アオハルノート
サッカー部一年の尼子君は先輩から買い出しを頼まれた。出向いた先で推しの天ノ川さんと遭遇する。アオハルの海にどっぷりと浸かってください。千文字のショートショート作品。
「尼子!川田屋で焼きそば三人前、大至急頼む!」
部室から自分の名前を大きな声で呼ばれた。
「ハイっ、すぐに行ってきます!」
サッカー部の三年生、崎田先輩は怖いのでとても逆らえない。自転車にまたがり高校の校門を出て、近くの駄菓子屋の川田屋まで急いでペダルを漕ぐ。俺はまだ一年生だから部活の買い出しなどは当たり前の仕事である。十分ほど自転車を走らせて商店街の川田屋についた。木造で年季の入ったお店だけれど、この店の焼きそばは絶品なのだ。
中に入るとテーブルには1人の同じ学校の女子学生が座っていた。
綺麗な黒髪のロングでスレンダーな体型。推しの三年生天ノ川みつはさんに遭遇してしまった。天ノ川さんと俺はバチっと目が合った。学校帰りであろう彼女はサイダーで一服していたようだ。
二週間前に彼女を一目見ただけで俺はハートを持っていかれていた。これまでほとんど話したこともないが、鼓動が高鳴っているのを感じる。
「あれ?一年生だ!どうしたの?」
「お疲れっす。崎田先輩に買い出しを頼まれまして」
「いらっしゃい」
川田屋のおばあちゃんが満面の笑顔で出迎えてくれた。
「おばあちゃん、焼きそば三人前お願いします。持ち帰りで」
「はいよ」
おばあちゃんは手慣れた手つきで焼きそばを作り始める。大きな鉄板で大量の麺を焼き、ソースをたっぷりとかける。狭い店内にジュージューっと麺を焼く音や香ばしいソースの香りが漂い空腹を誘う。
「めっちゃ旨そうなにおい。う~ん・・・。おばあちゃん、私にも1人前ください。青のり抜きで」
このいい香りに天ノ川さんも我慢できなかったようだ。
「はいよ」
川田屋のおばあちゃんは満面の笑みで返した。
焼きそばができるまで俺は手持無沙汰でお店の入口のあたりで立っていた。
「君もここに座ったらどう?私1人だし一緒に食べようよ」
天ノ川さんはそう言うとテーブルの向かいの椅子を指さした。
「ええ!?いいんですか?」
推しの天ノ川さんに同席を誘われた。幸運なこともあるものだ。十代の頃の先輩は、たった一年違うだけでもすごくお兄さんお姉さんに見える。
俺と天ノ川さんは同じテーブルでできたて熱々の焼きそばを食べる。
これまでの経験で一番美味しいと感じた焼きそばだった。十五分程度のひと時だが濃密な時間を過ごした気がした。
「そうだ私、学校に忘れ物してたんだ。ちょうどいいや!君の自転車の後ろに乗せていってくれないかな?」
天ノ川さんは背は高いけれど華奢な体型なので毎日部活で鍛えている俺なら全然余裕だ。
「任せてください。ガンガン飛ばしますよ!」
自転車の前かごに三人前の焼きそば。
後ろには天ノ川さんを乗せて学校へと走る。




