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金貨の娘  作者: 美穂
第7章 群羊の空

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第7章 第4節 石塔の主(第3項)

「硬(こう)貨(か)の偽(ぎ)造(ぞう)は重(じゅう)罪(ざい)と聞(き)いたわ。


 製(せい)造(ぞう)していたオーブに、

 責(せき)任(にん)を取(と)らせることもできたのよね。」



「そこに利(り)は無(な)かろう。」



エリクが顎(あご)髭(ひげ)を撫(な)でる。



「正(ただ)しさより利(り)益(えき)を選(え)んだ。


 というよりも、選(え)ばされたのかしら。」



サンサの言(げん)動(どう)を考(かんが)えれば、

彼(かれ)には選(えら)ばなければならない理(り)由(ゆう)が

その時(とき)にはあった。



「暮(くれ)相(あい)の戦(せん)争(そう)を顧(かえり)みてのことだ。


 疫(えき)病(びょう)によって各(かく)地(ち)で略(りゃく)奪(だつ)が起(お)き、

 貧(ひん)困(こん)と格(かく)差(さ)が拡(かく)大(だい)し、

 大(おお)勢(ぜい)の人(にん)間(げん)が死(し)んだ。」



――恐(きょう)慌(こう)ね。



四(しい)時(じ)の札(ふだ)遊(あそ)びで知(し)った

この言(こと)葉(ば)の意(い)味(み)はスーから聞(き)き、

当(とう)時(じ)の記(き)録(ろく)も書(しょ)室(しつ)にあった。



文(も)字(じ)として記(しる)された内(ない)容(よう)では想(そう)像(ぞう)が及(およ)ばず、

頭(あたま)の中(なか)には灰(はい)色(いろ)の靄(もや)が漂(ただよ)ってしまう。



「外(がい)交(こう)の話(はなし)は退(たい)屈(くつ)だろう。


 他(た)領(りょう)と折(せっ)衝(しょう)を行(おこな)わないオーブが、

 あのままカヴァのように孤(こ)立(りつ)するか、

 ネルタのように独(どく)裁(さい)に走(はし)られても、

 エルテルにとって利(り)益(えき)はない。」



「互(たが)いに手(て)を組(く)むだけの

 理(り)由(ゆう)ができたのね。」



「犬(いぬ)には首(くび)輪(わ)をせねばならん。」



声(こえ)を低(ひく)くし、

静(しず)かに言(い)い放(はな)ったエリクの眼(がん)光(こう)は鋭(するど)い。



「だが偽(ぎ)造(ぞう)をそのまま黙(もく)認(にん)しても、

 いずれ綻(ほころ)びが生(しょう)じるであろうし、

 既(き)得(とく)権(けん)益(えき)に居(い)座(すわ)る貴(き)族(ぞく)らは、

 良(い)い顔(かお)をしないだろう。


 二(ふた)つの領(りょう)主(しゅ)が責(せき)任(にん)を回(かい)避(ひ)する為(ため)、

 オーブの分(ぶん)家(け)であるオーネック家(け)が、

 この街(まち)でルース硬(こう)貨(か)の流(りゅう)通(つう)を開(かい)始(し)させた。


 いまの代(だい)表(ひょう)はマイダスか。


 後(あと)は知(し)っての通(とお)り、

 古(ふる)い大(たい)陸(りく)硬(こう)貨(か)は、各(かく)領(りょう)地(ち)の銀(ぎん)行(こう)が、

 ルース硬(こう)貨(か)へ交(こう)換(かん)を行(おこな)ったわけだ。」



事(じ)情(じょう)やお金(かね)の仕(し)組(く)みは知(し)らないまま、

話(はなし)の流(なが)れを妨(さまた)げないように首(くび)を縦(たて)に振(ふ)った。



「サンサを養(よう)子(し)にしたのも、

 オーブと友(ゆう)好(こう)な関(かん)係(けい)を築(きず)く為(ため)かしら?


