第7章 第3節 流水の渦(第2項)
湖から流れてきた水が東西に別れ、
幅広い街道が東西と南北に交差する場所に
目的の店があった。
「あの看板のお店よ。」
サンサが顎で示した羊の看板。
真黒な顔の白い毛の羊。
2階のバルコニーは
子供服が干される住宅を兼ねていて、
暗い煉瓦造りの古びた建物だった。
「ひっ! なに! 嫌っ!」
看板を見上げていたらサンサが騒ぎ、
わたしの方に走って戻ってきた。
「忘れ物でも踏んだ?」
「違っ、違うわよ。アレっ!」
店の入口に立ち塞がる四つ足の獣は、
看板に描かれている羊や馬よりも小さい。
パンの焼き色をした若い犬が、
膝ほどの高さがある石の擁壁の上に立ち、
丸まった尻尾を振ってわたし達を出迎えた。
「犬だ。」
「噛まれるわよっ。」
捓うように言うサンサの
警告を無視して近寄ってみた。
お店の前に街娼が数人立っていても、
この犬は彼女達には興味を示さない。
首が革紐とロープで地面に係留され、
犬は一定の距離以上は近付けなかった。
犬はこの街では、
防犯の目的で飼われる動物だと
スーは言っていた。
塔に住んでいた頃のネルタでは、
狩猟目的で犬を飼うひとを多く見かけた。
犬はよく利く鼻を使って巣穴を見つけ、
足で穴を掘り、吠えて獲物を追い出す。
獲物を長い口吻と牙で咬んで仕留めたり、
猟師の前に誘い出す仕事が与えられる。
死んだ人間の魂がやって来る冥界には、
逃げ出そうとする亡者を貪り食う番犬が
神話に登場する。
半神半人の英雄が番犬を生け捕って、
地上に連れ出した冒険譚も残っている。
犬を飼うひとは、
神話の英雄に憧れがあったのかもしれない。
イオスは全身の毛を逆立てて腕を跳び出す。
威嚇をしながら
わたしの肩、首、頭にまで登った。
犬は三角形の耳を立ててこちらに向け、
常に尻尾を立てている。
荒い息遣いで興奮する姿が、
小さなイオスからは
威嚇に見えているのかもしれない。
わたしは犬を驚かせないように静かに屈み、
軽く握った手を鼻先に出した。
「尻尾を踏んでしまうわっ。」と、サンサ。
相手を怒らせるという意味の言い回しでも、
こちらに好奇を示して立った犬の尻尾は
踏みようがない。
わたしが伸ばした拳に、
犬は黒い鼻先を近付けてから舐める。
わたしに跳びつこうと
後ろ足だけで立つ犬を相手に、
臆病なイオスが頭の上で怒っている。
「痛っ。」
叩こうと伸ばして振ったイオスの前脚が、
わたしの額に当たった。
犬の首には板が吊り下げられて、
そこには名前が彫られている。
「ひと懐っこい子ね。
トゥルムスって、
あなた商売の神と同じ名前なの?」
犬にこの名前を付けた人物に、
教養の深さを窺い知ることができる。
両手で頬を撫で、耳の後ろを撫でる。
トゥルムスは名前を呼ばれると
丸まった尻尾を振って喜び、
地面に寝転がるとわたしにお腹を見せた。
塔で暮らしていた頃には
犬を眺めて本を読んだ。
本によると犬は群れを作って暮らし、
主人に対して忠実で従順な忠誠心と
高い警戒心を持つ、と書かれていた。
初めて触れた犬が、
こんなに無防備に興奮する姿を見せるなんて
本からは想像もしなかった。
猫に比べ警戒心を見せず、
どこを触っても口を開けて涎を散らす。
吠えるでも鳴くでもない、
喜びの声で荒い呼吸を続ける。
わたしもそれに応えて、
お腹を前後に力を込めて撫でてやると、
砂埃と換毛期の犬の毛が舞った。
「わっ!」
イオスやアルは自分の舌で毛繕いをし、
最近は毎日ブラシ掛けをしていたので
これほど毛が舞ったりはしない。
近くに立っていた街娼達は、
舞う毛を嫌がって店先から距離を置く。
「ニクスッ。噛まれるわよ。
グルグス。お願い。」
「え? オレ?」グルグスはなにもしない。
「これが気持ちいいの?
