【6】竜の眷属神
謎の会議に向かったレインとスノウを見送って暫くして。グレイとブランのもふもふを堪能していれば。
途端にドタドタと足音が響く。
「我が主よ!」
「ひぃっ!?」
今度は何だ……!?いや、分かるけど。ここは俺に害を成すものが入ってくることはないと。
知っている。眷属神たちがそれを許すことはない。
「あの……」
「まだご記憶が定かではないとはお聞きしておりまする」
彼は開け放たれた入り口から入り丁寧に扉を閉める。
美しい銀髪に切れ長のアメジストの瞳を持つ美男だ。頭には黒い魔族角。背中には紫の竜翼、後ろからは同じ色の竜の尾。
スリットの入った聖職者のような装いである。
「しかしああ、嬉しや。我が主」
長い脚で優雅に動く度に尾もまた流麗に動く。レインとはまた違った意味で顔立ちの整った外国のモデルのようである。
「我が主にお仕えする竜神ヴィオル。ただいま参上いたしました」
そう言って俺の腰掛けるベッドの脇にさっと跪く。その見た目の通り竜の眷属神。
「うん、ヴィオル……俺は、ソラでいい」
「ではそのように呼ばせていただこう、我が主。いやソラさま」
さまを付けられるのは…。あ、そうだ。
「レインみたいに、呼び捨てでいいよ」
何だか兄がいたらああいう感じかな、と思った通りレインはとてもフレンドリーだ。
ヴィオルにもできればそう呼んでほしいのだが。
「だ……ダメ?」
「何と……っ。レインとはレインガルシュのことか!うぐ、レインガルシュめ。主をそのようにか……!?しかし……うーむ」
ヴィオルが眉間のシワを濃くする。
「レインガルシュだけに主の寵愛を渡すわけには……っ」
性格的に対極のような存在だからか何故かライバル視してるんだよなぁ。そこも何となく懐かしいと言うか、微笑ましいと言うか。
「では……ソラと」
ヴィオルが渋々とそう漏らす。しかしその頬は仄かに赤らんでいる。
「お会いできて嬉しゅうございます」
「うん」
ホッと胸をなで下ろす。
それから……。
「あの、ヴィオル。レヴィラスに会いに行きたいのだけど」
レヴィラスはまだここに来られないようだけど。それでも会いたいと思ってしまうのは保護者、だから?日本では俺の方が保護者を必要としているような感じだけども。
「レヴィラスに……ですか」
ヴィオルは驚いたように顔を上げる。
「その……ダメ、かな」
「そのようなことは。ソラの……主の意思を汲み取らない眷属神はおりませぬ。特にレヴィラスに対して主は代々あれに対して過保護でしたから」
「……ん、うん」
否定などなできるはずもなく。
レヴィラスはずっとずっと……。
自身の掌を見つめると思い出す。記憶の中にある手はもっと大きくて、指も長いけれど。今ここにあるのは日本人のふにふにした短い指の生えた掌でしかない。
「まぁ、今生はそうでもありますまい」
「そう……なの?」
グレイやブランを遣わしてくれたと言うことは彼らの主も務めているわけだから結構成長している……?
「むしろソラの方が保護者が必要な感じがしまする」
それは否定できない。お風呂もレインがいなくては入れなかったし。
「日本ではそう言った年齢だったから」
代々の記憶も曖昧でまだ全てを思い出せない。
「その、ヴィオルたちがいてくれて心強い……よ」
「それはなにより。我らとしても嬉しゅうございまする」
ヴィオルが普段は仏頂面の顔に薄く笑みを浮かべる。
「ではレヴィラスの元に行くとしましてもまずは着替えを、ですな」
「あ……うん」
完全にこれ、寝巻きだものね。
……はっ、待って。まさか。
俺はハッとしてヴィオルの意識に意識を向ける。
(……は……か)
あれ、何だろう……?
(ソラ、どうした)
今度ははっきり聞こえる?
