↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
金貨の娘  作者: 美穂
第7章 群羊の空

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

85/174

第7章 第1節 黄金の蜜(第3項)

わたしが厨(ちゅう)房(ぼう)からガラス瓶(びん)を持ってくると、

ウントが倉(そう)庫(こ)の片(かた)付(づ)けから戻(もど)ってきた。



「お、終(お)わった、ぞ。」



周(しゅう)囲(い)に向(む)けて尖(とが)らせていた銀(ぎん)の髪(かみ)の毛(け)は

汗(あせ)に濡(ぬ)れて見(み)る影(かげ)も無(な)く、

剥(む)かれたナショーの皮(かわ)のようだった。



サンサはウントを半(はん)眼(がん)で見(み)た。



彼(かの)女(じょ)はなにをするでもなく、

テーブルの上(うえ)に座(すわ)るアルを

長(なが)いあいだ黙(だま)って見(み)つめていた。



来(らい)客(きゃく)の予(よ)定(てい)がなくても

天(てん)蓋(がい)の日(ひ)陰(かげ)に座(すわ)るサンサは、

背(せ)筋(すじ)を伸(の)ばして美(うつく)しい姿(し)勢(せい)を保(たも)っている。



認(にん)証(しょう)管(かん)理(り)補(ほ)佐(さ)のファウナは、

こんなサンサから仕(し)事(ごと)が与(あた)えられず

退(たい)屈(くつ)に耐(た)えられなかったという。



「疲(つか)れてそうね。


 お昼(ひる)は過(す)ぎても宣(せん)言(げん)通(どお)り、

 一人(ひとり)でできたのね。」



「言(い)った、だろ…。」



強(つよ)がっていても息(いき)を切(き)らして、

両(りょう)腕(うで)は疲(つか)れきって肩(かた)で呼(こ)吸(きゅう)をしている。



疲(ひ)労(ろう)の具(ぐ)合(あい)が一(ひと)目(め)で分(わ)かる。



「ほら。飲(の)みなさい。」



「おう。」



サンサから銀(ぎん)の杯(さかづき)を受(う)け取(と)り、

彼(かれ)はそれを踟(ためら)いなく一(いっ)気(き)に飲(の)み干(ほ)す。



「プァッ! 水(みず)かぁ?」



「護(ご)衛(えい)であっても

 館(やかた)ではお酒(さけ)を与(あた)えはしないわ。


 手(て)が痺(しび)れて動(うご)かないでしょ?

 水(みず)を飲(の)まないと死(し)ぬわよ。


 ニクスがあなたの為(ため)に作(つく)ったのよ。


 感(かん)謝(しゃ)なさい。」



「んだよ。

 ハーフガンなんて

 ずっと酒(さけ)を飲(の)んでたんだろ。」



わたしが館(やかた)に来(き)た時(とき)のハーフガンは、

騎(き)士(し)とは思(おも)えない浮(ふ)浪(ろう)者(しゃ)の姿(すがた)をしていた。



「なにを競(きそ)ってるのかしら。


 それであなたもメノーに蹴(け)られて

 レナに水(みず)を浴(あ)びせられたいの?


 あなた達(たち)が似(に)てると思(おも)ったら

 共(きょう)通(つう)の趣(しゅ)味(み)があったのね。」



「似(に)てねえだろっ!」



サンサはウントから杯(さかづき)を受(う)け取(と)り、

テーブルに置(お)く。



それから彼(かの)女(じょ)は

黄(こ)金(がね)色(いろ)の玉(たま)粒(つぶ)を彼(かれ)に手(て)渡(わた)した。



挿絵(By みてみん)



「これも食(た)べていいわよ。」



「なんだこれ?」



「蜂(はち)蜜(みつ)の飴(あめ)よ。

 あなたは食(た)べたことないでしょ?」



「かってぇ! 石(いし)だろっこれっ!」



彼(かれ)は飴(あめ)を歯(は)で噛(か)もうとする。



「噛(か)んだら歯(は)が欠(か)けるわよ。

 口(くち)の中(なか)で舐(な)めて溶(と)かすものよ。


 食(しょく)事(じ)をして充(じゅう)分(ぶん)に身体(からだ)を休(やす)めなさい。」



「疲(つか)れてねえし。」



「歯(は)も磨(みが)きなさいよっ。」



「うるせえ! 婆(ばばあ)ぁっ!」



小(こ)言(ごと)を並(なら)べるサンサに罵(ば)声(せい)を浴(あ)びせ、

彼(かれ)は玄(げん)関(かん)の方(ほう)へ去(さ)ってしまう。



わたしは彼(かれ)の背(せ)中(なか)に、

書(しょ)字(じ)板(ばん)のスタイラスの先(さき)を向(む)けて

サンサに訊(たず)ねた。



「サンサって怒(おこ)らないよね。


 ウントに期(き)待(たい)してないから?」



「相(あい)手(て)の挑(ちょう)発(はつ)に応(おう)じても、

 得(え)られるものがないからよ。


 感(かん)情(じょう)を否(ひ)定(てい)はしないわよ。


 演(えん)劇(げき)は感(かん)情(じょう)を見(み)せないとできないものね。


 それでお客(きゃく)さんの受(う)けも良(よ)くなるわ。


 感(かん)情(じょう)論(ろん)にも書(か)かれてたわよね。


 感(かん)情(じょう)を発(はつ)露(ろ)させることで、

 人(じん)生(せい)が豊(ゆた)かになると考(かんが)えるひともいる。


 けれど、その感(かん)情(じょう)に

 見(み)返(かえ)りを求(もと)めるのは危(き)険(けん)だもの。」



――感(かん)情(じょう)に見(み)返(かえ)り?



