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金貨の娘  作者: 美穂
第7章 群羊の空

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第7章 第2節 迷子の箱(第2項)

出(で)口(ぐち)を出(で)てから用(よう)意(い)された4台(だい)もの馬(ば)車(しゃ)で、

わたし達(たち)は街(まち)の北(きた)へと移(い)動(どう)する。



箱(はこ)型(がた)馬(ば)車(しゃ)の中(なか)で

セセラは頭巾(フード)と宝飾巾(ヴェール)をしていても、

足(あし)を止(と)めた男(おとこ)に手(て)を振(ふ)り、微(び)笑(しょう)を振(ふ)り撒(ま)く。



彼(かの)女(じょ)はドレイプとして

フランジの模(も)範(はん)となり、

その務(つと)めを果(は)たしている。



馬(ば)車(しゃ)で過(す)ぎ去(さ)る彼(かの)女(じょ)を追(お)いかける男(おとこ)は、

護(ご)衛(えい)達(たち)から棒(ぼう)で叩(たた)かれ突(つ)かれる。



その棒(ぼう)に捕(つか)まって噛(か)みつき、

馬(ば)車(しゃ)に引(ひ)き摺(ず)られる男(おとこ)もいた。



ただの移(い)動(どう)でもドレイプの人(にん)気(き)は激(はげ)しく、

残(のこ)り香(が)だけで風(ふう)紀(き)が乱(みだ)れてしまう。



彼(かの)女(じょ)への熱(ねっ)狂(きょう)的(てき)な人(にん)気(き)を見(み)たフランジは、

ドレイプになる前(まえ)から粛(しゅく)然(ぜん)とする。



いつもの強(つよ)気(き)なファウナも

わたしの隣(となり)で項(うな)垂(だ)れていた。



彼(かの)女(じょ)はずっと溜(た)め息(いき)を吐(つ)いては、

わたしを何(なん)度(ど)も見(み)てくる。



同(どう)情(じょう)を乞(こ)うファウナに、

わたしは声(こえ)を掛(か)けないよう努(つと)める。



わたしが気(き)遣(づか)ったところで

彼(かの)女(じょ)の望(のぞ)みは適(かな)わない。



腕(うで)の中(なか)でイオスが欠伸(あくび)をする。



目(もく)的(てき)地(ち)の孤(こ)児(じ)院(いん)は、

館(やかた)から歩(ある)いても辿(たど)り着(つ)ける場(ば)所(しょ)にあった。



赤(あか)土(つち)の丘(おか)を北(きた)に向(む)かって下(くだ)り、

運(うん)河(が)を越(こ)えてエルテルに流(なが)れる川(かわ)の手(て)前(まえ)に

煉(れん)瓦(が)造(づく)りの大(だい)小(しょう)ある二(ふた)つの建(たて)物(もの)。



挿絵(By みてみん)



