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その後

シーラとヴィクトルが結婚をして早5年。

姫様はマーロとめでたく結婚をし、姫様の護衛騎士だったヴィクトルは王太子の護衛騎士となった。

護衛騎士の中でも変わらず副隊長として城で仕事をしている。


シーラは、侍女の霊事件以来、王室専属の霊能力者として貴族たちの不可解な霊的な現象の相談役として過ごしていた。

殆どヴィクトルと一緒に霊的な現象の現場に行っていたため巷ではおしどり夫婦として有名になってしまった。


この度久々の長期の夏休みということで、3歳になるシーラとヴィクトルの娘シャルロットと懐かしい館へと来ていた。


「ここには二度と来たくなかったんだけど・・・」


嫌な顔をしているヴィクトルはため息を吐きながらソファーに座って娘をあやしている。

そんな夫の顔を見てシーラは苦笑した。

霊とは何度も対面しているのに相変わらず剣で切ることができない存在は怖いということでいつも恐怖におののいている姿はとても可愛い。


「まだあの女性の霊は地下室に居るのかしらねぇ」


シーラが言うと、ヴィクトルはますます嫌そうな顔をする。


シーラはカルメルダ夫人を師匠と仰ぎ修行を積み、霊を見ようと思えば見えるようになっていた。

ヴィクトルはシーラのサポート役としてメンタル面と護衛ということで幽霊関係の仕事の依頼があった時はいつも共に過ごしていたので霊を見ることは多かったがやはり怖いものは怖い。

