Depths15~運命神-Blaze Serpentes-~
ノルニルへと強襲を仕掛ける箱舟。
その箱舟を追い、箱舟とノルニルを止めるべく動く一角鯨
突入した先に、両陣営が見たモノとは。
ノルニル付近・空域。箱舟が先端に巨大な赤い半透明な球体を浮かべながら、「球より巨大な鉄の塊」へと向かう。
その巨大な鉄の塊こそノルニル。地上から隔離され、何一つ不自由しない、争いだらけの地上とはまた別の世界。
赦された者のみが入れる、楽園。
その楽園へと箱舟は近づいていく
「・・・熱波砲の収束は?」
箱舟のリーダー格である、艦長がそう尋ねる。
「フルチャージ完了です。いつでも放てます。」
「直撃させるぞ、撃て!」
箱舟の先端に浮かべられていた赤い球体、その球体は「光」へと変わる。
真っ直ぐに放たれる、箱舟よりも大きな赤い光の矢。
その光の矢は楽園へと「直撃」した。
箱舟や熱波砲から放たれた赤い光の矢よりも巨大な的であるノルニルに当てる事など軍人でなくても容易い。
当たって当然、だが、船内の人間は、皆、唖然としていた。
「・・・どういう事だ。」
「艦長!右ウィング損傷!左ウィングに高負荷!!全防衛機能停止!危険な状態です!このままではノルニルに・・・」
「・・・何が起きている。」
熱波砲を直撃させ、ノルニルを貫いたと確信していた者達。
光の矢は命中した。だが、ノルニルには傷一つ無く、逆に箱舟に損傷が与えられた。
ノルニルの防衛機能が起動した訳でもなければ、熱波砲の暴発でもない。
「運命神達には・・・逆らえないというのか・・・」
「艦長、現在ノルニルにはEEn反応が有りません!メインブースターを損傷させられる前に砲塔ごと特攻すれば・・・」
「まだ、抗えるようだな。」
左手で敬礼をすると、その左手を真っ直ぐに突き出す。
同時に周囲の軍人が全員で左手で敬礼をする。
左手の敬礼、それは軍人にとって、「死」や「殉職者への敬」を意味する。
つまり、「特攻への肯定」であった。
「・・・期は逃すな!これが最後の戦いだ。一人でも生き残れば・・・我々が「礎」を手に出来る。」
「艦内の全員、耐衝撃体制を!あと10分で箱舟はノルニルへと突入します!」
その場に居る全員が座りなおし、シートベルトを二重に掛ける。
操縦席に座っている者は手前にあるレバーを引き、エンジンを最大出力にし、もう片方の席の者は全動力をエンジンに回す。
「最終特攻だ。一気に突き刺せ!この流血しか生まない運命を裂く最後の剣として、箱舟を使い、ノルニルを制圧する!」
「了解!」
「死を恐れる者、思想に迷いのある者は居るか!?」
そう大声で問いかける艦長。
誰も、それに対し、異論は唱えない。
軍帽を被りなおし、頷き、再度、左手で敬礼をする。
「・・・ノルニルの攻撃機能が落ちた今、世界の再構築は出来ない、ならば我々がノルニルを奪い取り、追放者の為の楽園を作り出すぞ!」
一方、一角鯨もノルニルとそれに向かう箱舟を追っていた。
シャイナは目を疑う。熱波砲の発射と、その無効化を。
一瞬ではあるが、離れた場所から見るとノルニルが輝いていた。
その直撃の瞬間だ。
同時にノルニルから蒼い光の柱が海へと落ちていく。
EEnの粒子だ。
「・・・おかしいわね・・・」
「どうかしました?」
「・・・あの距離ならば、箱舟でさえ溶解させるEEn熱波が発生しているはず。」
「・・・確かに無いな。カルド、貴様は向こうに居た時に何かを聞いたか?」
「・・・いや、俺達にも「ノルニルには熱波による防衛機能がある、その為に熱波砲で相殺し引き剥がす」としか・・・」
腕にしがみ付いているティエと目を合わせるカルド。
ティエも首を縦に振り、頷く。
「シャイナ上官殿、あの熱波砲は最大出力、いえ・・・本来設定されている最大出力を越えた、「過大出力」で放った放出です。」
「・・・何ですって?・・・では・・・あの熱波砲を無効化したという事は・・・」
「EEn自体を無効化したようです。EEnは万能素子。つまり何にでも変換できます。そしてノルニルであれば・・・」
明は考察を始め、結果を伝える。