わたしの腰(こし)ほどの高(たか)さもない煉(れん)瓦(が)塀(べい)は、

モルタルが劣(れっ)化(か)して崩(くず)れている。



護(ご)衛(えい)達(たち)は孤(こ)児(じ)院(いん)を囲(かこ)んで外(そと)で待(ま)ち、

同(どう)乗(じょう)していたアルとイオスは馬(ば)車(しゃ)で待(ま)つ。



遠(とお)く聞(き)こえる子(こ)供(ども)達(たち)の

耳(みみ)を劈(つんざ)く声(こえ)を嫌(きら)って、

三(さん)角(かく)形(けい)の耳(みみ)を倒(たお)して警(けい)戒(かい)していた。



孤(こ)児(じ)院(いん)の院(いん)長(ちょう)らしき老(ろう)婆(ば)に案(あん)内(ない)され、

ルービィを先(せん)頭(とう)にして庭(にわ)に入(はい)る。



緑(みどり)の無(な)い荒(あ)れた庭(にわ)に砕(さい)石(せき)で作(つく)られた細(ほそ)い道(みち)。



低(てい)木(ぼく)も花(か)園(えん)も見(み)当(あ)たらない。



庭(にわ)に植(う)えられた木(き)は、

葉(は)もなく折(お)れて朽(く)ちている。



ルービィが危(き)惧(ぐ)していた

木(き)登(のぼ)りの果(は)ての姿(すがた)だった。



フランジが懐(なつ)かしがっている。



褐(かっ)色(しょく)の煉(れん)瓦(が)が雨(あま)染(じ)みで黒(くろ)く汚(よご)れた、

古(ふる)びた大(おお)きな建(たて)物(もの)。



建(たて)物(もの)の壁(かべ)近(ちか)くの草(くさ)は伸(の)びて、

繁(はん)茂(も)した蔓(つる)草(くさ)が壁(へき)面(めん)を覆(おお)って屋(や)根(ね)に届(とど)く。



隣(となり)の建(たて)物(もの)の、比(ひ)較(かく)的(てき)新(あたら)しい白(はく)亜(あ)の外(がい)壁(へき)は、

数(かず)々(かず)の投(とう)石(せき)を受(う)けて表(ひょう)面(めん)の一(いち)部(ぶ)が剥(は)がれて、

赤(あか)色(いろ)の煉(れん)瓦(が)が剥(む)き出(だ)しになっている。



「隣(となり)が避(ひ)難(なん)所(じょ)ね。」とサンサが言(い)う。



「スーとウラが居(い)たところね。」



「娼(しょう)婦(ふ)の逃(に)げ場(ば)所(しょ)を、

 以(い)前(ぜん)の総(そう)督(とく)が用(よう)意(い)したのよ。


 まあ、知(し)られてはないわね。


 もし館(やかた)を抜(ぬ)け出(だ)して、

 拠(よ)り所(どころ)を失(うしな)った時(とき)に

 利(り)用(よう)するといいわよ。」



「予(よ)定(てい)があればね。」



「あら?

 意(い)地(じ)悪(わる)に聞(き)こえたかしら。


 前(まえ)もって準(じゅん)備(び)しておけば、

 素(す)足(あし)で脱(だっ)走(そう)するよりは良(い)いでしょ?」



わたしの過(か)去(こ)の軽(けい)挙(きょ)。



同(どう)意(い)し難(がた)い意(い)地(じ)悪(わる)な助(じょ)言(げん)に足(あし)が止(と)まる。



館(やかた)に入(はい)っていく彼(かの)女(じょ)の背(せ)中(なか)を

黙(だま)って見(み)つめた。




 ◆




孤(こ)児(じ)達(たち)はすでに食(しょく)堂(どう)に集(あつ)められている。



室(しつ)内(ない)には長(なが)いテーブルが4つあり、

二(ふた)つの列(れつ)を形(けい)成(せい)している。



ハンドベルが鳴(な)らされると、

孤(こ)児(じ)達(たち)は忙(せわ)しく荒(あら)々(あら)しく動(うご)き回(まわ)り、

走(はし)り、倒(たお)れ、喧(かまびす)しい声(こえ)が響(ひび)く。



食(しょく)事(じ)がテーブル毎(ごと)に分(わ)けられる様(よう)子(す)を、

わたし達(たち)は横(よこ)一(いち)列(れつ)に並(なら)んで見(み)ていた。



乳(う)母(ば)からお乳(ちち)を与(あた)えられる赤(あか)子(ご)、

わたしに近(ちか)い年(とし)の子(こ)も居(い)る。



歯(は)も生(は)え揃(そろ)っていない子(こ)などは、

自(じ)分(ぶん)が収(おさ)められた椅(い)子(す)から出(で)られずに、

巣(す)で餌(えさ)を欲(ほ)しがる雛(ひな)鳥(どり)みたいだった。



年(ねん)長(ちょう)の子(こ)達(たち)が食(しょく)事(じ)の準(じゅん)備(び)をしている。



わたし達(たち)が来(らい)館(かん)したことで、

年(ねん)少(しょう)の子(こ)達(たち)はお喋(しゃべ)りに夢(む)中(ちゅう)で、

椅(い)子(す)の上(うえ)に立(た)ったりと落(お)ち着(つ)きがない。



夜(よる)の館(やかた)の食(しょく)堂(どう)とは正(せい)反(はん)対(たい)の光(こう)景(けい)。



わたしを同(おな)じ孤(こ)児(じ)と思(おも)っているのか、

隣(となり)に立(た)って見(み)てくる少(しょう)女(じょ)までいた。



「お嬢(じょう)様(さま)はこんな場(ば)所(しょ)で、

 なにされてらっしゃるのよ?」



わたしの隣(となり)に立(た)つ少(しょう)女(じょ)が言(い)った。



暗(くら)い赤(あか)髪(がみ)の下(した)から、

赤(あか)い瞳(ひとみ)がわたしの顔(かお)を見(み)つめる。



挿絵(By みてみん)