「根(こん)拠(きょ)があるの?」



「そんな大(たい)層(そう)なものないわよ。


 これはあくまで経(けい)験(けん)則(そく)ね。


 対(たい)価(か)に見(み)合(あ)うだけの報(ほう)酬(しゅう)が無(な)ければ、

 原(げん)因(いん)を探(さぐ)ってしまいかねない。


 ニクスは体(たい)調(ちょう)を崩(くず)した時(とき)の原(げん)因(いん)を、

 祈(いの)りを欠(か)いたせいにはしないでしょ?


 それと同(おな)じように、

 感(かん)情(じょう)豊(ゆた)かなひとを真似(まね)しても

 同(おな)じだけ満(み)たされるはずはないのよ。」



わたしは首(くび)を縦(たて)に振(ふ)り、自(じ)信(しん)なく肯(こう)定(てい)する。



この館(やかた)でスーやミュパみたいに、

感(かん)情(じょう)豊(ゆた)かに楽(たの)しく過(す)ごすことは

わたしには難(むずか)しい。



「感(かん)情(じょう)に流(なが)されて、

 自(じ)制(せい)心(しん)を失(うしな)うひとも居(い)る。


 祭(まつ)りの興(きょう)やお酒(さけ)の勢(いきお)いで、

 荒(あら)ぶるひととかね。


 憎(にく)い過(か)去(こ)に怒(おこ)ってみても、

 過(か)去(こ)は変(か)わらないものよね。


 復(ふく)讐(しゅう)心(しん)を抱(いだ)いても、

 復(ふく)讐(しゅう)に怒(いか)りという感(かん)情(じょう)は

 必(ひつ)要(よう)ではないわね。」



「それもサンサの経(けい)験(けん)則(そく)?」



「ふふっ。

 ニクスにも該(がい)当(とう)することよ?」



サンサはテーブルに指(ゆび)を立(た)てると、

声(こえ)を低(ひく)くして続(つづ)けた。



「…目(め)の前(まえ)に復(ふく)讐(しゅう)したい相(あい)手(て)が居(い)たら、

 あなたならどうする?」



「仮(か)定(てい)の話(はなし)でなにかを言(い)えば、

 サンサを喜(よろこ)ばせることになるでしょ。


 挑(ちょう)発(はつ)に応(おう)じてはいけないって

 言(い)ってたばかりだよ。」



サンサは顔(かお)を背(そむ)けて肩(かた)で笑(わら)う。



アルが大(おお)きく口(くち)を開(あ)けて欠伸(あくび)をした。



「ふふふっ。

 あなたの経(けい)験(けん)則(そく)ね。


 書(しょ)字(じ)板(ばん)の手(て)がずっと止(と)まってるわよ。


 あなたの期(き)待(たい)に応(こた)えて、

 日(ひ)が暮(く)れる前(まえ)に書(しょ)室(しつ)の様(よう)子(す)を

 見(み)てきましょうか。」



「本(ほん)があるんだよね?」



「書(しょ)室(しつ)だもの当(とう)然(ぜん)よ。」



彼(かの)女(じょ)は座(すわ)ったまま、

まだアルを見(み)ている。



わたしは彼(かの)女(じょ)を急(せ)かすように、

計(けい)算(さん)途(と)中(ちゅう)の書(しょ)字(じ)板(ばん)を音(おと)を立(た)てて閉(と)じた。



太(ふと)腿(もも)の上(うえ)で眠(ねむ)りかけていたイオスが驚(おどろ)く。



「孤(こ)児(じ)院(いん)から来(く)る子(こ)の教(きょう)養(よう)に、

 色(いろ)々(いろ)と買(か)っておいたのよ。


 貴(き)族(ぞく)を相(あい)手(て)にしても

 恥(は)じのない娼(しょう)婦(ふ)にする、

 ってルービィを騙(だま)してね。」



「…あの、サンサ。」



彼(かの)女(じょ)はわたしの次(つぎ)の言(こと)葉(ば)を待(ま)った。



「わたし、娼(しょう)婦(ふ)…

 ドレイプにはなりたくない。」



それを聞(き)いても彼(かの)女(じょ)は怒(おこ)らない。



彼(かの)女(じょ)はわたしに期(き)待(たい)していないので、

レナタのように泣(な)いて失(しつ)望(ぼう)もしない。



サンサは予(よ)想(そう)した通(とお)りに口(こう)角(かく)を上(あ)げる。



