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止めるな。流せ。――無能な統治を切り捨てた俺たちは、構造で世界を支配する  作者: 慈架太子


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99:最終選択

――境界線、王都と外の分岐。


夕方。

沈みゆく太陽が地平線の端を焦がし、二つに分かれた道を鋭いコントラストで照らし出している。


左は王都。

石畳は磨かれ、街並みは整っている。

だが、そこにあるのは完成された停滞だ。

幾重にも張り巡らされた法と形式、責任を恐れる沈黙。

仕組みは美しい。だが、あまりに遅い。


右は外。

道は削れ、並ぶ建物も粗い。

だが、そこには剥き出しの熱量がある。

昨日なかったものが今日生まれ、止まることを許さない。

形は整っていない。だが、圧倒的に速い。


その中央に、アルトが立つ。


後ろに三人。

アンジェリカ。

エルディア。

リュミエラ。


止まる。

動かない。

風が吹き抜け、四人の裾を等しくなびかせる。


どちらも、はっきりと見えていた。


王都。

そびえ立つ白亜の壁。

誇り高く掲げられた旗。

だが、その奥で脈打つべき「意思」は枯渇し、流れは重く、動かない。

そこに留まれば、伯爵としての地位も名声も、約束された平穏も手に入るだろう。

同時に、この澱んだ空気の一部になることを強いられる。


外。

行き交う人々。

土埃を上げて走る荷車。

誰も命令せずとも自律して動き続ける、止まらない流れ。

そこには保証された未来も、守ってくれる壁もない。

ただ、自分たちが作り上げ、守り通すべき「速度」だけがある。


エルディアが、静寂を切り裂いて短く言った。


「どっちだ」


問い。

だが、それは不確かな未来への不安ではない。

ただ、自分たちが進むべき「座標」を最終的に確定させるための、必要な確認。


アンジェリカは、真っ直ぐに前を見つめる。

心の中に迷いはない。

あの日、路地裏で子供を守るために踏み出した時から。

あの関所で、無能な貴族の机から書類を掃き出した時から。

彼女の魂はすでに、止まることを拒絶していた。

だが、口には出さない。

この「前」を共に担うと決めた男の判断を、彼女は静かに待つ。


リュミエラも同じだ。

三人の背中を見つめ、自身の魔力を指先に馴染ませる。

どこへ行くか、ではない。

この四人で、どこまで行くか。

彼女にとっての答えは、すでにその一点に集約されていた。


沈黙。


長くはない。

だが、王国の歴史と自分たちの未来を天秤にかけるには、十分に重い時間。


アルトは両方を見た。

王都の静止。

外の流動。


止まるか。

進むか。


一瞬。

思考が結論へと直結する。


「外だ」


短い。

即答。

迷いの一分子さえ、そこには存在しない。

理由は言わない。

説明する必要がない。

流れを愛し、停滞を殺してきた彼らにとって、それは呼吸と同じほど当然の選択だった。


エルディアが、満足げに頷く。

「了解」

それだけ。


アンジェリカが、迷いなく一歩前へ出た。

アルトの隣。

同じ方向、同じ速度。

リュミエラも、三人の背後へ。

いつもの位置。いつもの距離。


四人が揃う。

「形」が決まる。

それはもはや、個人の集まりではない。

世界を回し続けるための、最小にして最強の機構ユニット


王都の方から、誰かの声が響いた。

「待て! 伯爵! どこへ行く!」

遠い。

届かない。

届いたとしても、彼らの足を止める意味はもうどこにもない。

伯爵という枠は、外からの干渉を防ぐ盾に過ぎない。

その中身である彼ら自身を、王国の古い殻の中に閉じ込めることは誰にもできない。


誰も振り返らない。

止まらない。


歩き出す。


外へ。

命が、価値が、意志が、濁流のように流れている方へ。

整っていない、未完成の方へ。

だが、けっして止まることのない、自由な方へ。


四人の距離は変わらない。

前に三人。

後ろに一人。

形はそのまま。

だが、その一歩に込められた意味は、今、完全に決まった。


“どこに立つか”。

それが全てだった。

彼らは、守られる側ではなく、自ら流れを産み出し、維持する側を選び取った。


背後には、黄昏に沈みゆく王都。

前方には、まだ見ぬ混沌と、それを切り拓く自分たちの速度。


四人の影が重なり、一つの太い線となって荒野へと伸びていく。

かつての自分たちを縛っていたすべてのしがらみを、その足音が石畳に刻むたびに置き去りにしていく。


止まらない。

迷わない。

彼らが歩む先には、常に新しい「流れ」が生まれ続けていた。


整っている場所ではなく止まらない場所を選んだことで、その選択は完全に確定した。

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