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【完結済】堕神ノ書 〜異界支配の始原〜  作者: せつな
第二章【仮面の潜入者】
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【掲示板の選択/西門の境界】

【掲示板の選択】

朝食を終えたセリナは、ギルドの中央ホールへと足を運ぶ。

壁に設けられた掲示板には、今日も多くの依頼が貼り出されていた。


(依頼の内容、日付、報酬……それに“発生場所”。注目すべきはそこ)


すでに何人かの冒険者が貼り紙の前に集まり、目を走らせていた。

セリナはその列に混ざりながら、視線だけを走らせる。


『■Eランク:荷馬車護衛(商隊)/出発地点:中央市場→西門/報酬:銅片12〜15枚』

『■Fランク:廃屋清掃依頼(旧市街)/発生場所:西街区・第二路地/報酬:銅片10枚+食事券』

『■Dランク:牧草採取(牧場管理組合)/依頼場所:城壁外・南西斜面/報酬:銅片18枚』


(西門関連が複数。……中でも、商隊の護衛と廃屋清掃。どちらも通行証不要で西方面に行けそうね)


手を伸ばしかけたそのとき――


「そっちはやめといた方がいいぜ」


隣に立っていた初老の男性が、ぽつりと声をかけてきた。

腰に剣を下げた、ベテラン風の中年冒険者だった。


「西門の清掃依頼……依頼元が曖昧でな。たまに消えるんだよ、“人”ごと」


セリナは、仮面の奥で息を殺す。


「……でも、掲示板にある以上、正式な依頼ですよね」


「ああ、一応な。報酬も出る。けど……戻ってこない奴もいた。気をつけな」


(……やっぱり、“消えている”。西門には、何かが潜んでる)


男が去ったあと、セリナは改めて視線を掲示板に戻す。


(護衛依頼なら、“通り過ぎるだけ”ができる。直接西門に関わるわけじゃない)


「……これに、しようかな」


ぽつりと呟いて、セリナは『荷馬車護衛』の依頼票に手を伸ばした。

今日もまた、“自然なふり”で、街の真実に近づくために――



【西門の境界】

荷馬車の車輪が、石畳の上をぎしぎしと軋ませながら進んでいた。


「じゃあ頼んだよ、お嬢ちゃん。あんたが一番若いけど、雰囲気は一番落ち着いてるなあ」


頼んできたのは、寡黙な中年の商人だった。

粗末な荷台には、布で覆われた木箱がいくつも積まれている。中身は生活雑貨と乾燥食料。

ルートは中央市場から西門を通り、小さな村へと抜ける半日程度の行程。


(……誰でも受けられる依頼。けれど、それがいい)


他の護衛はセリナを含めて三人。

粗野な槍使いの青年、無口な弓使いの女。そして、仮面の新米冒険者。


「ま、こんだけ人数いりゃ、盗賊も襲ってこねーよ。荷も地味だしな」

「……村で何か変な噂あったら、こっちにも教えてくれな」


(この人たちも、知らずに“踏み込む”のかしら)


護衛隊が動き出す。

数分の行軍の後、彼らは街の西端にたどり着く――


西門。


そこには、奇妙な静けさがあった。


「門番いねーじゃん。昼近いってのに」


「いや、いるよ。……あそこ」


ひとりの門番が、ただ立っていた。

目を伏せ、微動だにせず、空気のような存在感。

だがその“無表情”が、逆に異様な緊張を漂わせていた。


(……この感覚。見ている……? でも、視線を感じない)


門を通る際、門番は一言だけ言葉を投げかける。


「……通行許可、確認。問題なし。通れ」


それだけ。声も、表情も、限界まで抑えられている。


セリナは一礼しながら、仮面の奥でそっと呟いた。


(……この人、“監視役”かもしれない)


西門を通り過ぎた瞬間――

街の空気が、がらりと変わる。


草の匂い、風の流れ、音の通り方までもが、まるで別の空間。

背後の石造りの街とは、あまりにも違う。


「さて、ここからは一本道だ。獣も魔物も最近は出てないが……念のためな」

「用心はしておくよ。……お前さんもな」


商人がセリナに目を向けて、微笑む。


「“この道”、最近は妙な足跡がよく見つかるんだ。獣じゃない、人間の……な」


セリナの瞳がわずかに細まる。


(……人の足跡。西門の外で? それって――)


仮面の裏で、彼女は静かに警戒レベルを引き上げた。

セリナが潜入を進める中、今回は“西門”という街の外れに足を踏み入れる回でした。

依頼という日常の中に、少しずつにじみ出てくる「違和感」を感じ取っていただけたら嬉しいです。

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