 それともこの娼(しょう)館(かん)で、

 誰(だれ)にも買(か)うことのできないドレイプを

 名(な)乗(の)り出(だ)してから?」



「どちらも違(ちが)うな。


 話(はなし)は遡(さかのぼ)るがサンサにな、

 ワシの妻(つま)に子(こ)ができない理(り)由(ゆう)を

 訊(たず)ねたんだ。」



「…夫(ふ)人(じん)はなにかの病(びょう)気(き)だったの?」



「その原(げん)因(いん)もワシにあった。」



エリクは言(い)うと目(め)を伏(ふ)せて、

垂(た)れてきた自(じ)分(ぶん)の前(まえ)髪(かみ)を後(うし)ろに撫(な)でる。



「疫(えき)病(びょう)の報(ほう)告(こく)には全(ぜん)部(ぶ)目(め)を通(とお)し、

 各(かく)地(ち)の略(りゃく)奪(だつ)の鎮(ちん)圧(あつ)には指(し)示(じ)を出(だ)し、

 月(つき)に一(いち)度(ど)、義(ぎ)務(む)で妻(つま)と肌(はだ)を重(かさ)ねるのだ


 だがいつまで経(た)っても子(こ)供(ども)ができない。


 それでサンサに相(そう)談(だん)をすると、

 これも彼(かの)女(じょ)に酷(ひど)く叱(しか)られた。


 妻(つま)のベリーも一(いっ)緒(しょ)に、臣(しん)下(か)らの前(まえ)でな。


 想(そう)像(ぞう)できないだろう。

 無(む)理(り)もない。」



過(か)去(こ)の出(で)来(き)事(ごと)を振(ふ)り返(かえ)り、

自(じ)虐(ぎゃく)的(てき)に乾(かわ)いた笑(わら)いを浮(う)かべる。



「彼(かの)女(じょ)はワシに言(い)い放(はな)った。


 『もっと自(じ)慰(い)に精(せい)励(れい)しなさい!

