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Depths7~攻撃準備-Just before a battle-~

黄昏る科学者

新しい仲間達

埠頭から来た3人に正宗に次ぐ機体が支給される。

その機体を一番最初に扱う事になったのは・・・

 夕暮れの演習場、メガネを掛けた赤い髪の男、ユウ・ベルモンド・宮野が薄緑の残骸を触っている

何か、腑に落ちない事があったようだ。



「・・・正宗の腕部機構では刀で砕く事無く上半身と下半身を切り離すのは不可能のはずだ・・・まず刀が砕けるはず。」



蒼い光、EEnの粒子を放出し、高温の光刃を形成した刀を見てから、再度薄緑を見る。

本来、力任せに叩き斬れば斬った後がとても雑なはず。

だが、真っ二つだ。綺麗に一文字を描き、真っ二つ。



「・・・EEn粒子を用いた熱の発生は予測できないほどの高温だと言うのか?」



タブレット端末を開き、先程の演習戦闘の動画を再生する。

一般人から見れば「ただ刀を振るっただけ」のシーンを少しずつ止めながら見ていく。



「・・・間接の起動は両手両足・・・対象の薄緑は「狙撃戦闘」の動きを取り込みすぎた近接・・・」



狙撃の基本「特定の地点(ポイント)で撃った後は即座に移動し、次の地点(ポイント)で狙撃する」

そのスタンスを生かしたあまり動かない攻撃、それを見て「止まっていたから攻撃が上手く命中した」という結論を出そうとする。

しかし、それでも綺麗に真っ二つ、とは行かないだろう。



「・・・やはりEEnの運用は危険か。流石の俺でも予測が出来ん・・・不確定要素を用い戦闘を行うのはリスクが高い。しかし・・・EEnを使えば確実に優位な状況へと・・・」



