第8話:逆光の羅針盤 〜46歳・真面目に生きてきた彼女の、もう一つの絶望〜3
前回のあらすじ:真美さんをスペックで切り捨て、俺の47年の純情をナメくさった恋愛市場を、地動説のペンで完全破壊したひややっこ。大岩山の山頂で無敵の覇気を放つ男の戦いから、時計の針は「1年前」へと巻き戻る。京都の片隅で、過酷な肉体労働の現場を30年間一途に守り抜いてきた46歳の女性・美咲。彼女の凍えるほどの孤独と、勇気を出して一歩を踏み出したアプリの世界で待ち受けていた罠とは――。
私のやっている仕事の現場では、本当に出会いがない 。
「趣味のサークルや習い事に行って、そこで一緒になった人から自然に繋がっていくのが一番良いよ」と、無責任な友人や世間は言う 。
だが、美咲には、その言葉すらもトラップだった 。
かつて、彼女は出会いを求めて、ある趣味のグループに勇気を出して飛び込んだことがあった。
そこで、一度だけ「良い感じになりかけた男性」がいたのだ。しかし、その男と関係が少し拗れてしまった時、最悪の悲劇が起きた。
グループ全体の和が完全に乱れ、周囲の目が冷たくなり、美咲は自分の味方をすべて失った。
結局、居心地が悪くなった美咲は、その大切な趣味のグループそのものを、這いつくばるようにして自ら脱退せざるを得なくなった、痛みの過去があったのだ 。
自然な出会いの場すら、拗らせれば自分の居場所ごと破壊される 。相談所に行けばスペックで人間性を否定され、アプリを開けば軽い男に消費される 。
「もう、どうして良いのかわからない……。私は、どうやって人と出会い、どうやって結ばれれば良いの……?」
1年前のあの夜。冷え切った自室のベッドの上で、美咲はスマホを握りしめたまま、声を殺して涙を流していた。
出口のない深い暗闇。システム(ビジネス)に心を殺され、孤独の限界に達していた彼女の魂は、静かに、完全に燃え尽きようとしていた――。
男たちが理不尽なドタキャンやメシモクに血を流していたその裏側で、真面目に生きてきた46歳の女性もまた、この狂った世界の歪みの中で、完全に「チェックメイト(絶望)」されていたのだ。
(第9話へ続く)
ご一読ありがとうございます。嘘をついて男を騙す「あざといテクニック」を強要し、真面目な人間から自尊心とコストを毟り取る結婚相談所の冷酷なシステム。美咲の誠実さは、歪んだ市場のトゲによって粉々に砕かれました。次回、【第9話 反抗期の残雪 〜37歳・シングルマザーの孤独と、すり切れた母の祈り〜1】。1年前のあの夜、暗闇の中で涙を流していたのは美咲だけではなかった。3人の男の子を育てるため、トリプルワークで命を削り、ボロ雑巾のようになるまで働き続ける37歳の母親・ゆり。彼女のすり切れた祈りに襲いかかる、最も残酷なトラップとは――。次回も、この世界の歪みにチェックメイトされた魂の叫びを聴いてください。




