発想の転換
「だから俺は、俺ら魔族はここにいる恵の為に動くことにした……ゲラダー? 聞こえるかー?」
「はい、ぼ……魔王様」
ノヴァの言葉と共に、彼らが映っている画像にもう一人、新たに執事姿の老婆の映像が追加された。
彼女がこれから行うことを、恵は聞いていたが――夜かと思うくらいに暗い森と、池のようだが濁って淀んでいっそ泥かと思う水たまりが、見るからに禍々しくて不安になる。
(大丈夫かな……いや、ゲラダさんは魔族で、しかも強いって聞いてるけど)
そんな恵の頭を優しく撫でて、ノヴァがリュカオンと優菜、それからこの映像を見ているだろう人々に話し出した。
「ゲラダのいる場所は、南の果て。まだ恵と、そこの聖女の浄化が届いてない場所だ……瘴気の浄化は、異世界から召喚した聖女にしか出来ない。けど別の方法なら、俺ら魔族にも出来る」
ノヴァがそう言ったのに答えて、ゲラダが懐から何かを取り出す。いつものように手袋をはめた手には、けれどいつもはない水晶が連なるネックレスが握られていた。
刹那、黒い影がいくつも泥池からゲラダへと向かって渦巻き、そのネックレスに吸い込まれていく。そして、透明だった水晶の一部が黒く染まった代わりに、泥池は綺麗に澄んだ池へと変わった。それだけではない。あれだけ暗かった森なのに、目に見えて明るくなったのにも驚きだ。瘴気の影響恐るべしである。
「魔族は、人族の何倍も魔力が多い。だからガキの時なんかの暴走を防ぐのに、ああやって道具を使って吸い取って封じるんだわー……瘴気でやるのは初めてだったけど、上手くいったなー」
「初めてだったのか!?」
ノヴァの言葉に、リュカオンがツッコミを入れる。おそらくだが、この映像を見ている者達も同様のことを思っただろう。
けれど、リュカオンのツッコミにノヴァはただ肩を竦めて答えただけだった。
「何だよ。出来たんだからいーだろー? ってか、こうやって定期的に瘴気を封印すりゃ、もう異世界から聖女を召喚しなくても済むだろーが」
「「え」」
今度はリュカオンだけではなく、召喚された優菜もまた声を上げた。無理もない。恵も、ノヴァから聞いた時には驚いた。
ノヴァが提案したのは、聖女を必要としなくなる方法だった。
瘴気を溜め込んで聖女を呼ぶのではなく、まず溜め込まないように定期的に封印する。そうすれば、そもそも聖女召喚が不要になるのだ。
「人族には難しいだろうから、俺ら魔族がやってやるなー? ま、聖女と違ってタダとはいかねーけど。逆に言えば、金さえ払えば皇国以外からでも請け負ってやるよ。俺らって優しー♡」
「なっ……!?」
ノヴァからの煽りに、リュカオンは今度は絶句した。
無理もない、と恵は思う。魔国が動いたことで、皇国としては今まで切り札に使っていた『聖女』が無効化されてしまったからだ。反面、他の国は金さえ払えば瘴気を封じて貰える上、皇国に媚びへつらわなくて済むので、ノヴァの申し出は歓迎されると思われる。
けれどその後、笑顔で続けられた言葉はリュカオン達だけではなく、恵をも驚かせた。
「そんな訳で、恵はこれからも魔国で暮らすから……そっちの聖女は、そろそろかな? 気をつけて帰れよー?」