世界各国、EEnを兵器運用している国は数が少ない。

簡単な理由だ。「エネルギー変換・調整が難しい」、「不安定」。この2つの理由で十分すぎる。

自由に素子・分子変換が出来るとはいえ、不安定な状態で使用すればエネルギーにブレが生じる。



「EEnを用いた兵器にはまだ実験が必要か」



そう呟くと、薄緑の残骸へと腰を掛ける。

 監視塔、最上階。忠司と怜治が食後、外を眺めている。

何機もの変わった見た目の戦闘機が下部に群雲を取り付け、飛び立っていく



「あれ、確かまだテスト段階の戦闘機なんだよな」

「えっそうなのか」

「本来なら武装をマウントした状態での空挺になるんだが・・・ほら、その後ろだ。」



2機目の戦闘機が飛び立つ。

その下にはコンテナを提げている。

そして1機目が戦闘機から飛び降りると同時、コンテナが空中で分解する。

中から短機関銃(サブマシンガン)とナイフが落下し、地上に居る群雲の手元へと落ちる。



「すげえ!」

「ありゃしっかり訓練してるな。俺じゃムリだ。」

「・・・もっと楽な方法があったんだけどな、コイツよりも数倍。」

「誰?」

「さぁ」



後ろから軍靴を響かせ、腰に軍服を巻いた男が現れる。

その容姿は金髪を上に立たせ、耳にはピアス。軍人とはとても思えない男だ。



「俺の名前は三浦飛鳥(みうらあすか)、伍長だ。」

「どうも、石田忠司一等兵です」

「霧島怜治、アンタと同じ、伍長だ。・・・で、方法ってのは」



ポケットから櫛を取り出し、髪を梳かしてから口を開く。



「旧沖縄周辺空域にある「ノルニル」については分かるか?」

「のるにる?なんだそりゃ、機兵か?」

「違うよ怜治さん、無理やり空に浮かべた都市、反戦争派の偉いさん達の家。。EEnの変換によって空に保たれてる「新しい世界」だとか」



「ノルニル」とは旧沖縄周辺の空に浮いている民間・軍人両居住区画。

大きさは旧沖縄の島々を囲うような円形。

土星の輪のような形で空を浮き、防衛用武装を搭載しているとの事だ。

なお、そのノルニルに住める民間人は一部であり、殆どの人間は地上で戦いに巻き込まれているという現状だ。



「そ、ノルニルは国を捨てた道楽貴族やら裏切り者共の宗教居住区だ。」

「・・・道楽貴族や裏切り者ってなんだよ?」

「ああ、軍を抜けて逃げた大将やら、反戦争派なんて言ってる政治家やら、「理想主義者(イデアリスト)」が住んでるんだ。」

「それも「元敵軍と一緒に」ですよね」



黙って頷く三浦飛鳥。

そう、ノルニルは現在、どこの国の所属でもない。

「全ての国の上流階級持ちの要塞」、というのが正しいだろう。

どこの国であれ、「反戦主義」・「ある程度の階級」・「平和思想」、この3つを持っていれば入る事を許可されるらしい。

尤も、浮いている都市に「どうやって入るか」、それが地上で戦ってる者達の永遠の謎になっているのだが。



「んで?そのノルニルとやらとどう関係が・・・」

「・・・アンタ、マジでニブいんだな。ユウ少佐が言ってた通りだぜ」



溜息を吐き、頭を抑える飛鳥。

忠司も目を合わせないよう、下を見ている。



「簡単だよ、ノルニルはどうやって浮いてる?」

「・・・確かに、永遠に浮遊するのにはムリがあるよな」

「ここでご都合なエネルギー「EEn」、エレメントエネルギーだ。EEnは力の加え方次第ではどんな元素・素子・粒子にでも成る」

「まさかヘリウムなんて事は・・・」

「大正解だ。」



ノルニルは円形、ではあるが、円周にEEnを変換する装置を置き、永遠にヘリウムを生み出しているらしい。

大量のヘリウムと「サブブースター」による姿勢制御で保たれているとの事だ。



「つまり「EEnを使い巨大空中戦艦を作る」これで完璧・・・だったんだけどなアンタ等んとこでパーツ泥棒が来ただろ?」

「・・・まさか」

「・・・そのまさかだよ一等兵クン。あれが「戦艦のエンジン」だったんだ。」

「裏切り・・・ってことはノルニルの奴等じゃ・・・」

虎神(トラ)の奴等が知ってたって事はもう誰にでも知られてたさ。早かれ遅かれ、アレを盗まれるのは確定して・・・いってえ!!」



1メートルほどだろうか、先程までヘラヘラと話していた飛鳥の体が吹き飛ぶ。

その飛鳥の居た辺りには、「拳」

とても大きな「拳」だ。

腕伝いにその拳の主をゆっくりと見ると、そこには髪を腰ほどまで伸ばした茶髪の巨漢が立っていた。



「何すんだ・・・よ・・・っと!」



腕をバネに吹き飛ばされた辺りから立ち上がる飛鳥。

普通に話せている辺り、慣れているようだ。



「・・・冗談でも敗戦、敗北の話を俺の居る付近で出すな。」

「へいへーい、ニールの旦那は絶望的な戦いでも勝ちたがる理想主義者(イデアリスト)だからなー」

「・・・もう一発、次は本気で飛ばしてやろうか、小僧(ガキ)



無精髭と、強面のせいか、とても危険な人間と見える。

このニールという男に、二人は恐怖感を抱いていた。



「・・・バカな小僧(ガキ)が妙な事を口走ったせいでつい腕が動いてしまった。俺はヴェルニール・ド・アイファンズ。階級は・・・言わんほうがいいな」

「ど、どうも・・・石田忠司・・・一等兵です。」

「き、き、霧島怜治、ごごご、伍長・・・です。」

「・・・怖いか?」

「そ、そんな!」

「・・・ふむ・・・相当な怯え様だ。すまないな、怖がらせて。」



手を額にあて、目を瞑り、首を横に振るヴェルニール。

二人は顔を見合わせた後、頷く。



「・・・俺はただ「敗北(まけ)」が嫌いだ。どんなに小さくても、だ。」

「はぁ・・・」

「この小僧(ガキ)は度々同じ事を繰り返す。「アレが原因で負けた」「もうダメだ」など・・・」

「アンタが負けに無頓着すぎんだよ旦那。」

「少し眠るか?それとも調理されるか?(チキン)



