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【完結済】堕神ノ書 〜異界支配の始原〜  作者: せつな
第三章【静寂を裂く足音】
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【繋がる言葉/王国の決断】

【繋がる言葉】


「……そういや、まだ名乗ってなかったな」


空になったグラスをテーブルに置き、ゆっくりと隣の男に視線を向ける。


「グレン=ロウバルト。王国軍・第七調査隊の隊長だ。あんなもんを前にしちゃ、偉そうに名乗るのも気が引けるがな」


「グレン隊長、か……なるほど」


隣の青年は小さく笑い、酒の入ったグラスを傾ける。


「俺はルーガって言う。ギルド所属の冒険者だよ。……まあ、最近は依頼より人探しのほうが多いけどな」


「冒険者か。いい身分だな。好きに生きられる」


「好きに、ね……まあ、それも相手次第さ。 時には“敵か味方かすら分からない連中”の間を歩くこともある」


どこか意味深な言葉。 だがグレンは、それに特別な反応を返さなかった。


「……俺たちは、“帰された”」


ルーガが視線を向けると、グレンは少し目を伏せたまま続ける。


「下の兵が一人、処刑された。だが、俺たちは生きて帰された。 あれは、“判断”を委ねてきた。選別だよ、俺たちがどう動くか――見てる」


「……もし、あんたが自由に動けたら……どうする?」


ルーガの問いかけに、グレンはしばし黙した後、ぽつりと呟いた。


「……“あれ”の意志を、知りたい。 ただの敵か、対話ができる存在か――それだけでも、見極めたい」


ルーガはグラスを置き、小さく頷く。


「……あんた、悪くない目をしてるな」


「酔いが回ってるだけだ。話したことは、忘れとけよ……ルーガ」


「――了解、“隊長”」


酒場の灯が、静かに揺れていた。





ネザリア城・作戦管制室。


魔導スクリーンを見つめるじゅぴが、楽しげに口角を上げる。


「ふふっ♡ ルーガ、やっぱ使えるっすねぇ。“演技”も完璧だったし」


「名前と立場を正確に引き出した。“信頼”まで一歩近づいたな」


せつなの低い声に、じゅぴが頷く。


「グレン=ロウバルト。性格、判断力、行動傾向……こっちのファイルに全部追加しておくっす♡ ルーガには、次の段階に移ってもらう?」


「いや、まだだ。“信頼”は一日で得られるものではない。……だが、“見込み”はある」


「次のタイミングで、もう少し深い話を引き出す感じっすねぇ。……ふふ、“味方候補”、一人目ってとこっすか♡」


玉座に座るせつなは、静かに指を組んだ。


「……駒は揃い始めている。後は、誰を“盤面”に立たせるかだ」


魔導スクリーンの灯が、わずかに赤く揺れた。


その影の中で、王の目が――次なる一手を見据えていた。





【王国の決断】


王都・軍務院 本会議室――


重厚な扉が閉ざされ、外界から遮断された空間に、緊張が張り詰めていた。


出席者は十名。


王国軍総司令を中心に、近衛軍、辺境軍、魔導院の上層部。そして政務院からも数名の文官が顔を揃えていた。


机上には、調査隊から提出された報告書の写しと、数枚の“魔導映像録”が投影されている。


「……で、報告の内容は正しいと?」


重々しく問うたのは、軍務副将の中年男。 机を叩くように指でなぞりながら、映像の中の“謁見の間”を見つめる。


「城の主は名乗らず、兵士のひとりを“発言の罪”で即座に処刑。だが、調査隊本隊には交渉の機会を与え、帰還を許した。確かに、記録と報告に齟齬はありません」


魔導院長がうなずきながら答える。


「だが、それは逆に言えば――“我が王国の兵士を殺しておきながら、制裁を受けずに済んだ”という前例になる」


「つまり――舐められた、ということか」


軍側の者たちが、怒気を抑えた低い声で頷き合う。


「……それはまずいな。あれだけの魔力を持ち、未知の構造物を建て、周辺地域を“無言で支配”している。 このまま放置すれば、近隣諸国への示しもつかぬ」


政務院の一人が冷静に言い切る。


「我が王国は“侵略”をしない。だが“領地への不法占拠と王国兵への殺傷行為”があったとするなら、それは“防衛戦争”だ。……正義はこちらにある」


「ふん、言い回しはどうでもいい。問題は“勝てるかどうか”だろう?」


将軍が低く唸った。


「報告では……“ただの魔導士”ではない。精神的な威圧、空間支配、魔力濃度の操作…… 兵どころか、隊長クラスでさえも立っていられなかったという」


「それでも、何もしないという選択肢はありえない。王国の威信を守るためにも、“牙”は見せねばならぬ」


別の将官が食い気味に続ける。


「だが……」


その場にいた誰もが、無言のまま視線を交わした。


確かに、威信の問題はある。だが、それ以上に――

“勝てる見込みがあるのか”という不安が、彼らの中にあった。


「……まずは、制圧作戦の立案を始めよう。動員可能な師団の再確認と、魔導戦力の選別。 あの拠点は、“警告”と“抑止”の意味でも、一度は叩く必要がある」


「時間はかけられんぞ。近隣諸国に動きを察知されれば、奴らに“先手”を取られる可能性もある」


「ならば……次の満月――“十日後”に、作戦発動を目処に調整を進めよう」


議場が静かに、一つの方向へと傾いていく。


その“方向”とは――


王国による、漆黒の城への“先制行動”。


すべてはまだ、水面下の動きに過ぎない。だが、決定は始まった。


やがて動くのは、“軍”そのもの。


戦火は、確実に“灯る寸前”まで迫っていた――

今回も読んでくれてありがとうございます!


謁見の余波が、じわじわと各所に広がってきました。


酒場で交わされる会話、玉座からの監視、王国の作戦会議――

見えている表と、動いている裏。それぞれの思惑が、ようやく“盤面”に乗り始めたところです。

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