「ははっ! お嬢(じょう)様(さま)?」



気(き)落(お)ちしていたファウナが

それを耳(みみ)にして笑(わら)う。



「捓(からか)わないで。」



「また奴(ど)隷(れい)を選(えら)びなさるの?」



「奴(ど)隷(れい)? また? 違(ちが)うわよ。」



彼(かの)女(じょ)は自(じ)分(ぶん)を下(げ)女(じょ)と勘(かん)違(ちが)いしているのか、

わたしに怯(おび)えて訊(たず)ねる。



「声(こえ)変(が)わりなさったの?」



「声(こえ)変(が)わりなんてしてないわ。

 男(おとこ)ではないもの。」



わたしはこの低(ひく)い声(せい)質(しつ)のせいで

捓(からか)われることが多(おお)かった。



彼(かの)女(じょ)の質(しつ)問(もん)はまだ止(と)まらない。



「お嬢(じょう)様(さま)は本(ほん)当(とう)に神(かみ)の子(こ)なの?」



「クイナ。迷(めい)惑(わく)を掛(か)けてはダメ。」



年(ねん)長(ちょう)の子(こ)がクイナと呼(よ)んだ少(しょう)女(じょ)の手(て)を取(と)る。



「トリン。ねえ、見(み)て。お嬢(じょう)様(さま)なのよ。」



トリンと呼(よ)ばれた子(こ)は、

赤(あか)髪(がみ)に暗(くら)い黒(くろ)色(いろ)の目(め)でわたしを睨(にら)みつける。



挿絵(By みてみん)



