無くなりし米を求めて
間に合った?
「米ぇっ!米米米米!」
「もう手遅れだ…脳まで米に侵食されている」
ていうのは冗談だけどね。
もしゴブリンとかいう下等種族に米が食い荒らされてたら僕ぁ何するか分かりませんよ。
…そろそろ真面目にいこう。
「先頭は僕。次にまっちゃんと滝さんが並んでその後ろに咲季。最後はタカシ。おっけー?」
「異議なーし」
「おっけ」
「り」
「私は自転車引いていけばいいの?」
「うん。任せた」
咲季は基本戦闘には参加しないので、自転車を引いていってもらう。
自転車があるだけで持って帰れる食料の量が増えるし、最悪の場合咲季一人だけでも逃がせる。一石二鳥だね。
「じゃあ小走りで進むよ。まっちゃんは出来るだけ魔術温存、タカシは後方注意。滝さんは適度に索敵のスキル使って下さい」
魔物は出来るだけ僕が戦闘不能にする。それにトドメを刺してレベル上げする。
まっちゃんはパワーレベリングだか寄生とか言ってたけど、まあ安全重視なんでね。勘弁。
「じゃあ出発」
って事で早速いるね。ゴブリン、3体かな?まだ歩き出して1分経ってないないのに。
「うわぁ…きも。しかもこの距離でも臭い…最悪」
咲季がすごい気持ち悪い物を見る目をしている。父さんも流石にこんな目で見られたことはない、記録更新だ。
「じゃあ僕が2体、残りの1体はタカシ中心に皆んなで殺っておいて」
「大丈夫?」
「もち」
トドメは他の人に刺させたいから出来るだけ殺したくない。なので武器はなし、素手だな。斧は自転車のカゴに入れておく。
ゴブリンたちがこちらに向かって走りだす。それに合わせて僕も前に出る。
「ギャッ!ギャッ!」
「ギィヒヒィ!」
一番に近づいてきたゴブリンを蹴り飛ばし、その次に来たヤツは顔面に拳を叩き込んだ。こっちの方は一発KO、死んではないと思う。
最後に来たヤツの棍棒の振り下ろしを避け、蹴り飛ばしたゴブリンの方は向かう。
「お前の相手は俺な!」
タカシの威勢のいい声が後ろから聞こえる。いいねぇ、友達が頑張ると盛り上がるわ。
「ギィ…」
蹴り飛ばしたゴブリンはうめき声を上げ、地面に這いつくばっている。
殺さないよう加減して頭を踏みつけ、脳震盪でも気絶でも何でもいいが動けないようにしておく。
こっちは終わり。やっぱり弱いから楽しさは感じない。けど皆んなの相手には丁度良い強さかな?余裕を持って戦えてるし。
「うぉッラァ!」
「滝さんチェンジッ!」
滝さんの振るった剣がゴブリンを斬る。そしてタカシと位置を変え、タカシは痛みに悶えるゴブリンを蹴り倒す。
そこからタカシは倒れ込んだゴブリンの心臓を槍で貫いた。
「ッシ!終わりぃ!」
いいねぇ〜。連携って感じだぁ。とりあえず2人に労いの言葉を送る。
「お疲れ様〜ナイスファイト〜」
「おう。トキリンも。怪我ねぇ?」
「ないよ」
全員怪我なく勝利だ、良いスタート。じゃあさっさとゴブリンにトドメ刺してレベル上げてもらおうかな。レベルが一番低いのは…咲季か。
「咲季、そこのゴブリン2体のトドメ頼むわ。レベル1でしょ?多分レベル上がるよ」
そう言うと咲季は凄く嫌そうな顔をしながらも、タカシから槍を借りて持ってきた。
「…どこ狙えば良いの」
「ン〜まあ心臓でいいと思うよ。頑張れ!」
すっごく嫌そうではあるが、咲季は気絶して動かないゴブリンの元に近づき、槍を構える。
「っ!」
槍を、突き刺す。心臓を貫き、殺す。
命を奪うと言う非日常、異常な行為。ただの女子中学生には重すぎる行為。だけど、必要なこと。
この暴力に支配され始めた世界では、慣れていかなければならないこと。その一歩を咲季だけじゃない。
全員、踏み出したのだ。
「…気持ち悪い、気分悪い。吐きそう」
「背中さすろうか?」
「結構です。間に合ってます」
そうですか…。そんな睨まなくたったいいじゃないですか?傷付きますけど。
「レベルは?上がった?」
「…うん」
良いね。未だにレベルとかステータスとか分からないことだらけだけど、まあ高くて困りはしないでしょ。
どんどん進んで、戦って、レベルを上げよう。目標はレベル5。攻略サイトを支えるようになるまでだ。
「じゃ、先に進もうか」
………………
……………
会話は最小限に、最低限で。歩みを進めるにつれ、全員の真剣味が増していく。
少しずつ適応し始めているんだ、この状況に。
