチルのことなのかなと思ったから、僕のことで少し混乱したみたい。話を止めてごめんね」


「いいえ。私のことも話そうとは思っていましたから、アズラ様の考えは当たっているんですが……え? あれ? もしかして、私が前世持ちだって気付かれていましたか? 私が、こことは違う世界で生きていた、1つ前の人生の記憶があるって気付かれていたんですか?」






3話投稿します。

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