トリンは男(だん)性(せい)名(めい)に似(に)た発(はつ)音(おん)の名(な)前(まえ)。



生(う)まれた娘(むすめ)に対(たい)し、

実(じっ)父(ぷ)が息子(むすこ)同(どう)然(ぜん)に名(な)付(づ)けたのかもしれない。



「お嬢(じょう)様(さま)ではないわよ。


 …似(に)てないもの。」



「そうかなぁ?」



「人(ひと)買(か)い連(れん)中(ちゅう)よ。


 ほら、行(い)くよ。」



二人(ふたり)はそれぞれ軽(かる)く頭(あたま)を下(さ)げて、

自(じ)分(ぶん)達(たち)の席(せき)に着(つ)いた。



「お嬢(じょう)様(さま)…。ふふふ。」



復(ふく)唱(しょう)するファウナがずっと笑(わら)っていた。



「一人(ひとり)ずつ選(えら)ばせようかしら。

 6人(にん)だものね。」



わたし達(たち)の前(まえ)に立(た)つルービィが、

サンサに提(てい)案(あん)する。



セセラ、シリィ、テミニン、ポワン、

ファウナ、わたしもその中(なか)に含(ふく)まれていた。



「責(せき)任(にん)重(じゅう)大(だい)ね…。」とセセラ。



彼(かの)女(じょ)が煽(あお)るので、

フランジも不(ふ)安(あん)な表(ひょう)情(じょう)を見(み)せる。



「責(せき)任(にん)を持(も)って選(えら)んで欲(ほ)しいわね。


 あなた達(たち)と同(おな)じように、

 一人(ひとり)の人(じん)生(せい)がかかっているのだから。」



「ニクスに全(ぜん)員(いん)分(ぶん)を選(えら)ばせるべきだろ。」



ファウナが告(つ)げた。



「いいわね、それ。」



セセラは笑(わら)って同(どう)意(い)した。



ファウナとセセラの意(い)見(けん)に、

フランジが踟(ためら)いがちに同(どう)調(ちょう)する。



「なんで? わたし?」



「責(せき)任(にん)を投(な)げてるわけでもないぞ。


 自(じ)分(ぶん)達(たち)のフランジになれば

 責(せき)任(にん)が伴(ともな)うことくらい知(し)ってるからな。


 でも一(いっ)方(ぽう)的(てき)に責(せき)任(にん)を擦(なす)り付(つ)けるより

 いまはみんなで選(えら)んで、その責(せき)任(にん)感(かん)を

 分(ぶん)散(さん)した方(ほう)が気(き)が楽(らく)になるだろ。


 選(えら)ぶ側(がわ)、選(えら)ばれる側(がわ)、双(そう)方(ほう)の為(ため)にな。」



ファウナは便(べん)宜(ぎ)的(てき)な理(り)由(ゆう)を並(なら)べて、

わたしではなくルービィを説(せっ)得(とく)する。



彼(かの)女(じょ)の言(こと)葉(ば)にセセラも含(ふく)めてみんな同(どう)調(ちょう)し、

わたしに選(せん)択(たく)を委(ゆだ)ねて見(み)てくる。



「どうせ後(あと)は、

 わたしとあなた達(たち)で面(めん)談(だん)するんだものね。


 サンサも、

 そのつもりで連(つ)れてきたんでしょ?」



ルービィが頷(うなず)いた。



「この中(なか)でドレイプになれると思(おも)える子(こ)を、

 あなたの責(せき)任(にん)で雑(ざつ)に選(えら)んでいいわよ。」



サンサもわたしを促(うなが)し、責(せき)任(にん)を押(お)し付(つ)ける。



彼(かの)女(じょ)は元(もと)からこんなひとだった。



――ドレイプになれる子(こ)の標(ひょう)準(じゅん)なんて、

  わたしに分(わ)かるはずがないわ。



肌(はだ)を重(かさ)ねる相(あい)手(て)を持(も)たないサンサを、

わたしは半(はん)年(とし)程(てい)度(ど)見(み)ていたに過(す)ぎない。



――眼(がん)識(しき)を期(き)待(たい)されても困(こま)るわね。



周(しゅう)囲(い)から同(どう)意(い)を得(え)たとはいえ、

サンサの企(たくら)み通(どお)りに雑(ざつ)に選(えら)ぶつもりもない。



フランジなら年(ねん)齢(れい)は自(じ)分(ぶん)と同(おな)じくらいか、

年(とし)上(うえ)の子(こ)を見(み)積(つ)もる。



「まず右(みぎ)手(て)前(まえ)の、金(きん)と銀(ぎん)の髪(かみ)の二人(ふたり)。

 左(ひだり)の褐(かっ)色(しょく)、赤(あか)髪(がみ)の二人(ふたり)も良(い)いと思(おも)う。


 …真(ま)ん中(なか)あたりにいる、黒(くろ)髪(かみ)の双(ふた)子(ご)?

 彼(かの)女(じょ)達(たち)はどうかな。


 それから、ここに来(き)てた

 奥(おく)に座(すわ)ってる赤(あか)髪(がみ)の子(こ)ね。」



中(ちゅう)指(し)、示(じ)指(し)、母(ぼ)指(し)と立(た)てて

一(ひと)先(ま)ず7人(にん)を選(えら)んだ。



「選(えら)んだ理(り)由(ゆう)を他(ほか)の子(こ)達(たち)に、

 分(わ)かるように説(せつ)明(めい)してあげて。」



サンサのこんな要(よう)求(きゅう)も

わたしは想(そう)定(てい)していた。



「会(かい)話(わ)も交(か)わしたことのない子(こ)の、

 将(しょう)来(らい)なんて誰(だれ)にも判(はん)断(だん)できないよ。


 その上(うえ)で選(えら)んだ子(こ)は、

 まず静(しず)かで落(お)ち着(つ)きのある子(こ)。


 姿(し)勢(せい)の良(よ)い子(こ)、

 館(やかた)で過(す)ごす姿(すがた)が想(そう)像(ぞう)できる子(こ)…かな。」



最(さい)初(しょ)は金(きん)髪(ぱつ)と銀(ぎん)髪(ぱつ)の二人(ふたり)が目(め)を引(ひ)いた。



挿絵(By みてみん)



食(しょく)堂(どう)の騒(さわ)がしさを気(き)にも留(と)めずにいる姿(すがた)は、

他(た)人(にん)を引(ひ)き付(つ)ける力(ちから)を持(も)っている。



彼(かの)女(じょ)達(たち)は周(しゅう)囲(い)に影(えい)響(きょう)を与(あた)え、

影(えい)響(きょう)された子(こ)が集(あつ)まりやすい。



この二人(ふたり)は髪(かみ)の色(いろ)は違(ちが)っても、

2番(ばん)3番(ばん)部屋(べや)で働(はたら)くレデとジールの

姉(し)妹(まい)を思(おも)わせる厳(げん)格(かく)な風(ふう)采(さい)がある。



近(ちか)い理(り)由(ゆう)で選(えら)んだ褐(かっ)色(しょく)と赤(あか)髪(がみ)の二人(ふたり)は、

レデとジールの姉(し)妹(まい)のフランジをしている、

同(おな)い年(どし)のスレマとサャーミに似(に)ている。



挿絵(By みてみん)