「この館(やかた)を脱(だっ)走(そう)した時(とき)から、

 そんなことみんな知(し)ってるわよ。


 理(り)由(ゆう)があるんでしょ?」



――理(り)由(ゆう)。



「…これは、身(み)分(ぶん)から来(く)る

 嫌(けん)悪(お)でもないと思(おも)う。


 メノーやボナ達(たち)には敬(けい)意(い)を持(も)っている。

 …ファウナにも持(も)ってるよ。


 でもわたしはドレイプに対(たい)して、

 レナタくらい高(こう)潔(けつ)な憧(あこが)れは持(も)ってない。」



レナタみたいな目(もく)標(ひょう)もなければ、

望(のぞ)んでフランジをになったわけでも、

ドレイプに理(り)想(そう)も抱(いだ)いていない。



「それは良(い)いわね。」



「ドレイプになりたくないんだよ?」



微(び)笑(しょう)するサンサに説(せっ)得(とく)は通(つう)じず、

彼(かの)女(じょ)はわたしを館(やかた)から追(お)い出(だ)しもしない。



「ふふっ。

 同(おな)じである必(ひつ)要(よう)はないわよ。


 あなたはメノーでもボナでも、

 レナでもないことを理(り)解(かい)したのよ。


 自(じ)分(ぶん)と他(た)人(にん)を比(ひ)較(かく)した立(りっ)派(ぱ)な差(さ)別(べつ)ね。」



「…差(さ)別(べつ)?」



「これは単(たん)純(じゅん)に概(がい)念(ねん)の話(はなし)ね。


 物(ぶっ)質(しつ)と生(せい)物(ぶつ)の違(ちが)い。または自(じ)分(ぶん)と他(た)人(にん)ね。


 生(せい)物(ぶつ)は成(せい)長(ちょう)と繁(はん)殖(しょく)の為(ため)の設(せっ)計(けい)図(ず)を持(も)ち、

 これを分(わ)けるための学(がく)問(もん)があるわね。


 このくらいは知(し)ってるわよね?」



「設(せっ)計(けい)図(ず)は、医(い)学(がく)書(しょ)で読(よ)んだことがある。」



生(せい)物(ぶつ)の身体(からだ)には、目(め)に見(み)えないほど

小(ちい)さな設(せっ)計(けい)図(ず)が存(そん)在(ざい)するとされている。



設(せっ)計(けい)図(ず)に従(したが)い身体(からだ)が作(つく)られて細(さい)胞(ぼう)を増(ふ)やし、

成(せい)長(ちょう)して古(ふる)くなったものは、

新(あたら)しい細(さい)胞(ぼう)に換(か)えて修(しゅう)復(ふく)する。



そして繁(はん)殖(しょく)時(じ)には、設(せっ)計(けい)図(ず)の一(いち)部(ぶ)を

子(こ)や孫(まご)に引(ひ)き継(つ)ぐ機(き)能(のう)がある。



「男(だん)女(じょ)の差(さ)、髪(かみ)や目(め)の色(いろ)、顔(かお)や体(たい)格(かく)。


 分(ぶん)類(るい)としての差(さ)別(べつ)、それ以(い)外(がい)にも、

 形(けい)容(よう)を加(くわ)えた場(ば)合(あい)の差(さ)別(べつ)もあるわね。


 そのひとの出(しゅつ)自(じ)、能(のう)力(りょく)、

 わたしのような欠(けっ)損(そん)も該(がい)当(とう)するわ。


 思(し)想(そう)で語(かた)られる標(ひょう)準(じゅん)のない差(さ)別(べつ)よね。


 これはどうかしら。


 アル、イオス、ここに並(なら)んで。」



サンサがテーブルの天(てん)板(ばん)を指(ゆび)先(さき)で小(こ)突(づ)く。



それを耳(みみ)にした2匹(ひき)は、

サンサに言(い)われた通(とお)りに動(うご)いて

テーブルの上(うえ)に並(なら)んで腰(こし)を下(お)ろす。



「この二(ふた)つは猫(ねこ)という動(どう)物(ぶつ)。獣(けもの)。


 毛(け)の黒(くろ)い方(ほう)がアル、白(はく)毛(もう)はイオスという

 個(こ)別(べつ)の名(な)前(まえ)を持(も)ってるわね。


 わたしが連(つ)れてきたのがアル、

 あなたが連(つ)れてきたのはイオス。」



