番外編19:『因果のロスカット・パレード』〜結婚直前の土壇場でハシゴを外され、自らの傲慢と優しさの檻に自滅していく女子たちと、名前に人生をハックされた男の過酷な運命ログ〜8
【読者の皆様へ(免責事項)】この物語は完全なフィクションであり、実在の人物、地名、特定の結婚相談所、および動画・書籍・マッチングアプリ等とは一切関係ありません。作中の婚活事情や心理描写はエンターテインメントとしての痛烈な風刺・創作であり、特定の生き方や価値観、性別、信仰を誹謗中傷・否定する意図は一切ございません。あらかじめご了承の上、純粋なビター・ドラマとしてお楽しみください。
最終章:因果のチェックメイト 〜名前に人生をハックされた男の原罪と、完全なるロスカットのログ〜
加藤、佐々木、三浦、林、高橋、山口――。
ストリートで真面目な女たちの防衛線を完跡に粉砕し、人生の土壇場でハシゴを外し続けてきたこれらすべての男は、一人の人間であった。
彼の本当の職業は、外資系コンサルでも、ベンチャー役員でもない。ただの中小企業のくたびれた総務職(年収420万)の男だった。
しかし、ひとたびスマートフォンの画面を開き、マッチングアプリの海(戦場)にログインすれば、彼は無敵の「ハッカー」に変貌した。
実年齢よりも10歳近く老けて見える、渋く落ち着いたその顔つき。
それは若い女たちにとって「圧倒的な包容力とステータス」という最高の外面パッケージ(擬装)として機能した。
さらに、かつて独学で叩き込んだ経営ロジックや芸術の知識をアウトプットすることにより、看護師の美咲、一般職の奈緒、クリエイターの莉子、インフルエンサーの沙織、アナリストの怜奈、地元の蕎麦屋で働く46歳未経験の恵子といった真面目な女たちの境界線を次々とハックしていった。
彼にとって、女たちの人生の防衛線が解かれ、自分に無条件降伏(結婚の決意や資産の譲渡)をしていくプロセスそのものが、脳内麻薬を分泌させる唯一のインフラだった。
「簡単だな。女なんて、ちょっとスペックを擬装して、優しい言葉のインフラを垂れ流して、最後に『お前が重い』『束縛だ』と被害者面の盾を構えれば、勝手に自滅していく」
目の前の女を一人無慈悲に更地にしても、アプリをスクロールすれば、1秒で新しい新鮮な女性資源が補給できる。
「俺は何も悪くない。あいつらが勝手に俺のスペックに期待して、勝手に尽くして、勝手に自滅しただけ。契約(入籍)前に損切りしてやってるんだから、むしろ親切だろ?」
完璧な免責の盾をガチガチに構え、彼は次の獲物を求めて夜のストリートを徘徊していた。
だが、彼の脳内の損失回避システムは、自らが引き起こしている「因果の総量」が、すでに限界値を迎えていることに気づいていなかった。
男がその日、次のカモを待っていたのは、かつて第1話で美咲をロスカットした、あのラグジュアリーホテルの高層ラウンジだった。
スマホの画面を見つめ、新しい女のスペックをスクリーニングしていた彼の前に、一人の老人が現れた。
ホテルのセキュリティと、数人のスーツ姿の男たち。
配置された包囲網の中央にいたのは、彼がかつて20代前半の頃、人生の全財産(誠実さ)を賭けて愛し、そして結婚直前で自分を最も残酷にロスカットした「元カノ」の父親――このホテルの大株主である資産家だった。
「久しぶりだな。……いや、今は違う偽名を使っているのか」
老人の冷徹な声が、男の脳内システムをフリーズさせる。
「お前がこの数年、アプリの海で何をしてきたか、すべてのログ(証拠)は集まっている。私の娘を裏切ったあの日から、お前の精神のバグは止まらなかったようだな。自分の娘が地雷男にやられたことを、許す父親がこの世にいると思うか?」
老人が突きつけたのは、男がこれまで騙し、ハシゴを外してきた女性たちの「被害ログ」と、彼が会社で行ってきた経歴詐称・横領のデータだった。
男が「楽しかった時間を過ごしただけだ! 彼女たちが勝手に自滅した!」と、いつもの被害者面の盾を構えようとした瞬間、老人は冷酷にその盾を叩き割った。
「見苦しいぞ。お前はただ、自分の惨めな過去と、その『呪われた名前』から逃げるために、他人の人生を更地にし続けていただけの、哀れな泥人形だ」
その瞬間、ホテルのラウンジのスピーカーから、彼の戸籍謄本のデータが、冷徹なシステム音声で読み上げられた。
『本籍・三重県。氏名――槍 珍太』
ラウンジにいた周囲の客たちが、一斉に彼を振り返り、その名前の持つ強烈な音に、失笑と蔑みの視線を向けた。
槍 珍太。
それが彼の、世界で唯一の、本物の生体ログ(本名)だった。