再度飛鳥に詰め寄り、首根っこを掴む。

両手を挙げ、降参を示す飛鳥。



「・・・まぁ、何だ・・・アンタの階級は知らないけどよ、とにかく「勝つ事」だけを考えてりゃいいんだろ」

「その通りだ。君達は良い目をしている。」



二人の表情を見て、無精髭を弄りながら笑みを浮かべる。



「・・・鳥の中でも(チキン)ではなく猛禽(ラプター)か。特に一等兵。」

「と、鳥好きなんですか・・・」

「あぁ!鳥はいい・・・何せ癒される。」



突然悟りを開いたかの如く、目を瞑り、腕を組み、語り出す。

その表情はとても楽しそうだ。



「空を飛ぶ姿は自由。鳴き(うた)は腐りきった我等追放者達を癒す。猛禽(ラプター)ならば我々が如く、相手を狩りながらも鳴き(うた)を奏でる。」

(な、なんかとんでもない人に絡まれたんじゃ・・)

「鳥・・・か、数年見てねえな・・・」

「・・・ほう、埠頭では見れないのか・・・」



とても残念そうな顔をし、頭を抑える。

飛鳥は溜息を吐き、忠司に限っては冷や汗をかいている。

怜治は何やら、共感する所があるらしく、壁に寄りかかり、余裕を持って話をしている。



「次の休暇、いや・・・警備任務にでも都市で存分に感じるが良い。」

「・・・都市?」

「・・・そうか、都市もまだ教わっていなかったか・・・」

「え、えっとこの基地の後ろ側にある・・・」

「そう、その通りだ。」



この基地の後ろ側には大戦前の様な都市が残されている。

尤も、廃墟を建て直し作られた都市だが。

四方を20m以上の壁を2枚建て戦争から遮り、内側では人が大戦前のような暮らしをしている。

自然もあれば、今の技術も共存している。



「警備任務に出されれば嫌でも行く事になる。覚えておくといい・・・」

「了解した、ヴェルニール・・・階級は・・・」

「・・・階級など言わなくて良いだろう。それと俺はニールで良い。」

「OK、ニール。楽しみだ。」

「・・・それと一等兵」

「は、はい!?」

「・・・君は仲間を信じる事を忘れるな。・・・奴に何を言われようとも、な。それが生き残り、勝つ最善策だ。」



そう小声で肩を叩き、話すと手を挙げ、去っていく。

ユウや飛鳥より、話だけならばまともな人間のようだ。

・・・暴力さえ無ければ。



「・・・あー・・・殺されるかと思った。相変わらずニールの旦那は暴力・暴力・暴力の嵐だ。」

「・・・それはアンタが嫌いなワードを言っているからじゃないのか?」

「そうだけどな」



かなりのスピードで床へと叩きつけ、擦られたらしく、肩を回しながら話す飛鳥。

骨が折れなかった辺り、力のコントロールが出来ているようだ。

だがその肩を回し、整えている飛鳥を思い切り突き飛ばす男が現れる。

ユウ・ベルモント・宮野だ。



「一等兵、伍長、機体の最終整備が終わった。明日一等兵は早朝の任務だ。伍長は知らん。確認しろ。」

「早いですね」

「・・・フン、俺は天才だ。覚えておくがいい。」

「・・・黙ってりゃイケメンなんですけどねー」

「だよな・・・」



怜治と飛鳥が隣で小馬鹿にしたような発言をする。

それに対し、睨みを効かし、姿勢を正させる。



「・・・飛鳥伍長、ノルニルへの自爆特攻の任が貴様に来た場合、爆薬を2倍に詰めて真っ先に送り込むと思え」

「・・・ヒューッ・・・おっかねえ」

「付いて来い、怜治伍長、忠司一等兵。」



二人を後ろに連れ、歩き出す。

飛鳥はその後ろからバカにした表情で中指を立てている。

が、その瞬間、頭に水鉄砲が直撃する。早撃ちだ。

一体何を考えているか本当に分からない少佐だ。



「・・・何で水鉄砲なんて持ってるんだよ・・・」



髪を整えながら、唖然としつつ飛鳥は呟いた。

 ドッグ、そこには見慣れた面々が集まっていた。

自分達が入ってきたハンガーには、正宗ではない、別の機体が置かれている。

群雲(ムラクモ)」だ。全員何やら腕の幅、長さなどが違っている。



