【仮面の沈黙】
【第二章:玉座の支配者/仮面の沈黙】
ネザリア城・中枢制御室。
膨大な魔導スクリーンが空間に浮かび、絶え間ない情報が光の粒として踊っていた。
その中央で、じゅぴが椅子に座り、足をぷらぷらと揺らしながらも、真剣な顔でデータを見つめていた。
「……ふぅん。やっぱり、やっちゃったか」
魔力波形の微細な異常、心拍の揺れ方、行動軌跡の座標ログ――
すべてが、“明らかな異常”を示していた。
だが、それは“敵に追い詰められた結果”ではない。
「――せつな、通信。セリナの魔力波長、現在連続で小刻みに上下してる。
しかも場所は街道の外、森の中……ふつうなら“拉致案件”っすけど――」
玉座に座るせつなが、わずかに目を細めた。
「……“ふつうなら”、か」
「うん。これ、セリナ自身が“連れていかれてる”って流れに、乗っかってるっすね」
じゅぴの指先が、空中のスクリーンをくるくると回転させ、
セリナの行動ログを視覚化する。
「縄の拘束、された直後に動きが一瞬あった。
でも、それ以上は抵抗なし。“拘束状態での指動作”が記録されてる。
たぶん――“痕跡”、残してるっす。街の人向けに」
「……なるほどな」
せつなが肘を肘掛けに乗せ、ゆっくりと指を組む。
「意図的に囚われ、周囲への警告も残す。……判断力と柔軟性、兼ね備えてる。悪くない」
じゅぴが、にひっと笑った。
「この反応パターン……うちのデータだと“演技女優セリナ”っすね♡」
心拍、呼吸、魔力反応……全部“弱者を演じるための制御”が入ってる。ほんっと、したたか♡」
「じゅぴ、他の冒険者への情報拡散可能性を調査。
ギルド内の通報制度、街に存在する“情報屋”の数と信頼性、それからセリナが残した符号の解析も」
「了解っす♡ じゅぴ、フルモードで情報網掘り返していくよ〜!」
と、そのとき――
「……ねぇ、じゅぴ、せつな」
――気配もなく、温度もなく。
柱の陰から、リィナがするりと現れる。
今日も黒いメイド服の裾を揺らしながら、影のように歩み寄ってくる。
「セリナが囚われたの……ぼくが行って、“全部切って”きてあげよっか?」
声色は甘く、でもその瞳にはほんの微かに殺意が揺れていた。
「――ダメだ。あいつは“演じて”いる。……お前の出番は、まだ先だ」
せつなの一言で、リィナはふっと笑う。
「……うん。じゃあぼくは、せつなの影でいられるように、待ってる」
再び柱の陰へと消えるその背に、じゅぴがむすっと口を尖らせた。
「影じゃなくて、張り付きメイドでしょ……くぅぅぅ、悔しいっす……!」
「……じゅぴ。セリナの監視は継続。
“救出の判断”はこちらで下す。……だが基本は、彼女に任せる」
「了解っす♡ じゅぴモード、“追跡監視”継続!」
淡い光が、玉座の間に灯る。
その中で――せつなの瞳だけが、どこか鋭く、冷たく輝いていた。
(……いいだろう。ならば、“お前の仮面”に期待してやる。存分に魅せてみろ)
囚われたセリナの動向を、ネザリア城側から見守る回でした。
情報処理担当のじゅぴ、そして影の暗殺者リィナ、それぞれのスタンスも明確になってきたかと思います。
せつな自身が「救出に動かない」と判断する冷徹さと信頼――そのギリギリの距離感が、今後どう影響するか。