わたしは黙(だま)って顎(あご)を引(ひ)く。



「資(し)源(げん)は限(かぎ)られていて、

 このうちのどちらか一(いっ)方(ぽう)にだけ

 食(しょく)事(じ)を与(あた)えられるとするなら、

 あなたはどちらを選(えら)ぶ?」



「序(じょ)列(れつ)の話(はなし)?」



サンサはアルの頭(あたま)を撫(な)でてから、

同(おな)じ手(て)でイオスの背(せ)中(なか)を撫(な)でると

腰(こし)を上(あ)げてさらに催(さい)促(そく)をしていた。



「ふふっ。

 この時(とき)の差(さ)別(べつ)は、優(ゆう)遇(ぐう)の口(こう)実(じつ)になる。


 だから大(たい)陸(りく)では差(さ)別(べつ)を他(ほか)の言(こと)葉(ば)に変(か)えて、

 侵(しん)攻(こう)と略(りゃく)奪(だつ)を正(せい)当(とう)化(か)してるわね。」



彼(かの)女(じょ)はイオスの尻尾(しっぽ)の付(つ)け根(ね)を指(ゆび)で叩(たた)くと、

アルがイオスを羨(うらや)んで見(み)ている。



「ニクスは娼(しょう)婦(ふ)にならないという

 自(じ)分(ぶん)に一(ひと)つの条(じょう)件(けん)を設(もう)けたに過(す)ぎないの。


 お酒(さけ)を飲(の)まない、とかね。


 賢(さか)しらに言(い)えば、

 理(り)念(ねん)と呼(よ)んだりもするわね。


 次(つぎ)は目(もく)標(ひょう)を見(み)つけに行(い)きましょうか。」



サンサは目(め)を細(ほそ)めてから立(た)ち上(あ)がった。




 ◆




書(しょ)室(しつ)に入(はい)っていたとは思(おも)えない量(りょう)の

ガラクタが玉(たま)石(いし)の庭(にわ)に広(ひろ)がる。



「広(こう)大(だい)なる残(ざん)滓(し)だね。」



わたしの思(おも)いつきの言(こと)葉(ば)に、

サンサが冷(さ)めた目(め)で無(む)言(ごん)の抗(こう)議(ぎ)をする。



「これでは洗(せん)濯(たく)の妨(さまた)げになるわね。


 果(か)樹(じゅ)園(えん)に移(い)動(どう)させるように、

 後(あと)で言(い)っておかないと。


 どうせ春(はる)までは食(た)べられない

 果(か)実(じつ)ばかりなのだから。」



ランタンを握(にぎ)ったサンサは溜(た)め息(いき)を吐(つ)く。



わたしが扉(とびら)を開(あ)けると、

彼(かの)女(じょ)が書(しょ)室(しつ)に入(はい)っていく。



窓(まど)のない書(しょ)室(しつ)の中(ちゅう)央(おう)にはテーブルと椅(い)子(す)。



壁(かべ)際(ぎわ)には太(ふと)い柱(はしら)と厚(あつ)い板(いた)で作(つく)られた棚(たな)が、

天(てん)井(じょう)にまで段(だん)を築(きず)き、壁(へき)面(めん)を隠(かく)すほど

何(なん)冊(さつ)もの本(ほん)が置(お)かれていた。



「本(ほん)当(とう)に書(しょ)室(しつ)だったんだね。」



「棚(たな)ごとに分(ぶん)野(や)を作(つく)って

 メノーは生(せい)物(ぶつ)学(がく)を読(よ)んでたわね。


 解(かい)剖(ぼう)学(がく)の本(ほん)なんて図(ず)解(かい)もついてるのに、

 フランジは怖(こわ)がって近(ちか)付(づ)かないのよ?」



「サンサが怖(こわ)がらせたからでしょ。」



「レナに読(よ)ませただけなのよ?」



「絶(ぜっ)対(たい)それが原(げん)因(いん)だよ。」



「で、こちら側(がわ)は幾(き)何(か)学(がく)、統(とう)計(けい)、語(ご)学(がく)…、

 兵(へい)学(がく)、それから法(ほう)律(りつ)はもう古(ふる)いわね。


 訴(そ)訟(しょう)記(き)録(ろく)の写(うつ)しもあるわ。」



彼(かの)女(じょ)はテーブルにランタンを置(お)いて、

棚(たな)の本(ほん)を探(さぐ)って懐(なつ)かしむ。



「サンサ。口(くち)布(ぬの)はしないの?

