【幕間:仮面の向こう、微笑みの中で】
新章前の息抜きに…幕間です
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ネザリア城・中庭――
陽が差す午後の静寂。
漆黒の回廊を抜けたその先、小さな花壇と噴水を囲むように、白と黒のタイルが敷かれた庭が広がっていた。
「……花、手入れされてたのね」
白銀の髪を揺らしながら、巫女――ノアは噴水の縁に腰掛け、そっと花のほうに目を向ける。
「ええ。メイドの皆さんが毎日欠かさずお世話されてるみたい」
隣に座るのは、セリナ。
今日の彼女は戦装束ではなく、街での演技に近い、軽装の冒険者姿だった。
「ネザリアって、もっと……無機質で冷たい場所だと思ってた。全部、命令で動いてて、人の感情なんて通じないところ……」
ノアはそう呟いて、ふっと笑う。
「でも、違った。じゅぴさんとリィナさんの喧嘩とか見てると……逆に、うるさいくらい」
「……ふふっ。確かに、あのふたりは賑やかですから」
思わず吹き出すセリナの声も、どこか柔らかかった。
「前は、人形みたいな私が“どう振る舞えば正解か”を考えてた。
でも今は、“何を選びたいか”って……そんな気持ちに、気づき始めてる」
ノアが自分の手のひらを見下ろすようにして、ぽつりと呟いた。
「セリナさんは、どうしてあの街に残ったの?」
「……私も、少し似てたのかもしれません。
仮面をつけて、誰かの命令で、誰かの役割を演じてた。
でも――あの街で出会った人たちが、私を“セリナ”として受け入れてくれたんです」
「うん……わかる気がする」
しばらくふたりの間に、静かな風だけが吹いた。
「……また、神殿の中で会ったとき、覚えてますか?」
「ええ。“変わった目をしてる”って、言われたわ」
「……その時、もうわかってたの。あなたが“普通の旅人”じゃないってこと」
ノアが横顔だけで笑った。
「でも――不思議と、怖くなかった」
その言葉に、セリナも小さく笑う。
「……私も、あなたを敵だと思えなかった」
(今なら、少しだけ“感情”で動いても……きっと、間違いじゃない)
そんな想いが、仮面の下で芽吹いていた。
そして――
「ねぇ、セリナさん」
「はい?」
「……また、一緒にお茶してくれる?」
「……もちろんです。何度でも」
そう答えたセリナの声に、もう“演技”の色はなかった。
ネザリアの陽は、驚くほど柔らかく、ふたりの肩を照らしていた。




