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親戚の結婚式に参列したら同い年の姉ができました  作者: 海外空史


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30/30

30 貴方のお姉ちゃんでいる方が楽しいわ

「君のことが好きだ。俺と付き合って欲しい」 

 

 夕日が差し込んだ教室に男子生徒の声が響き渡る。教室に彼と女子の2人しかいない。

 想いを告げられた彼女は明るいベージュ色の髪を耳にかき上げた。その顔は何かを考えているように見えた。

 放課後の教室でまさに今青春の一幕が繰り広げられている。まるでドラマやアニメのワンシーンのようだ。

 惜しむらくはそんなドラマチックな場面で邪魔者がこっそり聞き耳を立てていることだ。その不埒な邪魔者とは俺のことである。

 俺は教室の外の廊下で息を押し殺していた。その結果、同い年である姉が告白される現場を目撃してしまった。

 何も覗きたくて見ているわけではない。俺にとって今は不可抗力な状況だ。

 俺は再び教室をそっと覗き込んだ。先程告白された結梨は何かを考えているような顔をしていた。

 

 

***

 

 

 どうして、俺が告白現場に遭遇することになったのか。話は少し前に遡る。

 

「来ないな……」

 

 待ち合わせである視聴覚室で俺はそう呟いた。今日は結梨と一緒に帰るという約束を交わしていた。

 けれど、約束した時間になってもクラスメイトである姉は現れることはなかった。

 

「連絡もないか」

 

 SNSアプリを起動して、姉からメッセージが来ているか確認する。結梨は連絡はマメな方だ。その彼女から何も連絡が来ないのはおかしい。

 そこまで考えた途端胸騒ぎがした。結梨に何かあったのかと考えてしまう。

 

「まあ、大方誰かと話をしているんだろう」

 

 口ではそう言っているが、既に俺の足は視聴覚室の出入り口へと向けていた。そして、気がついたら、廊下に出ていた。

 

「念の為だ。念の為」

 

 自分に言い聞かせるように俺はクラスメイトである姉を探しに行った。

 まずはクラスの教室だと思い、真っ先に向かった。結果的に言えば、この選択は当たりだった。教室から結梨の声がしたからだ。

 だがしかし、教室にいるのは結梨だけではなかった。

 

「野上さん、待ってくれてありがとう」

 

 聞き覚えのない男子の声が教室から聞こえてきた。その瞬間、歩みを止めた。俺は教室にいる人から見えないように廊下の壁にへばりついた。

 

「いえ、特に待っていないですよ」

 

 今度は聞き覚えのありすぎる声がした。あまり聞き慣れない結梨の敬語だ。そのことから推察するに相手は先輩だろうか。

 

「何か用事があったのかい?」

「どうしてそう思いますか?」

「君が何か気にしているみたいだったからさ」

 

 某先輩がそう言った瞬間、俺はハッとなった。恐らく結梨は俺との約束を気にしているのかもしれない。あれほど弟(俺)と帰りたがっているあの姉のことだから、的外れではないはずだ。

 

「いえ、特に用事はありませんよ。それより先輩の用事は何ですか?」

「そうだね。まあ、君も分かっていると思うけど」

 

 一旦言葉を区切った某先輩は深呼吸をした。その時、教室の空気がピリっと張り詰めたような気がする。

 俺はここから離れようか迷った。けれど、下手に体を動かしたら、物音で気が付かれてしまう恐れがある。そう考えると足が床から離れなかった。

 

「君のことが好きだ。俺と付き合って欲しい」

 

 某先輩の真摯な想いが籠った声が響き渡る。彼が想いを告げた時、俺は胸がドキドキした。このドキドキがどのような気持ちから来るものか分からなかった。

 某先輩は結梨に告白した。だから、彼女は何かしらの返事をするはずだ。それを待つ時間は永遠のように感じられた。

 

「すみません、先輩とは付き合えません」

 

 結梨の柔らかい拒絶の返事が聞こえてくる。今この瞬間1人の男の想いが砕け散った。その場面に部外者である俺が立ち会うことに罪悪感を覚える。

 

「一応理由を聞いてもいいかな?」

「そうですね……、私は今のところあまり恋愛に興味がありません。他に楽しいことがありますから」

 

 後半の結梨の言葉はどこか明るいように聞こえた。彼女が言う『楽しいこと』とは一体何のだろうか。もしかしてと淡い期待を抱いてしまう。

 

「そうか……。それだったら仕方ないか」

「すみません」

「謝らなくてもいいよ。俺が伝えたかったからね。聞いてくれてありがとう」

 

