番外編19:『因果のロスカット・パレード』〜結婚直前の土壇場でハシゴを外され、自らの傲慢と優しさの檻に自滅していく女子たちと、名前に人生をハックされた男の過酷な運命ログ〜2
【読者の皆様へ(免責事項)】この物語は完全なフィクションであり、実在の人物、地名、特定の結婚相談所、および動画・書籍・マッチングアプリ等とは一切関係ありません。作中の婚活事情や心理描写はエンターテインメントとしての痛烈な風刺・創作であり、特定の生き方や価値観、性別、信仰を誹謗中傷・否定する意図は一切ございません。あらかじめご了承の上、純粋なビター・ドラマとしてお楽しみください。
第2話:減点恐怖の一般職女子が、深夜の呼び出しの果てに「生体実況ロボ」へと脳ハックされるログ(大手日系企業総務・奈緒の場合)
奈緒(29歳)の人生は、「他人の顔色を伺うルーティン」で満たされていた。大手日系企業の総務として、波風を立てずに他人のサポートを完璧にこなす毎日。
どれだけ頑張っても代わりはいくらでもいるという無力感を内包した彼女は、「人から嫌われたら、自分の市場価値はマイナスになる」という減点恐怖の檻の中で生きていた。
そんな彼女の脆弱な認知システムに滑り込んできたのが、ベンチャーの役員を自称する渋い面構えの男、佐々木(35歳)であった。
佐々木が奈緒をハックする手際は、極めて計画的で冷酷だった。
最初のデート、佐々木は奈緒の小さな気配り(グラスの空きに気づく、店員への丁寧な対応)を「100点満点の発言」で過剰に肯定した。
「奈緒ちゃんって、本当に周りがよく見えてるよね。育ちの良さが滲み出てる。俺、いろんな女を見てきたけど、君みたいな『本物の品がある子』に出会えたのは奇跡だと思う」
目立たない総務職で承認に飢えていた奈緒の脳細胞に、極上のドーパミンが注ぎ込まれる。
これが佐々木の仕掛けた「加点フェーズ(餌付け)」だった。
奈緒が「この人になら私の価値を全肯定してもらえる」と依存のインフラを構築し終えた瞬間、佐々木は冷徹に「減点ハック」へと舵を切る。
2回目のデートの直前、佐々木は突然、理由のわからない冷淡なLINEをパージした。
『ごめん、急な仕事入ったから今日ナシで。また連絡する』
理由を尋ねる奈緒のメッセージを1日既読スルーしたのち、佐々木は短く『あ、ごめん。ちょっと余裕なくて。奈緒ちゃんって、わりと距離感詰めてくるタイプなんだね』とだけ返した。
奈緒の脳内はパニックを起こした。「私が何か悪いことをして、減点されたのかもしれない」という恐怖。
この「理由のない不機嫌・冷淡」によって、関係の主導権は完全に佐々木に強奪された。
奈緒は嫌われる恐怖から、佐々木の機嫌を伺う「絶対的な受け身(電柱化)」へと退化させられた。
このマインドハックが完了したのを見計らい、佐々木は「深夜のインフラ利用」を開始する。
夜23時、突然届く『今、近くで飲んでるんだけど、奈緒ちゃんの顔が見たくなっちゃった。来れる?』というLINE。
終電を逃す時間であっても、奈緒の脳内では「ここで断ったら、これまでの減点を取り戻せない」
「物分かりの良い、彼を支える女だと思われたい」という防衛本能が働き、タクシーに飛び乗って自分の身体を都合よくアウトソーシングしていった。
佐々木に奈緒の「嫌われたくない」というセキュリティの隙間を、冷酷な手際で完全にハックされていたがゆえの行動だった。
ベッドの中で、佐々木は奈緒の頭を撫でながら、完璧な免責の言葉を囁く。
「奈緒は本当に気が利くよね。他のわがままな女たちとは全然違う。俺、今立ち上げた事業がめちゃくちゃ忙しくてさ、まともに連絡できないことも多いけど、奈緒のその健気さにはいつも救われてるよ」
