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本編

久々の投稿になってしまいました。

 1917年11月11日、ドイツ帝国と連合国との間で休戦協定が締結、欧州大戦は終結した。


 「休戦協定」とは言うが、その実態は連合国の「降伏宣言」に等しい代物であった。

 1917年3月に決行されたドイツによる「春季攻勢(カイザーシュラハト)」の成功、その結果によるフランス軍の大規模な反乱・抗命、そして攻勢に呼応する形で動いたドイツ海軍大洋艦隊に対しイギリス海軍大艦隊が敗北した(第二次ユトランド沖海戦)結果、連合国の継戦意欲は粉砕され、先述した休戦協定が成立した。ドイツ率いる中央同盟は勝利したのだ。


 その後、1918年のヴェルサイユ条約により、中央同盟国は戦勝国としての地位を確固たるものにした。特に、ドイツ帝国はアフリカ・アジアを中心に広大な植民地を獲得し、超大国として世界に君臨することとなった。


 しかしながら、植民地獲得はすなわち守るべき広大な領土が増えたということに他ならない。また、敗戦国となったがほとんど被害を受けなかったアメリカ・日本、カナダとインドシナに成立したイギリス・フランス亡命政府、(自らの不用意な行動によって成立してしまった)新興国たるソビエト連邦といった「敵」も未だ多数存在した。

 これに対してドイツは、アジアを中心に戦力増強を始めた。しかし、戦勝国と言えど大戦の傷は深く、また、戦時中に約束された民主化・自由化の実施などもあり遅々として進まなかった。陸上戦力のほとんどを現地軍でまかない、海上戦力としては旧式化した前弩級戦艦、装甲巡洋艦が送られた程度であった。


 1930年代に入ると、ドイツは大規模な軍備拡張を始めた。そして同じころ、中国大陸とインドシナをめぐって日本との対立を深めることになる。中国国民党を支援しフランス亡命政府を潰したいドイツと、奉天軍閥を支援しフランス亡命政府支援の名目でインドシナに兵を進める日本、極東において再び戦争が起こるのは、1941年のことであった……



 1941年12月2日 シンガポール、セレター軍港

 マレー半島先端に位置するシンガポール、かつてイギリスの植民地であった同地はいまやドイツ海軍東洋艦隊の一大根拠地となっていた。

 先の大戦における東洋艦隊の根拠地は中国、膠州湾であった。しかし、大戦において日本により占領され、東洋艦隊も稼働艦艇が各地で撃破され、壊滅した。その後、膠州湾はドイツに返還されたものの、対日、対米戦を考慮し警備用の小型艦艇を残して撤収、東洋艦隊はシンガポールに移った。


 10年に渡って拡張を続けられ、巨大な艨艟が並ぶその姿は、栄光ある大洋艦隊の拠点ヴィルヘルムスハーフェンにも劣らない。

 居並ぶ艨艟はかつての大洋艦隊の面々である。カイザー級戦艦「カイザー」「フリードリヒ・デア・グローゼ」、ケーニヒ級戦艦「マルクグラーフ」「クローンプリンツ・ヴィルヘルム」、デアフリンガー級巡洋戦艦「デアフリンガー」「ヒンデンブルク」、ユトランド沖海戦にも参加した偉大な軍艦たち。しかし、主砲口径は30.5センチであり、36センチ・40センチクラスの砲を備える戦艦を複数有する日米海軍と真正面から対峙するにははっきり言って能力不足である。

 巡洋艦は旧式のケルン級軽巡洋艦2隻とその改良型であるエムデン級2隻、駆逐艦(大型水雷艇)はこれまた旧式の1916型16隻のみと心もとないものであった。


 日本との緊張が高まる中、本国もこの状況を放っておくわけにもいかず、東洋艦隊に増援部隊を送った。新鋭戦艦「ビスマルク」を中核とする戦艦3隻、重巡洋艦2隻、駆逐艦16隻の部隊である。



「素晴らしい……」

 東洋艦隊司令長官ヨハン・ギュンター・リュッチェンス大将は停泊する「ビスマルク」を見上げ、こうつぶやいた。

 彼の反応も無理はない。「ビスマルク」はドイツ——否、世界における既存の戦艦すべてを凌駕する存在であった。


 全長282メートル、全幅39メートル、排水量は満載で76,000トンの巨体、主砲は42センチ連装砲4基、それでいて速力28ノットと従来の戦艦と比較して規格外の大きさと性能を持つ戦艦である。

