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【おまけ】 真琴というヤツ

本編完結済みですが、番外編を書いてみました。


楓くん視点です。

千田(ちだ)真琴(まこと)というヤツは変わったヤツだ。


保育園の頃から皆より頭一つ分背が高く、小学校になっても俺は追い抜けなかった。男子の中では俺が一番背が高かったのに……。

と言っても田舎のことだから、俺たちの学年は男女合わせても15人もいなかったけど。

だから学年で背の順に並ぶことになると、必ず俺の後ろにアイツがいた。


中学校に入学して学年で4クラスになったとき、腐れ縁というのかアイツと俺は同じクラスになった。

中学では俺より大きい男子がいて、それは仕方ないと思えたが、アイツにも追いつけていなかったから、コレは一生追い抜けないんじゃないかと悩んだりした。

けれど中3になって、その時の班分けで隣の席になってたアイツの身体測定カードをのぞき見たら、アイツの身長が俺より低いことが分かって、俺は嬉しさのあまり拳を握りしめてしまった。


なんとなくアイツは女なんだけど、細っこい体型とかショートカットの髪型とかもあって、あんまり女子って感じがなかったし、アニメやマンガの話ができるってこともあって男子と同じくらい話しやすかった。

それに、その頃の俺は気になる女子がいて、その子と話すのは嬉しかったけど、なんだか緊張してしまって上手く話せなかった。それがすごくもどかしかったから、気楽に話せるアイツは俺にとっては女子じゃないと思ってた気がする。

そんなだったから、つい「マンガ読みに来るか?」なんて家に誘ってしまったんだよな。俺にとっては女子じゃなかったから。


中3の冬、進路に向けてクラスの皆が勉強し始めると、アイツは「勉強の仕方がよく分からない」とか言って俺をイラッとさせた。

アイツは昔から頭が良かった。運動は苦手だったけど、勉強はよくできた。算数や数学はパズルと同じ感覚だと言って楽しそうにスラスラと解いていたので、アイツの頭の中はどうなってるんだろうと思った。

授業を聞いてればだいたい頭に入ってしまうらしく、家で予習とか復習とかほとんどしたことがないと言う。

そう言えば、小学校の頃のアイツはたまに宿題を忘れて来ることもあったし、家で勉強をする習慣がないのは本当なのかもしれない。本だけはかなり読んでいたようだが。

アイツは勉強の仕方がよく分からないなりに、とりあえず問題集を買ってきてそれをやっているらしい。

朝、登校してる人間が少ない教室で、俺と友人が一問一答してるのを聞くともなしに聞いていたのも知っている。

なんだかんだ言っても基本のできが違うのか、アイツはこの辺で一番の進学校へスルッと合格してしまった。


高校生になると、朝の通学時間に駅で姿を見かけることはあっても、声をかけることもなく日々が過ぎていった。

いつだったか、帰りの電車でたまたま一緒になって、以前と変わらず本を読んでたアイツに声をかけたことがあった。アイツが読んでいた本はアニメ映画にもなったSF小説で、その相変わらずな様子にホッとした。

それから週1くらいの間隔で帰りの電車で一緒になることがあり、アニメやマンガやアイツの読んでる本の話をした。


3年生になったら部活を引退したのか、アイツと帰りの電車で一緒にならなくなった。

朝は駅で見かけるから、ちゃんと登校はしているらしい。

その頃の俺は同じ中学出身の後輩に捕まっていて、朝も夕も後輩のテンションが高い話に付き合わされて、少々疲れていた。最初は普通にマンガやアニメの話だったのに、だんだんヒートアップしてきて、あのキャラとあのキャラがくっついたらいいとか萌えるとか、なんでもBLに持ち込むのはやめてくれ。ちょっぴりなら話に付き合えるが、俺は基本的に腐ってないぞ~。

やっぱりアイツと話すのが気楽でいい……としみじみ思った。

制服のスカートがなきゃ、アイツは女子だって感じもしないしな。


何の用事だったか、土曜日に出かけた帰り、偶然アイツと電車で一緒になった。

珍しく本を読んでいない。

最近、朝に見かける表情(かお)が暗かったから、少し気になっていた。

それでも普通に話しているうちに、表情が明るくなった気がした。

そう言えば、コイツは高校を卒業したらどうするんだろう?

