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最終話 ビッカの苦悩 【ざまぁ】


 【ビッカ視点】


 シンが経理を手伝わなくなって数日が経ちやがった。


 最近じゃ、どっかに出かけてるみたいだし、とんだ金食い虫だぜまったく。


 研究所は新入所員でごったがえす。


「チッ! 無駄な出費が止まらんな」


 我が研究所は、どういうわけか、人手不足に陥っている。


 仕事量はいつもと変わらないのにだ!


 仕方がないので増員した。


 設計士を7人、事務員を3人も雇ったぜ。


 たった4年で1億コズンという裏金を貯めに貯めたというのに。


 これじゃあとても貯める余裕がない。


 10人も増員するなんて俺らしくないが、研究所の仕事は遅れているからな。


 これで立て直しができれば、再び裏金工作に走るとしよう。

 

 と、考えていたのだが、

 今は経理のキレミに詰め寄られている。


「所長! いい加減にしなはれや! 経費のことをもう少し勉強しなはれ!」


「なんのことだ? 俺の仕事はいつもと変わらんだろう」


「こっちは変わりますよってな! 人手が足りまへんのんや!!」


「バカ言うな。事務員を3人も増やしたのだぞ! 経理の仕事が大変なら手伝ってもらったらいいだろう」


「あんさんの提出書類が多すぎて仕事が追いつきまへんのや!」

 

「じゃあ総出でやればいいだろう」


「やってます! 4人全員で経理をやってますけどなぁ、まだ足りまへんのんや!!」


「なにぃい!? 4人で経理をやって足りないだとぉ?」


「所長が無駄な経費書類を提出しまくるから、その対応に追われまくってますんやで!!」


「うるせぇえ!! てめぇは粛々と仕事してたらいいんだよぉおお!!」



バンッ!!



 と机を叩いたのはキレミの方だった。

 そこには手紙が置かれていた。


「なんだ、これは?」


「辞表ですわ」


「は? な、何も辞めることはないだろうが!?」


「もう耐えられまへん」


「いや、しかしだなぁ」


「しかしもかかしもおまへん!」


 このぉお、調子に乗りやがって、この田舎もんのクソアマがぁああ!!


「自己都合なら退職金は出さんぞ!」


「はぁ……。まぁ、あんさんならそう言うやろと思ってましたわ。王都の法律はまだまだ職場に有利でんなぁ」


「ははは! 給料の管理は所長に管理権があるからな。金が欲しいなら辞めないことだな」


「ええです。私も覚悟を決めました。退職金なんかいりまへんわ」


「な、なんだと!? 貴様正気か!?」


「あんさんの運営には辟易してたんどす。ほなさいなら」


「ま、待て!!」


「アリアスはんがいた頃が懐かしいですわ」


 そう言い残してキレミは去って行った。


 ア、アリアスだとぉ!?

 奴がいたからどうだというんだ??


 研究所のトラブルはこれだけではなかった。


 仕事の進行が完全に停滞したのである。


「おかしいぞ。仕事が進んでないじゃないか!! てめぇら手を抜いてんじゃねぇ!!」


 研究員は頭を抱えていた。


「設計の計算式が難しくて進まないんです!! 今まではアリアスさんが助言してくれて助かっていましたが、彼がいないとわからないことだらけで……」


「そんなバカな!? 貴様ら、それでも設計士か?」


「無茶言わないでくださいよ。この国の魔法って、もう限界値を超えて改善されているんです。これ以上どうやって設計すればいいのやら」


「い、今まではどうやってやっていたんだよ!?」


「ですからアリアスさんが……」


 こいつもアリアスか!


 だがな、


「人を増やしてるんだぞ! なんとかみんなでやらんか!!」


「それが……。みんな体調が悪いらしくて元気が出ないんです」


 そういえば5人ばかし休んでいたな。

 

「緑の斑点が身体中に現れるんです。私も……。ゴホッ! ゴホッ!!」


 う!


 こいつの顔に緑の斑点があるぞ。


 これは王都の流行病だ!!


 確か、薬はすでに完成しているはず。


 騎士団長のエマに聞けば融通してくれるだろう。




 俺は騎士団長の元へと向かった。


「研究員が流行り病に冒された。薬を融通してください!!」


「薬の数は決まっている。僧侶ギルドに援助をしてくれた組織には率先して配布するようにはしているがな」


「ああ! だったら私の研究所は多額の援助をしていましたよね? 研究費をそちらに回したはずだ!!」


「それはアリアスがいた時だけだ。あなたは援助を打ち切ったあげく、返金を求めたではないか」


 うぐぅッ!! そうだったーー!!


「し、しかしですねぇ……。研究所が滞れば王都の魔法経済に打撃を与えますよ?」


「確かにな、それで研究所用には1本だけ用意した」


 い、1本だけだと!?


