第11話
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どんよりとした空にジメジメとした空気。そして威圧感満載の巨大な城を背にあたしたちは歩いていた。
「...大丈夫?」
イリーナはむき出しになった私の脚をまじまじと見ている。脚の外側は若干赤みを帯びていた。
「大丈夫!大丈夫!さっき逃げる時に擦れちゃっただけだからさ!」
そこまで痛くないよとあたしは笑うけど、イリーナは顔をしかめるだけだった。周りには所々に家はあるものの人の気配はない。
話題を変えよう。
「そういえば...もしもあのまま私が閉じ込められてたらどうなってたのかな?」
イリーナはチラッと私の顔を盗み見たあと、長い茶色の髪をかきあげた。少し困ったような横顔だ。
「..."若さ"を取られたのよ。」
「わかさ?」
「そう。」
イリーナははあっ、とため息をつく。
「今この国を治めてる私のお母様は..."美しさ"に執着しているの。自分が美しくなければ気が済まない。元々ものすごく美人だけど、やっぱり人間年をとるでしょ?」
「まあねー。」
「だから国中の若い女性を集めて黒魔術で"若さ"を奪い、自分のものにしてしまうの。」
"若さ"...。
私は記憶が全くなくて、くろまじゅつやらなんやら分からない。
「実際に私はあの場所で何回もそういう人を見てきたわ...若い女の人がすすり泣いてて...その人たちが一回牢屋を出されて戻ってくると別人になってしまってるのよ...しわくちゃで生気がなくて。最初は同じ人だって分からなかったわ。」
「そのあとは...?」
怖さもあったけど自分が歩んでたかもしれない未来を知りたいという好奇心が勝ってしまった。
「分からないわ...。そのあとは一回牢屋に入れられたあと、また出されて...」
それ以上イリーナは答えなかった。あたしもさすがに聞こうとは思わない。ただでさえ気まずい空気が沈黙によりますます重くなる。
あたしのバカやろう。
気まずい空気を振り切ろうと辺りを見回した。本当に家しかない。しかも比べちゃいけないけど、後ろの城に比べたらあまりにもみずほらしい。家の一つ一つもいろんなところに穴が空いてそれを修理した様子もない。
家々に目を移していると人が家と家の間に立っているのが見えた。
それも1人じゃない。誰もいないと思っていたけど建物の影に隠れて分からなかったけど10人以上の人がこちらをじっと見つめている。みんな痩せ細ってげっそりとした雰囲気だ。
イリーナもそれを感じ取ったらしく、風にさらされて冷たくなったあたしの腕をつかんだ。
「...こわい...」
「大丈夫...大丈夫だよイリーナ...」
イリーナに言ったのにその言葉はあたし自身に語りかけていた。痩せ細った人たちはじわじわとこちらへと迫っている。あたしは武器を持ってる。向こうは布を一枚体に羽織ってるだけでなにも無い。そう自分に言い聞かせたものの、何かを訴えかける多くの瞳があたしたちを射止めていることにただ焦るばかりだ。
「...んな...わか...な...」
弱々しく近づいてくる人たちはみんな顔にシワを刻んでいる。唇とシワの境目さえ分からない。このまま立ち尽くしていたら囲まれる。
「イリーナ...!!走るよ...!!」
返事も聞かずあたしはイリーナの腕を掴み突っ走った。風は私の顔に、腕に、脚に、突き刺さってきて痛いけどそれを気にするほど私は余裕がなかった。よく分からない謎の恐怖から逃げることで頭が一杯だった。
あたしの視界から人が消えても、まだ後ろから追いかけてくるような気がしてひたすら走り続けた。ただ土と枯れ木しかない場所はどこまで走ったかという距離感を狂わせた...。
「...」
「はあっ、はあっ、はあっ...もう...来な...い...よね...?」
「多分...」
あたしは大したことなかったけど、イリーナはかなり息切れしていた。それに気づかずあたしはひたすら走ったのでイリーナの体力をかなり奪ってしまった。
「ごめん。」
「...だい...じょうぶ...み...ず...」
イリーナが見る方向には水がたくさん溜まっている場所があった。イリーナは水が溜まっている場所へヨロヨロ近づき、倒れこんでから水をカブガブ飲み始めた。
イリーナがこんなに疲れてるのになんであたしは平気なんだろう?