 病(やまい)は口(くち)からでしょ。」



わたしは埃(ほこり)の舞(ま)う室(しつ)内(ない)に入(はい)らず、

口(くち)布(ぬの)を当(あ)てて棚(たな)に置(お)かれていた本(ほん)を見(み)た。



「あったわ。

 これが原(げん)語(ご)の北(ほく)部(ぶ)入(にゅう)植(しょく)記(き)録(ろく)ね。」



「あれは?」



目(もく)的(てき)の本(ほん)を発(はっ)掘(くつ)して喜(よろこ)んでいるサンサに、

わたしは棚(たな)の上(うえ)の方(ほう)に置(お)かれた

箱(はこ)を見(み)つけて視(し)線(せん)を向(む)けた。



サンサは棚(たな)に足(あし)を掛(か)けると、

身(み)軽(がる)に跳(と)んで薄(うす)い箱(はこ)を取(と)った。



彼(かの)女(じょ)が片(かた)手(て)で持(も)ち上(あ)げられるくらい軽(かる)い。



「これね…。」



傾(かたむ)けると中(なか)から軽(けい)妙(みょう)な音(おと)がする。



「楽(がっ)器(き)?」



「あぁ、懐(なつ)かしいわね。」



手(て)にした途(と)端(たん)に中(なか)身(み)を理(り)解(かい)して、

サンサは書(しょ)室(しつ)から出(で)てきて

長(なが)椅(い)子(す)にそれを置(お)いた。



パイル生(き)地(じ)の布(ぬの)が貼(は)られた箱(はこ)の中(なか)には、

硬(こう)貨(か)が何(なん)枚(まい)も入(はい)っていた。



サンサは硬(こう)貨(か)を手(て)にして

箱(はこ)の中(なか)に並(なら)べていく。



青(せい)銅(どう)、銅(どう)、銀(ぎん)と金(きん)。



表(おもて)面(めん)にエンボスの加(か)工(こう)がされた

男(おとこ)の肖(しょう)像(ぞう)が並(なら)ぶ。



「こんな感(かん)じかしら。

 金(きん)貨(か)は1枚(まい)足(た)りないわね。」



「どうしたの? このお金(かね)。」



「あなたが生(う)まれる前(まえ)まで

 島(しま)で使(つか)われてた大(たい)陸(りく)の通(つう)貨(か)よ。」



大(おお)きさの異(こと)なる青(せい)銅(どう)貨(か)と銅(どう)貨(か)が8枚(まい)ずつ、

銀(ぎん)貨(か)は6枚(まい)で、金(きん)貨(か)は11枚(まい)。



「下(うえ)から青(せい)銅(どう)、銅(どう)貨(か)、銀(ぎん)貨(か)、金(きん)貨(か)。


 右(みぎ)側(がわ)ほど価(か)値(ち)が高(たか)くなるわ。


 青(せい)銅(どう)貨(か)と銅(どう)貨(か)は8等(とう)分(ぶん)、6等(とう)分(ぶん)は銀(ぎん)貨(か)。


 金(きん)貨(か)は本(ほん)当(とう)は12種(しゅ)類(るい)で、

 ほとんどは重(おも)さが価(か)値(ち)に繋(つな)がるわよ。」



似(に)通(かよ)った顔(かお)をしたエンボスの肖(しょう)像(ぞう)画(が)は、

並(なら)べないと単(たん)体(たい)で見(み)分(わ)けがつかない。



「硬(こう)貨(か)ってこんなに数(かず)があるんだ。」



「大(たい)陸(りく)の通(つう)貨(か)は統(とう)治(ち)者(しゃ)が変(か)わる度(たび)に、

 新(あたら)しい価(か)値(ち)の硬(こう)貨(か)が作(つく)られるのよ。


 民(みん)衆(しゅう)に王(おう)の偉(い)大(だい)さを喧(けん)伝(でん)する道(どう)具(ぐ)ね。」



硬(こう)貨(か)の材(ざい)料(りょう)を知(し)っていても、

本(ほん)で読(よ)んだだけでは

種(しゅ)類(るい)の数(かず)までは把(は)握(あく)できない。



「王(おう)は決(き)まって自(じ)分(ぶん)を神(かみ)やその化(け)身(しん)、

 または神(かみ)の代(だい)弁(べん)者(しゃ)と主(しゅ)張(ちょう)するの。


 でも金(きん)貨(か)なんてものは、

 貴(き)族(ぞく)が自(じ)分(ぶん)達(たち)だけで使(つか)うものだったのよ。


 地(ち)方(ほう)の民(みん)衆(しゅう)に金(きん)貨(か)は必(ひつ)要(よう)ないから

 流(りゅう)通(つう)量(りょう)も限(かぎ)られてたわ。


 カヴァや分(ぶん)水(すい)街(がい)では、

 昔(むかし)から大(たい)陸(りく)とは別(べつ)のオル銅(どう)貨(か)っていう

 代(だい)用(よう)通(つう)貨(か)が広(ひろ)まっていたものね。


 こんなに種(しゅ)類(るい)があっても

 使(つか)うひとが居(な)かったのよね。」



「これ、数(すう)字(じ)もないの?」



顔(かお)と名(な)前(まえ)らしき記(き)号(ごう)があっても、

数(すう)字(じ)を示(しめ)すものはどこにもない。



「王(おう)の価(か)値(ち)を決(き)めてしまうから、

 数(すう)字(じ)を入(い)れない決(き)まりになってるのよ。


 安(あん)価(か)な肖(しょう)像(ぞう)の王(おう)なんて誰(だれ)でも嫌(いや)でしょ?