その結果は「ノルニルは直撃の瞬間に外部のEEnを全て吸収する光を放ち、吸収したEEnを真下に存在する"礎"へと流した。」
当然「EEnを吸収する光はノルニルのEEn熱波バリアも吸収し、一時的にノルニルは無防備な状態へと陥っている」と
「・・・では彼奴らにとって今が攻め時、という訳・・・か。通りであの大型艦船が出力最大で発進している訳だ。」
銀輔は冷静に箱舟のブースターを見つめる。
段々と炎の大きさを増し、一気に突っ込もうとしているのを確信した。
「光の余韻があるとすれば、我々の機兵も大体の機能が抑えられるのではないか?」
「・・・そうですね、ヴェルニール少将。酒呑火砲のEEn焼夷弾、白面九剣の射出機構、そして衝撃発生間接。更に元箱舟の機体のEEn変換機構。」
大体の武装は封じられ、箱舟で作られた機体、リンドヴルムやファフニールはほぼ全ての機能にEEnを使っている。
移動や攻撃、増してや動力、操縦も。
大幅な戦力の減衰だ。
「・・・シャイナ上官、俺に、考えがあります。」
「何かしら、カルド。」
「回収したカタパルトを使い、箱舟とノルニルへ強襲を仕掛けましょう。武装が不十分であれ、状況は同じです。」
出発前に回収、積載したカタパルト。
本来、箱舟へと積載されるはずだった強襲用高速カタパルト。
それを使い一気に距離を詰め、戦力の落ちた箱舟とノルニルを同時に叩くという作戦だ。
「その案は危険よ、もし・・・防衛機構が再起動したら・・・」
「重々承知です。行くのは俺でいいんです。これが・・・償いです。」
「でも貴方の機体はEEnが動力では・・・?」
「・・・その件については改善済みだ、なぁ、忠司。」
「ですね、ユウ少佐。」
そこに手を真っ黒に染め、軍服を腰に巻いた忠司が現れる。
手には毎回出撃時にカルドが被っていたコードが付いたヘルメット。
「・・・操縦桿での操縦は出来るんだろうな?」
「・・・当たり前だ!俺を馬鹿にしないでくれ、いくら脳波とEEnによる操縦に頼っていたとはいえ、忘れてはいない!」
「なら良い。ククク・・・沸点が元に戻ったな。」
「・・・この特攻任務にはもう1人、就けますよね」
「ええ、カタパルトは二基よ。」
カルドはしがみ付いていたティエの手を握る。
そしてもう片手で頭を撫でる。
「俺とティエで、いいですよね。」
「そうね・・・」
「待って!」
「リア?どうしたんだ。」
「・・・兄さんは兎も角、この子は操縦桿での操縦は?」
「・・・無いな。」
「この子を殺すつもりでいるの?」
「・・・悪いけど俺とティエ、そして箱舟の、償いだ。」
「兄さん!」
思い切り頬を叩く。
「・・・勝手すぎるよ?死んで償おうだなんて。・・・それに、道連れで逃げようなんて、させないし?」
「・・・じゃあ誰がやるっていうんだ!?」
「私がやれば問題は無いね。」
「・・・リア・・・お前は・・・死ぬ気か?」
「死ぬ気は毛頭ありませーん。見張りと、EEnに頼らない戦い方なら、私が一番長けてると思うし。」
笑いながらドッグへと歩いていくリア。
頬を摩りながら溜息を吐くカルド。
「・・・では、貴方達二人に任せます。カルド、準備を。」
「了解!」
「・・・そしてユウ・明・怜奈・飛鳥・大河、今呼んだ方以外は出撃準備をお願いします。私のサポートに回ってください。」
通信で全員へと呼びかける。
呼ばれた者達はシャイナのサポートに、他の兵士達は皆、機兵へと乗り、出撃準備を行う。
「・・・で、なんすか?」
「・・・私だけではあの巨大要塞の全貌を確認できないのよ。だから複数のモニターで確認をする事にしたわ。」
「なるほどな、俺の宗近は零を組み込んでいるから使えない、そして飛鳥伍長は更に使えない。」
「どういう事だ!?」
「・・・ククク・・・そのままだ。」
「馬鹿を言っている場合ではないと思います。・・・機兵と同期したモニターを見てください。」
二人の喧嘩を纏める怜奈。
モニターには複数のウィンドウ。
忠司・怜治・ニール・銀輔・ティエ、それぞれの機兵のカメラと同期された画面。
その横のモニターにはカルドとリアの機兵、そのカメラには青空が映っていた。
「・・・待て、何故あの小娘が出撃準備をしている?あれはまだ未調整のEEn機のはずだ。」