あくまでわたしの想(そう)像(ぞう)に過(す)ぎず、

4番(ばん)部屋(べや)の、戒(いまし)めのミュパのような…、

奔(ほん)放(ぽう)で賑(にぎ)やかなひとかもしれない。



黒(くろ)髪(かみ)の双(ふた)子(ご)は姿(し)勢(せい)が良(よ)い――。



挿絵(By みてみん)



そのくらいしか良(い)い点(てん)は見(み)当(あ)たらない。



こちらの様(よう)子(す)をどちらかが確(かく)認(にん)して、

報(ほう)告(こく)を繰(く)り返(かえ)す動(どう)作(さ)が目(め)立(だ)って

心(しん)配(ぱい)な部(ぶ)分(ぶん)もある。



会(かい)話(わ)の内(ない)容(よう)はあまり期(き)待(たい)できない。



ファウナみたいに知(ち)恵(え)のある側(そく)面(めん)を

持(も)っている可(か)能(のう)性(せい)も否(ひ)定(てい)できないので、

ルービィとの面(めん)談(だん)次(し)第(だい)になる。



最(さい)後(ご)はわたしをお嬢(じょう)様(さま)と呼(よ)んだ子(こ)。



挿絵(By みてみん)



クイナという名(な)前(まえ)の幼(おさな)い方(ほう)の赤(あか)髪(がみ)は、

レナタと同(おな)い年(どし)くらいなので選(えら)べなかった。



トリンと呼(よ)ばれた方(ほう)は、

刺(とげ)々(とげ)しい風(ふう)采(さい)をしていた。



挿絵(By みてみん)



彼(かの)女(じょ)なら年(ねん)齢(れい)的(てき)には問(もん)題(だい)ないと考(かんが)えた。



右(みぎ)隣(どなり)のクイナに食(た)べ物(もの)を与(あた)える姿(すがた)を見(み)ると、

周(しゅう)囲(い)への気(き)遣(づか)いができる子(こ)かもしれない。



――トリンって誰(だれ)に似(に)てるのかしら…。



彼(かの)女(じょ)の風(ふう)采(さい)が、

記(き)憶(おく)の中(なか)にある館(やかた)の誰(だれ)にも該(がい)当(とう)しない。



頭(あたま)の中(なか)に灰(はい)色(いろ)の靄(もや)が出(で)る。



「静(しず)かで姿(し)勢(せい)が良(い)い子(こ)ってのは分(わ)かるよ。


 想(そう)像(ぞう)できるってどんな子(こ)だ?」



ファウナは眉(み)間(けん)に力(ちから)を入(い)れる。



「だってこれはわたしの感(かん)覚(かく)だもの。


 数(すう)字(じ)や単(たん)位(い)の標(ひょう)準(じゅん)は無(な)いから、

 簡(かん)単(たん)には言(こと)葉(ば)で説(せつ)明(めい)できないわ。


 サンサが言(い)うには経(けい)験(けん)則(そく)?」



「余(よ)計(けい)分(わ)からんな。」



「みんながそれぞれ持(も)ってる自(じ)信(しん)も、

 言(こと)葉(ば)にして説(せつ)明(めい)するのは難(むずか)しいでしょ?


