014
三時。
そういや今日は嫌がらせ、なかったなぁ、なんてのんきに考えながら屋上のドアを開けた。
………神谷先輩は今頃どうしてるのかな。
ふと脳裏にあの笑顔が浮かんできて、私は、“それ”に気がつけなかった。もっと、ちゃんとしておくべきだったんだ。だから………私はそれにきづけなかった。
誰かの出した足に躓いたのだ。
「い、った………」
強打した左肩を右手で押さえながら、私はおきあがり、その人を見つめる。
こらえきれずに、じわり。涙が滲んでく。
「ひ、より…………」
視界の先で、彼女は凄惨に笑った。
「は? 何、名前で呼んじゃってんの? 分かってるんでしょう、私があんたのこと嵌めたの。まだいい子ぶっちゃってるんだ。へー」
ていうかこんな単純なやつでもひっかかちゃうんだ、ださ。
そう言って日和は唇を歪めた。
日和の柔らかい笑顔を思い出した。かわいくて、清純な、汚れの無い、まっすぐな笑顔。
今は。
自らが悪口を言っていた奴らの先頭に立って。冷たい表情で私を見下ろして。うっすらと化粧すらしていた。
そんな日和を見て、私の胸を覆い尽くしたのは怒りでも憎しみでもなくて―――――
哀しみ、だった。
だって、キレイだったから。今、目の前に立つ日和は、前よりずっと、キレイに見えたから。
なんで、だろうね。何で…………。
言いたいことはいっぱいあった。
何で裏切ったの? 今までのは本当に全部演技だったの? なら、つらくなかったの? 何で、どうして………
だけど、全部、飛んだ。立ち上がって、私は日和を見つめた。
思いのたけが、我先にと口を衝いて出る。
「日和のこと、大好きだった」
体中が恐怖で逃げ出そうとするのは裏腹に。目は、心は、真正面からまっすぐに日和を見つめる。
「信じてた。いい人だって、優しい人だって。それが、こんなのなんて………ひどいよ。絶対間違ってるよ………ねえ、日和っ………」
「うるさい」
「え…………」
「うるさいうるさいうるさいうるさいっ!!」
日和が叫んだ。
日和はしばらく肩で息をしていた。私はただ、それを見つめていることしかできなかった。
そして、もう、いいよ、と。
「もういいよ」
私の目を睨むように見つめて、日和は呟くように言った。
「もういいから………私が馬鹿だったから。
ねぇ……もう、やっちゃっていいよ? こいつもう…………駄目だよ」
違った。日和は、私に向けて「いい」と言ったのではなかった。
後ろの、彼女たちに向けて言ったのだった。