「もし、もしもです。カルドとリアが突入に成功し、完全に停止させる事が出来た場合、全ての戦力を用いた総力戦となります。」
「・・・では俺も出れるのではないか・・・?」
「・・・勿論、その時には最終決戦の鳳として出撃をお願いします。その為の「紅白色」でしょう?」
メガネを上下に動かしながら今までに無い笑いを浮かべるユウ。
「一本取られた」という表情だ。
「・・・いいだろう。俺が決めてやる。・・・だが、あれを見てみろ。」
「箱舟が・・・!?」
箱舟はノルニルの外郭を突き破り、衝突していた。
その衝突し、破壊した壁から数機の量産型機兵が入っていく。
ノルニルの内部では、内部に侵入できた者達が銃を構え、周囲を見回していた。
「・・・何も無いな。」
艦長は機兵から飛び降りると、青白く、薄暗い中で光る球体に触れる。
その球体は人間と同サイズ、もしくはそれ以上の大きさだった。
「これは・・・!?」
「どうかなさいました・・・か・・・?」
その球体はカプセルだ。
「冷凍睡眠」用の、だ。
それに触れた瞬間、破壊したはずの外郭が瞬時に修復され、箱舟の船首ごと包み込む。
「何が起きているというのだ?」
「・・・分かりません、ただ、分かるのは「ここが隔離されている」という事です。」
再度機兵に乗り、操縦桿を握る。
前進しようとするが、全く動かない。
まるで「足が凍りついた」ように。
「・・・仕方ない、歩きで先へ進むしかなさそうだ・・・」
「動くな。」
ハッチを開けた途端、銃弾が頭部の真横を通る。
その銃弾が飛んできた方向を見れば、見捨てた部下であるカルドが銃を向けていた。
同時に突入した兵士は自動小銃を持ったリアに拘束されている。
「・・・何故お前が・・・」
「・・・艦長、いや、箱舟の荒波羽季信、アンタの考えも終わりだ。」
「私を捕まえたとしても、箱舟にはまだ同志が居る。」
「さて、どうかな?持つかなー?内部と外部は完全に遮断されちゃってるけど?」
「・・・」
両手を挙げ、降参を示す。
「・・・それでいい。」
「ぐっ!」
蹴りを入れると、もう片手にテーザー銃を持ち、ワイヤーを巻き付ける。
「ワイヤー式テーザー銃」、対象にワイヤーを巻きつけ、任意のタイミングで電流を流す武器だ。
「・・・丁度いい、お前達に先を歩いてもらおう。」
「前に進むのはお前だ。」
「そうだねー、先に進まないと、みーんなまとめて・・・肉塊だよ?」
少しずつ、歩き出す艦長こと荒波羽季信。
薄暗い中、カプセルの明かりだけが不気味に光る。
何も入っていないカプセルには番号が記されている。
冷凍睡眠させられるはずだった者の番号だろうか。
その空のカプセルが何百と横に並んでいる。
カプセルだらけの内部を進んでいくと、螺旋階段が見える。
「・・・歩けば歩くほど変わった建物だ。楽園、とは言い難いな。」
「・・・・・・楽園、か・・・」
「ちょ、ちょっと・・・これ・・・」
リアが指差したもの
それは「人が入ったカプセル」。
割り振られた番号は0001
人が入っているカプセルは文字が緑色に光っているようだ。
その奥のカプセルも文字が浮かび上がっている。
「0001、恐らく製作者・・・なっ・・・この男は・・・」
「誰だ?」
「ディン・ベルモント・・・「機兵」を作った男であり、大戦の始まりと同時に行方を眩ました男だ。」
機兵を最初に作り、機兵により世界を統べようとしていた一番最初の人間。
ユウ・ベルモント・宮野の父親であり、元軍人。
「・・・悪いが、このカプセルを開けてもらえるか?」
「何故だ。」
「この者がノルニルについて知っている事があるかもしれんだろう?」
「・・・どう開けるんだ?」
「せいっ」
「お、おい!?リア!?」
リアはナイフを抜くと、そのカプセルを繋いでいたコードを叩き斬る。
カプセルに浮かび上がっていた緑色の文字は赤く点滅した後、前の階のカプセルのように蒼白く光るだけになってしまう。
中に入っていた白髪に無精髭の男、ディン・ベルモンドは目を開き、カプセルの蓋を開け、立ち上がる。
「ここは、どこだ?君達は?」
「自分は新日本軍の連合である、ドイツ軍の兵士。・・・ディン・ベルモンド工兵だな?」