「・・・何故居る、デュンヴァルト少尉。」

「別にー?居ても悪くないでしょー?」



睨みながら言うユウに対し、バカにした表情でリアは答える。

不機嫌そうなユウの顔が更に不機嫌そうになった。



「・・・まぁいい。まず貴様、霧島怜奈一等兵。」

「はい!」

「・・・機体背部のパラシュートパック下、武装ラックに迫撃砲と短機関銃を装備させた、支援部隊寄りの兵装で仕上げた。腕部を見ろ。」



怜奈の群雲の腕部には、何かが二つ折りした紙のように折りたたまれている。

その何かは、紙のように畳まれているが、かなりの厚さだ。



「緊急展開用防盾だ。様々な武装に対応出来る様、少々幅を広げた銃眼、キャタピラを取り付けた。」

「ありがとうございます!宮野少佐!」

「・・・フン。次、ムカつく貴様だ。」

「あぁ!?」



怜治は怒りながら答える。

ユウは煽りに成功し、ご満悦のようだ。



「・・・腕甲一体型榴弾砲(ガントレットランチャー)を両腕に搭載、引き金は片手で引け、片方は予備だ。」



腕の横にグリップの付いた大きな筒が付いている。

これが腕に付けられたグレネードランチャーらしい。

外側に付けられている為、構えるのも大変で、撃ち難そうだ。



「・・・お、おい・・・戦争に私情を・・・」

「持ち込んでなどいない。腕部のグレネードランチャーは回転が効く、つまり、回転させ、内側へと榴弾砲自体を向ける。」

「・・・なるほど、ただ、それだけか?」

「未完だ。武装を腕部一体化で取り付けるだけで一苦労だ。貴様は空挺で武器をキャッチできるほど器用ではなさそうだからな。」

「未完ってオイ・・・」

「・・・「まだ」貴様には機兵を用いた任務は言い渡されていない。怜奈一等兵も、だ。」

「・・・そ、そうか、安心した。」



安心と同時に壁に手を着き、ため息を吐く怜治。

未完のまま出撃させられれば戦死は確定だっただろう。



「そして忠司一等兵。貴様のは急ぎで完成させた。」

「あ、ありがとうございます。」

「まず見るのは背部だ。何も装着していない。」

「オイ!」



思わず怜治が声を張り上げる。



「・・・黙っていろ。理由は単純だ。貴様はブースターを使わなければ、さほど武装にも拘りが無いだろう。・・・データが少ないというのもあるが。」

「そうですね。」

「ただブースターを空挺用に2基搭載だ。そして次に着目するのは腕部。と脚部・・・見覚えはあるだろう?」



少しだけ、腕と手の間に隙間がある。脚にも足首と足の間に。

その隙間から覗くのはスプリングやシャフト、様々な機械。

「衝撃発生間接」だ。



「衝撃発生間接を搭載し、今まで通り、動けるはずだ。」

「・・・そしてその足首の上、太股辺りに何か、コンテナ・・・?いや・・・」

拳銃嚢(ホルスター)だ。」



拳銃を収納する為のホルスター、ではなく四角い長方形をしている。

拳銃を収納するだけではなさそうだ。



「薄緑が扱っていたあの拳銃剣、「弐式拳銃剣」を両方に1丁ずつ、そして予備マガジンを3本ずつ収納している。」

「拳銃剣・・・E・・・なんとかで振動が・・・どうの、でしたっけ」

「EEnだ。EEnによる振動で敵機の装甲を剝げ。その為の剣だ。」

「どうも」

「・・・他は・・・ああ、コックピットは少々改善をした為、狭くなってしまった。」

「・・・元は正宗・・・なんですよね」

「本来、全体的に取り替えるはずだが、貴様は操縦に慣れていない節が幾つか見当たる。その為正宗から丸々移植・・・しようと思ったが。」



外側の見た目は既に正宗の原型があまり無い。

完全新規ではなく一般的な群雲の装甲に取り替えられている。



「・・・無茶をする近接戦闘が多いように見受けられる。故、装甲を厚くする為、最大限、コックピットを詰めた。」

「なるほど。」

「後はコンテナからの武器供給、拠点からの供給によって長銃や機関銃を使え。」

「了解しました、ありがとうございます」