少し自分の体が恐ろしく感じた。
...あたしは一体誰なんだろう?
イリーナのようにお母さんやお父さんがいたはずだ。どこで生まれたの?あたしは何であそこにいたの?
「はあっ...」
イリーナは水を飲んでその場に倒れた。
「本当にごめん...さっきは...」
あたしの目は水面に釘付けになった。
「どうしたの...?」
女の子が水の中から顔だけのぞかせてこちらを見ている。
「えっ...!?」
あたしたちより顔が幼い女の子は顔についた髪の毛を払いながらこちらを見つめている。目をキラキラさせながらこちらを見つめ、こう言った。
「あたちのことおぼえてる?」
あたしに向けられた言葉だと気づくのにしばらく時間がかかった。
「...っえっ、あっ、あたし?」
女の子はコクコクとうなずき、両手でピチピチと水面を叩く。キラキラと光る目は私に期待を寄せていた。
この子はどうやって水の上を浮いてるんだろう?そんな疑問が頭をよぎったけど、まず質問に答えるのが先だ。
「あっ...ごめん...分からないや...記憶が全くなくて...」
あたしの答えを聞くと女の子は水面を叩くのをやめ、悲しそうな顔をした。
「...これあげる。」
女の子はイリーナを避けるようにして陸へと近づいた。
「おねえさんからのおてがみ。だいじにしてたの。」
「お手紙?」
何かを握った小さい手がこっちに差し出される。
「あたしに?」
「うん。」
あたしに誰が手紙なんかくれたんだろう?あたしの記憶に繋がる人...?それを受け取ると女の子は水の中へと潜ってしまった。
「あっ、ちょっと!!!」
いなくなっちゃった...。
手紙と呼ばれた紙はさっきまで水で湿っていたはずなのに今はシワ一つなくキレイに四角に折られている。
あたしを知ってる誰かからの手紙...。
慌てて開き、あたしは指を切ってしまったけどどうでも良かった。
目を通す。
「...」
読めない。細い字がつらつらと並んでいるけど全く読めない。
まさかそんな壁があるとは...
「イリーナ...」
「ん?」
「これ...読める?」
回復して少し起き上がっていたイリーナに紙を渡した。
「多分...」
「読んでもらっていい?」
「分かった...」
あたしはイリーナの隣へと座り込んだ。
「えっとね..."あなたがこれを読んでいる時あなたは完全に記憶を失い、字が読めなくて誰かに読んでもらってるでしょう。"」
ご名答。
"あなたの名前はナンシー。でもみんなからはイリーナと呼ばれているわ。
あなたとこれを読んでいる人はいいけど今後一切あなたが記憶を失っていることは誰にも言ってはダメよ。あなたは今この世界を襲っている闇の全てを知っている。実態や正体、そして黒幕や倒す方法も。誰も信用してはならないわ。みんなあなたの情報を欲しがっている。もしも情報を漏らしてしまったらあなたは用済みになるでしょう。
荷物は船にあるわ。あなたの記憶を取り戻す手がかりは全てその中にある。黒いバックは普通のものとは違い、頭の中で欲しいものを念じるの。あなたが認めた人以外がそれをやったらバックの中に吸い込まれるから気をつけて。
最後にもう一度言うと、もしもあなたが記憶がないとばれたら..."
「...あたしは殺される。」
その先を聞かなくても理解できた。
「おねえちゃん!!」
水辺からあの女の子の声がした。見ると横には、さっきまでなかった小さな乗り物が浮いてた。女の子は得意げに乗り物の周りをスイスイと泳いでいる。
「船...」
女の子の下半身は銀色の光を放っている。つま先の部分はヒラヒラと何かが舞っていた。
「あの子...人魚なのね...」
イリーナはポツリとつぶやく。にんぎょが何なのかはよく分からない。
「あれに乗るのかしら?」
「みたいだね...」
あたしはぼーっとしながら答えた。乗り物の中には黒い何かが乗っかっていた。
これから先にはなにが待っているのかな...分かるのはただ一つ。
『もしもあなたが記憶がないとばれたら...』
あたしは殺される。
その真実が胸を突き刺した。