「・・・そうだが、私は・・・機兵の技術を息子に盗まれた後、軍に拘束され、電流を・・・」
「・・・ノルニルとは無関係のようだな、進むか。」
「待つんだ、この設計、私には見覚えがある。」
ディン・ベルモンドは歩き出す。
そして、0005と文字が浮かび上がっているカプセルに触れる。
「・・・アガス・・・」
「・・・この、男の人の名前?」
「・・・正しい名は私も知らないのだがね、この建物の設計を考えた男。アガス。」
コードを引き抜くと、蓋を開くディン。
目を開くアガスと呼ばれた男。
その男は、長い黒髪を揺らしながら立ち上がる。
「・・・・・・そうか、完成したか。」
「貴様か。」
「お、おい君!」
拳銃を構えるカルド。
アガスの目の前、10cmも無い距離で銃口を突きつける。
「・・・何だ?君は・・・僕は・・・」
「アガス、か?」
「・・・そう、アガス。この運命神の祭壇を作る事を指揮して来たるべき時を待ち眠っていた。」
「運命神の祭壇?」
「・・・そう。この建物は運命神を作り出す為に浮かせた「工場」のような物。」
カルド達3人には何を言っているか分からなかった。
だが、ディンだけは何かを理解している表情だ。
ディンは口を開く。
「・・・「ウルズ」「スクルド」「ヴェルザンディ」・・・か」
「そう、絶対的な運命。ノアの箱舟の完成と同時に目覚める。」
「ノアの箱舟・・・」
「今、この建物は、箱舟と化した。鍵である舟と同化し。救いを望んだ者達を終末から守る。」
そう言って両手を広げ、起動しているカプセルを見る。
その瞬間だった。
アガスの頭を銃弾が貫く。
「・・・生憎、此方はコイツをとめることで忙しいんだ。」
「止める?争いたいのか?」
血は流れていないが、頭を抑え、地へと倒れるアガス。
「これが存在し続ける限り、地上では争いが続く。この真下に存在するモノを巡ってな。」
「・・・・・・・・・全てを作り出す・・・デャウス・・・か」
「それが"礎"の本当の名前か。」
「・・・ならば・・・触れさせてあげよう・・・僕が。そして・・・君達に告げる、0109の番号の冷凍睡眠者を見てくるといい・・・それが僕の最後の言葉だ。」
掠れた声でそう告げると、ぴくりとも動かなくなるアガス。
それとほぼ同時にノルニルが揺れ始める。
「何だ!?」
「・・・恐らく、降下しているのだろう。」
「・・・えっと、つまり・・・」
「水没、か。」
信に巻きつけたワイヤーを開放する。
そして銃を収める。
「・・・0109、見に行ってくるといい。俺達は機兵に戻る。」
「・・・・・・ああ」
「行くぞ、リア。」
「うん。」
二人が去った後、信はディンと共にアガスに告げられた番号、「0109」のカプセルへと向かう。
相当奥だ。
そこで信が見た物は、ずっと追いつづけていた人間だ。
皇。名前さえ公の場に明かされず、消息を絶っていた者。
新日本軍を指揮し続けていたと思われていた長い髭の老人。
「どうしたんだ、君?」
「・・・こんな物・・・!」
拳銃をホルスターから抜き、カプセルを撃つ。
だが、全くカプセルには効いていない。
「やめるんだ!君は人を殺したいのか!?」
「その通りだ!この男は・・・国を動かしていると思わせておき、争いに身を投じた国を見放し、捨てた者だ!」
「・・・ならば話し合いをするのがいいだろう。」
コードを抜き、蓋を開く。
先ほどまでの手順であれば、目を開くはずだ。
だが、皇は目を開かない。
「・・・どういう事だ。」
「・・・死んでいるな・・・他のカプセルも、すべて。」
段々と奥のカプセルも緑色の光が消え、蒼白い光さえ失う。
その時だった。
奥から沢山の足音がする。
「何だというんだ?」
その足音の正体は人間だ。
武器を持っていない一般人。
だが、それに違和感を覚えるのは全員が同じ「白い服」を身に纏っているという事だ。
「動くな!」
「な、なんだ!?何故蛮人がここに・・・」
「・・・蛮人?」
「構っているヒマはないよ!早いところカプセルに・・・」
「そうだな!」
拳銃を下に下ろし、走っていく者達を見送り、呆然とする。
ほぼ全ての足音が消え、呆然としている信の前に、一人の少年が立ち止まる。