「・・・貴様は早い、さっさと休んでおけ。死なれてデータ採集出来ないのが一番俺にとって腹の立つ事だからな。」



白衣のポケットに手を突っ込み、去っていく。

その去り際、リアを睨む。

何か、あったのだろうか。

リアは笑顔で見送っていくが、それを見てユウは舌打をする。



「感じ悪ぅ」

「・・・リア、何か怒らせるような事した?」

「うーん?・・・したようなしてないような。」

「まぁいいんじゃねえの、あのメガネの言う事・・・冷たっ!?」



かなりの距離からまた水鉄砲だ。

鼻で笑うと、今度こそユウは去っていった



「・・・なぁ怜奈。」

「何?」

「・・・あの少佐さんよ、銃の扱い、上手いんじゃないか?何か経歴とか知らないか?」

「・・・経歴、ねぇ・・・情報が少なすぎて経歴なんて知ってる人少ないんじゃない?」

「そうか、ただ「確実に相手の額に直撃させる」センスだけはあるみたいだ。」



そう言ってから、鍵を片手に自室のある棟へと向かっていく

各自、自由に解散する。

が、リアだけはそこに残っていた。

誰も居ないドッグに・・・



「・・・むかつく、私とあの人は関係無いのに、ね・・・シュヴァルツ」

「機兵に対してお喋りとは随分と「アイツ同様」、ネジが外れているようだな、デュンヴァルト。」



後ろで柱に寄りかかってユウがそう声を掛ける。

それに対し、ホルスターに手を掛けるリア。



「・・・どうした、撃てばいいだろう?」

「・・・撃てば裏切り者確定、でしょ?そうでもなくても疑惑は掛けられてるけど。」



素早く拳銃を引き抜く。

自らの頭に拳銃を突きつけるリア。

その拳銃を突きつけた手を、ユウは一瞬の内の蹴り、銃を宙に舞わせた。



「・・・ハッ!」

「っ・・・」

「・・・情報の持ち逃げは・・・許さん。」



落ちた拳銃に近づき、踏みつける。

リアは蹴られた手を押さえている。



「何で・・・私が死ねば満足でしょ?アンタは・・・!」

「満足?・・・まだ貴様を断定した訳ではない。確定を持てず死なれるのは胸糞悪い。」

「・・・兄さん、いや・・・カルド・デュンヴァルトは私と何の関係も無い。奴は・・・」

「異常者だ。・・・俺と同じ程のな。」

「私は・・・」

「・・・カルドを殺す、だろう?」

「・・・」



無言で頷く。

それに対し、ユウは鼻で笑う。



「貴様、覚悟だけは立派なようだな。・・・だが覚えておけ」



表情をいつもより、強張らせ、睨みつける。



「・・・カルドの真似をするようであれば、貴様を殺す。確信が持てた瞬間にでも、な」

「そう・・・」

「ではな・・・」

「冷たっ・・・」



またもや額に水鉄砲を直撃させる。

後ろを向き、去り際に相手を見ず直撃させるのは至難の技だ。



「よくカルドの奴にはやった物だ・・・」

「・・・ふーん。それで?」

「・・・貴様は反応が面白く無いな。つまらん。」



一瞬だけ笑みを浮かべると、今度こそ去っていく。

去ったのを確認すると、リアは拳銃を拾う。



「・・・アイツと兄さんは一体どんな関係だったんだろうね、シュヴァルツ。」



シュヴァルツを見つめ、またもや呟く。



「・・・女の子の手を蹴るなんて有り得ないよね、あのメガネ。」



そう言って、リアもまた自室のある棟へ向かい、去っていく。

ドッグにはもう、誰も居ない。

 翌日、ドッグ。早朝にかなりの人数が集合している。

中央で指示を出しているのは、あのニールだ。



「・・・おはようさん」

「おはようございます」

「・・・ふぁー・・・おはよ」

「あれ、俺しか任務じゃ・・・」



ゆっくりと欠伸をしながらリアが近づいてくる。

そして気が付けば壁に凭れ掛かって寝ている。



「・・・上層部の決定で君の友達にも出てもらう事になった。何より・・・シュヴァルツの性能を以ってすれば戦場を引っ掻き回す事など容易だろう・・・し・・・な?」



シュヴァルツとリアを交互に見る。

が、段々と言葉に詰まる。