  ベリーのせいにするな!』

 と。」



「はぁ…。」



唖(あ)然(ぜん)としたわたしを見(み)て、

彼(かれ)は笑(わら)い過(す)ぎて咽(むせ)ていた。



東(とう)部(ぶ)の冗(じょう)談(だん)は判(はん)断(だん)が難(むずか)しい。



「いや、誇(こ)張(ちょう)表(ひょう)現(げん)だな。


 激(はげ)しい言(い)い方(かた)ではなかったが、

 もっと品(ひん)性(せい)に欠(か)けた言(こと)葉(ば)だな。」



――あれより酷(ひど)い言(こと)葉(ば)ってなんなのかしら。



「夜(よる)の館(やかた)は、下(げ)品(ひん)は禁(きん)止(し)よ。」



「なるほど、ここは娼(しょう)館(かん)とは違(ちが)うのか。


 次(つぎ)に言(い)う機(き)会(かい)があれば気(き)をつけよう。」



布(ぬの)を口(くち)に当(あ)てて、咳(せき)払(ばら)いを挟(はさ)んだ。



「それで彼(かの)女(じょ)は、適(てき)当(とう)な理(り)由(ゆう)を並(なら)べて

 弟(おとうと)のタルヴォに仕(し)事(ごと)を押(お)し付(つ)けると、

 ワシに石(せき)塔(とう)を建(た)てろと言(い)ったのだ。」



「石(せき)塔(とう)? 鐘(しょう)楼(ろう)ではなく?」



鐘(しょう)楼(ろう)は時(じ)刻(こく)や火(か)災(さい)を知(し)らせるものでも、

石(せき)塔(とう)ではただの墓(ぼ)標(ひょう)にしかならず、

活(かつ)用(よう)方(ほう)法(ほう)は限(かぎ)られる。



「分(ぶん)水(すい)街(がい)の鐘(しょう)楼(ろう)ほど立(りっ)派(ぱ)なものではないさ。


 先(せん)代(だい)領(りょう)主(しゅ)、エドバードと、

 疫(えき)病(びょう)で死(し)んだ領(りょう)民(みん)達(たち)の墓(はか)だ。


 貴(き)族(ぞく)が領(りょう)民(みん)と同(おな)じ墓(はか)などと反(はん)発(ぱつ)もあった。


 石(せき)塔(とう)一(ひと)つ建(た)てても、

 権(けん)利(り)を脅(おびや)かされる道(どう)理(り)もないと、

 サンサが貴(き)族(ぞく)を口(くち)喧(やかま)しく説(と)き伏(ふ)せた。


 『死(し)を受(う)け入(い)れろ。』とな。


 土(と)地(ち)を拓(ひら)き、作(さく)物(もつ)を育(そだ)てるのは、

 その地(ち)に生(い)きる者(もの)達(たち)の仕(し)事(ごと)だ。


 領(りょう)主(しゅ)としてやるべきことは、

 病(やまい)と死(し)を埋(う)めて隠(かく)すことではなく、

 領(りょう)民(みん)に魂(たましい)の拠(よ)り所(どころ)を与(あた)えることだった。


 エルバードの遺(い)骨(こつ)と遺(い)灰(はい)を、

 領(りょう)民(みん)の遺(い)灰(はい)と共(とも)に石(せき)塔(とう)に収(おさ)めた。


 ワシもやがてそこに入(はい)るだろう。


 墓(はか)穴(あな)の王(おう)の完(かん)成(せい)だ。」



彼(かれ)はまた笑(わら)えない冗(じょう)談(だん)を言(い)って笑(わら)う。



「仕(し)事(ごと)が減(へ)ったからか、

 ベリーも子(こ)供(ども)を授(さず)かったが、

 産(う)まれたのは男(だん)女(じょ)の双(ふた)子(ご)だった。」



双(ふた)子(ご)が産(う)まれる場(ば)合(あい)、

一(ひと)つの受(じゅ)精(せい)卵(らん)の核(かく)が分(ぶん)裂(れつ)すると、

二人(ふたり)の子(こ)供(ども)の性(せい)別(べつ)は必(かなら)ず同(おな)じになる。



二人(ふたり)は同(おな)じ設(せっ)計(けい)図(ず)を持(も)っている、

と医(い)学(がく)書(しょ)に書(か)かれていた。



これを一(いち)卵(らん)性(せい)双(そう)生(せい)児(じ)という。



同(おな)じ設(せっ)計(けい)図(ず)を持(も)つこの双(ふた)子(ご)は、

顔(かお)や性(せい)格(かく)まで似(に)ているという。



人(にん)間(げん)は二(ふた)つの卵(らん)巣(そう)と一(ひと)つの子(し)宮(きゅう)を持(も)ち、

受(じゅ)精(せい)した卵(らん)子(し)を胎(たい)内(ない)、その子(し)宮(きゅう)内(ない)で

300日(にち)近(ちか)く掛(か)けて育(そだ)てた胎(たい)児(じ)を娩(べん)出(しゅつ)する。



二(ふた)つの卵(らん)子(し)が同(どう)時(じ)に受(じゅ)精(せい)すると、

産(う)まれた子(こ)の性(せい)別(べつ)が異(こと)なる場(ば)合(あい)もある。



「二(に)卵(らん)性(せい)双(そう)生(せい)児(じ)ね。」



性(せい)別(べつ)が異(こと)なれば設(せっ)計(けい)図(ず)も異(こと)なる。