「おじさん、早く逃げないの?」
「・・・逃げる?何故だ?」
「・・・だって、神様が降りてくるんだよ?寝てないと・・・」
「・・・寝る?」
「ん」
少年が指差したのは冷凍睡眠のカプセル。
「・・・君、そのカプセルはもう動いていないよ。」
「えっ。」
「・・・逃げるぞ。」
ディンのカプセルについての一言。
そして少年の手を引き、突き刺さった箱舟まで走る信。
箱舟に辿り着いたはいいが、外には出れない。
機兵は動くようになったが、壁は破壊できていないようだ。
ファフニールとシュヴァルツが壁へと攻撃をしているが、無傷。
頑丈すぎる作りだ。
「・・・ん?」
カルドは信の到着に気づき、手を止める。
「その子どもは誰なんだ?」
「・・・私にも分からん。だが、生き残るべき人間である事に変わりは無い。」
「他に人間は?」
「居たが、私を「蛮人」と扱い話を聞かなかった。そして、棺桶へと入った。」
「棺桶?」
「・・・」
少年に悟られぬよう、目線をカプセルへと移す。
この付近のカプセルはまだ誰も入っていない。
「そうか、では救出を・・・」
「・・・箱舟が動けば別だが・・・」
「動くぞ・・・なァ?」
船首に取り付けられた砲台から声が聞こえる。
コックピットハッチを外したニーズホッグ。アズラだ。
拘束具は焼ききられ、大火傷を負っている。
「アズラ!?」
「・・・よォ、カルド。情けねェ姿だろ?」
「・・・信・・・!」
「待てよォ。」
銃を抜こうとするカルドをアズラは止める。
力なく、ポケットからタバコを一本抜き、咥える。
そしてライターで火を付ける。
「・・・要るか?」
「・・・俺は苦手だって言っていただろ。何度も。」
「ハハハ、そうだったナ・・・さて、艦長さんよォ、よくも俺を拘束して熱波砲の弾にしてくれたな?」
半分壊れたヘルメットから睨みつける。
信は目をそらす。
「ま、今の俺じゃァ・・・復讐も出来ねーし、それに復讐してる場合じゃねェってのも分かる。」
「ならばどうする?」
「・・・カルド、ちょっとコッチに来い。あァ、そうだ。そこの黒い機兵もな。」
ゆっくりと歩き出すファフニールとシュヴァルツ。
熱波砲台の真後ろへと回り、カルドはファフニールから降り、熱波砲に接続されたニーズホッグのコックピットへと登る。
「・・・見てみな。」
「・・・システムは動いている・・・が・・・?どういう事だ。」
「連結してる・・・?」
熱波砲のシステムは箱舟の制御下ではなかった。
表示されているのは箱舟と接続されたノルニル。
つまり、ノルニルと箱舟が一体化し、熱波砲はノルニルのシステム下となっていた。
「サ、どういう事かな。」
「・・・EEnの使用が出来・・・まさか、アズラ!」
アズラのボロボロの軍服の襟を掴む。
その手を力の無い手で掴むと、煙草を落とし、笑みを浮かべる。
「・・・・・・この施設にはとんでもねェ量のEEnがある。その量は無限とも取れるゼ?・・・じゃあそのEEnを吸収して、熱波砲を撃ってみろ。どうなるサ?」
無限に充満するEEn。
周囲のEEnを吸収し、熱へと変換、それを弾として撃ち出す熱波砲・カグツチ。
今の状況であれば、フルチャージで撃つ事も容易だ。
勿論、突入時に無効化されたオーバーチャージで撃つ事も。
「・・・お前の意思に関係なく撃たれた熱波砲は、無効化されたんだぞ?」
「ソレは外側だろ?内側なら分からねェぞ?」
「・・・だけど、それじゃあ・・・アズラ・・・お前は・・・どうなるんだよ・・・」
「・・・さァな。ただ分かるのは、クソ暑いって事だ、ハハハ。」
「笑って言える事か!?そんなボロボロの状態で撃てばお前は・・・」
「・・・その先は言うんじゃねェ、分かってる。」
タバコをもう一本抜きとりながら話を止める。
涙を流すカルドの頬を煤まみれの手で拭う。
涙と煤が混ざり、煤の跡が頬に残る。
「・・・泣くンじゃねェ。そうなるって決まったワケじゃねェ。運が・・・いや。俺が生き延びりゃいい事だ。」
「・・・俺に代われ。」
「・・・バカ言うんじゃねェよ。この機体は俺のだ。テメェに乗せてたまるかってんだ。」
歯を見せながらの作り笑い。