 ま、まぁいい。


 俺だけでも助かれば御の字だ。


「じゃあそれをください!」


「キレミが持って行ったぞ?」


「何ィイイイイイイイイイイ!?」


「これ、所長が来たら渡してくれと頼まれた」


 それは一切れのメモ用紙だった。





『退職金の代わりに貰っていきますわ♡ キレミ』




 あんの野郎ぉおおおおおおおおおおおおおおッ!!


「キレミは研究所を辞めたんだ! だから俺の元には届いてないんですよ!!」


「そう言われてもな。僧侶ギルドに援助をしてくれた団体を優先しているんだ。まだまだ薬は足らないからな」


「そんなこと言わずに1本だけでいいから!!」


「そもそも薬が足らないのは資金不足が原因なのだぞ。魔法研究所がもっと援助してくれたこんなことにはならなかった」


「うう……」


「アリアスがいたなら、こんなことにはならなかっただろうな」


 くっ! 


 こいつもアリアスか!


 どいつもこいつもアリアスアリアスと連呼しよってぇえええ!!


「もういい!! 魔法研究所がどうなっても知らんぞ!!」


「それは騎士団長の私の責任ではないだろう?」


 ク、クソアマがぁああああああああ!!



 俺は研究所へと戻った。


 クソォ、どうすればいいんだ?


 このままでは研究所が破綻してしまうぞ!


 やはりアリアスには早急に戻ってきてもらうのが得策か。


 悔しいが奴の実力は確かなようだ。


「死んでいなければいいが……」


 俺は奴をハメて国外追放にしたからな。


 モンスターに襲われて死んでいるかもしれん。


 そこに副団長のバラタッツが長旅から帰って来た。


 こいつにはアリアスを見つけるまで帰ってくるなとキツく言いつけてある。


 帰って来たということはなんらかの結果があったんだ! 


「ア、アリアスは生きていたのか?」


「や、奴はジルベスタルの魔法研究所にいました」


「おお! そんな所にいやがったのか!!」


 グフフ! 運が回って来やがったぞ。


 奴さえ戻ればこの研究所は復活する。


 なにもかも上手くいって、再び裏金が貯めれるぜ!


「で、アリアスはどこだ!? 連れて帰って来たんだろ?」


「そ、それがぁ……」


「どうした!? 今、研究所は大変なんだぞ!? アリアスを直ぐにでも働かせるのが得策なんだ! 騎士団長の説得もやらせよう! 奴なら薬を貰えるはずだ!!」


「いや、あのぉ……」


「ア、アリアスは!? トイレか!?」


「そ、そのぉ……」


 は?


「ま、まさか……。会えなかったのか?」


「あ、会うことはできました」


「なんだ……。だったら」


「…………」


「お、お前……。手紙は渡したんだろうな?」


「はい……」


「だったら来るだろう! 3倍だぞ3倍!! 給料を3倍にしたあげく、22冊の魔法暦書が読み放題なのだ!! こんな好条件があるか!!」


「そ、その手紙なのですがぁ──」


 手紙がどうしたというのだ?





「ビリビリに破かれました」





 何ィイイイイイイイイイイイイイイイイイッ!?



「なぜだ!? どうして!? 好待遇に好条件! 何が気に入らんと言うのだぁあああああああ!?」


「ジルベスタル魔法研究所の方が条件がいいみたいです」


「クソがぁああああ! この恩知らずめぇえええ!!」


「恩など微塵もないと言われました」


「ぐぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」


 クソクソクソクソクソクソがぁああああああああ!!


 俺は所長室のあらゆる物を破壊した。


 クソクソクソクソクソクソォオオオオオオオオオ!!


 アリアスのクソ野郎がぁあああああああああああああああ!!


 秘書のミミレムは混乱する。散乱した家具の木片が当たる。


「ちょ! 痛っ! お、落ち着いてくださいビッカ所長!!」


「これが落ち着いていられるかぁああ!! ぬがぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」



 ◇


 こうして、ロントモアーズ魔法研究所はどんどん衰退していきました。


 聞いた話だと、所長たちは横領が発覚して衛兵に捕まり、然るべき報いを受けたとか……。


 一方、アリアスのいるジルベスタル魔法研究所は大活躍。


 この先も様々な苦難があるでしょうが心配はいりません。


 だって、アリアス・ユーリィは大陸で最も優秀な魔法の設計士なのだから。


最後まで読んでいただきありがとうございました。


面白ければ評価いただけると幸いです。


また、次の作品でお会いしましょう。


カクヨムにて同作品を掲載しておりますが、そちらの方が人気が出たため連載を続けております。

10万字以上は載る予定です。

物足りないと思った方、もしくは興味が有れば、そちらも覗いて見てくださいね。

「魔法の設計士」と検索していただければわかると思います。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 最初から一気に読みました! 面白く読めました!
[良い点] はじめまして 「魔法の設計士」というのに興味があって読ませていただきました 私の経験で申し訳ないのですが、魔方陣を研究する、というのは読んだことはあるんですが 理論的に関数を使ってなど、と…
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