番外編22:『排泄誓約のスクリーニング・ブルー』〜おしっこ愛好以外は至って平凡な男が、靴底を濡らした湯気の起源をカミングアウトし、男女の生体インフラ論で完璧にハックされるまで〜1
【読者の皆様へ(免責事項)】この物語は完全なフィクションであり、実在の人物、地名、特定の結婚相談所、および動画・書籍・マッチングアプリ等とは一切関係ありません。作中の婚活事情や心理描写はエンターテインメントとしての痛烈な風刺・創作であり、特定の生き方や価値観、性別、信仰を誹謗中傷・否定する意図は一切ございません。あらかじめご了承の上、純粋なビター・ドラマとしてお楽しみください。
大人の社会が構築した「衛生」という名の強固なファイヤーウォールを、実につまらない綺麗事だ、とあざ笑うプレイヤーがストリートにはごく稀に実存する。
高志、31歳。大卒、年収500万円。
彼がこの世界のネットワークにデプロイしている表面上のインターフェース(外面)は、どこまでも「模範的なモブ」だった。
ユナイテッドアローズの無難なネイビーのジャケットを着て、スマートフォンの画面に流れる「モテ本」のマニュアルを脳内プロセッサにダウンロードし、出会い系のストリートを必死に回す。
その努力のログが実を結び、これまでに3人の女性と「交際プロトコル(お付き合い)」をホールドし、ベッドの上でのパケット交換まで至った実績もある。
だが――高志は、その3人の誰のことも、本当の意味でハッキング(理解)していなかったし、自分の最深部のソースコード(本音)を1ビットたりとも開示したことはなかった。
なぜか。高志の脳内報酬系の最深部には、大人の社会が最も厳重にロック(排除)し、疫病や不衛生へのアラートと直結させている最悪のバグコードがプログラミングされていたからだ。
――ウロフィリア(尿愛好)。
高志は、女性の「おしっこ」が、狂おしいほどに好きだった。
◇
多くの非モテやモブが、女性の容姿のスコアリングや、胸のサイズという表面的な記号に脳のインフラをジャックされている中、高志の視線はもっと奥、生体システムが嘘を吐かずに出力する「純粋な生体資源」に固定されていた。
普通のデートをしている時、目の前の彼女が「ちょっとお手洗い」と席を立つ。
その瞬間、高志の脳内サーバーは激しくオーバーフロー(過熱)を起こしていた。
(今、彼女の細い身体の奥底で、生体インフラが駆動している。嘘を吐き、気まぐれに浮気をし、俺の年収やスペックを冷徹に値踏みしてくる『脳』とは一切関係のない場所で、
100%計算通りの温度と成分を持った黄金のパケットが生成され、排出されようとしている――)
その出力ログを、見たい。触れたい。
あわよくば、この渇いた喉に直接ダウンロード(摂取)したい。
それは、ネットのアングラな二次元サーバー(アニメや同人誌のジャンル)では一大コモディティ(普及品)として流通している仕様だった。
だからこそ高志は、自分と同じバグを抱えた匿名のプレイヤーが世界に何万人もいることは知っていた。
だが、現実の仕様はあまりにも冷酷だった。
過去に付き合った3人の彼女たち。
彼女たちは、高志がモテ本仕込みの「スマートな店選び」や「優しい共感のメッセージ」をデプロイしている間だけ、微笑みを返してくれた。
もし、この防衛シェルターの奥底に隠した「裏ログ」を1文字でもパージ(カミングアウト)してみろ。
相手の「生物学的セキュリティ(生理的嫌悪)」が一撃で100%強制駆動し、それまで積み上げてきた好意のステータスは1秒で更地になり、永久のアクセスブロック(別れ)という無慈悲なロスカットが実行される。
高志の野生のファイヤーウォールは、その破滅の未来を完璧に検知していた。
「……言えるわけが、ないだろ」




