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親戚の結婚式に参列したら同い年の姉ができました  作者: 海外空史


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29 お姉ちゃんとお出かけしましょう

 金曜日の夜、部屋で趣味の手芸をしていた。誰にも知られることのない自分1人だけの時間だ。

 その時スマホから通知音が鳴った。スマホを手に取ると、SNSアプリからメッセージが届いたことを知らせる通知だった。

 

『明日の土曜日、空いているかしら? もし、空いていたら、お姉ちゃんとお出かけしましょう』

 

 それが結梨からのメッセージだった。詳しい内容は分からないが、どうやら俺を何かに誘いたいようだ。

 誘いを受けること自体構わないが、問題は今の状況だ。

 俺は机の方に目を向ける。そこには作りかけの春物の靴下があった。

 俺は一気に集中して作りたいタイプで、途中で止められたくはない。

 今ここで結梨に返事をしてしまえば、その後は明日のことで話し合いが始まるはずだ。そうなれば、手芸に集中している暇はない。

 

「まあ、あとは仕上げだけだからな」

 

 俺は誰も聞くことがない言い訳を口にすると、スマホを置いて、靴下へと取り掛かった。

 

 

***

 

 

 次の日の土曜日、待ち合わせ場所に向かうと、明るいベージュ色の髪の姉が立っていた。

 

「すまん、待ったか?」

「いえ、全然大丈夫よ」

 

 俺が声をかけると、結梨はこちらを振り向いた。

 

「そっか、前と違ってギリギリじゃなくて良かった」

「ふふっ、あの時の和哉君は走っていたわね」

 

 少し前のことを思い出してか結梨はクスクスと笑った。俺は少し恥ずかしい気持ちになる。

 

「時間はまだ大丈夫か?」

「ええ。余裕はあるけれど、もう向かいましょうか」

 

 そう言って、結梨と俺は歩き出した。今俺たちの目の前にあるのは映画館だ。今日同い年である姉から誘われて映画館に来ていた。

 

「それで何の映画を観るんだ?」

 

 俺はこれから観る映画を知らない。昨夜映画館に行こうとは誘われたものの、俺がいくら聞いても結梨は教えてくれなかった。

 

「それは上映開始まで秘密よ」

 

 結梨は無邪気にそう笑っていた。その顔は悪戯を企んでいる子供のように見える。

 

「徹底しているな」

「和哉君が気にいるか楽しみだわ」

「そう言われると何か不安になってきたんだが」

 

 結梨がどんな映画が好きなのかこれまで話したことがなかった。もしかしたら、とてもニッチなジャンルなのかもしれない。

 

「安心してちょうだい。そこまで一般向けとかけ離れたものではないわ」

「というと、普通に王道なやつか? アクションとか恋愛とかミステリーとか」

「上映が始まるまでのお楽しみだから」

 

 なおも結梨は口を割らないようだ。彼女の言うことを信じるなら、そこまでおかしな映画ではないのだろう。

 

「じゃあ、迷子にならないようにお姉ちゃんについてきて。それとあまり周りをキョロキョロしないでね」

「だから、俺は子供じゃないんだが」

「それだけではなくて、ネタバレ防止の意味もあるわ」

「ああ、シアターの入り口とかで分かるからか」

 

 俺の言葉に結梨はよくできましたと言いたげな顔をした。

 

「そういうこと。だから、和哉君は私だけを見てちょうだい」

「……何か男に言ったら誤解されそうなセリフだな」

「早速映画を観にいきましょう」

「分かった」

 

 結梨に言われた通り、できるだけ周囲を見ないで、同級生である姉についていった。

 

 

***

 

 

「和哉君、映画はどうだったかしら?」

 

 ワクワクしたような顔で結梨は俺に問いかけてくる。今俺たちがいるのは映画館近くにあるファミレスだ。

 映画を観終わり、ちょうど昼時だったため、感想を話し合いたい結梨の希望でこのお店に来ていた。

 

「……結梨姉さんはああいう映画が好きなのか」

 

 映画を最後まで観て最初に浮かんだのがこれだった。映画の内容は一言で言えばシュールなものだった。

 

「最初はほのぼのしたものだと思ったんだがな」

「ああ、小学生の姉弟が海でサメの赤ちゃんを拾って、家で育てたところね」

「そうだ。いや、今思えばなんでサメなんだよ。そこから既におかしいな」

「私はお姉ちゃんの方にとても感情移入できたわ。これというのも私がお姉ちゃんだからかしら」

 

 結梨は彼女らしい感想を口にしていた。

 

「その後、そのサメの赤ちゃんが宇宙からきたものだと判明するんだよな」

「ええ、そこからは息もつかせないハラハラしたものだったわ」

「うん、まあ、宇宙人から逃げろという感じになるとは思わなかったな……」

 