相変わらず勉強の仕方が分からなくて、また受験勉強で悩んでたりするんだろうか。

そんな事を考えて、市立図書館で勉強につき合うことを申し出た。たぶん、俺が教えるとかじゃなくて、勉強する時間を作るってことが大事なんだろうと思ったから。

まぁ、心配するまでもなく、アイツは大学に合格したけど。



 ☆ ☆ ☆



アイツが高校を卒業してから、なんとなく第1第3土曜日に市立図書館集合が習慣になった。

都合がつかない時は、前の晩までにメールで連絡する。

市立図書館で読みたい本を探したり、図書館が開いてなければ近くのファストフード店で話をしたり、たまにアニメ映画を見に行ったりした。


しかしその日、俺はイライラしていた。どうしようもなく。



 ☆ ☆ ☆



久しぶりにアイツと待ち合わせた年明け。なんとなくいつもの市立図書館前に集合した。

図書館は年末年始の休みだったから、近くのファストフード店に移動。

注文した品物を受け取って席に移動したら、興奮気味のアイツがハガキを出してきた。

何でも、アイツが近年ハマっているラノベの作者にファンレターを出したのが昨年の夏。で、そのお返しなのか年賀状が届いたというのだ。


「文面とイラストは印刷なんだけど、サインは直筆なんだよ!」


へぇ~。


「イラストは小説の主人公で、イラストレーターさんじゃなくて作者さまが描いたものなんだって!」


確か今年の夏にアニメ映画になるって話だったから、俺もチェックしてた作品だけども。その前にアイツに勧められたんだったか。


「文章だけじゃなくて絵も上手なんて、スゴいよね~」


満面の笑みを浮かべるアイツの顔。

なんだろう? なんだか面白くない。なんか分からないけどイライラする。

アイツは俺のテンションの低さに気づいたのか、


「あ、ごめん。テンション高すぎた? テンション高いの苦手だったよね~」


と謝ってきた。

確かにアイツにしては常にないテンションの高さだった。

何が面白くないのか考えてみたけど、何がイライラの原因か分からない。

面白くない気分のまま、おざなりな返事をして会話が続かない。

その日は結局、気まずい雰囲気のまま解散した。帰りは用事があるからと嘘をついて本屋で時間を潰し、アイツと同じ電車にならないようにした。


家に帰っても面白くない気分は続いた。

あのラノベは確かに面白いし、アニメになるのも楽しみにしているし、アイツが作品を褒めているのも気にならなかった。

どうやら俺は、アイツがファンレターを出したことが面白くないらしい。そして、もらった年賀状やら作者をアイツが褒めるのも。


ん? なんだか、俺の中で警告がひらめく。マズいって予感がする。

何だ? 何がマズいんだ? ちょっと待て!!! 考えるな!

そう思うのに、アイツがファンレターを出したことが嫌なんじゃなくて、「俺じゃない他の男に」ってところが引っかかってるらしいことに気がついて、そんな自分に驚いた。


待て待て待て!

アイツは、俺にとっては女子じゃなかったはずだ。

なんで、どうしてこうなった……!?


いや、待て。これはただ単に「自分がよく知っている幼馴染み」が、俺の知らないところに行ってしまいそうで、面白くないと思っているだけなんだ。俺が一番長くアイツと一緒の時間を過ごしてて、そして一番アイツを理解してるんだ! だから、アイツをよく知りもしないヤツとアイツが仲良くなるみたいなことが面白くないだけなんだ。

きっとそうだ。そうに違いない!!!

だってアイツは、俺にとっては女子じゃないんだから!


俺はそう結論づけて「俺も年賀状が欲しい」と拗ねた理由を捏造し、アイツにメールを送って今日の気まずい雰囲気を誤魔化すことにしたのだった。



真琴は弟たちの影響で女子っぽい感じがありません。

楓くんは昔から真琴を知っているだけに、異性という感覚を持ちづらいのでしょう。

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