「連絡が来ないのも、深夜に呼び出されるのも、すべて彼が私を特別に信頼して甘えてくれているからだ」
奈緒は、その搾取の構造を「大人の愛」という名の欺瞞の盾で脳内処理し、ズルズルと1年が経過した。
奈緒の我慢が限界に達し、ホテルのベッドの上で「私たち、ちゃんと付き合ってるの……? 来週の日曜日、お昼からデートしたいな」と、主導権を取り戻そうと小さな声を絞り出した、その瞬間のことだった。
佐々木はタバコの煙を吐き出しながら、冷徹なスクリーニング(採点)を下した。
「あー、奈緒も結局、そっち側の女だったんだ。ガッカリだな」
奈緒の心臓が、恐怖で跳ね上がる。
「え……?」
「俺はさ、奈緒のその『何でも許してくれる大人の余裕』に惹かれてたんだよ。でも、そうやって形式的な『付き合う』とかに拘って、俺の貴重な休日のスケジュールを縛ろうとするのって、結局は俺をコントロールしようとしてるよね。それって重いし、一種のモラハラだよ。俺の今の状況を知っててそんなこと言うなんて、俺へのリスペクトが足りないんじゃない? 本日終了でお願いします」
佐々木は完璧な被害者面をガチガチに構え、奈緒の「嫌われたくない(減点されたくない)」という最大の弱点を正確に突き刺した。
自分が悪者になることを恐れた奈緒は、「ごめんなさい、私が悪かったの、怒らないで!」と涙を流して縋り付いたが、しかし、その瞬間、身体の許容量を超える猛烈な精神的ショックと、自律神経の完全なシステムダウンが彼女の肉体を襲った。
脳からの信号が遮断され、膀胱の括約筋の制御が完全に失われる。
「……っ!?」
おしっこがしたくもなかったはずのその瞬間、奈緒の意思とは無関係に、温かい液体が溢れ出し、ホテルの純白のシーツを急速に汚していった。
極限の絶望と恐怖による、完全な失禁(お漏らし)だった。
大人としての尊厳、女性としてのプライドの防衛線が、肉体的なレベルから徹底的に破壊された風景。
佐々木はその光景を、冷酷なサイボーグの目で一瞥し、これ以上ないほどの嫌悪感を露わにして鼻を鳴らした。
「うわ……最低だな。引くわ。最後にお漏らしで部屋汚すとか、本当に頭おかしいんじゃないの? 近寄るなよ、汚らわしい」
「ち、違うの、違うの……あ、ああ……っ」
奈緒は股間を濡らしたまま、シーツの上で這いつくばり、消え入るような声で泣き叫んだが、佐々木は冷酷に身支度を整え、コンドームを破り捨てるように部屋の鍵を置いて退場した。
残された奈緒の精神は、二度と再生できない完全な更地へと化していた。
現実の痛みに耐えきれなくなった彼女の脳は、最悪の防衛システムを発動させた。
彼女はスマートフォンの画面を開き、匿名の婚活SNSの海へとエスケープした。
『信じていた人に、私の優しさを利用されて捨てられました……。仕事が忙しいって嘘だったのかな。男の人って本当に器が狭い』
現実の彼と直接対話して解決する知性を完全失墜した彼女は、裏アカウントで24時間、自らの悲劇を「コンテンツ化」してパージ(投稿)し続けた。
画面の向こうの有象無象のノイズから「奈緒さんは悪くない!」「その男が地雷すぎる!」という安っぽい全肯定の承認を過剰摂取しなければ、自尊心を保てなくなったのだ。
夜な夜な、キープしているアプリの男たちへの愚痴と、元彼の残像をネットの海に垂れ流し続ける、生体実況ロボ。
彼女は、自分で構築した「可哀想な被害者の私」という名の欺瞞の監獄の中で、ゆっくりと老化し、朽ち果てていった。
第3話へと続く




