表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄するまでが契約です  作者: 高岡未来
第四部 婚約破棄するまでが契約です
196/196

新しい年をあなたと

R15表記がありますので嫌いな方は回れ右願います


新年のお話を書いたのが夏の頃・・・

せっかくだから新年にアップしようとずっと温めてきました


これ以降何か書きたくなった時は小話集のほうを更新します


 年末の忙しさも引けた日、フレンはいつもよりも少しだけ遅くに目を覚ました。

 暖炉にはすでに火が灯されており部屋の中は暖かくなっている。

 大きな寝台にはフレンとはべつのふくらみがある。

 上掛けと毛布の下にくるまるのはフレンの可愛い妻、オルフェリアだ。

 オルフェリアはまだ夢の中で、毛布からはみ出した彼女の髪の毛が真っ白なシーツの上で踊っている。

 昨日は遅くまでフレンはオルフェリアのことを抱いた。

 鈴の音のような声がフレンの耳をくすぐり、薄紫色の瞳が涙で潤むと、フレンの理性は割とあっさり決壊する。彼女の白い肌に自分のものだという赤い花びらをつけていくのも、なめらかな肌を指で辿るのも好きだ。フレンの指の動きに合わせてオルフェリアが体を逸らしたり、か細い声をあげたりするのを見るのも飽きる気配がない。

 要するに十一も年下の妻に夢中になっているのだ。若いころならいざ知らず、オルフェリアと出会った頃のフレンはそこまで女性の肌が恋しくてたまらない、などということはなかったのに。それなのにオルフェリアとならば毎日でも肌を重ねたいと望んでしまう。毎日どころか一日中二人きりで寝室にこもっていることだって苦にならない。ずっと彼女を独占しておきたいくらいだ。

 傍らの少女はまだ規則正しい息遣いで眠りこけている。

 朝目が覚めると最愛の妻が隣で眠っている。まさか自分の身にそういう幸せが訪れることになろうとは思ってもみなかった。

 フレンは飽きることなくオルフェリアがくるまっている毛布のかたまりを見下ろした。

 フレンに背を向けて丸まっているかたまりが愛おしい。

 しばらく見つめていると、オルフェリアが「うう……ん」と声を出して、もうしばらくしてから彼女は目を覚ました。




「リュオンもやっとトルデイリャス領へ帰ってくれて一安心だよ」

 朝食は夫婦の寝室で、が最近の日課である。

 結婚式を終えてルーヴェで二週間ほど過ごした後、二人はアルンレイヒへと居を移した。

「もう、フレンたら」

 オルフェリアはフレンをたしなめるが、冬の休暇が始まった途端に新婚宅へ押しかけてきたリュオンを前にフレンは閉口した。内心さっさとカリストを焚きつけてリュオンに婚約者でもあてがってしまおうとたくらんだくらいだ。

 オルフェリアは朝食のスープをゆっくりと口に運ぶ。

 オルフェリアの顔は少しだけ白い。フレンは昨日は少し無理をさせたなと反省した。

「リュオンは王家の晩餐会に出席するために滞在していたのよ」

「わかっているよ。きみと一緒に出る、だなんてわがままを言ってね」

 それもフレンにとっては少し不満だった。

 どうせならリシィルをパートナーに指名すればよかったのに、と思う。結婚式のときリシィルはそこまで奇矯な振る舞いはしなかった。さすがは伯爵家で教育を受けた令嬢である。食事の作法だって洗練されていた。フレンは、リシィルはわざと無作法に振舞っているのではないかと勘繰った。

「いいじゃない。今年一回くらい。来年の今頃はわたしたちロームにいるのでしょう。それに、身籠っているかもしれないわ。あの子だって、一度くらいのわがまま言いたいのよ」

 フレンとオルフェリアは春ごろにロルテームへ居を移すことになっている。これまで大叔父ディートマルの牙城だったローム支店をフレンがしばらくの間直接みることになったのだ。数年ロームで暮らして、そののちフレンは本格的に父の跡を継ぐべくルーヴェに移動する予定だ。

「ま、済んだことをぐちぐち言うことはやめておくよ」

 フレンは話を切り上げることにした。

 誰が何と言おうとオルフェリアはフレンの妻なのだから。

 オルフェリアはフレンの返事に満足したようで干しブドウ入りのパンを手に取った。

 今日で今年が終わる。

 長かった一年がようやく終わるのだ。

「そうだ。リュオンといえばね、アンナティーゼ王女様のお気に入りなのよ」

 オルフェリアは思いついたように話し出す。

「へえ。彼女まだ三歳くらいじゃなかったっけ」

 フレンは従妹のレカルディーナが産んだアルンレイヒの第一王女の顔を思い浮かべた。

 レカルディーナと同じ髪の色をした王女は顔立ちは王太子ベルナルドに似通っているが、性格はレカルディーナのそれを色濃く受け継いでいるようで、あれは将来相当なお転婆になるな、とフレンは踏んでいる。

