最終話 告白
蓮side
すいが息を切らしてやってきた。
あの日と同じ場所。
何も変わらない交差点。
変わったのは、俺だけだ。
「……蓮?」
小さな声。
いるはずがないと分かっているのに。
それでも探すみたいに、辺りを見渡す。
いるよ。
ここにいる。
ずっと、ここに。
「私のせいだよね。」
違う。
「私が呼び止めなかったら蓮は……」
違うって。
「私が、好きなんて言わなかったら」
それは違う。
すいが地面に膝をつく。
すいの肩が震える。
思わず手を伸ばした。
触れられるはずもないのに。
指先はすいの肩をすり抜けた。
「ごめんなさい。本当にごめん。」
すいは泣きながら何度も謝っている。
すいのせいじゃない。
伝えたいのに。触れたいのに。
何もできない。
「私が死ねばよかった。」
そんなこと言うなよ。
俺は、そんな未来、望んでない。
だって、俺は
ずっとすいに
「好きって伝えたかったんだ。」
その瞬間、すいの涙がぴたりと止まった。
ゆっくりと顔を上げる。
「……蓮?」
目が、合う。
「……本当に蓮なの?」
「うん。」
しばらく沈黙が流れた後、意を決したようにすいが口を開く。
「怒ってる?」
「怒ってないよ。」
「嘘だ。」
「嘘じゃない。」
「だって、幽霊ってことは未練とかそういうのでしょ?」
未練、か。
「俺も好きだって言いたくて。」
俺はすいの目を真っ直ぐ見た。
逸らさない。
今度は、ちゃんと。
「……あの時、返事、聞けなかった。」
すいの声が震える。
「怖くて、目、閉じちゃったから。」
「俺は、あの時も今も、同じ。」
俺は一呼吸置いて、すいの目を見る。
「すいが好きだよ。」
その瞬間、すいが顔を真っ赤にする。
その様子がおかしくてつい頬を緩める。
ふっと身体が軽くなった気がした。
「あ、蓮……身体が、」
身体を見ると、ところどころ透けていた。
指先から輪郭がほどけていく。
「待って、やっと蓮に会えたのに。やっと両思いになれたのに。行かな―」
「すい」
俺は言葉の続きを遮った。
言ってしまったら、別れられなくなる気がした。
「本当、すいはよく泣くよな。」
「だって、それは」
「でもさ、泣いたっていいんだ。無理しなくたっていい。俺はどんなすいも好きだよ。」
すいは泣きながら真っ赤な顔をして俺を見る。
「すいなら大丈夫。」
すいの人生はこれからも続いていく。
大丈夫。俺がいなくても生きていける。
「ちゃんと、生きろよ、なんて言わないけどさ……生きててほしい。」
すいが泣きながら頷く。
その返事を聞けただけで、十分だった。
すいに手を伸ばす。
触れられないまま、俺の輪郭が、ほどける。
最後に見えたのは、泣きながら、前を向くすいの顔。
——それで、十分だった。
すいside
涙を拭いて、空を見上げる。
日の光が、まぶしい。
「……今度、睡蓮の花、持ってくるね。」
信号が、青に変わる。
私は、歩き出した。
―完―




