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第2節:資格試験開会式

進級式を終えたシムラ・レンたちを待ち受けていたのは、さらなる地獄のような日々だった。

(IALRT / アイアラート)の正式な資格を手にするための最終試験に向け、再び過酷な訓練授業が再開される。彼らは「鹿児島の桜島麓訓練センター」「北海道の道北訓練センター」「沖縄近海の海洋災害訓練センター」といった各地の現地へと再び足を踏み入れ、それぞれの地で極限環境に身を置く生き残った学生たちと共に訓練や座学授業を重ねた。さらに本校地下における完全密閉シミュレーターでの酸欠・人工心肺エラー対応、AGB(Biohazard Maintenance Suit)の限界高度・極限実技、そして高度医学・機械工学・法医学・危機管理理論に及ぶ過酷な学科座学の全領域が網羅された。

教官たちの怒号や理不尽なペナルティーこそ以前より少なくなったものの、3年次の訓練はもはやミスが説教で済む段階を超えていた。わずかな判断の遅れや数値の読み違えが「自己の死亡や重症事故、そして即時退校処分」に直結するため、現場には常に一瞬の油断も許されない極限の緊張感が張り詰めていた。その容赦ない淘汰の網をくぐり抜け、進級式時点で50人だった同期の数は、この直前までの全領域にわたる過酷な総合訓練と補習を経て、さらに削られて42人へと減少していた。

1〜2年次の間に存在した「パニックを起こす者や、プレッシャーに耐えきれず取り乱す者」はすでに全員が脱落し、今や残っているのは感情を削ぎ落として冷徹な「生存と救命の計算機」へと変貌を遂げた精鋭たちばかりだった。

 そして、その過酷な養成学校の3年間をどうにか生き抜いた42人を待つ、正式な国際総合新鋭救命救助部隊(IALRT / アイアラート)の資格を手にするための最終試験の当日がやってきた。

 それは筆記、シミュレーション、実技、面接という幾重もの最終関門である。

当日まず行われるのは、1日目に実施される第1次試験――筆記試験であった。その一次試験を突破した者だけが受験できる第2次試験の実技試験(これも1日)、そして二次試験を通過した者だけが受験できる第3次最終面接(1日)へと進む。これらの試験の間にはそれぞれが設けられていた。その理由は、現場の実務を背負うIALRTの日本人事や実際の最前線で働く幹部たちが試験官・面接官となり、本校の教官陣とも厳格に協議・審査した上で、数百項目に及ぶデータログやリカバリー率の数値を精査し、それぞれの試験ごとに厳正な合否判定を下すための査定期間が必要だったからに他ならない。

 生き残った第42人の学生たちは、再び進級式の会場にもなった地下深くの無機質なコンクリートの講堂へと集合させられ、広大なフロアに並べられたパイプ椅子に沈黙のまま着席させられていた。

ステージの右端には、これまでシムラたちに容赦ない怒号と罰を与え続けてきたクロサキ、イオウダニ、ガンドウ、キトウといった鬼教官陣が並び、ギラリと冷徹な目で学生たちを威圧するように見張っている。

やがて、マカべ校長とヤマタ二教頭がステージの上に現れ、厳かに一礼してから真壁校長が演説台へと向かった。その隣に立ったヤマタ二教頭が、冷徹に鋭い声を響かせる。

「――これより、『日本長野養成本学校 第3期生 IALRT資格試験』の開式を宣言する」

ヤマタ二教頭の司会に続き、マカべ校長が「一同、起立」と号令をかけ、さらに「着席」の合図を送った。

ガタリ、と。

教官陣も、生き残った42人の学生たちも、怒号など一切飛ばされることなく、まるで百戦錬磨の精強な軍隊のように一糸乱れず一発で完全に同期し、美しく揃った動作で起立と着席を完了させた。講堂内には無駄な音が一切響かない。