 前半の雰囲気はどこへやら追っ手から逃げるサバイバル要素が加わってきたのだ。さらに話はこれだけはなかった。

 

「姉弟を助けるためサメの赤ちゃん、まあ、実はサメ型の宇宙生物が急成長をしたシーンは面白かったわ」

「ああ、ゴジ◯みたいになってたな。そこからはまるで怪獣映画のようだったな」

 

 次々と情報と状況が変わっていき、それについていくのに精一杯だ。ちょっとでも目を離していたら物語に置いていかれるという意味でスクリーンに釘付けになっていた。

 

「最終的に宇宙人を追い払ったサメ型宇宙生物が姉弟とお別れするシーンも良かったわね」

「BGMとか演出とかすごい感動的だったな」

 

 宇宙生物とやらが元いた惑星に帰るところは姉弟との思い出が回想シーンとして繰り広げられていた。あまりの怒涛の展開にそう言えばこんなことあったなと懐かしい気持ちになったものだ。

 

「それで総合的にどうだったかしら?」

「悪くはなかったと思うが、まあ、なんだ、全体的にシュールじゃないか」

 

 色々な要素が入り乱れて、情報の洪水に巻き込まれたみたいだ。それが映画を観終わった感想である。

 

「ふふっ、確かにその通りね。何がなんだか意味不明だったわ」

 

 結梨は俺の感想に反発することなく楽しそうな笑顔を浮かべていた。彼女も俺と似たような感想を抱いているようだ。けれど、困惑した俺と違って、クラスメイトである姉は終始楽しんでいた。

 

「なんというか結梨姉さんはああいう映画が好きなのか?」

「まあ、言ってしまえばそうね。どんなことが起こるか分からない予測不明なものが好きなの」

 

 確かにあの映画はそういうこと要素が多分にあるだろう。そこまで考えてふと疑問に浮かんだことがある。

 

「今日俺を誘ったのはどうしてだ?」

 

 それはついこの間結梨から問いかけられたものと同じだった。俺から問われた姉は優しい笑顔を浮かべていた。

 

「あの時の和哉君と同じよ」

「俺と同じ?」

「私も和哉君なら誘っても大丈夫と思ったのよ。現に貴方は戸惑ってはいてもちゃんと最後までしっかり観てくれたじゃない。それが私には嬉しかったのよ」

 

 結梨はあの時と俺と同じようなことを言っていた。もしかしたら、彼女は今日みたいな映画を誰かと観に行って、胸に突き刺さる言葉を言われたのかもしれない。

 

「だから、今日は和哉君を驚かせるためにあえて内容を伏せてみたの」

「いや、あの内容なら伏せていなくても大丈夫だろ」

「ふふっ、それもそうね」

 

 結梨はとても楽しそうに、そして、どこか安心したような顔をしていた。俺にああいう映画が好きなことが受け入れてそれほど嬉しかったのだろうか。いや、それは俺の考え過ぎか。

 

「急に誘ったのに来てくれてありがとうね」

「いや、そんな改めて礼を言われるようなことはないぞ」

「だって、昨日は夜遅くに返信が来たじゃない。だから、和哉君は忙しかったのかなんて思ったの」

「あっ」

 

 結梨の言ったことに俺は言葉が続かなかった。昨夜、彼女からメッセージが届いたのはすぐに確認した。

 けれど、その後、俺は手芸の続きに取り掛かろうと、メッセージを一旦放置してしまった。その結果、俺の悪癖で結梨に返信するのが遅くなってしまった。同い年である姉に返信したのは日付が変わった後だった。

 

「昨夜は夜遅くに返事が返ってきたのだけれど何かしていたのかしら?」

 

 結梨は不思議そうに俺を見つめていた。別に返信が遅いことを問い詰めたいわけではないのだろう。目の前に座っている姉の顔を見れば、そんなことぐらい分かる。

 けれど、俺にとっては警察の取り調べのように感じられた。人には言えない俺の秘密を伝える必要があるからだ。

 

「ま、漫画とかを読んでいたんだ。明日が休みだからさ」

「そうだったのね。けれど、明日が休みだからといって夜更かしは体に良くないわ」

「あ、ああ、これから気をつけるよ」

 

 姉らしく弟(俺)に注意する結梨の言葉を聞きながら、俺は何故だか言い知れない罪悪感を抱えていた。

 これまでも手芸をしていることを隠すため色々な人に嘘を吐いてきた。学や西村といった友達やそれこそ結梨にも以前同じことをした覚えがある。

 けれど、今日吐いた嘘は棘のように俺の心に突き刺さった。それがどうしてなのか俺には分からなかった。

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