換毛期で身体が痒いのかな?」
わたしは二人のことなど気にせず、
トゥルムスを撫で続けて無限とも思える毛を
周囲に撒き散らした。
「サンサ、もしかして犬が怖いの?」
「こ、怖いわよぉ…。
当然よぉ。」
頭巾と宝飾巾に挟まれた目を濡らす。
震える彼女は普段の余裕が見せず、
グルグスの背中に隠れている。
「サンサ、犬、苦手なんか。」
グルグスは大きな身体を揺らして
笑いを堪えた。
怯えたままサンサはわたしを囮にすると、
グルグスを押して店内に入っていった。
◆
「ガロムっ!
犬を飼うなんてわたしへの嫌がらせ?」
「うおぉ! サンサ?
なんだ急にっ。」
店主らしき黒髪の男がサンサの顔を見て、
驚いたのか厨房の奥へ行った。
「ノーラー! 客だぁ!
ノーラーぁ!」
「またなにか悪さしたの?」
「記憶にあっても、心当たりがないわ。」
「当事者なのに…。」
サンサは宝飾巾の奥で怒って見せる。
館の食堂を小さくした店内には、
四角のテーブルに長椅子が並ぶ。
厨房には店主ガロムの他に二人。
何人かの客は労働者で、
キャシュクやサンダルが汚れている。
客達はノーラを呼び出す店主に、
お皿に顔を向けながらも耳を傾けて、
咀嚼を止めて息も潜めて彼女の登場を待つ。
頭巾と宝飾巾をして
街娼と同じ格好のサンサの入店に、
客達は別の緊張を抱く。
入り口では二人の護衛が、
四時の札遊びに興じている。
彼らは表で客引きをする
トゥルムスより働いていない。
「ここのテマッサは
ヤゴウの料理に負けないくらい
おいしいわよ。」
「なんならヤゴウの旦那の料理より
おいしいですよ。」
ガロムが胸を張って言う。
グルグスやヤゴウほどではないけれど、
肉付きの良い若い黒髪の男。
髭の剃り跡が濃い。
「テマッサを4個ね。
グルグスは二人分、食べるでしょ?」
グルグスが喉を鳴らして返事をした。
サンサはアルを降ろして、
首に下げたの革袋から金貨を2枚取り出す。
「いくらするの?」
「一つたったの5ルース。」
「パンと酒を合わせたくらい?
ちょっと高めなのかな。」
「街娼にとっては高い方だけれど、
東側の中流階級には手頃な価格ね。
市場でも買えない高級な食材や調味料も、
多めに仕入れてみんなで分ければ、
こうして手軽に食べられるのよ。」
説明を受けて客層に納得がいく。
わたしの中で曖昧だった
物価というものが見えてきた。
「牧者様ってば、
またこんな店先で
勉強会を開いてるわねぇ。」
「ノーラ。久しぶりね。」
「サンサこそ。
こっちに来るのは春以来かしら。」
ノーラと呼ばれた赤髪の婦人が
わたしを見つめる。
背の高い彼女は手足がとても長く見える。
彼女の名前は館でよく耳にした。
メノーよりもずっと前に辞めたドレイプで、
衣装室には彼女の服がいくつも残っている。
――牧者様だって。
以前レナタが牧者のことを犬を嗾けるひと、
と歪んだ解釈をしていた。
「今日もまた選考会?