 全員が着席したのを確認し、ヤマタ二教頭が再び司会進行を続ける。

「――学校長の話」

マカべ校長が演説台のマイクロホンに向かい、低く重く、凍りつくような厳格な声で語り始めた。

「よくぞここまで生き残ったな、お前たち。今日からいよいよ、国際総合新鋭救命救助部隊(IALRT)の資格試験の開会式を始める。本日はまず第1次試験の筆記試験を、それぞれの班の教室で行う。そこを突破した者だけが、これまで貴様らが3年間訓練してきた実習場での第2次実技試験に進み、さらにそこを潜り抜けた者のみが、地下1階の第1〜第5応接室で行われる第3次最終面接へと進むこととなる」

校長の視線が、パイプ椅子に座る42人の顔を鋭く舐めるように走る。

「今日から最終面接に至るまでのすべての選考において、審査にあたるのはIALRTの日本人事、および実際の最前線で日夜命を張って働いている現場の幹部たちだ。以前にも予告したが、どの選考段階であれ、基準に満たず不合格となった者は即座に脱落・失格となる。……覚悟して臨め」

 マカべ校長が一度礼をしてヤマタ二教頭の隣に戻ると、ヤマタ二教頭が次の司会を告げた。

「――第1次〜第3次試験、各試験官・面接官ならびに人事幹部紹介」

そのアナウンスとともに、これまでの鬼教官たちとはまた異なる、文字通り「実際の死地をくぐり抜けてきた者」だけが持つ圧倒的な殺気と鋭い目つきをたたえた数人の幹部らが、ステージへと登壇した。それぞれが片手にマイクを持っている。

生き残ったシムラたち学生にとって、彼らはこの日が「初対面」だった。それもそのはず、3年間にわたる養成期間を経てIALRT資格試験の当日を迎えるまで、実際の現場幹部たちと顔を合わせることは一切なく、この開会式が最初にして最後の顔合わせとなる。卒業まで、彼らが直接学生の前に立つのはこの場限りであった。

ステージに整列した幹部たちが、順に自己紹介と、担当する試験、そして試験官としての容赦ない覚悟を語っていく。

 まず、日本管轄人事室を率いる最高幹部たちの紹介から始まった。

全試験の絶対的統括を務める総試験監督――西条幹久(サイジョウ・モトヒサ)がマイクを握る。

「総試験監督を務める、サイジョウだ。我々が下す査定データは、ジュネーブの国際統括本部データベースへその瞬間にリアルタイムで同期される。日本基準ではない。世界中のどの極限地獄に叩き込んでも一秒で適応できる世界最高峰の国際基準を満たしているか否か、そこだけを見る。甘えは一切許さん」

続いて、第1次試験の統括を務める救命システム解析部長――高木彰一(タカギ・ショウイチ)が前に出る。

「第1次筆記および理論試験の統括、タカギだ。机上の空論など現場では何の役にも立たない。極限状態のパニック下で正確無比なシステム計算と理論構築ができるか、その基礎と頭脳の切れ味を冷徹に数値で暴かせてもらう」

そして、第2次試験の実技統括を務める現場第一部隊長――佐久間剛(サクマ・ゴウ)が鋭い眼光を光らせた。

「第2次実技およびAGB極限環境試験の統括、サクマだ。お前たちが纏うAGBスーツのデータログの端々まで叩き直す。実戦の最前線では、コンマ一秒の躊躇や一瞬の動作の迷いが即座に患者と隊員自身の死を招く。私の前で怯えを見せた者は、容赦なくその場で叩き落とす」

さらに、第3次最終面接の統括を務める人事評価室長――水島冴子(ミズシマ・サエコ)が冷ややかな笑みを浮かべずに一歩前へ出た。

「第3次最終面接の統括、ミズシマです。技術がどれほど優れていようとも、精神の構造にわずかでも亀裂や慢心があれば、現場で組織全体を崩壊させる。過酷な問いを通じて、お前たちの内面にある『甘さ』を根底から引き裂いて見せます」