そのシュヴァルツを動かす者が寝ているのだから。



「・・・忠司一等兵」

「はい?」

「・・・彼女は・・・本当に大丈夫なのか?俺はとても心配だ。操縦しながら寝ていたら簡単にお陀仏だ。」



溜息を吐き、ニールは目つきを変える。



「・・・正直に言おう、君達が戦ってきた戦線よりも、とても厳しい場所だ。一瞬の油断、一瞬の余裕、一瞬の緩み、それによって殺される。俺は何人も見てきた。死んでいった者達を・・・」

「・・・リアは・・・大丈夫ですよ、きっと。」

「根拠は?」

「・・・特に無いけど、俺よりは戦争慣れしてそうだから。」

「・・・」



頭を抱えながら溜息を吐く。

作戦開始時間まで全員、自分の機体を弄ったり、雑談をしたりと自由だ。



「・・・現地にキャンプがあるからこの様子だが、他の戦線では・・・」

「ふぁあ・・・あ・・・よく寝たっ・・・」

「おはよう」

「おはよ、忠司」



すぐに目を覚ますと目の前に居たニールを見て飛びのく



「きょ、巨人だー!」

「・・・」

「・・・」

「ヴェルニール・ド・アイファンズ。この軍の軍人だ。国籍はイギリス。」

「へぇー!私リア・デュンヴァルト!宜しくね!」

(・・・怖くないのかな・・・)

「ドイツ軍人か、ではさぞ戦果を挙げてくれるのだろうな、はっはっは。」



高い身長のニールが、低身長のリアを撫でる。

遠目で見れば父と娘ほどの体格さだ。

もしくは、バスケットボールの選手と、そのファン。



「そういえば、ニールさんの機体って・・・?」

「あれだ。」



ニールが指差した機体は、胴体はオラトリオ、だが脚部は群雲、腕部はシュヴァルツと色々な物が混ざっていた。

カラーリングは黒。肩は特殊で、何かを収納しているようだ。



Dullohan(デュラハン)。ユウに頼み、ムリを言って作ってもらった特注製だ。」

「・・・あの、足の裏のアレは?」

「CóisteBodhar(コシュタバワー)ユニットだ。少しの距離であれば、ホバーのような移動を行える。ただ、燃費が悪い。」

「・・・肩、開きますよね」

「・・・それは実戦で見るが良い。尤も、使う状況など無いだろうがな」



それだけ自信を持って言い切る、という事はかなりの状況でなければ使わない武装なのだろう

基本は両腰に縮めてある伸縮自在の槍を使うのだろう。



「さぁ、準備せよ・・・」



各自、準備を済ませ、機兵のコックピットへと乗り込むと、正面には戦闘機が見える。



「まさか」



そのまさか、だろう。



「聞こえるか、忠司一等兵」

「あ、はい」



唖然としているとニールからの通信だ



「・・・まず教えておく。空挺についてだ。とりあえずうつ伏せでその場に倒れろ」

「・・・おわっ・・・と、はい、とりあえず・・・苦しいです」

「最初はそんなもんだ。次に姿勢を正すんだ。この状態での操作が難しい・・・が」

「余裕ですよ!」

「・・・よし、ではバック走行の戦闘機に俺達の機体が戦闘機に回収される。」

「あ、あの、動いてません?」



忠司の問い通りだ。

何やら重力が掛かっている。



「既に飛び始めているようだな。メインカメラを入れてみろ。」

「うわぁ・・・すっげぇ!」



メインモニターに映し出されたのは、陸と海。荒廃しているとはいえ、空から全貌出来るのは素晴らしい。

青と茶色、その上に少しの緑が彩られた境界線。

それをかなりのスピードで過ぎていく。



「あの、今列島突っ切りましたよね」

「ああ」

「・・・どこへ?」

「・・・イタリアだ。攻めの姿勢は初めてか?」

「はい」

「・・・では、到着時、ブリーフィングをよく聞いておくが良い。」



ずっと飛び続け、蒼と茶の境界線、蒼と緑の境界線をどんどん過ぎていく。

空飛ぶ鉄塊は何時まで飛び続けるのだろうか。

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