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夏休みの旅行は、王家所有の避暑地、ミルクと出会った泉があるヴァルアンデュ領に行った。
参加メンバーは、アズラ王太子殿下・公爵家4人・オニキス伯爵令息・エンジェ辺境伯令嬢になる。
ラブラド男爵令嬢はルチル専属侍女の二次試験、ゴシェ伯爵令嬢は用事があるそうで不参加だそうだ。
王家所有の有名な避暑地だけあって、活気がある領地だと聞いている。
1年生の夏休みの時は楽しめなかったが、今回は大いに楽しもうと思っていた。
が、アズラ王太子殿下の従兄弟(王妃殿下の甥と姪)が来ていて、姪の方がアズラ王太子殿下にまとわりついてきた。
そして、甥の方がルチルの側を離れようとしなかった。
そしてそして、甥と姪にルチルとアズラ王太子殿下は媚薬を盛られ、媚薬が消えるまで指輪に魔力を流し続けるという苦行をすることになってしまった。
ルチルが苦しんだことが祖父と父に伝わると、2人はシャティラール帝国への流通を止めてしまった。
王妃殿下の実家は、シャティラール帝国のラジヴァリー公爵家。
陛下はシャティラール帝国に使役団として訪れた際に王妃殿下に惚れて、そのまま連れ帰ってきたと、王妃殿下に惚気られている。
シャティラール帝国の各商会が皇帝に泣きつき、皇帝からラジヴァリー公爵家は叱責され、王妃殿下に泣きついたが王妃殿下からは突き放された。
ちなみに、ラジヴァリー公爵と嫡男は良識がある人間だが、後妻の公爵夫人と今回の2人が残念な人間だそうだ。
ラジヴァリー公爵と嫡男がアヴェートワ公爵家まで謝りに来て、ルチルが許したことで流通は元通りになった。
そんなことがあった夏休みが終わり、新しい学園長で秋期が始まった。
前学園長は、神殿に加担していたから捕まっている。
学園1年生の時、運動場でアズラ王太子殿下が魔物に襲われた事件を起こしたのは、学園長だった。
魔法陣が、ちゃんと作動するかどうかの実験だったそうだ。
夏期にできなかった文化祭が秋期に行われ、怪談は大成功した。
怪談集とか発行したら売れるかもと閃いたが、そんなことをしている時間はないのでやめることにした。
アズラ王太子殿下の誕生日には、去年に引き続き手料理を作り、オーダーメイドのブレスレットをプレゼントした。
ブレスレットは、指輪と同じ模様と小さな宝石を入れてもらうために、リバーお勧めのドワーフにお願いをした。
初めてドワーフに会ったルチルは握手をしてもらい、お酒をたんまりと渡した。
アズラ王太子殿下には「宝物が1つ増えたよ」と喜んでもらえた。
アズラ王太子殿下の誕生日の翌日には、王妃殿下と約束した通り、両陛下とアズラ王太子殿下とアヴェートワ領の海に遊びに行った。
アヴェートワ公爵家の面々も参加し、浮き輪やバナナボートで浮かんでのんびりしたり、ビーチバレーをして楽しんだ。
ビーチバレーが若干格闘スポーツみたいになっていたが、誰が誰に狙われていたかは想像に容易いだろう。
秋休みは、ずっとアズラ王太子殿下の側にいた。
魔物は昔のように落ち着いたので、アズラ王太子殿下の死に関係する遠征はなかったが、どこで何があるか分からないとルチルは側から離れなかった。
周りが奇妙に感じるくらい側にいたのに、オニキス伯爵令息に揶揄われることはなかった。
ルチルとシンシャ王女の会話を盗み聞きしていたアズラ王太子殿下とオニキス伯爵令息は、アズラ王太子殿下が死ぬ運命だということを知っている。
だから、ルチルが離れなくなった秋休みに死ぬ運命なのかと察し、いつも以上に周りに気を配っていたのだ。
そして、アズラ王太子殿下は毒を2回盛られ、魔物討伐訓練で1度死にかけた。
秋休みに何度も泣いていたルチルが、秋休みが終わると同時に羽を伸ばすように自由気ままに戻った。
アズラ王太子殿下とオニキス伯爵令息は危険は去ったと、夜中にジュースとお菓子で祝杯をしていた。
冬期と冬休みは、残り少ない学生生活をはしゃいで過ごした。
今までのように毎日会えなくなることは、みんな分かっていた。
だから、少しくらい眠る時間を短くしてパジャマパーティーをしても、少しだけ大胆になるようにシトリン公爵令嬢たちの背中を押しても、誰も令嬢らしからぬや貴族らしからぬと怒ることはなかった。
みんなで全力で青春をした。
学園最終日のダンスパーティーでは、卒業を惜しんで、退場時に涙ぐんだものだ。
こうして、慌ただしく大変で、でも楽しくて充実した学園生活は幕を閉じた。
友人というかけがえない宝物を手に入れ、絆や縁の大切さを知った3年間だった。