 その後も、第1次筆記試験の各班(A班〜D班)を担当する試験監督4名の紹介とそれぞれの覚悟のセリフが続いたが、緊張に満ちた講堂内では誰もが息を呑み、その重苦しい空気を全身で受け止めていた。第2次実技や最終面接の担当官たちの紹介も含め、すべての登壇者たちから発せられるプレッシャーは、これまでの教官たちの怒号とは比較にならないほど、静かで、冷徹で、現実的な殺気を帯びていた。

 全員の紹介が終わり、再びヤマタ二教頭が「以上」と区切り、最後に試験上の厳格な注意事項を告げるため、人事幹部のトップであり総試験監督でもあるサイジョウが再びマイクの前に立った。

「――よく聞け。これより始まる3つの試験において、カンニングなどの不正行為は論外、一切の救済措置や温情も完全に存在しない。すべては貴様ら自身の頭脳と技術、そして選択の積み重ねのみで完結させろ」

サイジョウの視線が、講堂の最前列から最後列までを鋭く射抜く。

「採点基準は厳格に適用される。各試験の合否発表は、ここ講堂の掲示板にて行う。学生番号がそのまま受験番号となるため、次の試験へ進める者の番号がそこに記されているかどうかを確認しろ。合格者の番号が書かれていない者は、その瞬間に失格、脱落、即時退校処分となる」

さらに、サイジョウの声のトーンが一段と冷徹さを増した。

「――そして、最も厳重に言い渡す。もし仮に合格を確認したとしても、その場で『やった』と声をあげたり、歓喜の声を漏らしたり、興奮してはしゃいだり、嬉し涙を流すことは一切禁止とする。それを犯した者は、たとえ試験の点数がどれほど優秀であれ、合格を即座に一切取り消し、『失格処分』の対象とする」

講堂の空気が、凍りついたようにピタリと静まり返る。サイジョウは容赦なくその理由を叩きつけた。

「……なぜだか分かるか。実際の現場において、いかに絶望的な重度災害やバイオハザードの救命を成し遂げようとも、その直後に個人的な感情を爆発させ、歓喜に浸るような者は、次の瞬間には必ず自ら二次災害を引き起こす人間的欠陥者とみなされるからだ。我々が求めているのは、命の瀬戸際でいかなる奇跡を成し遂げようとも、表情一つ変えずに次の冷徹なタスクへ移行できる『完全なる機能体』だ。心してかかれ」

 総試験監督サイジョウからの絶対的かつ冷酷な注意事項が終わり、彼は一礼してステージを後にした。

それを受けるように、ヤマタ二教頭が「全員、起立」と号令をかける。

ガタリ、と再び42人の身体が完璧に同期し、微塵の狂いもなく一発で綺麗に立ち上がった。

「――これをもって、『日本長野養成本学校 第3期生 IALRT資格試験開会式』を閉式する」

マカべ校長が演説台から堂々と宣言し、最後に低く鋭い指令を飛ばした。

「第A班から順に、速やかに第1次筆記試験会場となるそれぞれの班の教室へ戻れ! 開始時刻に一秒でも間に合わなかった者は、理由の如何を問わず即座に試験資格を無効とする!」

 その号令と同時に、シムラは一切の迷いなく一礼し、第A班の先頭に立った。

かつての未熟さはどこにもない。工業高校時代から培ったメカニズムの直感と、3年間にわたる無数の地獄、過酷なシステムエラー、そして死線をくぐり抜けて磨き上げられた冷徹なプロフェッショナリズムが、彼の全身を支配していた。

シムラを先頭にして、生き残った42人の学生たちは、まるで精強な軍隊のように規律正しく、寸分の乱れもない一糸乱れぬ美しい行進で、無機質な地下講堂を後にした。

 ――逃げ場のない、本当のサバイバルな資格試験の幕が、今、静かに、そして残酷に上がった。

果たしてシムラは、この果てしない最終面接のゴールまで生き残り、すべての生還を成し遂げることができるのか――。

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