カルドは真面目な表情でヘルメットに手を伸ばす。
が、腕をつかまれる。
力は無かったが、自然とそのつかまれた手を戻してしまう。
「・・・サ、ファフニールに乗れ。今からチャージして壁に穴を開けてやる。」
「・・・・・・分かった。」
「・・・またな。」
「・・・ああ、また。」
カルドが外へと出て、ファフニールへと乗った後、アズラはタバコを吐き出す。
そしてまたもう1本抜きとり、火を付ける。
箱に目をやると、もう空だ。
溜息を吐いてからコックピットハッチを閉め、主電源を入れる。
「・・・「またな」か・・・嘘ついちまったな・・・こんな体じャ、持たないってのにナ。」
周囲のモニターが赤く輝く。
正面モニターに表示される文字もまた赤い。
「System N.O.R.N BlazeCANON/Enable」と表示される。
「・・・マジで、ノルニルの野郎共の物か。だけどナ・・・」
ヘルメットを頭から外し、一本のコードを抜く。
そして、また被る。
すると文字は青色へと変わる。
「System RevolutionShip-NoAhsIronArmyType:S.Hidhaegg Kagutsuchi/Ready」そう表示が変わる。
「・・・ニーズホッグの独立機能・・・そして・・・」
もう一度コードを差す。
「・・・これで、どうだ。」
「O/ChargeMode-Enable Caution!!」という黄色い文字が左右のモニターを埋め尽くす。
「チャージいくゼェ!」
その一言と共に熱波砲のチャージが始まる。
ファフニールとシュヴァルツは箱舟の船体の陰へと隠れる。
信と少年は射線外の奥のフロアへと戻って行く。
突然少年に手を引かれる信。
「ど、どうした!?」
「さっきのおじいさん、置いてきたままだよ!」
「・・・そうだ、助けなければな!」
置き去りにしたディンだ。
ディンを助けに走る信と少年。
その二人にも関わらず、アズラはチャージを続ける。
「・・・熱い・・・熱い・・・クソ・・・ったれ・・・が・・・」
画面の100%という文字にも目もくれず、左右にある肘掛を握り締める。
力無き両手だが、握っている感覚はある。
「・・・まだ、まだだ・・・・・・壁をぶち破るには・・・」
200、300、と増して行く出力。
その出力を見つめながら、煙草を吐き捨てる。
荒い息遣いで手を上に伸ばす。
何も無い、コックピットの中。
頭に過ぎる、箱舟の軍人として過ごした日々。
カルド・ティエ・明と共に戦いながらも、帰投した後、笑いあいながら集まって話をしていた日々。
そして、熱波砲を試験稼動させた時の事。
時間稼ぎとして使われたイェンスの事。
拘束され、意識の無い中で熱波砲のAIとして扱われた事・・・。
今まであった事が過ぎる。
だが、その中には「それ以前の事」が無かった。
「・・・結局、俺は軍人として・・・軍人・・・軍人としての・・・俺が全てだったんだナ。」
力無き唇に少し力を込める。
息も出来そうにないぐらいの暑さの中、声を張り上げる。
「ブチ抜け!」
その一言共に巨大な赤い光が壁を貫く。
この光の一撃により、壁は焼ききられ、巨大な穴が開けられる。
光が収まり、カルド達は脱出する準備をする。
カルドは一度、踏みとどまる。
「アズラ!!!」
「兄さん、戻ってから!また入る事になるんだから!」
「アズラ!アズラ!!!」
半ば強引に連れて行かれるファフニール。
その作られた穴から落下し、パラシュートを開く。
その後、下で止まっていた一角鯨の甲板に着地し、回収される。
二人が去った後、アズラは朦朧とする意識の中、考えていた。
(・・・死ンじまうってどうなんだろうな、俺は殺す側だったから分からねェけど・・・)
考える事しか出来ない、動く気力は残されていなかった。
(・・・・・・どっちにせよ、じきに・・・分かる・・・か・・・カルド、ティエ、明・・・ありがとよ・・・)
そのまま、目を閉じる。
もう、考える事も、目を開くことも出来ない。
箱舟に躍らされていた勇敢な一人の軍人が、息を引き取った。
最後まで、真相には辿り着けず。己の思想を語る事も、友との最後の約束を守る事も出来ず・・・