 メーニェ島(とう)海(かい)戦(せん)で、

 敗(はい)北(ぼく)した当(とう)時(じ)の王(おう)が肖(しょう)像(ぞう)になった金(きん)貨(か)は、

 価(か)値(ち)が無(な)くなったとまで詩(し)に歌(うた)われたわ。


 それに大(たい)陸(りく)の肖(しょう)像(ぞう)って、

 どの王(おう)も顔(かお)が理(り)想(そう)化(か)されて似(に)るのよね。」



豊(ゆた)かな髪(かみ)、薄(うす)い唇(くちびる)に顎(あご)髭(ひげ)を蓄(たくわ)え、

長(なが)い鼻(はな)筋(すじ)に細(ほそ)い目(め)をした男(おとこ)の顔(かお)では、

並(なら)べても差(さ)は不(ふ)明(めい)確(かく)で見(み)分(わ)けがつかない。



「もう古(ふる)くて使(つか)えない硬(こう)貨(か)だから、

 こんな棚(たな)に残(のこ)ってたんだ。」



「いまでも銀(ぎん)行(こう)に持(も)っていけば、

 50万(まん)ルースくらいにはなるわよ。」



「価(か)値(ち)はあるんだよね?」



数(すう)字(じ)は大(おお)きく聞(き)こえても、

それがどれほどの価(か)値(ち)があるのか、

硬(こう)貨(か)を使(つか)った経(けい)験(けん)のない

わたしには分(わ)からない。



「金(きん)貨(か)に使(つか)う黄(おう)金(ごん)そのものが、

 大(たい)陸(りく)では希(き)少(しょう)で価(か)値(ち)のあるもの

 とされるわね。


 でも大(たい)陸(りく)からの輸(ゆ)入(にゅう)頼(だよ)りで、

 通(つう)貨(か)としては数(かず)が足(た)りなかったのよ。


 様(さま)々(ざま)な要(よう)因(いん)が重(かさ)なって、

 オーブで新(あたら)しく作(つく)ったの。


 おじい、先(せん)々(せん)代(だい)の領(りょう)主(しゅ)、グレイ老(ろう)と一(いっ)緒(しょ)に

 エルテルから正(せい)式(しき)な認(にん)可(か)を受(う)けてね。


 フルリーンの曽(そう)祖(そ)父(ふ)って

 言(い)った方(ほう)が分(わ)かるかしら。」



箱(はこ)の中(なか)の並(なら)べた金(きん)貨(か)の、

欠(か)けた部(ぶ)分(ぶん)に指(ゆび)を立(た)てるサンサ。



「フルリーンの父(ちち)が、

 いまのオーブの領(りょう)主(しゅ)なんだよね。」



「おじいの孫(まご)のメテオラね。


 それといま分(ぶん)水(すい)街(がい)にある銀(ぎん)行(こう)は、

 オーブ領(りょう)主(しゅ)の分(ぶん)家(け)がやってるの。


 オーネック・マイダスという男(おとこ)ね。


 銀(ぎん)行(こう)が無(な)ければ為(かわ)替(せ)も動(うご)かせず、

 島(しま)の経(けい)済(ざい)は成(せい)立(りつ)しないのよ。」



「為(かわ)替(せ)…?」



聞(き)き慣(な)れない用(よう)語(ご)に首(くび)を捻(ひね)る。



「お金(かね)の受(う)け渡(わた)しをする証(しょう)書(しょ)のことね。


 数(かず)の限(かぎ)られる金(きん)貨(か)を、

 エルテルから分(ぶん)水(すい)街(がい)まで

 輸(ゆ)送(そう)する必(ひつ)要(よう)はなくなるでしょ?


 盗(とう)賊(ぞく)が輸(ゆ)送(そう)車(しゃ)を襲(おそ)っても

 金(きん)貨(か)ではないから、証(しょう)書(しょ)は

 かれらに意(い)味(み)の無(な)い紙(かみ)になるの。」



「カヴァのオル銅(どう)貨(か)は使(つか)わなかったんだ。」



わたしの言(こと)葉(ば)にサンサが鼻(はな)で笑(わら)う。



「島(しま)の歴(れき)史(し)が浅(あさ)いのと、

 貴(き)族(ぞく)が権(けん)利(り)を独(どく)占(せん)する為(ため)ね。


 いまでも島(しま)の唯(ゆい)一(いつ)の港(みなと)、洞(どう)窟(くつ)港(こう)から

 何(なん)人(にん)もの奴(ど)隷(れい)が運(はこ)ばれてくるわね。


 島(しま)の人(にん)間(げん)が島(しま)の外(そと)、

 大(たい)陸(りく)へ行(い)けないのは知(し)ってるでしょ。」



わたしが頷(うなず)いてみせると、

彼(かの)女(じょ)は口(こう)角(かく)を上(あ)げてこんなことを言(い)った。



「海(うみ)には船(ふね)を襲(おそ)う

 恐(おそ)ろしい竜(りゅう)が居(い)るからよ。」



「スーが言(い)ってた民(みん)間(かん)伝(でん)承(しょう)の話(はなし)?