「ん。みんな、魔物来るよ。犬型2体、ゴブ2体、それと…大きいゴブ?みたいなのが1体」
滝さんの索敵のスキルに魔物がかかったらしい。家を出て10分、魔物との戦闘は2回目。今度の難易度は先程から跳ね上がる。
生け捕りなんてしてる余裕もないかな。久しぶりのデカゴブリンがいるみたいだし。
ていうかあの犬の魔物とのゴブリンって共存できんのかね?魔物の生態は全く分からん。
「まっちゃんは魔術の用意。狙いわデカいゴブリン。そんで犬とデカいゴブリンは僕が。ゴブ2体は任せる」
「ようやく俺の出番〜。燃やし尽くすぜぇ〜」
2、30メートルくらい先に魔物の姿を確認。もう少し近づいてまっちゃんの魔術を浴びせたら一気に畳みかける。
「じゃあ詠唱すんね」
距離を詰め、まっちゃんが詠唱を始める。向こうはまだ気が付いていない。
…気付かれた。犬の魔物がこちらに走り出す。かなり速い。まさに獣だ。
「ガゥルァッ!」
「ガァルルッ!」
犬の魔物たちが吠える。ペットとは全く違う野生の迫力に他のみんな押され気味だ。
なので僕も吠える。犬畜生が調子に乗んなと。
「シャァアッ!」
接近。間合い。
犬が飛びかかってくる。が、それは好機。
タイミングを合わせて斧を振り下ろせば、頭蓋骨を割り、脳を斬り、命を断つ。
「ガァ」
短い断末魔。いや、ただ空気を震わせただけ?何だって良いけども。
そんなことを考えていればすぐにもう1体の犬が近づく。
今度は飛び掛かりではなく足狙いの噛みつき。地面を駆け、口を大きく開き牙を剥く。
それを軽く跳んで、ギリギリで回避。そして全体重を乗せた踏みつけ。骨が砕ける感触が足から伝わる。
ガクンと犬の体勢が崩れ、地に伏せる。足の骨でも砕けたかな?ラッキーだね。
不安定な犬の背中から降り、とりあえず犬は蹴り飛ばす。そしてゴブリンたちを観察する。
普通のゴブリンはこちらに向かってくるが、デカい奴は動かない。様子見でもしているようだ。
するとまっちゃんの魔術が発動したようで、バスケットボールくらいの火の玉がデカいゴブリンめがけて飛んでいく。
なので僕もそれに合わせて走り出す。2体のゴブリンは無視して進む。
「ギィ!?」
デカいゴブリン…でかゴブは火球をギリギリの所で回避。
隙が生まれる。そこを狙い斧を横に薙ぐ。
「シィ!」
斧はでかゴブの腹を少し掠めるにとどまった。もう少し踏み込めば致命傷だったんだけどなァ…残念。
「ギ…ギィ!」
でかゴブはこちらへの警戒をかなり強めたようだ。マジでさっきので仕留めたかったけど、まあ自分の未熟のせいだし。悪いのは僕。
「こいよぉ…殺ろうぜぇ…?」
ちょっと笑いながら言ったらか、でかゴブは挑発と受け取ったらしく体当たりを仕掛けてくる。
僕も体当たりで返す。
結果は普通に僕の勝ち。でかゴブは後ろに倒れ込んだ。
なのでガラ空きの股間を踏み潰す。自分でもヒヤッとするけど。まあ殺し合いなんでね!
「ギッ〜!ギ〜!ギィャァァア!?」
泣き声でかいなぁ…。仲間でも呼んでるんかな?何であれさっさと殺してしまおう。これは慈悲でもある。
ゴロゴロ転がって狙いにくかったけど、なんとか頭をかち割り殺した。
さて、向こうは?
「ッらぁ!」
「タカシナイス!」
「これでトドメぇ!」
おぉー、丁度向こうも終わったね。2対2だったけど特に怪我もなく勝てたみたいだ。良かった良かった。
「お、レベル上がった!」
「俺もだ」
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《戦闘終了》
《経験値を獲得しました》
《レベルが上昇しました》
《ステータスを確認して下さい》
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「僕も上がったわ」
まあ結構殺したしね。妥当かな。
ん。気持ちを切り替えて、魔石を拾ったらすぐに出発。
真剣にね。
「じゃあ魔石は私が持っておくね」
「お、咲季ちゃんありがと」
コミュニケーションも問題なし。良いパーティですねー。まるでドラ◯エのような安心感。素晴らしい。
「では移動を再開しよう。無くなりし米を求めて」
「あー、イレブン?俺モンスターズしかしたことねぇわ」
「俺ドラ◯エしたことねぇ」
「マジ?」
こんなんで大丈夫かなぁ?やっぱり心配になってきた。助けて浩二さん。