孤児院に行ってたのね。」
「この子は違うわよ。
犬を飼ったわね。
わたしへの嫌がらせかと思ったわ。」
「あら。嫌がらせをするつもりなら、
ここには娼館が建ってるはずよ。
暮相の館とでも名付けましょうか。」
青空が屈折する光素の影響で赤へと変わり、
暗くなる空の様子をここでは暮相と呼ぶ。
ペタの次代領主を騙るヘッペは、
ネルタとカヴァで起きた南西の戦いを
暮相の戦争と呼んでいた。
「それに嫌がらせなら、
このお店は業者から毎日受けてるわよ。
戦争が終わっても
お肉の値段は上げられたし、
嫌がらせは余計に酷くなったわねぇ。
このお店がいまも続けられるのは、
通ってくれるお客さんのおかげよ。」
話を聞いていた客達が彼女に向かって
杯を掲げたり、手を振っている。
「犬はガロムの親戚から貰ったの。
羊を扱うのなら犬は必要だもの。
トゥルムスって良い子でしょ。
ガロムっぽくて。」
ノーラの後ろで店主のガロムが照れている。
「あなたは自分より偉いひとが
好きではないものね。」
「わたしはわたしよりも
優れたひとが好きなのよ。
サンサとかね。
それに料理って感覚だもの、
わたしは彼に勝てないわ。」
サンサはノーラに、
手にしたテマッサの料金を支払った。
しかし彼女は金貨の受け取りを拒んだ。
「あなた、トゥルムスの毛が酷いわね。
外で払ってきなさい。
お店が毛だらけになるわ。」
「…あぁー。ごめんなさい。」
わたしは店の出入り口の横で、
キャシュクについたトゥルムスの毛を
払い落とす。
隣のトゥルムスも
身体を震わせて体毛を飛ばした。
店の前に戻ってきた街娼達が、
舞う毛と共にまた離れていく。
「トゥルムスとはまた、
奇妙な名前を付けたわね。」
「雄だから商売の神から名付けたの。
撫でてあげると
その手に触れたものが黄金になるのよ。」
ノーラの話はトゥルムスに関係なく、
神話に登場する手に触れたものを
黄金に変える力を得た人間の話だった。
「食べる物も黄金になるから、
食事もできなくなる王の神話だね。」
この王は枝や石を黄金して喜んだが、
触れた食べ物や飲み物すらも黄金になり、
娘を彫像に変えてしまい自らの力を悔いた。
「ただの換毛期で付いた毛よ。」
「食事前なのだから手も洗いなさい。
あなたもよ、サンサ。
このお店に来る数少ない客から、
食中毒を出すわけにはいかないもの。」
「館を出て4年もすれば
もうすっかりお店の人間ね。」
客向けに流し台と石鹸があり、
清潔な水が提供される。
ノーラは黒く汚れた手拭き布を捨て、
新しい布を用意した。
「ガロムの腕が良いのよ。
エルテルにお店を出さないかって、
タルヴォに直接誘われてるのよ。」
「タルヴォの欲が透けて見えるわね。」
「料理の腕ではガロムには負けても、
食材を見る目だけは良いのよ、わたし。」
「あなた達なら大丈夫よ。」
サンサに言われて口元を緩めるノーラは、
手を洗うわたしを見下ろす。
「あなた、フランジでしょう?