 大(たい)陸(りく)との法(ほう)律(りつ)で決(き)められてるんだよね。」



わたしがサンサの企(たくら)み通(どお)りに

怖(こわ)がらないので、彼(かの)女(じょ)は唇(くちびる)を尖(とが)らせる。



「島(しま)の自(じ)由(ゆう)な貿(ぼう)易(えき)を禁(きん)止(し)した、

 海(かい)禁(きん)法(ほう)というわね。


 島(しま)を秘(ひ)匿(とく)する門(もん)番(ばん)がいるのよ。」



「メーニェがその門(もん)番(ばん)?」



ゼズ島(とう)の洞(どう)窟(くつ)港(こう)から西(にし)に位(い)置(ち)する島(しま)。



『なにもない島(しま)』という意(い)味(み)で、

『ゼズ島(とう)冒(ぼう)険(けん)記(き)』に書(か)かれている古(ふる)い国(くに)。



「ラッガの繍(しゅう)旗(き)といえばあそこね。


 鼠(ねずみ)を駆(く)除(じょ)して奴(ど)隷(れい)を運(はこ)び、

 島(しま)の産(さん)物(ぶつ)を得(え)ることができる。


 大(たい)陸(りく)では海(かい)賊(ぞく)島(とう)や傭(よう)兵(へい)国(こっ)家(か)という

 呼(よ)び方(かた)もされるわね。


 洞(どう)窟(くつ)港(こう)と東(とう)部(ぶ)3領(りょう)からは、いまでも

 メーニェを『本(ほん)国(ごく)』なんて呼(よ)んでるわ。


 『なにもない』という島(しま)の名(な)前(まえ)、

 かれらは土(と)地(ち)に根(ね)付(づ)かない氏(し)族(ぞく)ね。


 古(ふる)くから海(うみ)で産(う)まれて海(うみ)で死(し)ぬ、と

 詩(うた)には海(うみ)の民(たみ)なんて書(か)かれ方(かた)もしてる。」



「土(と)地(ち)に根(ね)付(づ)かない?


 海(うみ)の上(うえ)で暮(く)らしてるんだ。」



話(はなし)を聞(き)いても想(そう)像(ぞう)を超(こ)えていて、

事(じ)実(じつ)であっても受(う)け入(い)れ難(がた)い。



「陸(りく)にも上(あ)がるわよ。

 誇(こ)張(ちょう)してるだけで。


 海(うみ)の上(うえ)では真(ま)水(みず)が得(え)られないもの。


 大(たい)陸(りく)中(ちゅう)央(おう)の半(はん)島(とう)…

 エンカーはかれらの寄(き)港(こう)地(ち)。」



北(ほっ)方(ぽう)のソーンと南(なん)方(ぽう)のクレワに挟(はさ)まれた

中(ちゅう)央(おう)の緩(かん)衝(しょう)地(ち)帯(たい)はラギリ領(りょう)と呼(よ)ばれ、

何(なん)度(ど)も土(と)地(ち)の奪(うば)い合(あ)いが行(おこな)われていた。



中(ちゅう)央(おう)のラギリ領(りょう)にある半(はん)島(とう)と、

その街(まち)の名(な)前(まえ)をエンカーと呼(よ)ぶ。



『ゼズ島(とう)冒(ぼう)険(けん)記(き)』の

出(しゅっ)発(ぱつ)地(ち)点(てん)で登(とう)場(じょう)する。



「大(たい)陸(りく)語(ご)の中(なか)でエンカーン(語)の本(ほん)が多(おお)く

 この島(しま)に輸(ゆ)入(にゅう)される理(り)由(ゆう)はそれね。


 大(たい)陸(りく)の統(とう)治(ち)者(しゃ)が変(か)わる度(たび)に

 お金(かね)の種(しゅ)類(るい)や価(か)値(ち)が変(か)わって、

 お金(かね)の為(ため)にお金(かね)を支(し)払(はら)うなんて

 相(あい)反(はん)するわよね。」



「入(にゅう)植(しょく)から300年(ねん)以(い)上(じょう)も続(つづ)けてたのに、

 貢(みつ)ぎ物(もの)を得(え)られなくなったメーニェは

 なにも言(い)ってこないのかな?」



エルテル、メルセ、オーブの東(とう)部(ぶ)3領(りょう)と

洞(どう)窟(くつ)港(こう)は、メーニェが分(わ)け与(あた)えた領(りょう)地(ち)。



「カヴァとネルタの長(なが)い戦(せん)争(そう)と、

 東(ひがし)で広(ひろ)まったエルテル風邪(かぜ)を警(けい)戒(かい)して、

 なにもしてこなかったのよね。


 歴(れき)史(し)書(しょ)にはまだ記(しる)されていないわね。


 大(たい)陸(りく)でも疫(えき)病(びょう)が広(ひろ)まっていたし、

 資(し)源(げん)を巡(めぐ)って南(なん)北(ぼく)で戦(せん)争(そう)も起(お)きていた。


 島(とう)内(ない)と大(たい)陸(りく)の監(かん)視(し)の目(め)が緩(ゆる)くなったから、

 わたしも機(き)運(うん)に乗(じょう)じることができたわ。


 今年(ことし)はメーニェもこちらの様(よう)子(す)を

 気(き)にかけてはいるみたいね。」



サンサは金(きん)貨(か)を手(て)にして笑(え)みを浮(う)かべる。



「ここの金(きん)貨(か)、12種(しゅ)類(るい)って言(い)ってたのに、

 1枚(まい)足(た)りないのはどうして?


