懺悔
「私たちが……私たちが、あの子を殺したのよね……」
母の声は、冬の夜気の中で震えていた。
細い指が震え、握りしめたハンカチは涙と汗で濡れている。
「だって、だって……チャンスだと思ったの。あの子が光を浴びれば、幸せになれると……そう信じてたのに……」
母は嗚咽を押し殺しながら、壁に顔を押し付ける。
「違う……本当は私の見栄だった。隣近所に、親戚に、“うちの子は女優なの”って誇らしげに言いたかっただけ。
娘の未来なんて、娘の願いなんて、見ていなかった……!」
父は黙っていた。だが、その唇はかすかに震え、目は血走っていた。
「俺は……あの時、彼氏と別れろって言ったな。
“世界が違う”って。
“あの子のため”なんて嘘だった。
俺は、ただ邪魔だと思ったんだ。
愛する男がそばにいたら、芸能界に身を捧げられないって、勝手に思い込んだ。
俺が……俺があの子を孤独に突き落としたんだ」
父の声はかすれ、握った拳の爪が皮膚に食い込む。
「あの子が泣いて訴えてきたのに……“やめたい”と……“濃厚なシーンなんてしたくない”と震えてたのに……俺は耳を塞いだ。
『甘えてるだけだ』なんて、口にしたのは俺だ。
俺が……俺が一番、あの子を裏切った」
母は床に崩れ落ちた。
「あの子の目、覚えてる……泣きながら私の手を掴んだ時の震え。
“お母さん、助けて”って言ってたのに……私、笑って言ったの。
『女優なら当たり前でしょ。頑張りなさい』って。
あの瞬間、娘の心を刺し殺したのは、他でもない私だったのよ!」
「娘の遺影を見ても、まだ俺は父親だなんて言えるのか……?
言えない……言えないんだ……!
彼氏の方がよっぽど、娘を愛してくれていた。
俺たちは……俺たちは娘を“商品”としてしか見ていなかったんだ……」
二人は泣き崩れる。
しかし、いくら涙を流しても、彼女はもう戻らない。
呼びかけても返事はない。
罪は消えない。
愛娘の声は、最後まで届いていたのに、自分たちは聞こうとしなかったーーその事実だけが、二人の心臓を永久に締め付けていた。
母の声が震えながら漏れる。
「あの子は……最後まで私たちを信じてたのよね……。
“助けて”って言ってたのに……私たちは……」
父が顔を覆い、叫ぶ。
「娘に、“ごめん”のひと言すら言えなかった!
親なのに……守れなかった!」
夜は静かに更けていく。
しかし二人の胸に刻まれた罪の重みは、永遠に消えなかった。