 無論、これだけの巨艦を整備できるドックの数はごくわずかだ。シンガポールに増設された「カイザー・ヴィルヘルムⅢ世ドック」はそのうちの一つである。


 増援部隊は「ビスマルク」だけではない。38センチ砲を備える「シャルンホルスト」「グナイゼナウ」、新鋭重巡「プリンツ・オイゲン」「サイドリッツ」、新時代の駆逐艦であるZ1級4隻・Z5級12隻、旧式ばかりであった東洋艦隊の戦力は一気に倍増した。

 なお、すでにドイツ帝国太平洋艦隊(バイエルン級戦艦4隻を基幹、根拠地はトラック諸島)にもシャルンホルスト級戦艦の「ブリュッヒャー」「モルトケ」、改シャルンホルスト級の「ローン」などが派遣されている。ドイツ海軍の7割もの戦力がアジア・太平洋に集結していた。


 日独の緊張はすでに極限にまで高まり、緊張緩和のための交渉は平行線をたどっている。開戦は時間の問題であろう。すでにドイツ太平洋艦隊はトラックを出て、パラオ諸島近くのウルシー泊地にて臨戦態勢を整えていた。東洋艦隊も将旗を「ビスマルク」に移し、準備を進める。



「この『ビスマルク』が来たからには、必ずや日本艦隊など撃滅させてみせます」

 艦長エルンスト・リンデマン大佐は司令部幕僚を前にそう断言した。おお、と色めき立つ幕僚の面々、リンデマンは続けて口を開いた。

「しかし、空母がいないのは少し不安であります」

 懸念事項を口に出され、司令部は静かになった。砲術畑を歩み成績はトップクラス、人望も厚い、それでいて慢心はしない、リンデマンは非常に優秀な将校であった。

 本来、増援部隊には空母「エルベ」が含まれていた。しかし、紅海で座礁し離脱を余儀なくされていた。


「『エルベ』の修理は12月末までかかる。年内の合流は無理だ」

 参謀長が答えた。いまさら無理なことを言うな——とでも言いたげな口ぶりであった。

「空軍に支援を要請している、空の心配をすることはない」

 リュッチェンス提督が続けて答えた。そこに、参謀の一人が口を挟む。

「艦長、少し心配しすぎでは? 航空機が作戦行動中の艦艇を沈めた事例など存在しない。ましてや戦艦を沈めるなど…… この艦(ふね)を預かる君ならよくわかるはずだろう」


 その言葉に対し、リンデマンは少しの沈黙の後、こう答えた。

「最善を尽くします」



 1941年12月10日 22時30分頃

 マレー半島沖、月明かりに照らされ、漆黒の海を進む艨艟たち。ドイツ東洋艦隊である。


 10日未明、日独交渉の決裂と日本への宣戦布告が伝えられ、東洋艦隊は出撃した。目的は台湾 ーインドシナ間の通商路の遮断、そして日本海軍主力を誘引し艦隊決戦を挑むことだ。開戦前の情報では、すでに台湾近海に日本の有力な部隊が展開している。このまま行けばすぐに接敵するであろう。


 東洋艦隊は大きく二つに分かれていた。第一部隊は旗艦「ビスマルク」を先頭に「グナイゼナウ」「シャルンホルスト」「デアフリンガー」「ヒンデンブルク」が単縦陣を形成、第二部隊は旗艦「フリードリヒ・デア・グローゼ」以下「カイザー」「マルクグラーフ」「クローンプリンツ・ヴィルヘルム」が同じく単縦陣をつくっている。第二部隊の横には重巡2隻が侍り、周囲は駆逐艦隊(軽巡4、駆逐艦24)が固めている。


 23時頃、ついに敵影が見えた。

「前方に艦影! 距離35,000メートル!」

「敵は戦艦6! カガ・クラス、ナガト・クラス、イセ・クラスが2隻づつ!」

「さらに敵複数! コンゴウ・クラス2隻を含む巡洋艦部隊!」

「カガにナガトか……」

「かなりの大物がきましたな」

 司令部に緊張が走る。長門型、加賀型は41センチ、伊勢型は35.6センチ砲を備える戦艦だ。天城型、紀伊型はいないが、おそらく太平洋艦隊の対処に回っているだろう。


「砲戦用意、距離25,000で射撃開始だ」

「はっ! 主砲、射撃用意! 観測機、発進せよ!」

 リュッチェンスの命令に対し、リンデマンは応える。

 揚弾機によって砲弾と装薬が弾薬庫より主砲塔に運ばれ、装填される。また、水上偵察機「アラド Ar196」がカタパルトにより発進した。就役から半年程度であるが、乗員の練度は十分なものであった。