 ずっと倉(そう)庫(こ)に置(お)いてたのに。」



「昔(むかし)、館(やかた)に来(き)たへッペに渡(わた)したのよ。


 早(はや)く帰(かえ)って貰(もら)いたいでしょ。」



「ドレイプがお金(かね)を払(はら)って帰(かえ)らせるなんて、

 主(しゅ)客(かく)転(てん)倒(とう)だよ。」



「渡(わた)す相(あい)手(て)に丁(ちょう)度(ど)いいでしょ。


 ユイガス金(きん)貨(か)という

 この中(なか)で罪(つみ)の重(おも)い硬(こう)貨(か)をね。」



「罪(つみ)の重(おも)い?

 その金(きん)貨(か)って館(やかた)を売(う)るくらいの

 価(か)値(ち)があるの?」



フルリーンが図(と)書(しょ)館(かん)で言(い)っていた

価(か)値(ち)のある金(きん)貨(か)。



「そんな話(はなし)もあったわね。


 大(たい)陸(りく)から入(はい)ってこなくなったから、

 収(しゅう)集(しゅう)家(か)に値(ね)段(だん)を吹(ふ)っかけたのよ。


 あの金(きん)貨(か)が1枚(まい)あっても

 有(ゆう)輪(りん)犂(すき)が買(か)える程(てい)度(ど)の価(か)値(ち)で、

 館(やかた)までとは言(い)えないわね。」



「それを渡(わた)したんだ。」



「黄(おう)金(ごん)なんてものは

 虚(きょ)栄(えい)の装(そう)飾(しょく)が主(おも)な用(よう)途(と)だもの。


 マルフの格(かっ)好(こう)を見(み)ての通(とお)り。


 金(きん)貨(か)は価(か)値(ち)を測(はか)る為(ため)の

 天(てん)秤(びん)の錘(おもり)に過(す)ぎないわ。


 資(し)金(きん)を持(も)つなら金(きん)貨(か)よりも

 金(きん)地(じ)金(がね)の方(ほう)が良(い)いわね。


 これは模(も)造(ぞう)品(ひん)だから

 本(ほん)物(もの)ほど価(か)値(ち)は無(な)いわね。」



「えっ?」聞(き)き間(ま)違(ちが)いかと思(おも)った。



「悪(わる)く言(い)えば偽(ぎ)貨(か)。偽(ぎ)造(ぞう)ね。


 白(はっ)金(きん)と銅(どう)の合(ごう)金(きん)に

 鍍金(めっき)をしているのよ。


 重(おも)さを本(ほん)物(もの)に近(ちか)付(づ)ける為(ため)にね。


 これは持(も)ってるだけで犯(はん)罪(ざい)になるし、

 作(つく)ればもちろん重(じゅう)罪(ざい)よ。」



「そんな危(あぶ)ないもの、

 どうして書(しょ)室(しつ)に置(お)いてあるの?」



「わたしがおじいと一(いっ)緒(しょ)に作(つく)ったからよ。」



「重(じゅう)罪(ざい)人(にん)だ…。」



聞(き)き間(ま)違(ちが)いではなかった。



「大(たい)陸(りく)で作(つく)られた古(ふる)い金(きん)貨(か)よ?


 同(おな)じものを作(つく)るなんて容(よう)易(い)なのだから、

 本(ほん)物(もの)同(どう)等(とう)の金(きん)貨(か)を大(たい)量(りょう)に作(つく)って

 精(せい)巧(こう)な偽(にせ)物(もの)を少(しょう)量(りょう)混(ま)ぜたのよ。」



金(きん)貨(か)を箱(はこ)にしまうと、

彼(かの)女(じょ)は笑(わら)ってわたしに押(お)し付(つ)けた。



「欲(ほ)しければあげるわよ。」



「またわたしを共(きょう)犯(はん)者(しゃ)にしないでよっ。」



箱(はこ)を書(しょ)室(しつ)の棚(たな)の上(うえ)に戻(もど)さなくてはいけない。



わたしは棚(たな)に足(あし)を掛(か)けて跳(と)び上(あ)がると、

身体(からだ)が棚(たな)に接(せっ)触(しょく)して胸(むね)を痛(いた)めた。



この粗(そ)暴(ぼう)な行(こう)為(い)の結(けっ)果(か)、

痛(いた)がるわたしにサンサは呆(あき)れる。



彼(かの)女(じょ)の真似(まね)をするべきではなかった。




 ▶

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。