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新年祭の翌日、旅館開業日になる。

両陛下がお客様第1号になり、その次が祖父母と父母だ。

その次に、ナギュー公爵家とスミュロン公爵家が続いていく。


両陛下が宿泊に来る日、ルチルはアズラ王太子殿下たちをキルシュブリューテ領に招待していた。

とっておきが完成したので、みんなで利用したいと思って呼んだのだ。


しかも、初めてゴシェ伯爵令嬢が、キルシュブリューテ領に来てくれると言ってくれた。

宿泊もしてくれるということで、料理を張り切ってもらっている。


「どこに行くの?」


「いいところですよ」


みんなの反応が楽しみでニヤニヤしてしまうと、シトリン公爵令嬢に睨まれた。


「すぐ分かりますから」


「そういうのが腹立つのよ」


というお馴染みの会話をしてから、シトリン公爵令嬢は「ルチル様には何を言っても無駄だったわ」と息を吐き出していた。


「早く旅館に泊まりたいわ」


「もうすぐじゃないですか。それに今日も喜んでもらえると思いますよ」


ニヤけているルチルをもう誰も突っ込まず、和やかにお喋りしながら景色を楽しんだ。


馬車は街の外れに到着し、そこに立っている建物をみんな不思議そうに見ている。

建物は広い2階建てで、入口に暖簾がかかってる。


「お皿に波のマーク? どんな意味があるの?」


「あれは、お湯のマークなんです」


玄関には番頭がいて、男女それぞれの入口を案内された。

男の子の方は、チャロに説明をお願いしている。

ルチルはシトリン公爵令嬢たちを率いて、女風呂の入口をくぐった。


「ルチル様、ここはなに?」


「銭湯です。温泉に入れる大きなお風呂ですね」


「温泉といえば、旅館の目玉の1つじゃありませんか?」


「そうですね。でも、旅館だけではもったいないので、平民の皆様も入れるようにと銭湯を作ってみたんです。ちなみに、2階は予約制で貴族の方専用になっています」


「平民が入れるの? 特別なお湯に?」


「特別と言っても、キルシュブリューテ領に湧くお湯ですからね。独占は良くありませんから。それに、管理費として入浴料はいただきますしね。

早く入りましょう。今日は、私たちの貸切です」


広々とした脱衣所で、ルチルが我先にと脱ぎはじめた。

シトリン公爵令嬢も堂々とルチルに続き、エンジェ辺境伯令嬢たちは背中を向けて恥ずかしそうに脱いでいる。

寮では1人で湯浴みをしていたんだから、もうみんな慣れっこだ。


浴場に続くドアを開けて、3個もある湯船にみんな顔を伸ばしている。

さっき平民用と聞いたから、まさかここまで広いとは思っていなかったんだろう。


「先に体を洗って入るのがマナーなんです」


「そうですね。他の人も入るんですから、綺麗になった後の方がいいですよね」


エンジェ辺境伯令嬢の言葉に頷いてから、洗い場の使い方の説明をする。


まずは、大きな桶を反対に置いた椅子に座ってもらう。

前と横の合計3面に壁があり、囲まれている状態だ。

隣の人にお湯がかからない配慮だと伝えると、3人は小さく頷いていた。


そして、3人が興味津々に見ている、目の前の壁にあるものの説明に移った。


ホースに、穴が空いたお玉のようなものがついているものがシャワー、パイプの先が曲がったものが蛇口で、それぞれ横の壁にスイッチがあり、スイッチをオンにしている間だけお湯が出る。