性(せい)別(べつ)が同(おな)じだったとしても、

顔(かお)や性(せい)格(かく)、成(せい)長(ちょう)速(そく)度(ど)が異(こと)なれば、

二(に)卵(らん)性(せい)双(そう)生(せい)児(じ)という可(か)能(のう)性(せい)もある。



――後(こう)継(けい)者(しゃ)が生(う)まれて男(だん)女(じょ)が別(わか)れていた。



――それだけで済(す)む単(たん)純(じゅん)な話(はなし)なのかしら。



権(けん)力(りょく)を持(も)つ者(もの)の子(こ)供(ども)、

統(とう)治(ち)者(しゃ)の子(こ)であれば、

性(せい)別(べつ)は別(わか)れていた方(ほう)が良(よ)い。



氏(し)族(ぞく)で地(ち)位(い)や土(と)地(ち)は相(そう)続(ぞく)・分(ぶん)譲(じょう)できても、

権(けん)利(り)までは均(きん)等(とう)に分(ぶん)割(かつ)できない。



その為(ため)、産(う)まれてきた子(こ)の、

どちらかを殺(ころ)してしまうことも多(おお)くある。



同(おな)じ氏(し)族(ぞく)同(どう)士(し)であっても、

男(おとこ)が前(ぜん)提(てい)で、産(う)まれた順(じゅん)、健(けん)康(こう)状(じょう)態(たい)、

親(おや)の違(ちが)いで与(あた)えられる権(けん)利(り)は差(さ)別(べつ)される。



この序(じょ)列(れつ)に、

正(ただ)しく従(したが)う者(もの)であれば問(もん)題(だい)はない。



家(か)名(めい)を継(つ)がせられない者(もの)からは、

逆(ぎゃく)心(しん)の恐(おそ)れもある。



理(り)想(そう)としては先(さき)の子(こ)が男(おとこ)であり、

以(い)降(こう)は女(おんな)が望(のぞ)ましいとされる。



――エリクの弟(おとうと)はすでに子(こ)がいて、

  成(せい)年(ねん)だとすると…。



「ワシにとっては待(たい)望(ぼう)の子(こ)供(ども)で、

 妻(つま)のベリーも喜(よろこ)び、

 子(こ)供(ども)達(たち)の服(ふく)を好(す)き放(ほう)題(だい)作(つく)った。


 子(こ)育(そだ)ては苦(く)労(ろう)させたが、

 ワシ達(たち)はサンサのおかげで、

 満(み)たされていったよ。」



わたしの懸(け)念(ねん)は出(で)過(す)ぎた思(し)考(こう)で、

エリクは穏(おだ)やかな声(こえ)で話(はなし)を続(つづ)ける。



「サンサから教(おそ)わったシルクの生(せい)産(さん)も、

 長(なが)い年(ねん)月(げつ)が掛(か)かったが、ようやく、

 量(りょう)産(さん)を確(かく)立(りつ)することができた。


 彼(かの)女(じょ)はなんでも知(し)っていても、

 足(た)りないものがあった。」



「犬(いぬ)と同(おな)じ忠(ちゅう)誠(せい)心(しん)かしら?」



「ははっ。確(たし)かに。

 正(せい)解(かい)ではあるが、間(ま)違(ちが)っている。」



わたしの冗(じょう)談(だん)ではない意(い)見(けん)に、

納(なっ)得(とく)しかけたエリクは笑(わら)った後(あと)に、

体(てい)裁(さい)を保(たも)つべく咳(せき)払(ばら)いをした。



「犬(いぬ)には首(くび)輪(わ)を、と言(い)ったのは

 先(せん)代(だい)、エドバードの口(くち)癖(ぐせ)だ。


 右(みぎ)腕(うで)も無(な)く女(おんな)でその上(うえ)、飾(しょく)緒(しょ)も無(な)い。


 オーブのグレイ老(ろう)は、

 彼(かの)女(じょ)に地(ち)位(い)を与(あた)えなかった。


 領(りょう)民(みん)には人(じん)望(ぼう)があったが、

 彼(かの)女(じょ)には後(うし)ろ盾(だて)が無(な)くあの性(せい)質(しつ)だろう?


 褒(ほう)美(び)とはいえ領(りょう)地(ち)を与(あた)えては、

 貴(き)族(ぞく)から反(はん)発(ぱつ)を生(う)む。」



「だから養(よう)子(し)なのね。


 エルテル・セポ・サンサ。

 仮(かり)初(そ)めの身(み)分(ぶん)と肩(かた)書(が)き。


 それなら総(そう)督(とく)の地(ち)位(い)も、

 与(あた)えられないものね。」



養(よう)子(し)にしたところで身(み)分(ぶん)は与(あた)えられず、

領(りょう)主(しゅ)としての地(ち)位(い)は継(けい)承(しょう)できない。



「最(さい)初(しょ)は騎(き)士(し)をつけて、

 領(りょう)内(ない)を自(じ)由(ゆう)にさせた。


 当(とう)然(ぜん)、オーブの賢(けん)女(じょ)に対(たい)する

 監(かん)視(し)を兼(か)ねてのことだ。」



「それがどうしてこの街(まち)に?


