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 マナとライカは控室で退屈していた。戦闘の疲労はある程度癒えたが、のんびり寛ごうにも、この部屋にずっと缶詰になっており、いつ誰が入ってくるか分からないため、適度な緊張感を保っていなければならなかったからだ。


 そんなうっ憤を晴らすかのように勢いよく部屋の扉が開いた。


「待たせたな。済まない」


 ランクルだった。それに続いてアンフィス、その後にセントルが部屋に入ってきた。


「ランクルー。もう待ちくたびれたよ。ん? その後ろの人はだあれ?」


 マナが待ちくたびれた鬱憤をランクルにぶつける。


「おい、姿勢を正せ。無礼だぞ。ここにおられるのは我がアーセック王国の第一王子セントル様である」


 それを聞いたライカは素早く片膝をついて敬意を表す。


「えっ、王子さま……すごっ」

「こらっ、マナ。お前もライカに倣わんか」


 さすがのマナも王子を前ではふざけることを抑える分別は持ち合わせている。ライカに倣って片膝をつく。


「セントル様、大変失礼いたしました」

「気にするな。私は礼節や儀礼じみたものには頓着していない。二人とも、顔を上げてそこの椅子に座ってくれ。私も座って話をさせてもらう」

「セントル様、流石にそれでは……」

「いいと言っただろう。それに今はそんなことに構っているときではない」


 セントルが椅子に腰かける。机の向かいにマナとライカが並んで腰かけた。ランクルとアンフィスはセントルの後ろで控えている。


「マナとライカ、だったな。今日はご苦労だった。いい試合を見せてもらった」


 セントルが話を始める。マナとライカは何を聞かされるか予想がつかないため、黙って耳を傾けた。


「まず、二人に伝えなければいけないことがある。今しがたデンジャの街の分体結界が破られた」


 マナもライカにも目立った反応はなかった。


「どうした? 驚かないのか? かなりの衝撃的な知らせだと思うが」


 セントルが試すような視線で二人を見つめる。


「いえ、びっくりしています。びっくりし過ぎて反応に困っているというのが正直なところです」

「私も同じです」


 ライカの説明にマナも乗った。


「そうか、まあそれはいいだろう。それで、今妹のアンリと王宮騎士団と勇者選抜の応募者で部隊を編成してデンジャの街に向かわせている」

「セントル様、一つ伺いたいのですが」

「こら、マナ。セントル様の話はまだ終わっていないぞ」


 マナの、セントルの話の腰を折る質問にランクルが噛み付く。


「ランクル、いい。どうした? 疑問があるなら言ってみろ」

「はい、ありがとうございます。そのデンジャの街の結界を破ったのは誰なんですか? あとその人の目的も気になります」

「いい質問だ。デンジャの街を襲ったのは魔族だ。それらを纏める者の名はエルトと言う。目的は王宮結界の解除だ」

「エルト……」


 マナがエルトの名を呟く。


「どうした? エルトという魔族について心当たりがあるのか?」

「あっ、いえ、まったく。すみません。話を遮ってしまって」

「話を続けても?」

「はいっ。失礼いたしました」


 セントルはマナとライカの一挙手一投足をじっを見つめている。二人はその視線を感じていた。迂闊なことを話すとそれを切り口にして、心の細部までえぐってくるような重圧を感じていた。


「それで、勇者選抜の応募者はもう既に君たちしかいない。実力も申し分ないことから二人を合格とした。明日の夕方には二次試験の準備が整うはずだ。二人はそれに参加してもらう。それまではゆっくり休んでくれ」

「はい、かしこまりました」


 そう言い残して、セントルたちはあっさりと部屋を後にした。


「セントル様、あそこまで話してしまってよかったのですか?」

「ん? あそこまでとは?」

「魔族の話と王宮結界の話です。機密事項ではないのですか?」


 王宮結界を解除しろ、という要求をしていることも、その魔族の名のことも機密事項であった。今デンジャの街に遠征している勇者選抜の応募者や騎士団員にもその情報は知らされていない。


「機密事項だが、あえて話した。おかげでこちらにも収穫があった」

「収穫とは?」

「それはこっちの話だ。お前が気にすることではない」


 セントルは部屋の外に控えさせていた数人の部下を連れて、そのまま引き上げてしまった。


「ランクル様、いいのですか? マナの事をちゃんと話しておかなくて」

「ああ、大丈夫だ。俺は王や王子は我々に重大なことを隠していると思っている。それが今回の事件ではっきりした」

「でもっ、それでも王宮結界の危機ではないですか?」

「そうかもな。でもその王宮結界に関することなのだ。私は王族を信用していない訳ではないが、このまま結界を維持すれば平和に終わる話ではないような気がしている。なぜこんな都合よく勇者選抜の試験中に魔族が襲ってきた? それを聞いたときの王と王子の反応が薄すぎたのはなぜだ? 二次試験をなぜそんなに急がせるのか? 分からないことだらけだ。だが、これらが必然だとしたらどうだ? 我々の仕事は何だ? 何のために動かなければならない? それをちゃんと考えないととんでもないことに加担してしまうぞ」


 アンフィスはランクルの考えを聞き、ゾッとした。ランクルはマナを利用しようとしている。そして何かを暴こうとしている。事が大きく動いたとき、自分はどうすべきか、誰につくべきか考えなければならないと思った。





 控室にはマナとライカの二人だけが取り残された。セントルから聞いた情報は二人を焦らせていた。


「思ったより早い、いや早過ぎる。エルトのやつ、私の計画を察知したか」

「そうかもね、ライカちゃんは魔族のために動いていないって気づかれたのかもね」

「そうだとしたら、二次試験が明日に前倒しにされたのは僥倖でした。どちらにしてもそこで決着がつくはずです」

「そうだね、二次試験で何をするかは分からないけど、そこで決まるんだよね。勇者が。でもルベルはここにはいないのかぁ」


 マナは思わず、ルベルの事を呟いてしまった。


「ルベル? ルベルとはあのヘタレのルベルですか? マナさんはルベルとはお互いに想い人なんですか?」

「はあ、違うし。そんな訳ないし。ただの部下だし。あいつ鈍くさいから向こうでヘマしてないかなって上司として心配しただけだからっ」


 必死で言い訳するマナを見てライカは可笑しくなってしまった。


「マナさんって意外と分かりやすい人ですね」

「はあ? だから違うって言ったでしょ? 勝手に納得してしまわないでよー」




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