150 新たな命
少しだけ進む
「あうー」
嬉そうに俺の腕の中で手を伸ばす赤ん坊。時は流れて、俺の人格で2回目のサーシャの出産を迎えていた。今度は双子で大変ということはなく、女の子が一人産まれたのだ。
「サーシャ、ありがとう」
寝ているサーシャにそう言うとサーシャは微笑んで言った。
「いえ、私も嬉しいですから。旦那様のお陰でこうしてこの子に会えたのですから」
「ああ、また私達の宝物が増えたね」
「そういえば、お義母様は・・・」
「バジルのところだ。大方、またユリーと取り合っているのだろうね」
父上は今回も間に合わず、母上は可愛い孫の面倒を見ているのでこの部屋には俺とサーシャとこの子しかいない。
「そういえば、この子の名前はどうするのですか?」
「ああ、実は母上には許可を貰っているんだが・・・『シナモン』でどうかな?」
「シナモン・・・可愛いですね」
我ながら安直だが、可愛いに越したことはないだろう。
「あぁうー」
「ふふ、その子もシナモンという名前を気に入ったようですね」
「みたいで嬉しいよ」
ローリエ以外は名付けまでしてるのだからなんとも大役ばかりやっているような気がする。
「そういえば、旦那様」
「なんだい?」
「ミントは今日も・・・」
「うん、まあね」
ここ最近になって変わったこと。ミントが頻繁にマベリス殿下に会いたがるようになったことだろう。そんな娘の気持ちがわかるのかサーシャは少しだけ寂しそうに言った。
「ローリエもミントもバジルもあっという間に大きくなって、いきますね。この子もそうなんでしょうか・・・」
「そうだね、でもそれが悪いことではないさ。子供達が大人になって好きな人と結ばれる。私はそんな普通をあの子達・・・そしてこの子に与えたいんだ」
セリュー様の勢力は着々と数を増やしている。最近の顔合わせでセリュー様は同年代の憧れの存在となっており、日々その師匠たる俺のところには自分の子供を預けたいと言う他の貴族が増えているが・・・まあ、普通に断ってる。
セリュー様が特別講座を開いてるそうだが、俺は別に剣術を教えたいわけではないからだ。ただ、子供達によりよき未来を。王政絶対の世界ではかなり現実感が薄いが、ようするに独裁政治とほとんど変わらないのだ。共和制にしても最終的には政力を握ったものが正義になる。
いつの世でも絶対の勝者がいるーーーというのは、かなり暴論にはなるが、それでも俺はサーシャやローリエのためなら喜んで世界を変えてみせよう。そう誓いながら腕の中で楽しそうにするシナモンと微笑ましげにしているサーシャに笑うのだった。