 追(つい)放(ほう)したの?」



「ははっ。

 タルヴォも同(おな)じ諫(かん)言(げん)をしてくれた。


 その方(ほう)が正(ただ)しかったのかもしれんな。


 娼(しょう)婦(ふ)を名(な)乗(の)っているなど、

 エルテルを侮(ぶ)辱(じょく)する行(こう)為(い)だとな。」



「言(い)われていたのね…。」



顔(かお)も知(し)らない弟(おとうと)の思(し)考(こう)に安(あん)堵(ど)した。



「扱(あつか)いに考(かんが)え倦(あぐ)ねていると、

 彼(かの)女(じょ)から手(て)紙(がみ)が来(き)た。


 分(ぶん)水(すい)街(がい)のゴミ屋(や)が、

 堆(たい)肥(ひ)を用(よう)意(い)するというのだ。」



「マルフの?」



「あぁ。

 いまは総(そう)督(とく)だったな。


 無(む)産(さん)街(がい)の紐(ひも)無(な)しが、

 よくもあれほど偉(えら)くなれたものだ。


 サンサの口(くち)添(ぞ)えがなければ、

 堆(たい)肥(ひ)などは受(う)け入(い)れなかった。


 彼(かの)女(じょ)の企(たくら)みを疑(うたが)い、

 行(こう)動(どう)一(ひと)つを諫(あさ)めても意(い)味(み)はない。


 元(もと)の責(せき)任(にん)は後(こう)見(けん)人(にん)のワシにある。


 それならば、領(りょう)地(ち)に病(やまい)を広(ひろ)めたワシが、

 謗(そし)られるだけで済(す)むだろう。


 妻(つま)のベリーは妙(みょう)な例(たと)えをしたよ。


 『犬(いぬ)に首(くび)輪(わ)ではなく、

  猫(ねこ)に飾(しょく)緒(しょ)を与(あた)えた。』のだと。


 なるほどな。


 その野(の)猫(ねこ)は、

 大(たい)陸(りく)の金(きん)貨(か)よりも価(か)値(ち)があった。」



「分(ぶん)水(すい)街(がい)で遊(あそ)び歩(ある)いてた、

 放(ほう)蕩(とう)娘(むすめ)ではなかったのね。」



「人(ひと)聞(ぎ)きが悪(わる)いわね。」



「わっ。」



サンサの昔(むかし)話(ばなし)に集(しゅう)中(ちゅう)して、

本(ほん)人(にん)が近(ちか)寄(よ)ったことに気(き)付(づ)かなかった。



「裁(さい)判(ばん)以(い)外(がい)で弁(べん)明(めい)は受(う)け付(つ)けないわよ。」



「元(もと)はと言(い)えば、サンサのお客(きゃく)さんなのに。


 サンサが居(い)ないのが悪(わる)いんだよ。」



サンサに抗(こう)議(ぎ)しても聞(き)く耳(みみ)を持(も)たない。



わたしは立(た)って彼(かの)女(じょ)に席(せき)を譲(ゆず)った。



西(にし)側(がわ)の椅(い)子(す)で寝(ね)ていた

イオスを抱(だ)いて起(お)こすと、

鳴(な)いてわたしに抗(こう)議(ぎ)する。



「ふむ。良(い)い匂(にお)いがするね。

 サンサが料(りょう)理(り)したのかい?」



「いいえ。


 この街(まち)で一(いち)番(ばん)優(すぐ)れた厨(ちゅう)房(ぼう)長(ちょう)に

 注(ちゅう)文(もん)しただけよ。」



「サンサは厨(ちゅう)房(ぼう)への出(で)入(い)りは禁(きん)止(し)なのよ。」



「なるほど。

 『やらかした』のかい?


 サンサにとっての、

 禁(きん)足(そく)地(ち)というわけか。」



エリクが笑(わら)いかけてきたので、

わたしも首(くび)を縦(たて)に振(ふ)り、彼(かれ)の冗(じょう)談(だん)を笑(わら)った。



「ちょっとニクス。

 エリクに奇(き)妙(みょう)なこと吹(ふ)き込(こ)まないでよ。」



「信(しん)用(よう)は行(こう)動(どう)から、でしょ。」



サンサは言(い)い返(かえ)せず、

エリクは哄(こう)笑(しょう)してまた咳(せ)き込(こ)んだ。



「サンサ。お客(きゃく)さん?」



「おかえり、スー。

 レナも一(いっ)緒(しょ)なのね。」



アイリアの工(こう)房(ぼう)に通(かよ)う二人(ふたり)が、

珍(めずら)しく夕(ゆう)暮(ぐ)れ前(まえ)に館(やかた)に帰(かえ)ってきた。



挿絵(By みてみん)



分(ぶん)水(すい)街(がい)の防(ぼう)壁(へき)の外(そと)に

エルテルの騎(き)士(し)団(だん)が来(き)て、

街(まち)の中(なか)が騒(さわ)がしいせいで

アイリアが二人(ふたり)を早(はや)めに帰(かえ)らせた。



「レナも来(き)なさい。


 ベリーの服(ふく)で

 いつもお世(せ)話(わ)になってるものね。


 エルテルの領(りょう)主(しゅ)で、

 わたしの養(よう)父《ふ》のエリクが来(き)たのよ。」



「ようこそ、夜(よる)の館(やかた)へ。」



礼(れい)儀(ぎ)正(ただ)しく挨(あい)拶(さつ)をするレナタに倣(なら)い、

スーも彼(かの)女(じょ)の真似(まね)をした。



「あそこのエルテルの騎(き)士(し)様(さま)にも

 椅(い)子(す)を用(よう)意(い)してあげて。


 今日(きょう)はここで一(いっ)緒(しょ)に夕(ゆう)食(しょく)にしましょう。」



「ハーフガンも、一(いっ)緒(しょ)に?」



レナタがわたしの顔(かお)を見(み)る。



「スーとニクスは厨(ちゅう)房(ぼう)で料(りょう)理(り)を、

 レナは椅(い)子(す)を運(はこ)んできて。


 みんな手(て)を洗(あら)ってきなさい。」



「…分(わ)かりました。」



わたしが同(どう)席(せき)するせいか、

ハーフガンを好(す)いていない為(ため)か、

レナタは不(ふ)承(しょう)不(ぶ)承(しょう)に返(へん)事(じ)をした。




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