表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

147/373

70

「はぁ。なに、あいつ。気持ち悪い」


「私も思っていますが、口に出したら負けですよ」


「負けでいいよ」


夕食時にルドドルー辺境伯に領地を見て回りたいと相談したら、辺境伯令息が案内を申し出てきたのだ。


毎日のようにルチルの側にいようとする辺境伯令息を、ルチルは躱しているが、アズラ王太子殿下はイライラしていた。


「八つ当たりされているオニキス様が可哀想だな」と、ルチルは毎夜アズラ王太子殿下の機嫌を直すよう努めている。


アズラ王太子殿下の機嫌を直すことは、アズラ王太子殿下のご尊顔を拝めるので楽しかったが、ルドドルー辺境伯令息の申し出を毎度断ることは、煩わしく思っていた。


そして、別行動となった日の朝からずっと「案内をさせてほしい」と付き纏われていた。

何度も断り、用意してもらった馬車に、オニキス伯爵令息とカーネとミルクと振り切るように乗り込んだのだ。


「それに、ルチル嬢気づいてる? 殿下が辺境伯夫人に狙われているって」


「狙われてる?」


「やっぱり気づいてなかった。訓練中の休憩や終わった時なんて、タオル持っていって胸当てようってしてんの。殿下は無視して、ルチル嬢のところにタオル取りに行くんだけどね。まぁ、殿下にその気があったとしても、アヴェートワ前公爵や公爵の前で無理だよねぇ」


そんなことが行われていたとは……

もしや本でも、誘ったのは辺境伯夫人だったのかも。


「お祖父様やお父様がいなくても、アズラ様は浮気しませんよ」


「そうだろうけど」


「ルドドルー辺境伯が可哀想になりますね。あんなに惚気ていたのに」


「あのおじいさん、ルチル嬢と一緒で疎そうだもんね」


「失礼な」


「だって、夫人とキモ男(辺境伯令息)がデキているのにも気づいてないでしょ?」


開いた口が塞がらないとは、このこと。

そんな顔のルチルを見て、オニキス伯爵令息はお腹を抱えて笑っている。


「でも、恋愛的な要素はないと思うよ」


「どうしてそこまで分かるんですか?」


「夜中に何回か逢引してるのを見たけど、そんな感じじゃなかったから。キモ男は胸が大きい女性が好きなんでしょ。ルチル嬢の胸も見てるから、殿下の怒りが大きいんだよ」


「見られているんだろうなとは思っていましたが……」


「それには気づいてた? よかった」


「ゲスですね」


「カ、カーネ?」


今の底冷えするような声、カーネからだったよね?


「使い物にならないようにしてあげましょうか」


「ヤバい。同じ男として寒気が止まらない」


「カーネ、落ち着いて。もし、私が襲われれば潰してもいいし、引き抜いても何をしてもいいから」


「やめてやめてやめて! 想像させないで!」


青ざめて震えるオニキス様の膝に飛び移るとは、ミルクは神獣なのに雄だったのか。

性別はないと思ってたよ。


そうこうしているうちに、馬車は本日の目的地に着いた。

ルドドルー領で栄えている街で、大きな市場があり、街外れにはチオノドクサが咲いているそうだ。


ルドドルー辺境伯に相談をした時に、チオノドクサを見てみたいと添えてみたのだ。


領地にチオノドクサが咲いている場所は3箇所あるそうで、1番近い場所が今日訪れる街になる。


「確か王家の調べでは4箇所だったはずだけど」と思い、一応辺境伯夫人に「どこのチオノドクサがお気に入りですか?」と質問してみたが、そっけなく「寒いからチオノドクサは見に行きません」と突き放された。


本と違うのか……と、ここにきてまた頭を悩ませはじめた。


街の中を一通り回り、街の食堂で昼食を食べた。

「いまいちじゃない?」と無言で顔を突き合わせることが、普通に旅行に来ているようで楽しかった。


市場でお土産によさそうな物を物色し、街の人にチオノドクサの咲いている場所を教えてもらい、街の外れにやってきた。


太陽が反射して光る白い雪から顔を出す小さな紫色の花々が、幻想的で綺麗だった。


周りにカエデの木はあるけど、魔物の侵入を防げるほど多くなさそう。

それに、こんなにお城と近かったら、すぐに駆けつけてもらえそうだしな。

ここじゃないのかも。


『ルチル。どうしてここに来た?』


「んー、下調べみたいなもの」


『お主、見えているのか?』


「なにが?」


『魔法陣だ』


「魔法陣? どこにあるの?」


『雪に隠れているが、所々に魔法陣があるぞ。それにしても魔物臭いな』


「ちょ! ねぇ、ミルク。その魔法陣って何の魔法陣か分かる?」


『分からん。見たことないな』


「どんな魔法陣か教えて」


『面倒臭い。自分で見たらいいだろう。ちょっと顔を近づけろ』


大人しく顔を近づけると、左目に息を吹きかけられた。


『目に魔力を集めてみろ』


え? 失明したりしないよね?

あたし、脳みそに魔力集めて死にかけたっていう黒歴史があるんだけど。


恐々と魔力を左目に集め、右目だけ閉じると、世界の色が一転した。

色が無くなったレントゲンのような世界に、茶色の魔法陣が見える。


「なにこれ……ミルクって、こんな風に見えているの?」


『ちゃんと見えたみたいだな』


「怖くないの?」


あたし、怖いんだけど。

もし、このまま誰かの顔とか見た日はホラーだよ。


『怖い? ああ、我も魔力を使った時だけ世界が変わる。普段の景色はお主らと何ら違わないはずだ』


「そう、だったらよかった」


色彩って大切だと、改めて実感。

人って、無くした時に初めて気づくからね。

どうして当たり前のように思ってしまうんだろ。


と、今は関係ないな。


「紙とペンを入れてたはず」と鞄から出した。


見えている魔法陣は、大小合わせて全部で13個。

全て同じ模様をしている。


丁寧に書き写していると、オニキス伯爵令息が覗き込んできた。


「何の魔法陣?」


「分かりません。ミルクも知らないって言ってますし」


「ふーん。殿下なら分かるかなぁ?」


「アズラ様?」


「うん、殿下は自分でもう魔法陣創れるから、どの模様が何かとか分かるらしいよ」


「……アズラ様、凄すぎませんか?」


「今更?」


「ですね」


魔法陣を書き写し、この日はルドドルー城に戻った。






いいねやブックマーク登録、誤字報告、感想ありがとうございます。

読んでくださっている皆様、本当にありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
・あたし、脳みそに魔力集めて死にかけたっていう黒歴史があるんだけど。 これ、専門家に話しておくべき情報と思うのですが、話してますかね? 適度に行えば、有用なスキルに通じそう気もします。 先々、出てく…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