「あ……あの、ごめん」
「謝ることなど。我の意思を聞こうとしてくださったのだろう?とても懐かしく、嬉しく思いまする」
眷属神たちにとってはやっぱり嬉しいことのようである。
「ありがとう……」
「いえ」
先ほどよりもにこりと微笑むそのヴィオルの顔は……?
俺なんかが向けられていいのか悩む女子が卒倒しそうな美しさであった。
「やっぱりこの部屋の中は広いにくくなっているね」
「それもありますが……恐らくは我が鱗の影響かと」
「えっ」
「壁に所々紫の鱗が埋め込まれているでしょう」
「うん……っ」
壁の装飾も見事だが、その紫の宝石……いや鱗を中心としている感じがする。
「その他はレヴィラスが集めてきた素材を用いておりますが」
レヴィラスが……?
いつの間に素材回収なんてできるようになったんだろう。前は壊しまくってた……いや、それが本質だったような気もするのだが。
「あれには我が鱗を使っておりまする」
「ヴィオルの……!?」
確かにヴィオルの鱗も紫!
「い……痛くない……?」
「そのような心配は初めてでありまするな。ですがソラらしい所なのであろう」
俺……らしいところか。
先代たちはもっと、何と言うかボスっぽかったイメージが……いや感覚があるのが確かに分かるのだ。
「あれは自然に生え変わるものを選んでおりまする。ソラを迎えるにあたり、レヴィラスに集めておいてくれと頼まれましてな」
レヴィラスが?素材を集めるくらいだ。素材にまで詳しくなってる?
「それなら安心だけど。ヴィオルの鱗は……あ」
何か思い当たるものがあるような。確かヴィオルの鱗は。
「その鱗は魔法や異能を無効化する」
もちろん俺のも。だからこそここの装飾に使われている。
「そうですな。ですがソラが本気を出せば鱗の効果など意味を成すまい。気休めです」
「それでもありがたいよ」
眷属神たちの、レヴィラスからの心遣い。
「その鱗を纏っているからヴィオルの中は分かりづらい……?」
それもヴィオルの鱗特製装飾の部屋の中である。
「我が心を知りたければいつでも覗いてくだされ」
そうヴィオルが告げればその通り、ヴィオルの意識ごと入ってくるような不思議な感覚を覚える。
「美しい、渓谷だね」
脳裏に映されたのは多分……。
「我が生まれ故郷。いつかソラにも見せて差し上げたい」
「うん……俺に行ければ、だけどね」
苦笑を返せば。
「真の力が目覚めれば瞬間移動も空を飛ぶことも容易いことでございまする」
そう……なのだろうな。今は分からないし、どうすればよいのかも分からない。
「でも、ご心配なされますな。今回は我がソラを抱っこして飛ぶゆえ」
「あ……うん」
運んでくれるのはありがたいが。……抱っこか。
「それに外はソラにとっては騒がしい」
確かに地球にいた時のような【アレ】が大量に入ってくるのだ。
「我が腕の中の方が安心でありましょう」
「そうかも」
ヴィオルの鱗の効果で守られるはずだ。
「いやはや、懐かしいですな。昔は歴代の主たちがレヴィラスに」
あぁ……何かそれ、分かる。レヴィラスと共に飛んでいたかもしれない。レヴィラスは特に代々にべったりだったもの。
「今回は我がその役目を賜れる。とてもありがたいことでございまする」
「うん……まぁ」
抱っこされるの……俺だけども。
けどレヴィラス……。
もうすぐレヴィラスに会えるんだよな。
『コオテ……コオテ……、……毀て』
「……っ」
今、聴こえたのって!
「……ら、我が主!……ソラ!」
ハッ。今、何か……意識がよく見知った闇の中に潜っていたような……?けどヴィオルに呼ばれて戻ってきた。
「な……何でもない……!あの、レヴィラスのところへ行かないと……!」
「えぇ、では早速着替えをいたしましょう。上空は冷えます。竜ならともかく今の主は人間の身体です。服はレヴィラスがいくつか用意しているはずですので」
レヴィラスが服の用意まで……?
じゃぁレインがハーパンニーソを買いに行く必要はそもそもなかったのでは……。