サンサを手伝いなさいな。」
「…はい。」
石鹸を取って泡立ててから、
サンサの白く細い左手を手首まで洗う。
サンサは館では、壁に備え付けた
ブラシを使って一人で手を洗っている。
わたしがサンサを手伝うのは、
彼女が蹴った部屋の扉を
開ける時に限られる。
それでもわたしは彼女の右の手ではない。
「指のあいだもよ。
爪はそっちのブラシを使って。」
「あの子、口喧しいでしょう。
昔からあぁなのよ?」
「聞こえてますよぉ!」
ノーラに叱られながら
わたしに手を洗われても、
サンサは再会に口元を緩ませていた。
◆
濡れた手を拭き終えると、
わたし達は奥の席に案内された。
「孤児院の子達はみんな、
ノーラに憧れて夜の館に来るのよ。」
「貴族と婚姻を結んだって、
噂になってるのよねぇ。
ふふっ。」
サンサの言葉に笑うノーラでも、
相手の店主、ガロムは貴族には見えない。
ノーラの起居はサンサと同じで品を感じる。
「これがテマッサよ。
館で食べたことあったかしら?」
トゥルムスの尻尾のような白色の、
本の形をしたパン。
半透明の泥に見えるソースがパンに垂れ、
挟まれた分厚い肉が食み出ている。
ノーラは別の小皿を、
アルとイオスの前に置く。
「あなた達にはこっちね。」
イオスは厚意で貰ったソースのない肉と、
細かくされたパンを唸りながら囓りついた。
アルは腰を落としてその様子を眺めている。
わたしもパンを手にして口を開いてみても、
パンが厚くて肉の端しか囓れない。
「この子の口には大きかったね。
潰して食べるのは浅ましいわよね。」
パンは潰さずに食べなければ、
この柔らかな食感を失ってしまう。
口に入れても獣臭のない肉は、
軽く噛んだだけで崩れる。
館で出てくる羊肉とは違って、
味に特有の癖がなくて柔らかく、
噛むと口の中で溶けていく。
半透明で艶のある褐色のソースは、
甘辛くてわたし好みの味がする。
微かに含まれる香辛料が、
後から口の中に利いて広がった。
「今朝、仔羊が手に入ってね。
お肉に癖も控えめで
噛みやすいでしょ。」
お肉の入った口を
手で隠して咀嚼を続けながら、
ノーラに向かって深く首を縦に振る。
少し浅ましい行為だった。
表面に薄い皮のある蒸しパンの断面は、
ソースが滲みて味と食感が変わり、
食べ進めると食材が調和する。
目を閉じて味を噛みしめると、
ソースや肉汁の中にペタの蜂蜜が
含まれていることが分かってきた。
「楽しく食べるわねえ。
サンサの隠し子?」
「おかしな流言を広めないでよ。」
「ナルシャの、ニクスよ。」
「ニクス?
夜の女神の名前ねぇ。
あぁ。ふぅん。」
名前を聞くと彼女は、
わたしの出自について
訊ねることはしなかった。
「また妙な子を拾ってきたわね。
今日はレナタは?
良い噂を耳にしたわよ。」
「あの子はアイリアの工房に通う
生徒になったわよ。」
「事実なのね。
今度わたし達家族の肖像画を
描いて貰おうかしら。」
「高いわよ。」
サンサがテーブルの上に、
懲りずに金貨を2枚置く。
ノーラは諦めて金貨を1枚だけ手にして、
もう1枚を突き返した。
「これでお願いね。」
彼女は金貨をサンサに示す。
「この前スーを市場で見かけたわよ。
あなたも大変でしょ。
こんな二人の世話係なんて。」
本人を前にして敢えて首肯せず、
咀嚼を続けて返答にした。
「おがぁざまぁーん。」
店の奥の階段から子供の泣き声が響いた。
「あら、ハルルが起きたわ。
下りといでぇ! ハルルゥ。」
階段を下りてくる小さな足と大きな臀部。
顔を真赤にした赤髪の幼女。
宝石みたいな輝きをした、
黒い目がわたし達を見た。
「ハルルも大きくなったわねぇ。」
ノーラに抱かれて泣き止むハルルは、
アルとイオスに触ろうと手を伸ばす。
「はいはい。触りたいのね。
ニクス。お願いするわね。」
テマッサを食べていたわたしに、
ノーラに自分の娘を押し付けてきた。
「え…なにを?」
わたしではなくハルルに手を振り、
接客をするノーラ。
「いたずら好きは変わらないわね。」
「ここに座ってて。」
わたしは幼子の腰を抱いて、
長椅子の隣に座らせた。
「あなた、かよわいわねえ。」