できれば見たくないので、この館にもここ5年は近寄らないようにしていたが娘のシャルロットがどうしても湖で遊びたいと言ったため仕方なく来たのだ。


「俺には聞こえる・・・・女の泣き声が・・・」


青い顔をしているヴィクトルがシャルロットを抱きしめながら呟いた。

シーラにはまだ泣き声は聞こえない。


「よっぽどここの霊と波長が合うのね・・・・ヴィクトル様は。私には聞こえないわ」


「え・・・・俺は館に入った瞬間から聞こえるんだけど」


ますます娘のシャルロットを抱え込んだヴィクトル。


「おとうさまー。いたいー」


ギュッと抱き込まれ嫌がる娘を放さないヴィクトルに苦笑して娘を受け取ろうと手を伸ばすがますますギュッと抱き込まれた。


「シャルロットが嫌がっているんですけど」

「嫌だ。シャルー俺から離れないよな」

「はなしてー、フーゴと遊ぶのー」


ヴィクトルの顔を両手で押しながら力いっぱい抜け出そうとするシャルロット。

それでも放そうとしないヴィクトルにシーラはため息を吐いた。


「もう、そんなに怖いのならちょっと霊と話し合いをしましょう」


何件も霊関係の依頼をこなした実績があるシーラが宣言をするとヴィクトルは首を振る。


「嫌だよ。俺トラウマでここの霊は怖いんだ」

「何も解決しないじゃない。夜、また顔を覗きに来るかもしれないわよ」


シーラの言葉にヴィクトルは一瞬言葉に詰まりシャルロットをますます抱きかかえる。


「シャルと一緒に寝るし。シーラとも一緒に寝るから大丈夫!」


断言するヴィクトルにシーラは首を振った。


「それでは何も解決していないわよ。私のプライドの為に今回はあの女の人を祓って見せるわ」


霊のエキスパートになりつつある妻を見てヴィクトルは顔をしかめた。


「シーラはそんなことしないで、俺の奥さんしてればいいのに。どんどんそっち方面で有能になっていくんだもんなぁ・・・」


霊的な依頼があるたびに言う夫の言葉にシーラは肩をすくめる。


「だって仕方ないじゃない、いっつも王妃様にお願いされるのだもの。断れないわよ」


ヴィクトルの姉は今は王妃となり王を支えているが毎回シーラに不可思議な現象が起こっている貴族の家の問題を解決してほしいと依頼をするのだ。

それをよく思っていないヴィクトルを宥めつつシーラは霊的な問題を解決していた。


「ひと様の問題を解決しているのだから、私たちの問題も解決しないとね」

「解決って言ったって、俺のおじい様は亡くなっているし、俺達がここに来なければいいだけの話だろう」


地下室に行く気がないヴィクトルにシーラはニッコリ笑った。

ヴィクトルが抱きしめたまま放さない娘を無理やり奪い取った。


「お父様は地下室に行きたくないらしいから、私たちだけで探検しましょうね」

「ねー」


よくわかっていないシャルロットを抱きかかえてシーラは地下室に向かうべく歩き出した。


「俺は行かないからね」


ソファーに座ったままのヴィクトル。


「いいわよ。私とシャルロットで行くから」




地下室へと向かうとやはり階段を降りる前から女の泣き声が聞こえてきた。

ヴィクトルと結婚する前に来たときはまだ半人前だったシーラだが、経験を積んだ今なら姿を見ることもできるかもしれない。

意を決して地下室へと続く階段を降りた。

大きくなる女の泣き声にそっとドアを開けて入る。


暗闇の中、シーラは目を凝らすと薄っすらと顔を覆って泣いている女の霊が視えた。

少しは力がついているのだとシーラは自分の能力に自信を持った。

殆どヴィクトルが後ろについていてくれていたが、今は一人だ。

霊と対面できるか心配になったが、腕の中には可愛い娘がいる。


腕に抱いている娘を抱きなおして後ろを振り返った。

階段の上からヴィクトルが心配そうに覗いていた。


来ないと言っていたのに心配して付いてきてくれているのを見てシーラはヴィクトルに見えないように微笑んだ。


「さぁ、あの女の人に消えてもらいましょうね」


腕の中の娘に言うと、シャルロットは青い瞳をぱちくりさせて耳を塞いだ。

「だれか泣いてるの」

「聞こえるの?」


驚いて聞き返すと、シャルロットは頷いて部屋を指さした。


「あの人ないてるの」


そう言ってシーラの腕から降りたがったのでそっと床に降ろす。


「な・・・なにぃ~。シャルも聞こえてるのか」


様子を見ていたヴィクトルがまさか娘も霊の声が聞こえることに驚愕して階段を降りてきた。


「シャルー危ないから、お父さんの所においで」


幽霊が怖いヴィクトルは部屋の中には入らず奥に居るシャルロットに話しかけた。

シャルロットはそんな父親を無視して奥で泣いている女性の霊に向かって手を伸ばした。


「痛いのね。いたいのとんでいって。いっしょにあそびましょ」


うずくまっている女性の霊の頭を何度か小さな手で撫でると、女性が顔を上げた。

綺麗な顔のまだ幼さが残る女性はシャルロットを見て微笑んだ。


「あぁ、ありがとう。私、なんだかふわふわしているわ」

「よしよし」


まだ頭を撫でているシャルロットに女性は両手を伸ばそうとしてふわりと無数の光の玉になって上空へと消えていく。


「居なくなった!」


シーラとヴィクトルは驚いて同時に声を上げる。


「シャルが霊を浄化したのか?」


ヴィクトルは驚きながらも恐る恐る女の霊が居ないのを確認してからシャルロットを抱き上げて顔を覗き込んだ。

シャルロットは意味が解らず首をかしげている。


「なんてことだ!俺たちの娘がとんでもないことをしたぞ」


ヴィクトルが驚くのも無理はない、シーラでさえ驚いているのだから。

シーラとヴィクトルは毎回霊と対話をして上にあがってもらっていたのだ。

シャルロットは少し話しただけで霊を浄化した。

これは凄い力を持っているのではないだろうかと思ってヴィクトルはシーラを振り返る。


「これは、ヤバイぞ。俺たち以外にばれたらシャルロットの将来は霊能力者とか意味が解らんものになる。シャルロットが自分でやると言うまで能力は秘密にしておこう」


ヴィクトルのいう事ももっともだと思いシーラが頷こうとすると、後ろから声を掛けられた。


「僕見ちゃった!」


振り返ると、ハルが笑顔を浮かべて階段の上から見下ろしていた。

彼もまた王の護衛騎士としてヴィクトルと同じ職場に居た。

騎士服を着ていることから何か緊急の連絡があったのだろう。

ハルの姿を見てヴィクトルはギロリと睨みつける。


「姉上たちには言うなよ!」

「それは無理ですよ。お二人の能力を受け継いだ素晴らしいお子様ですね。今から教育をしていけば将来有望ですよね」

「ハル!」


怒るヴィクトルを見てハルは笑っている。

ヴィクトルは抱えていた娘をシーラに託すと階段を駆け上がってハルの胸倉をつかんだ。


「うぁぁぁ、シーラさん副隊長が乱暴します!」


嘘くさい悲鳴を上げるハルにシーラは肩をすくめた。

ハルは毎回ヴィクトルをからかって遊ぶ節がある。


「乱暴ではない!お前が、シャルのことを話さなければいいだけだろう。それと、何か緊急の連絡があるのか?」


休暇中にわざわざ訪ねてくるぐらいだ、何かあったのかと聞くヴィクトルにハルは首を振る。


「なんもありませんよ。僕も夏休みに入ったので副隊長のウチで一緒に過ごそうかと思って」

「俺たちは家族で過ごしてるの!邪魔するな」

「えーいいじゃないですかぁ」


ハルはかなりの頻度でヴィクトルと休みを合わせてわざわざ訪ねてくるのだ。

ヴィクトルには秘密で毎回突然やってくる。

シーラも慣れているため今回も一緒に過ごすことは悪くないと思ってシャルロットの顔を覗き込んだ。


「シャル。ハルお兄ちゃんも一緒に遊んでくれるって良かったわね」

「わーい」


なんだかんだとハルはシャルロットの面倒をよく見てくれているため助かる部分もあるのだ。

シャルロットにしてみれば年の離れた兄のような存在であり、それぐらい良くしてくれている。


「ハル様も、ヴィクトル様も揉めてないでお茶にしましょ。霊も居なくなったし良かったわね。熟睡できますわよ」


シーラが声を掛けると、ヴィクトルはため息を吐いてハルから離れた。


「たしかに、霊が居なくなったのは良かった。けどなんか釈然としないな」


諦めたように言うヴィクトル。


「じゃー、おいしいハーブティーを飲もう。シャルちゃん~」


ハルがシャルロットに声を掛けるとすぐさまシーラの腕から降りてハルの胸に飛び込んでいった。


ハルもシャルロットにお兄様と呼ばれるのがうれしいのか喜んで抱き上げて頬をすり寄せている。


「急にシャルの将来が心配になった」


ハルに抱き上げられて歩くシャルロットを見てヴィクトルが呟いた。

不安そうな夫の腕を叩いてシーラは微笑む


「今から将来の心配をするなんて困ったお父様ね」

「まったくだ」


ヴィクトルはため息を一つついて諦めたように、微笑んだ。

貴公子の微笑みを浮かべてヴィクトルはシーラに触れるだけのキスをした。




お読みいただき、ありがとうございました。

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