第2話 異界流・初撃──圧導が動かす身体
武闘祭の初戦、炎の国バーンと、氷刃王国シルヴァの激突が始まった。
巨漢の炎がうねり、白銀の刃が閃き、闘技場の空気は熱と冷気の乱流で揺れまくっている。
観客は総立ち。魔導拡声器の声も、爆音に飲まれてほとんど聞こえない。
俺は控え区画で深く息を吸う。
(……いや、すげぇ。これが世界のトップか)
隣のセリアが、微笑みながら言った。
「あなたも、あの中に入るのですよ」
「やめて緊張させんなって……」
でもなぜか、不安よりワクワクのほうが強かった。
◆◆◆
バーンの拳は火山が噴き出すみたいに炸裂し、シルヴァの剣は風を凍らせるみたいに鋭い。
(強いけど……呼吸の流れが粗いな)
俺はつい、クセで呼吸のクセを観察する。
バーンは力の発揮が吸気と噛み合っていない。シルヴァは静かすぎて肺の伸縮が固まっている。
(呼吸を整えたらもっと強くなるのに……)
そんな分析をしていた、その直後──
──ゴバァンッ!!
バーンの拳が地面を抉り、砕けた破片が凄まじい速度で
闘技場の防護魔法障壁すら貫通してしまい、観客席へ飛んだ。
最悪すぎる角度。
次の瞬間──
道の身体が“意識より先に”反応していた。
肺が縮み、内側で圧が生まれる。空気とマナが押し潰され、熱が胸の奥に集まる。
自身で編み出した“圧導”で勝手に走り出す。
「カバディ、カバディ……」
(声を出さなければ、俺の内側から破裂してしまう……)
肺 → 胴 → 肩 → 上腕 → 前腕 → 指先へ。
身体の内部を一本の導線のように圧が駆け抜けた。
踏み込みは一点。手はまっすぐ破片へ。
指先が触れる。
「……タッチ」
その瞬間。
指先に集束した圧が一点解放され、破片が“横へ弾き飛ぶ”ように軌道を逸らされた。
魔力ではない。衝撃でもない。
圧縮した呼吸を道の肉体が“運んで”放った結果。
観客席は無傷。
時間が一拍だけ止まり──遅れて胸に恐怖が届いた。
「……あっぶねぇ……」
セリアが駆けつけてくる。
「道……今の、完全に圧導でしたよね……?
肺で圧を作って、肉体を伝って、指先で──」
「うん。意識してなかったけど、勝手に道ができてた」
◆◆◆
場内がざわつく。
「いまの何だ!?」
「破片が曲がったぞ!」
「魔法か?」
「いや、触れただけで……」
「異界人、どうなってんだ……」
バーンとシルヴァも戦いを止め、こっちを見ていた。
巨漢が豪快に笑う。
「異界の兄ちゃんよ……今の、拳じゃねぇよな?」
「呼吸だよ。肺で圧作って、流して、指先で弾いた」
「説明が意味わかんねぇのに凄ぇ!! 最高だ!!」
シルヴァは静かに頷く。
「破片を壊さず“流す”…… あれは理合の技。
あなたの呼吸、武そのものです」
褒めすぎだろ。
◆◆◆
司会が魔導拡声器で叫ぶ。
『い、いまの行動は安全確保の有効介入と認定ッ!
試合は続行──の予定ですが……!』
だが──続かなかった。
「なぁシルヴァ」
「ええ、あなたと同意見です」
2人が俺を指差す。
「異界人!お前が来い!」
「あなたの呼吸……受けてみたくなりました」
観客席が爆発する。
「異界人指名!?」
「エキシビションか!?」
「もう主役じゃん!!」
セリアが小声で言う。
「道……完全に巻き込まれましたね」
「……だろうな」
司会が急いで宣言する。
『よ、よって急遽── 特別エキシビションマッチを挟みます!!』
『対戦カードは…… 我波道 vs 炎の国バーン・ゴルド!!』
バーンが豪笑する。
「異界! 呼吸で生き残ってきたって言ったな!
なら俺の“炎の呼吸”受け止めてみろ!!」
(炎の呼吸……? マジでそんなのあるのかよ。
俺たちの世界じゃ漫画の中だけの話だと思ってたが……
呼吸で炎が出せるなら、呼吸で消すこともできるはずだ)
ワクワクが胸に広がる。
セリアが耳元で囁く。
「……道。勝ってください」
「急に焚きつけてきたな?」
「あなたの“圧導”が戦いでどう出るのか……私も見たいので」
ちょっと頬が赤いの反則だろ。
俺は深く息を吸う。
肺が膨らむ。圧が静かに溜まる。
(呼吸で生き残る。 呼吸で前へ進む。 呼吸で証明する──)
こうして、異界流・圧導の初戦が幕を開けようとしていた。
観客席へ飛んだ破片を、指先ひとつで「流した」道。 その異常な技術に、炎の巨漢・バーンが黙っているはずがありません。
「呼吸」vs「爆炎」。 どう見ても燃やされて終わりなマッチメイクですが、道には秘策があります。
次回、『炎拳乱舞』。 魔法使いが束になっても、この「詠唱」は止められない!




