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【完結済】堕神ノ書 〜異界支配の始原〜  作者: せつな
第四章【仮面の再出発】
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【素顔の灯】


アールフェン中央広場――

せつなたちが去ったあと、沈黙のまま立ち尽くしていたセリナを、仲間たちが囲んでいた。


「……セリナ」


ルカが、ゆっくりと声をかけた。


「さっきの……本当なのか? お前……“ネザリア側”だったのか?」


その問いに、セリナはぎゅっと唇を結び、深く頭を下げた。


「……はい。ごめんなさい。ずっと、騙していました……」


ミラが、思わず言葉を失う。


「でも、私は……この街で過ごした時間が、全部、嘘だったなんて思っていません。

みんなと過ごした日々は、本当に……楽しかったんです」


震える声に、誰も言葉を返せなかった。





そのときだった――


「セリナ、お前さ」


ぽん、とルカが彼女の肩に手を置いた。


「今、すっごい顔してるぞ」


「えっ……?」


「泣きそうな顔。いや、もう泣いてるか?」


そう言われて、初めて自分の頬に流れる涙に気づいた。


セリナの肩が、ぴくりと震えた。


「……わたくし、本当に、皆さんに守られていたのですね……。ずっと、嘘を重ねていたのに……

そんなわたくしに、こうして……優しくしてくださって……ありがとう……ございます……」


涙を流しながらの言葉は、仮面のものではなかった。


「……それが、お前の本当の喋り方なんだな」


ぽつりと呟いたのは、ミラだった。


「へぇ~、なんか……すっごくいいじゃん、可愛いじゃん!」


「ふふ、いいなぁ、なんかこう……セリナって感じ!」


あっという間に、笑いが広がった。


涙の中で顔を伏せながらも、セリナははっきりと告げる。


「……わたくし、この街に残ります」


「ネザリアに戻っても良いとは言われました。でも……私は、この街で、まだやりたいことがあるんです。守りたいものも、できました」


ルカが大きく頷いた。


「そっか。なら、俺らが守ってやるよ、セリナの居場所をな」


「うん!セリナちゃんは、もうこのギルドの仲間だもん!」


――ありがとう。ありがとう、本当に……。


心の奥で繰り返すたび、セリナの仮面は音もなく砕け落ちていた。


遠く、建物の陰。

それを静かに見つめていたのは、グレンだった。


(……よくやった、セリナ)


感情を揺らさず、任務を遂行する“影”だった少女が。

今や誰よりも、“この街”と共に在る者へと変わっていた。


彼の視線に、微かな安堵が滲む。


こうして、セリナの“仮面の再出発”は――本当の意味で、終わりを迎えた。


そして、始まっていく。

“素顔の少女”としての、新たな日々が。





ネザリア城・作戦観測室――


黒曜石の柱が並ぶ空間。その一角、光の球体――“全域観測鏡”が静かに回転していた。


その内部には、アールフェンの広場。

セリナが涙を浮かべながら仲間たちに謝り、そして受け入れられる光景が、鮮明に映し出されていた。


「……泣いてるじゃん。あのセリナちゃんが」


じゅぴが、珍しく表情をゆるませながら、画面を見つめる。


「ま、でもよかったっすね〜。あの子が“自分の意志”で残るって言ってくれたのは」


その隣で、リィナが頬杖をついたまま、ぼそりと呟いた。


「泣くとか任務の邪魔でしかないよね、あの子」


「……それでも、“泣けるようになった”ことが、大事なんじゃないかしら」


そう言ったのは、窓際に座る少女――

かつて“神喚の巫女”と呼ばれた存在だった。


真っ白なドレスの裾を揺らしながら、彼女は静かに立ち上がる。


「ずっと“感情なんて要らない”って思ってたのに……今は、ちょっとだけ羨ましいなって、思った」


リィナが片眉を上げる。


「……あんたがそう言うなんて、ちょっと意外かも」


「そう? でも、今の私は……もう“ただの巫女”じゃないもの」


そう言って振り返った巫女の表情は、以前とはまるで違っていた。


どこか年相応の、少女らしい笑顔。

無感情の仮面を脱いだその顔に、僅かな照れすら滲んでいた。


「せつな、様……」


巫女は、視線をひときわ鋭く持つ“主”へと向ける。


「……あのセリナって子。私、もうちょっと知りたいな。……友達になってみたいって、思っちゃった」


じゅぴがくすくすと笑う。


「巫女ちゃん、雰囲気変わってきたっすよね〜。ちょっと可愛げ出てきたっていうか」


「ふふ……うん、自分でも、少しずつ“戻ってきた”気がするの」


それは、道具として扱われ、感情を閉じ込められていた少女が――

初めて“人”として生きる選択肢に触れた証。


観測鏡の中、セリナの笑顔がこぼれる。


その様子を見ながら、せつなは無言のまま、わずかに頷いた。


『……面白い』


ただ一言、低く。


だがその声音には、どこか優しさが滲んでいた。


巫女がそっと口元に手を添え、微笑む。


「ねぇ、じゅぴ。……次のお茶会、セリナも誘っていい?」


「もちろんいいっすよ♡ ってか、そのうちリィナとも遊びに行くっすか?」


「えー……」


リィナが明らかに嫌そうな顔をする。


「なんであたしが、そんなのと……」


「そんなのって……ひどーい」


巫女の、年相応の拗ねた声。

けれど、それを見たリィナがふっと吹き出した。


「……ま、どうしてもって言うなら考えてやらないでもないけど」


「やった」


声を立てて笑う巫女。その姿に、部屋の空気がふんわりと柔らかくなる。


“戦いの後”――

それぞれが、少しずつ、“生きる”方向へ歩き始めていた。

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