【5】愉快な眷属たち
ふわりと揺れるもふもふ。既視感を覚える美女。彼女は。
「……ってもふもふ既にいるじゃない――――――――っ!!?」
しかし部屋に入ってくるなり悲鳴をあげる。彼女はスノウブロンドに金色の瞳を持ち狐耳としっぽがある。しっぽはもふもふすぎて入り口に埋まるように大量にもふまっているのだが……7本だ。彼女のしっぽは7本あるはずだ。
それが分かってしまうのはやっぱり……。
彼女はもふしっぽをもふもふっと部屋の中に招きいれながらも悠然とこちらに歩いてくる。それに……。
「その服……着物?」
「この世界に召喚されたかつての勇者が広めた衣よ。似合うでしょう?」
ふわりと袂が舞う。
「……うん」
勇者、か。そう言う存在は繰り返しこの世界の輪廻を巡る俺たちのように存在するのだ。
まぁ彼らはいつも同じ魂じゃなくて召喚なんだよね。彼女の言葉も参考にパズルのピースを集めていく。
「私たちと彼らの関係が決して争い合うだけのものではないもの」
「うん、そうだった」
こうしてこの森の中の屋敷で眷属神たちと暮らすことを選んだきた歴代の自分は争うことを望まなかったし。
繰り返された戦……あの表の顔と裏の顔を持つ鐘が響く記憶があるのなら戦はあったのだ。
「争いを望まない。少なくとも俺たちはだ」
「そうね!」
彼女はパチンとウインクする。
この世界のひとびとはどうだか分からないけど……それでも平和だといいなとついつい思ってしまうのは、日本人の感性ゆえだろうか。
「そうそう、ご挨拶が遅れまして。我が主」
「あぅ……その、えと、あなたも俺の眷属神なんですよね」
「敬語はよろしくてよ。レインからも通信を受け取ったから、大体のことは分かっているつもりよ」
「……う、うん」
眷属神たちは、互いに【通信】までできるんだな。何から何まですごいな。
「我が名はスノウ。あなたの眷属神」
「うん、スノウ。よろしくね」
「もちろんですわ」
スノウがふわりと笑むと同時にふわふわなしっぽが揺れる。
「あの、しっぽは」
「もふってみる?主なら大歓迎よんっ!」
もふぁさあぁぁぁっ!
ぎゃーっ!?もふもふの波ぃ――――――っ!?
「ニャーッ!?おらにゃっ!埋もれるにゃろがにゃっ!」
あ、猫が一緒に抗議してくれた。
「いいじゃないのよー。もふもふに埋もれるなんて幸せなことよ」
確かに……そうだけども。
「でも……スノウ、ほんとふわふわ」
「にゃふーっ!?おみゃぁ、お猫さまの毛並みと狐の毛並み、どっちが大事にゃんんんっ!?」
えぇ――――――っ!?そこで争うの!?
「お狐さまの毛並みだって敗けやしないわっ!」
もふっもふもふっ!
「す、スノウったら!」
わぁっ!?もふもふ攻撃が……攻撃が襲ってくるうぅぅっ!?まぁ幸せなんだけども!?
「レヴィラスちゃんったら!一足先に主にもふもふを差し向けるなんて……!ぬかったわっ!」
「ではそなたがくるまで、主の主はもふ不足であったがよいのか?」
その時静観していた狼が口を開く。
「はぅーんっ!それはいけないわぁっ!!!」
スノウはうんうんと頷く。
「にゃーっ」
猫まで。
最後は狼のひと言で2人の争いはおさまった。よ、良かったぁ。
「あの……スノウ」
「なぁに?我が主ちゃんっ」
ちゃ……ちゃんって。主にもつけるのか?知らなかったけど。
「ソラと、呼んで欲しい……なっ、て……」
「んまぁ……っ!もちろんよ、ソラちゃん!」
うん。やっぱりこっちの方がさっきよりも好きかな。
「ありがとう、スノウ」
「もちろんよ」
スノウと共に微笑みあっているとまたバタバタと駆けてくる音が響いてくる。これは多分。
「ソラ――――――――っ!」
元気のよい声と共になにやら荷物をたくさん抱えたレインが入ってきた。
「ソラに頼まれた、ハァハァ……ソラに似合いそうな……ハーパンとニーハイ、ハァハァ……たくさん買ってきたよ……!ハァハァハァッ」
いや何を買いに行ってたんだよ、レイン!?
あとそんなの頼んでないけど…!?そしてセリフの途中に怪しい効果音いれないで!怖いんだけど!?
しかしここには他にも心強い味方がいる。
「ちょっと、レイン」
スノウが俺とレインの間に立ちはだかったのだ。
スノウならレインのショタコンにも物申してくれるかも……!
「はぁ……!?アンタ何言ってるのよ、レイン!」
スノウ!やっぱり……っ。
「ソラちゃんにはショーパン黒タイツに決まってるじゃないの!私はひと目で見抜いたわよ!!」
え……えぇ――――――――――っ。
何かスノウまで特殊な趣味を……!?
いつの間に……いつの間にだよ。
「ふっ、まだまだ甘いな、スノウ!」
「何ですって!?変態!」
やっぱりレインへのみんなからの認識は変態で間違いないらしい。スノウは……セーフだろう。異論は認めない。
「確かにショーパン、タイツはショタッ子にナイスなチョイス」
レインの頭の中にはもはやショタっ子のことしかないのか。
ショタコン変態なのに欧米風オトナな美青年のレインに言われると何だかひどくコンプレックスを刺激されるような。
「だがしかし!ショタっ子の奥義・絶対領域は……ハーパンニーソでしか摂取できない!」
そんな奥義いらないよおぉぉ~~っ。
「そん……なっ、負けたわ……っ」
負けないでぇ、スノウぅぅっ!崩れおちないでぇっ!!?
「でも……でも、ひと言だけ言わせて頂戴……っ」
スノウは言葉を絞り出す。崩れ落ちながらもキッとレインを睨み付けた。
「着物つんつるてんも……ショタっ子の極みではなくて!?」
何それ!?着物つんつるてんまで何で知ってるの……!?歴代の勇者何してるのぉっ!?
「何……っ、だと……っ」
レインが崩れ落ち、スノウが立ちはだかる。
「会議だ。これから眷属神会議を始める」
四つん這いで俯くレイン。
「いいわ、望むところよ」
スノウが頷けば、レインがスッと立ち上がる。そして険しい顔を上げ頷く。
ぽすっ、もふぽすっと、扉の枠を越えて行くスノウのしっぽ。
2人は何処かへ眷属神会議とやらへ向かったらしい。……扉、開けっ放しなのだけど。
「その……放っておいて……いいの……?」
「うむ?ハーパン、ショーパンとやらをはかせられたいのか?汝よ」
との狼の言葉に。
まさか俺まで会議室とやらに向かえばそう言う流れに!?
「いや……その、ありがとう」
この狼のお陰で大事なところを踏みとどまれた。
「礼などよい。それも我が主の願い」
「……レヴィラスの」
今生でも俺のことを思ってくれているんだな。レヴィラス。
「そう言えば……名前を聞いてもいい?」
まだ知らなかったな。
「我はグレイ」
「ニャーはブランシェと呼ぶがよいにゃ」
ブランシェも何故か教えてくれた。
でも、せっかく教えてくれたんだし。
「……ブランでいいかな?」
「にゃ!?なぜ縮めるにゃ……!?まぁいいにゃ。主もそう呼ぶにゃ。主従そっくりにゃ」
そうだったんだ。レヴィラスと同じなのはちょっと嬉しいかな。