 そんな元気いっぱいなアンナティーゼがリュオンのことをお気に召したらしい。

「結婚式のときのときから、王女様はリュオンのことを気に入っていたみたいなのだけれど。この間の晩餐会のときにもう一度会ったのよ。そうしたら王女様すっかりリュオンに懐いて」

「へえ、アンナティーゼ王女殿下は面食いなんだね」

 フレンとオルフェリアの結婚式には従妹のレカルディーナも出席をしてくれた。

「小さな王女様相手に大弱りなリュオンは可愛かったわ」

「二人して思春期の男の子をからかうものじゃないよ」

 フレンは苦笑した。

 女二人が結託すると男性は割を食うのだ。

 あのリュオンが年端もいかない王女様の扱い方を心得ているはずがない。

 フレンは心の中で彼に同情した。

「からかっていないもの」

 オルフェリアは少しだけばつが悪そうにスープを口に運んだ。

 そんな彼女がどうしもようもなくかわいく思えてフレンは食事中にも関わらず彼女のほうへ身を寄せて、目じりに口づけをした。

 オルフェリアはフレンの成すがまま、それを受け止めている。

 彼女がフレンの愛情表現を素直に受け止めてくれることが嬉しくてフレンはつい調子に乗ってそのまま彼女を自身の膝の上に移動させようとした。

「フレン」

 オルフェリアは先ほどよりも強い口調でぴしゃりとフレンの腕を叩いた。

 さすがに朝から昨日の続きと言うわけにはいかないらしい。

 こういう他愛もない触れ合いがこのうえなく楽しいと思うフレンだった。




 年がそろそろ明けようかという頃。フレンとオルフェリアはミュシャレン市内の真ん中を流れるロマド河沿いに建つホテル『木漏れ日館』の客室の窓際に佇んでいた。

 もうすぐ新年を祝う花火があがるのだ。

 アルンレイヒでは毎年新年になると各地で花火を上げる習慣がある。

 今年フレンはトルデイリャス領で新年を迎えた。

 そのとき彼女は『ミュシャレンの花火が見たいわ』と言った。

 フレンは、じゃあ来年は二人で一緒にミュシャレンで花火を見ようか、と言おうとしてそれを思い留めた。

 偽装婚約をしていた頃の話だったからだ。一年契約の偽装婚約をしていたあのころ、今年の年末は契約が切れていて、彼女が望まない限りフレンとは縁が切れることになっていた。

 フレンはオルフェリアの背中から腕をまわした。

「寒くない?」

 フレンはオルフェリアの耳元でささやいた。

「ん、平気。部屋の中だもの。暖炉の火もあるわ」

「残念。寒いって言ったら俺が温めようと思ったのに」

 フレンはオルフェリアの耳を甘噛みした。すると、彼女はびくりと体を小さく震わせた。

「あっ……」

彼女の口から漏れた艶やかな吐息にフレンは自身の体が熱くなるのを感じる。

「花火、見るんでしょう?」

「わかっている。しばらくお預けだってことくらい」

 フレンはオルフェリアの前で交差していた手を彼女の胸元に這わせる。

 唇をオルフェリアの耳から、首筋へ移動すると、彼女が切なげに吐息を漏らした。

「フレン……、ま、まだ……だめ……」

 喘ぐような震えた声がフレンの耳朶をくすぐる。

 まだ、ということは花火の後ならいいということらしい。

 時刻はそろそろ深夜十二時を回る頃合いだ。

 『木漏れ日館』からは新年の花火がよく見える。フレンは結婚が決まったときにホテルの予約を手配した。

 理由はもちろんオルフェリアの望みならなんでもかなえてあげたいからだ。あいにくと、フレンたちの住まう屋敷からだと花火は見えない。とはいえ、人ごみに紛れて外で花火鑑賞など論外だ。オルフェリアを冬場の夜気に当たらせるつもりは毛頭ない。

 フレンが後ろにいると危険だと感じたオルフェリアはフレンの腕から逃れて、彼の横に立った。

 仕方ない、もうしばらくは紳士に徹しようと思い、フレンは片方の腕をオルフェリアの背中に手をまわした。

 二人がそんな攻防を繰り広げていると、外が明るくなる。

 数秒後真冬の夜空に大きな花が咲いた。

 大きな音が鳴り響き、次々と大輪の花を咲かせていく。美しい光の花はミュシャレンの夜空を彩る。

「すごいわっ! こんなに間近で花火を見たのは初めてよ」

 オルフェリアは感嘆した。

 彼女にしては珍しく興奮し、フレンの顔を見る。

「喜んでくれてうれしいよ」

 フレンは彼女と出会うまでに一度だけミュシャレンで年越しをしたことがあったから初めてではない。年の暮れはルーヴェに帰ったり、仕事が立て込んでいればミュシャレンに残ったり。その時々で適当に過ごしていた。