魔法陣を駆使しているのだが、平民でも使えるように、スイッチをオンにした時に壁の中で魔石が魔法陣に当たる仕組みになっている。

シャワーや蛇口から出てくるお湯がぬるめになっているのは、温度調節まではできなかったので、初めからぬるめ設定にしてもらったからだ。


リバー1人では完成せず、マルニーチ先生が手伝ってくれて完成した。

リバーは悔しそうに、マルニーチ先生にライバル宣言をしていた。


「なにこれ、便利すぎるわ。家に欲しいわ」


「ですよね。でも、それはまだまだ難しいかと」


「……残念だわ」


まぁ、王妃になったら着手するから、気長に待っていてちょうだい。


「石鹸は自由に使っていいんですか?」


「はい。体と顔用、髪の毛用もありますし、先ほどの脱衣所には化粧水やドライヤーもありますよ。後、フルーツウォーターも飲めます」


「全て自由なんですか!?」


「はい」


まぁ、だから、ちょっとだけ高いんだけどね。

毎日は無理だろうけど、3日に1回でも来られたらいいと思うの。

利益なしの運営になるから、ちょっと高くても許してほしい。


他の3地区にも、銭湯を今建てている。

来月には開業できるだろうとのこと。

みんな、喜んでくれたらいいな。


髪の毛や体を洗い終わり、髪の毛がお湯につからないように纏め、湯船に入った。

日頃の湯浴みも足を伸ばせているが、20人は入れる浴槽の温泉とでは、心の開放感が違ってくる。


「はぁ……気持ちいい……」


「ルチル様、2階は予約制と言ってたわよね?」


「はい、そうですよ」


「予約するわ。いつできるの?」


「帰る時に番頭の方に聞いてみましょう。今なら、まだ予約できると思いますよ。でも、こちらでよろしいんですか? 旅館の方の予約を受け付けられますよ」


「両方予約するのよ」


さようですか。気に入ってもらえたようで何よりだよ。


「あの、ホテルはありますか?」


「ホテルはありませんが、賃貸用に建てた家の一部をホテル代わりに貸し出していますよ」


ホテルを建てるかどうか悩んだけど、キルシュブリューテ領が豊かになれば、ピャストア侯爵家が建てたいと言ってきてくれるだろう。

ピャストア侯爵家と同業争いをしたくないしね。

言ってきてくれると願っている。

それまでは、コテージ感覚で使ってもらえるようにしている。


「1泊とかでも大丈夫なんですか?」


「はい、大丈夫です」


「で、では、私も家族と来たいので予約をしたいです」


「ぜひいらしてください」


ゴシェ様の家族仲が良くて、本当に嬉しいよ。

家族で旅行をしようと思えるって、家族仲がいい証拠だからね。


それに、今のゴシェ様が街を歩いても、領民はゴシェ様だと気づかないだろう。

こんなにも可愛い子だったんだよって、自慢したいけどね。

自慢するのは、もう少し待とう。

あたしと一緒にいる姿を、何度も見てもらってからの方がいいような気がするからね。


「エンジェ様は、旅館の方の予約でよろしかったですか?」


「はい、私は月1での旅館で大丈夫です。母は、何回も領地を空けられないと思いますから」


そうか。

広すぎて、1人で入るっていう発想がないのか。


まぁ、シトリン様は1人で入ってそうだけど。

あたし、公爵夫人に嫌われたままだからなぁ。

旅館は家族全員で来てくれるって言ってたから、それで少しでも好かれたらいいけど。


「ルチル様、銭湯の予約に制限はありますか?」


「毎日とかでなければ問題ありませんよ」


「1週間に1回とかでもですか?」


「はい、大丈夫です。2階は6個の部屋に分かれていますし、時間制限がありますから。ある程度、融通が利くようにしているんです」


旅館に泊まれないって苦情を言ってくる人たちの対策用にね。


「オルアール男爵家の皆様なら、部屋を2つ予約されることをお勧めしますわ。男女で分かれることができますからね」


「そうですね。私もハウも恥ずかしくて、一緒に入れなくなるところでした」


逆上せそうになったら一段高くなっている場所で腰掛けて、また湯船に浸かってを繰り返した。


銭湯から出ると、アズラ王太子殿下たちは馬車の中で退屈そうにしていた。

温泉や銭湯あるあるだなと、ルチルは心の中で笑った。


旅館と銭湯も無事に開業し、王妃殿下効果で旅館の予約は半年先まであっという間に埋まってしまった。

銭湯も順調に予約が入っているそうだ。

平民の皆は、贅沢な空間に喜び、通ってくれていると報告を受けた。






アズラの媚薬事件、魔物討伐事件は、本と違う内容でしたが起こり、そして回避しました。

これから先は何が起こるか分からない未来ですが、ルチル達ならきっと大丈夫だと思っています。

バカップルの応援よろしくお願いいたします。

(最後っぽい言葉になってしまいましたが、もう少し続きます)


いいねやブックマーク登録、誤字報告、感想ありがとうございます。

読んでくださっている皆様、本当にありがとうございます。

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