「第二部隊、敵巡洋艦隊に向かいます!」

 第二部隊は、第一部隊の盾になるように巡洋艦隊の方向へと向かう。重巡と駆逐艦隊も第二部隊に続いた。

 第二部隊を構成するのは、弩級戦艦6隻。しかし、戦間期に近代化改修を受けており、射撃管制装置は一新され、速力も25ノットまで向上している。35.6センチ砲を持つ金剛型は厳しいが、重巡クラスならば対処できるだろう。


「敵艦隊、転舵!」

「いいだろう。面舵いっぱい、同航戦を挑むぞ」

「了解、面舵いっぱい!」

 7万トンの巨体が船体を傾けながら針路を変える。同じころ、巨大な主砲塔も敵の方向へと回転していった。


それからしばらく経ったのち、ついにこの時が訪れた。

「距離25,000!」

「主砲、射撃開始!」

「主砲、撃て(フォイヤ)!」

 23時45分、「ビスマルク」以下戦艦5隻は砲門を開いた。デアフリンガー級(近代化改修により主砲射的は25,500メートルまで延伸されている)も射的ギリギリではあるが味方に同調した。

 遅れて数十秒後、日本艦隊も砲弾を放つ。双方とも命中弾はなし。しかし、光学技術において優位に立つドイツ艦隊の射撃の方が正確であった。


 3射目、最初に命中弾を得たのは「シャルンホルスト」であった。敵3番艦の「陸奥」から炎が上がる。旗艦「ビスマルク」も4射目で敵先頭艦に命中弾を得た。


 しかし、日本艦隊も負けてはいない。「グナイゼナウ」に41センチ砲弾が艦中央部に命中、副砲を吹き飛ばした。さらに、「デアフリンガー」周囲に水柱が乱立した直後、異変が起こる。

「『デアフリンガー』、速力低下! 落伍していきます!」

 ユトランド沖において高い防御力を発揮した「デアフリンガー」があっさりと艦隊から落伍した。ドイツ側は知らなかったが、「日向」が放った一式徹甲弾が水中弾となり、艦首の水密区画を破壊したのだ。


 早くも1隻を欠いたドイツ東洋艦隊、しかしここで予想外のことが起こる。

 「シャルンホルスト」と殴り合いを演じていた「陸奥」、彼女に4発目の砲弾が命中した直後、三番砲塔より巨大な爆発が起こった。爆発は主砲弾薬庫を誘爆させ、「陸奥」艦後部が吹き飛んだ。そして、艦尾より沈んでいく。


「ナガト・クラス、爆沈!」

 司令部は色めき立つ。格上の戦艦を倒したのだ。同時に「ビスマルク」への期待も高まる。

「主砲、斉射!」

 「ビスマルク」の42センチ砲が火を噴く。そして着弾、敵艦にひときわ巨大な炎が上がった。



 第一部隊が激しい砲撃戦を繰り広げているころ、第二部隊もまた激闘していた。

「目標、敵タカオ・クラス! 主砲、撃て!」

「フォイヤー!」

 金剛型2隻の相手をカイザー級2隻に任せ、戦艦「マルクグラーフ」は艦長エーリヒ・バイ大佐指揮の元、高雄型重巡と砲弾を投げ合っていた。


「誤差修正急げ!」

 射撃方位盤が動き、主砲弾が再装填される。艦暦30年に迫る老嬢ではあるが、熟練された将兵と改修された各種装備によって、今もなお第一線で活躍できる能力を残していた。


 その時、巨大な轟音が響き渡った。見張り員が悲鳴をあげる。

「旗艦が! 『フリードリヒ・デア・グローゼ』が爆発炎上!」

 「フリードリヒ・デア・グローゼ」、ユトランド沖海戦では大洋艦隊旗艦を務め、この戦いにおいても第二部隊旗艦を務めた栄光ある艦(ふね)だ。この戦いにおいても格上相手に大立ち回りを演じていたが、「金剛」が放った35.6センチ砲弾をもろに喰らい、さらにその十数秒後、弾薬庫に火が回り爆発、壮絶な轟沈を遂げた。同時に司令部も消滅してしまった。


 戦艦隊の指揮権は、最先任のバイに委ねられる。バイは素早く命令を発した。

「これより、本官が第二部隊戦艦隊の指揮をとる! 各艦、目標そのまま、射撃を続けろ!」

「艦長!?」

 バイの命令に航海長は面食らった。

「せめて、少し距離を」

「いいや、ここで引くわけにはいかん。奴らを第一部隊に近づけるな!」

 バイは元々駆逐艦乗りである。彼にとって殴り合いなど恐れるようなことではなかった。


 さらに砲弾が放たれる。ケーニヒ級戦艦の主砲は30.5センチと小ぶりではあるが、重巡相手ならばむしろ過剰な威力を誇る。近代化改修を受けてからは装填が人力から機械式となり、継戦能力も高まっていた。