 オルフェリアは再び窓の外にくぎ付けになる。

 フレンなどそっちのけで窓にぺたりと張り付き子供のように目を輝かせている。

 置いてきぼりをくらったようで、フレンは少しだけ面白くない。これはもう、今日も思い切り寝台の中でオルフェリアを可愛がると心に決める。

 大きな音はいまだに鳴り響いている。

 一度にいくつもの花が夜空を彩る。

 大きな音がガラス越しに響く。オルフェリアは我慢できないとばかりに窓を開いて、バルコニーへ出た。

 まったく。最初の約束を完全に忘れている。フレンはオルフェリアに室内からの花火鑑賞を徹底するように何度も言ったのだ。

 フレンも慌てて彼女の後を追って、後ろから抱きしめる。少しでも暖かくしておかないと。大事な妻が風邪をひいたら一大事だ。

 花火が終わると、彼女はくるりと反転してフレンにお礼を言った。

「フレン、わたしうれしいわ。ありがとう、今日連れてきてくれて」

「どういたしまして。改めて、新しい年おめでとう、オルフェリア」

「おめでとう、フレン。あなたにとっていい年であることを祈るわ」

「きみが隣にいてくれればいつだって私にしてみたらいい年だよ」

 フレンはオルフェリアを室内へ誘導する。

 冷えた彼女の体を温めようとフレンはオルフェリアを抱きしめた。オルフェリアはフレンの腕の中で、ぎゅっと彼の胸に顔を押し当てる。

「わたし、早くあなたの子供を身籠るわね」

「こればかりは運もあるからね。あんまり気負わなくていいよ」

 そういえばレカルディーナも第三子を身籠ったな、とフレンは思い出す。

 フレンはオルフェリアの背中を優しくなでた。去年の今頃はまだ、フレンはオルフェリアへの思いを自覚していなかった。

 それなのに、彼女が自分の手元から離れていくことが嫌で、それを感じさせる言動に対してぴりぴりしていた。

 今こうしてオルフェリアがフレンの胸の中に納まっていることが嬉しくてたまらない。

「オルフェリア」

 フレンの声の中に、熱を感じ取ったオルフェリアは顔をあげて、彼からの次の行動を待つ。

 フレンはオルフェリアの唇を塞いだ。

 新しい年、夫婦はお互いの背中に腕を回し、最初の口づけをかわした。


おまけ


 フレンからたくさんの口づけを落とされた。呼吸まで飲み込まれるような深い口づけはオルフェリアから思考する力を徐々に奪い取る。

 何度も小さな悲鳴をあげた。それなのに、フレンはちっとも容赦をしてくれない。オルフェリアはもう一度大きくのけぞった。

 シーツの上で、彼の指がオルフェリアの指を絡めとる。しっかりとお互いに指を絡めつつ、二人は身を繋げた。

 彼のぬくもりが心地いい。

 フレンの腕の中におさまるとオルフェリアは彼から愛されていることを実感する。

 ふいにエルメンヒルデから言われた言葉を思い出す。

『……旦那様から抱かれることが嬉しい、と思いましたわ』

 エルメンヒルデの言葉を聞いたとき、あのときはまだ心がついていかなくてわからなかったけれど、今のオルフェリアはフレンに抱かれていてうれしいと感じている。

 彼がオルフェリアを求めてくれているのがとても嬉しくて、幸せ。

 オルフェリアはフレンと絡めた手にぎゅっと力を込めた。

「オルフェリア?」

 フレンの気づかわし気な声にオルフェリアは首を横に振る。

 息が上がってきていてうまく話せる自信がない。フレンはいつだってオルフェリアの一歩先を行っていて。いつも色々と翻弄されっぱなしだ。

 それなのに、オルフェリアは当たり前のようにフレンのことを信用している。

「だ、い……じょうぶだから……」

 オルフェリアはフレンの緑色の瞳をじっと見つめる。寝台の上で、彼はいつもよりも少しだけ余裕のない表情をしている。そういう妻にだけ見せてくれる顔があることも、彼と身を繋げるようになって知った。

 オルフェリアの潤んだ瞳がフレンのそれと絡み合う。フレンがゆっくりと動きを再開させる。

 オルフェリアは彼の動きと合わせるように切なげに何度も啼いた。

 つないだ手にお互いがぎゅっと力を籠める。

 わたしはあなただけのものだから。

 オルフェリアは無意識にフレンの名を呼んだ。彼から惜しみない愛情を注がれて、オルフェリアは愛を知った。

「フレン……好き……」

 息継ぎの合間に、オルフェリアはそれだけをつぶやいた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