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【完結済】堕神ノ書 〜異界支配の始原〜  作者: せつな
第三章【静寂を裂く足音】
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【策謀と愚者の決定/偵察と盃の対話】

【策謀と愚者の決定】


王都――政務院・戦略会議室。


重厚な円卓を囲むのは、王国軍の高官たち。

その表情には怒気と誇りと、そして“侮り”が浮かんでいた。


「……報告は確認済み。“黒の城”、高密度魔力を帯びた構造物。

出現の経緯は不明、敵性反応は現地で一名死亡……この一文だけで、十分すぎる」


分厚い報告書を叩きつけるように置いたのは、軍務卿のひとり。


「兵士を殺されたとあっては、黙っているわけにはいかんな」


「ふざけた“王”を名乗る輩め……この国を何だと思っている。まるで我らの土地に“主”として座っているかのような態度だ」


「異物は排除。それが“秩序”だ」


そんな中――会議室の扉が重く開かれる。


「……お待ちください」


姿を現したのは、調査隊を率いた隊長。 深く頭を下げ、円卓の中央に進み出た。


「現地での対話を試みた私から、最後に進言させていただきます」


「……ならば言ってみろ。兵士を一人失い、何を庇い立てする?」


隊長は、息を一つ、深く吐いた。


「今回の対象は、ただの脅威ではありません。

あれは――本物の“玉座”です。“王”としての意志と格を持った存在です」


「何を言っている?」


「我々が受けた威圧は、“力”ではない。“支配”でした。

あの空間に、我々の常識は通じなかった。

理屈で測れる存在ではない、“異質”そのものでした」


ざわめく空気。


だが――誰かが笑った。


「お前は“恐怖”に飲まれたのだろう。だが、それが何だ。

未知の魔力、謎の城、王を名乗る存在……ならば、なおのこと征伐すべきだ」


「……愚か者め」


隊長の目が細くなる。


(……なぜ、我々があの場で“ただちに殲滅”されなかったのか――誰も疑問に思わないのか?)


(なぜ、ひとりを“殺され”、我々が“生かされた”のか……)


(それすら、“許された”のだと――なぜ、誰も気づかない)


軍務卿があざけるように言う。


「貴様の報告にあった、“漆黒の王”とやらに……この国がひざまずくとでも?」


その言葉に、隊長はもう何も返さなかった。


ただ、静かに視線を落とし――


心の奥で呟いた。


(……“漆黒の王”よ。あなたの“許し”の意味を、この国は理解できなかった)


(ならばいずれ――その“沈黙”が終わる時が来る)


(その時こそ、“この国の終わり”だ)






【偵察と盃の対話】


王都――日が沈みきった夜の、酒場。


酔いと熱気に満ちた喧騒の中。 その片隅、ひとりだけ違う温度の男が、カウンターに腰掛けていた。


調査隊の隊長。 ネザリア城から帰還し、上層部への報告も終えたばかりの男だった。


だが――


「……ったく、正気じゃねぇ……」


グラスの底を乱暴にテーブルへ叩きつける。 中身はすでに三杯目。言葉の節々には酒気と怒気が混ざっていた。


「“あれ”を攻める? 兵を殺されたから?……だからって、あれに勝てると思ってんのか、あの連中は……」


口にするのもはばかられる“あれ”――漆黒の玉座。 玉座にいた者の名は、彼にもわからなかった。 だがその威圧と支配力を、身体で“理解”させられた者だけが知っている。


(あれは……“軍”の力でどうこうできる存在じゃない)


酒を呷る。 意識が少しずつ霞んでいく中、隣にふい、と人の気配。


「……よく飲むな。何かあったのか?」


声をかけてきたのは、ラフな冒険者の格好をした青年。 旅装にマント、首元には少し古びたギルドバッジ。 だがその佇まいには、冒険者にしては妙な“隙のなさ”があった。


「……隊長殿、だよな? ネザ……いや、“あの黒城”から帰ってきたって噂、聞いてる」


「……ああ。帰ってきたとも。……“許された”だけだがな」


口元を歪め、さらに酒をあおる。


「こっちは命がけで会談を成立させたってのに、上の連中は“誇りを踏みにじられた”だの、“王国の威信”だのと……」


「……潰す気、なのか?」


「ああ……! “やられたらやり返す”、それが“国家の正義”なんだとさ!」


隊長はグラスを握り潰す勢いで拳を握った。


「何も見えてない……“理解”もしてない…… なぜ俺たちが帰ってこれて、あの若造がなぜ処刑されたのか―― あの玉座の前に立って、何を感じたのか、誰も聞こうとしないんだ……!」


その独白を、青年――いや、“偵察者”は静かに聞いていた。 表情は崩さず、ただ視線だけを、隊長の目に重ねる。


「……あんた、後悔してるのか? 報告を、従ったことを」


「違う。“諦め”だよ……止まらないのなら、せめて一人でも、“理解させるべき相手”に繋げたかった……」


ふっと、力の抜けた笑み。 それは、どこかで“負け”を悟った者の顔だった。


その瞬間――


王城・玉座の間。


魔導スクリーン越しに、すべてを見ていたせつなが、ゆっくりと目を閉じた。


「……じゅぴ」


「見てたっす♡ 完璧に“落ちてる”っすねぇ、あの隊長」


「この隊長はまともなようだな、こいつだけ助けてもいいかもしれんな」


玉座の光がわずかに揺らめく。


漆黒の支配者は、ついに“戦い”への最初の橋をかける。


その端は、酒場の夜の片隅から、静かに――“侵食”を始めていた。

謁見という形を取りつつも、それは対等な会話ではなく、“裁定”であり、“試練”でした。

それを理解できる者と、できない者。明暗が分かれ、今後の展開にも大きな影響を及ぼしていきます。


また、影で見守るせつなとじゅぴ、リィナの動きに加え、調査隊隊長という“理解者”の登場は、王都にとっての数少ない“橋”でもあります。

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