 それにわたしよりもみんなの方(ほう)が

 長(なが)くフランジをやっているから、

 感(かん)覚(かく)で分(わ)かるはずよ。」



感(かん)覚(かく)は経(けい)験(けん)を理(り)由(ゆう)に説(せっ)得(とく)する他(ほか)なく、

年(ねん)長(ちょう)のフランジの誰(だれ)からも

反(はん)論(ろん)は出(で)なかった。



「あるひとがこんなことを言(い)ってたわ。


 明日(あした)の自(じ)分(ぶん)を想(そう)像(ぞう)して、

 今日(きょう)の自(じ)分(ぶん)を誇(ほこ)れる

 行(こう)動(どう)をしなさいって。」



未(み)来(らい)の目(もく)標(ひょう)と現(げん)在(ざい)の理(り)想(そう)を

意(い)識(しき)させる為(ため)の言(こと)葉(ば)。



これはサンサの言(こと)葉(ば)ではなく、

彼(かの)女(じょ)に伝(つた)えたオーブのグレイの言(こと)葉(ば)。



老(お)いた元(もと)領(りょう)主(しゅ)の言(こと)葉(ば)を借(か)りて、

サンサにあとの説(せっ)得(とく)を委(ゆだ)ねた。



彼(かの)女(じょ)が宝飾巾(ヴェール)の奥(おく)で笑(わら)っている。



「ふふっ。

 良(い)いと思(おも)うわよ。


 誰(だれ)でも最(さい)初(しょ)から完(かん)璧(ぺき)ではないし、

 そんな子(こ)はルービィだって

 求(もと)めてないわ。」



「あなた、

 またおかしな助(じょ)言(げん)でもしたの?」



「してないわよ。ねぇ?」



サンサが同(どう)意(い)を求(もと)めたせいで怪(あや)しまれた。



ルービィに疑(うたが)われるような、

後(うし)ろ暗(ぐら)い行(こう)為(い)はたぶん、まだしていない。



「あとはあなた達(たち)が夜(よる)の館(やかた)で培(つちか)ってきた、

 経(けい)験(けん)と感(かん)性(せい)を信(しん)じなさい。


 これなら今(こん)度(ど)の

 ニクスの勉(べん)強(きょう)会(かい)も楽(たの)しみね。」



サンサが一(ひと)言(こと)付(つ)け加(くわ)えると、

フランジも好(こう)奇(き)の視(し)線(せん)を向(む)けてくる。



不(ふ)本(ほん)意(い)なことに、

わたしの主(しゅ)張(ちょう)はサンサの考(かんが)えと

同(おな)じになってしまった。



塔(とう)で暮(く)らしていたわたしは、

司(し)書(しょ)官(かん)のゴレムから文(も)字(じ)や言(こと)葉(ば)を学(まな)んだ。



挿絵(By みてみん)



館(やかた)ではスー、メノー、ファウナ、レナタと、

それからサンサが居(い)なければ、

言(こと)葉(ば)の理(り)解(かい)が不(ふ)完(かん)全(ぜん)な状(じょう)態(たい)にも

気(き)付(づ)けなかった。



『賢(けん)者(じゃ)は炎(ほのお)を操(あやつ)り、愚(ぐ)者(しゃ)は炎(ほのお)を崇(あが)める。』



学(まな)ぶ機(き)会(かい)がなければ、

分(わ)からないことは分(わ)からないままになる。



それでは分(わ)からないもの、

『ニース』になってしまう。



これは本(ほん)の知(ち)識(しき)ではなく、

夜(よる)の館(やかた)で半(はん)年(とし)間(かん)過(す)ごしたわたしの感(かん)覚(かく)。



「あなた達(たち)は誰(だれ)も選(えら)ばないのかしら。


 それなら後(あと)から面(めん)談(だん)して、

 ニクスの言(い)う感(かん)覚(かく)が掴(つか)めればいいわね。」



ルービィはフランジに意(い)見(けん)を求(もと)める。



セセラもファウナも納(なっ)得(とく)して、

他(ほか)の子(こ)達(たち)は顔(かお)を見(み)合(あ)わせて頷(うなず)く。



――誰(だれ)だって自(じ)信(しん)がないのは当(とう)然(ぜん)よね。



――この選(せん)考(こう)会(かい)は

  彼(かの)女(じょ)達(たち)に責(せき)任(にん)と覚(かく)悟(ご)以(い)外(がい)に、

  自(じ)信(しん)を与(あた)える目(もく)的(てき)があるのかしら。



「ルービィ。もういいわね。」



「これから面(めん)談(だん)よ?」



「それはルービィ達(たち)のお仕(し)事(ごと)。


 グルグスを連(つ)れてもう行(い)くわね。


 ニクスに連(つ)れていきたいお店(みせ)があるから、

 わたし達(たち)は歩(ある)いて帰(かえ)るわ。」



「わかったわ。ガロムの所(ところ)ね。」



サンサが勝(かっ)手(て)を言(い)っても、

ルービィは理(り)解(かい)を示(しめ)して反(はん)対(たい)しなかった。



「え? もうどこか行(い)くの? 終(お)わり?」



「今日(きょう)のあなたの仕(し)事(ごと)はもうお終(しま)い。


 お腹(なか)も空(す)いたでしょ?


 特(とく)別(べつ)なものを食(た)べさせてあげるわ。」



サンサが声(こえ)を弾(はず)ませたので、

わたしはまた不(ふ)安(あん)を覚(おぼ)えた。




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