 これは今回のような巡洋艦との戦いにおいては有利に働いた。相手はこちらのバイタルパートを貫通できず、一方こちらは重巡の装甲を容易く貫くことができるからだ。


「目標に命中! 敵艦撃破!」

 「フリードリヒ・デア・グローゼ」の轟沈から数分後、「マルクグラーフ」は「愛宕」に命中弾を得た。一撃でカタパルトと四番砲塔を吹き飛ばされ、機関に深刻なダメージを負った「愛宕」は戦線を離脱していく。

 「高雄」以下後続艦にも「クローンプリンツ・ヴィルヘルム」「プリンツ・オイゲン」「サイドリッツ」らが苛烈な砲撃を加えていく。重武装を誇り苛烈な訓練を重ねてきた日本の重巡も撤退を余儀なくされ、「金剛」「榛名」は味方を支援しつつ同じく後退していく。


「手空きの者、水面に注意せよ。魚雷を放っている可能性が高い」

 バイは手抜かりなく命じた。日本の重巡はいずれも魚雷を持っている。置き土産として放っている可能性が高い。


 結論から言うと、バイの判断は正しくはあったが無駄に終わった。突如「クローンプリンツ・ヴィルヘルム」至近に水柱が上がる。

「『クローンプリンツ・ヴィルヘルム』、被雷!?」

「バカな!? 航跡はどこにも……」

 日本海軍の秘密兵器「酸素魚雷」は航跡を残さない。日本重巡部隊は最後に一矢報いたのだ。



 12月11日 4時20分

 空は白みがかり、日の出が近づく中、ドイツ東洋艦隊は進む。傷ついた船体は、戦いの激しさを色濃く示していた。


 「マレー沖海戦」は痛み分けに終わった。日本側は、戦艦「陸奥」重巡「高雄」「摩耶」などを失い戦艦「加賀」「土佐」「長門」、重巡「愛宕」「妙高」が大破と主力艦隊が大打撃を受け撤退を余儀なくされた。ドイツ側は戦艦「フリードリヒ・デア・グローゼ」「クローンプリンツ・ヴィルヘルム」などを失うも「ビスマルク」以下主力は健在、しかし損傷艦が多く弾薬も多数消耗したため、一度シンガポールに撤退することとなった。戦術的にはドイツ、戦略的には日本の勝利だと言えるだろう。


「勝った……な……」

「ええ、しかし本艦含め被害は大きいです」

 リュッチェンスの呟きに対し、リンデマンが言葉を紡ぐ。「ビスマルク」は加賀型戦艦2隻を撃破と大立ち回りを演じたが、2番主砲と副砲、高角砲の半数が使用不能となった。

「この状況では、敵航空機に対し十分な対応ができません」

「艦長、不吉なことは言うな」

 リンデマンに対し、参謀の一人がいら立ったような声を上げる。

「上空直掩はきちんと用意している、大丈夫だ」

 参謀長がなだめるように言う。そこに、若い参謀が口を開いた。

「だいたい、航空機に戦艦が沈められるわけないじゃないですか」

「自信がないわけではない。だが、心配するに越したことはない」

 リンデマンは諭すように言った。件の参謀は不満げな顔を見せるもそれっきり口を開かなかった。


 リンデマンは思う。

(確かに、彼の言う通りかもしれないな…… だが、大勢の将兵の命を預かる以上、この姿勢を崩すわけにはいかない)

 一方、こうも思った。

(しかし、敵の戦艦を沈められなかったのは残念だ。次こそ、ドイツ帝国海軍主力の名に恥じぬ活躍を……)

 彼も根っからの砲術屋である。いかに航空機が進化を遂げたとて、海軍の主力は戦艦である——この場にいる誰もがそう信じていた。




 彼らはまだ知らない。

 インドシナはサイゴンより、日本海軍の陸攻隊が東洋艦隊撃滅を期して出撃していることを。

 太平洋艦隊が駐留するウルシーに空母機動部隊が迫っていることを。


 空が、航空機が、戦場を支配する時代が来ることを、彼らはまだ。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

なんだか大洋艦隊と言うより、ドイツ帝国海軍の物語になってしまいました。

後日、おまけとして艦艇のスペックや編成表的なものを投稿する予定です。こちらも読んでいただけますと幸いです。

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― 新着の感想 ―
 御参加ありがとうございます。  第一次大戦ドイツ勝利世界線での日独戦艦対決。大変燃える設定ですね。短編なのがちょっと惜しいと思えました。  それから、この世界ではラインハルト・ハイドリヒがドイツ…
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