ハルルに背中を触られた食事中のイオスは、
毛を逆立てて唸りながらも食べ続ける。
「食事を妨げてはダメよ。」
イオスがハルルを叩いたり、
噛みついたりしないか心配になる。
「ノーラはメノーより前の、
1番部屋のドレイプだったのは
知ってるわよね。
ネルタから来た貴族の娘でね。
目が良かったから買ったのよ。
話題の絶えない子で、
銀行屋やあのユヴィルも
手紙を送ってきたほどよ。」
「子供が出来たから辞めさせられたの?」
「ガロムを連れて辞めていったのよ。
熱心なお客さんなんて見向きもせず、
ガロムの料理を目当てにした婚姻に
ルービィも嘆いてたわね。」
「ルービィには悪いと思ってるわよ。」
言ってノーラは
揚げたてのお菓子を持ってきて、
串に刺して自分で食べる。
「あっ! ハルゥもぉ!」
「ポッポの揚げ菓子ね。」
夜の館で出される根菜のポッポは、
太るという理由で厨房では人気がない食材。
ポッポは蒸してから潰し、
ブレズの粉と混ぜて焼いたものは、
食感が良くてお菓子に出すと好まれる。
デーンが得意とするお菓子で、
砂糖が振ったり蜂蜜が使えるのも
人気の理由の一つだった。
この店でのポッポの揚げ菓子は、
皮を剥かずに細長く切って揚げ、
味付けは粒の粗い塩を振っただけ。
ノーラに促されてわたしも欠片を口にする。
――塩だけなのは労働者の為かしら。
最初は辛いと思えた味付けも、
ポッポ自体の甘味が際立っておいしい。
皮が付いているのも、
食感の変化があって口の中が楽しくなる。
ヤゴウの料理にはない豪快さを感じさせる。
ハルルもポッポを自分の手で口に運び、
赤く柔らかな頬を膨らませた。
「あなたはドレイプになるの?」
テマッサを食べ終えたわたしに、
彼女は疑問を投げかけた。
「いいえ。
ドレイプにはなりません。」
ノーラはわたしの返答に目を見開いて、
驚いた素振りを見せてから
サンサの顔を見て笑う。
「ノーラはドレイプになりたかったの?」
「あははっ。
そんなわけないわよっ。」
彼女が美しい声で笑うと、
客達の視線を背中越しに感じる。
「こんな土地に逃げて、
物同然に売られて絶望したものよ。
ドレイプもやってみると華やかだし、
過ぎてみれば嫌な客よりも
眩しい思い出ばかり。
ネルタより使える水は豊富にあるし、
魚は少なくても食べ物はおいしい。
特にガロムの料理には何度も救われたわ。
夜の館の中なら
暴力が振るわれる心配もない。
色々な土地の本も読めたから、
苦手な生物の解体も勉強になったわ。
あ、勉強会はまだやってるの?」
「今度からニクスが教えるのよ。
ノーラも生物の解体で、
分からないことがあれば
この子に聞きなさい。」
「んふっ!」
サンサが無理を押し付けて、
わたしは慌てて首を横に振る。
ポッポの揚げ菓子が喉に詰まりかけた。
「レナタといい、賢いわねえ。
わたしが館に居た頃は、
ルービィやサンサの企み通りに働くのは
嫌だったものよ。」
「わたしも同じ意見よ。」
ノーラの意見に首肯して意思を示す。
「わたしも同じよ。
誰かの企みで働くのなんて。」
この場のサンサもなぜか同調する。
「ハルルもっ! ハルルもぉ!」
会話に混ざりたがった
ハルルの言葉に笑いが起きた。
「ふふっ。
サンサ、どう?
いまのわたし。」
「誇りに思うわ。」
サンサが柔らかい表情を見せて笑う。
「でもこれはサンサに教わったのよ。
ルービィにも感謝してるわよ。
ありがとう。」
ノーラが深く頭を下げると、
ハルルが彼女の頭巾を撫でた。
「ハルル。
そんな手で触ったら、
ノーラの綺麗な髪が汚れてしまうわよ。」
ハルルを抱き上げて
わたしの太腿の上に座らせると、
イオスが鳴いて抗議してきた。
「ノーラもガロムも一度、
館に顔を見せなさい。
あなたの嫌いなわたしの企みよ。
ヤゴウもガロムに料理を
食べさせたがってたわ。」
「楽しみにしてるわ。
ニクス、あなたもまたお店に来てね。」
ノーラと約束はできなかった。
それでもわたしは首を縦に振って、
いつか訪れるその日を楽しみにした。
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