◯エピローグ 由来
ソファの背もたれから顔を出して、雨はムフムフしている。監察官居室には、ティオと雨しかない。ユキとナツメは署内で監査。エリにサヤカはぞれぞれ自分の部署で仕事をしている。
「私がアンドロイドで、ティオちゃんは人間。でも建前は違う」
雨が古臭い大学教授のようは話し方をする。先日二人だけの秘密ということで唐突な暴露があった。自分はアンドロイドで誰かの脳波を受けているんだ。と。
秘密を共有できるというのはなんとも人間らしい。多分彼女のウソなんだろうけど。
「建前では逆、ティオちゃんがアンドロイドで、私が人間である」
確かにこれはムフムフである。いつまでこの問答は続くのだろう。
「では、人とはなんだろう、その定義とはなんだろう?血が出ることかな?」
血液という意味なら私は出るだろうが、彼女はどうだろう。自分のことを答えることにする。
「ヤクザの妾に殴られて歯が折れました、その時出血しました」
そうなの!?大丈夫だった?!といつものトーンに戻るが、まぁ大丈夫だったもんね。いま元気だし。と言ってすぐにムフムフし出す。
「感情、心は理解できる?」
「出来るようになりたいと思いますが、完全に理解できる日は来ないと思います」
ムフムフというニマニマし出す。
「身体操作はどう?って聞くまでもなかったね」
先日の、ナイフを振り回した彼を一撃で叩き伏せたことを思い出す。
「記憶量は?」
「メモリ次第です」
即答するが、ニマニマする雨からとって返す言葉で訊ねられる。
「そのメモリ容量ってわかる?」
とても簡単な質問ですね、と思いつつ答える。
「1GBから250万GBです」
雨の目が点になる。
「それって人間の容量じゃん」
まぁあれだね。といって改めて定義付けする。
「ティオちゃんは人間。ということになりそうです」
おめでとー⭐︎と雨は喜ぶが、そもそも最初から人間だと言っているわけで。
まぁ良いか。
ところで、と言ってから雨が話す。
「雨っていう名前は私自身でつけた。でも、そういえばティオちゃんの名前ってどういう意味?」
そういえば誰もそれを口にしたことはなかった。ゴロが良い、呼びやすい。非地雷系陰キャパーカーという見た目で引っかかって、そこまでいかないのだろう。間を取る意味でも、珈琲を啜る。ついに初めて無糖にしたが、むっちゃ苦い。なんだこれ。しかもエネルギーがないんでしょこれ、取る意味あるのか。あぁ、違う違う。
初めてこの世に自分の足で立って、目の前にいたおじさんに、お前は誰だ?と聞かれた時に答えた名前を答える。
「Testament Input Observerです。その頭文字でT.I.Oですよ」
無意識に出た名前。その意味を再確認する。そう思って言葉にする。
「あれ!?どうしたんですか?雨さん。そんな顔して」
目が点になっている雨に言葉を投げかける。雨は目をパチパチさせて答える。
「えぇ、ティオってちゃんとしたAIというか、意味のある名前だったの?」
なんて酷いことを言うんだこの少女は。そのいたいけな少女はイタズラっぽく笑う。
「てっきりTransformation Ins|pector Ozisanwosoete《監察官 変身するおじさんを添えて)》 だと思ったヨォ」
なんだそれ。
「最後はローマ字じゃないですかっ」
「さすが、良いツッコミだね。最後に「っ」って入るのが良いポイントだよ」
何が流石なのか、何が良いツッコミなのか。
雨はソファから身を乗り出してまじまじとティオを見る。上から下、下から上へ。そしてじっと目を見て言う。蛇のような目だけど優しそうではある。
「良いよねぇ。ティオちゃんって、なんかほんと」
何が良いのだろうか」
「ちょうど良いよね、一所懸命だし、誠実だし」
今度は少しお姉さんのような態度を取る。この人の中の人は一体どういう人なのだろう。ただとても良い人ではあるとは思う。
ただ、何故一生懸命ではなく、一所懸命なのだろうか。とか疑問に思うが、彼女のことだ多分意味などない。そういうもの。0でも1でもない。人とはそういうもの。いまだによくわかるようで、ちっともわからない。
「そうでしょうか?」
疑問で返すけど、本音は嬉しい。もっと良いって言ってほしい。正直に言えば良いのに、こんな私でも誠実らしい。やはり人というのは難しい。
「そうだよ。とっても良いこと」
あ、と雨が気づく。
ユキとナツメが帰ってきた。
「ねーねー。ティオちゃんの名前の由来って知ってるぅ?」
またイタズラっぽく雨が聞く。雨のニマニマした顔を見てユキは合点がいったような顔をしていう。
「ん?そんなんあれやろ?Transformation Ins|pector Ozisanwosoete《変身監察官。おじさんを添えて》やろ?」
「なんでですか!?ちょっと意味が違うじゃないですか!やっぱり最後!ローマ字じゃないですか!?」
やっぱりそうじゃんと勝ち誇る雨と、ティオの声が監察官居室にこだました。
監査官であることにはたぶん慣れた。でもこのイマイチなカオスなこの世界にはまだ慣れない。まだ、人というのもわからない。でも、これからなんだろうな。そう思う。
終わり
一旦これで完結です。
最後まで読んでいただきありがとうございました。