 某先輩の爽やかな声が聞こえる。あまり険悪な雰囲気にならないようで俺は安心した。と同時に危機感を覚えた。今この瞬間、結梨か某先輩のどちらか、あるいは2人が教室を飛び出してくるかもしれないからだ。

 俺は2人に気づかれないようにそっと教室から離れていった。

 

 

***

 

 

「和哉君、明日の数学の予習は済んでいるかしら? 先生から当てられて、貴方が答える問題があったと思うのだけれど」

「ああ、大丈夫だ。何も問題ないな」

「そう、それなら安心ね」

「それならもう少し嬉しいそうにしろよ。露骨に残念そうな顔をするな」

 

 学校からの帰り道を結梨と2人で歩く。あの後、同い年である姉とは何事もなく視聴覚室で集合できた。

 視聴覚室へ来た結梨は「遅くなってごめんね」と俺に告げた。遅れた理由は言わなかった。

 

「別に和哉君が困っているのを私が華麗に解決して、『お姉ちゃん、すごい! 流石だね!』と言われたかったなんてこれっぽちも考えてないわ」

「だから、全部口に出しているんだろ! それに、サラッと何か要求が増えてないか!?」

 

 結梨はいつも通りだ。何かあったのか俺に微塵も悟らせないようだ。そういえば、以前も似たようなことがあった。

 

「和哉君、困ったらすぐに私に連絡してね。お姉ちゃんがいつでも駆けつけるわ」

「まるで正義のヒーローみたいだな」

「そうよ。お姉ちゃんとは弟のヒーローなのよ」

「そんな事実は聞いたことがないぞ。あと、それを言うなら、ヒロインじゃないか?」

 

 けれど、以前と違うのは俺がバッチリ目撃してしまったことだ。結梨が学校中の男子から人気があると聞いたことがあるが、告白される現場を見るのは初めてだった。

 まるで知ってはいけない秘密を知ってしまったようで変に罪悪感を覚える。

 

「和哉君?」

「え? うわっ!」

 

 突然呼びかけられ、隣にいる姉の方を向くと、整った顔立ちがすぐ近くにあった。

 

「そんな驚いた声を出して、どうしたの?」

「急に近づいたらびっくりするだろ!」

「だって、貴方が浮かない顔をしていたから」

「え?」

 

 結梨に言われて、俺は自分の頬を撫でる。そんな顔に出ていたのだろうか。

 

「何か悩みでもあるの?」

 

 その言葉だけ聞けば姉らしく頑張る結梨の顔が思い浮かぶ。けれど、現実の彼女は優しい笑みを浮かべていた。無理に聞き出したりしないようだ。それが余計に俺の罪悪感を強くした。

 

「結梨姉さん、悪い」

「一体どうしたのかしら?」

「実はな」

 

 俺は先程の学校での出来事を結梨に話した。やはりあのまま俺が隠しているのは悪いと思ったからだ。

 

「そうだったの。和哉君もあの場にいたのね」

「悪い、盗み聞きするつもりはなかったんだけどな」

「いえ、私は別に構わないわ」

「そうか。俺も誰にも言うつもりはないぞ」

「ええ、そうした方がいいわね」

「ああ、分かった」

 

 そう言って、会話は打ち切りになった。先程までのいつもの雰囲気はどこかへ消え去り、俺と結梨の間で妙な緊張感があった。

 

「なあ、ああいうことは何回かあるのか? いや、悪い、変なことを聞いたな」

 

 重苦しい空気を払うためだけに考えた質問は良くないものだった。結梨の顔がどこか微妙な笑みを浮かべたからだ。


「そうね、あまり言いふらすつもりはないけど、あるわ。あまり話をしたことがない人からも告白されたこともあるわね」

「それは大変だな」

「ええ、どうすれば波風立たずに断れるかどうか考えているわ」

 

 結梨の苦労を聞くとモテすぎるのも考えものだ。そんなどうでもいい感想を抱いた。

 

「その、いつか良い人と出会えればいいな」

「確かにそうね。いつになるか分からないけど」

 

 俺の適当な言葉に相槌を打った結梨は笑顔を浮かべていた。その顔を見た瞬間、考えてしまう。

 今隣にいる姉にもいつか恋人ができる日が来るかもしれない。そうなった場合、俺との関係はどうなるのだろうか。

 もうどこかへ出かけたり、昼ご飯を一緒に食べたり、こうして隣同士歩いて帰ったりができなくなるのだろうか。

 

「それは……」

「和哉君?」

「いや、なんでもない」

「そう。分かったわ」

 

 結梨には誤魔化したが、自分が想像以上に沈んだ気持ちになっていた。

 どうしてただ想像しただけでこんな気持ちになるのか。どうして結梨との関係が無くなると考えただけで胸の奥がぽっかりと空いた気になるのか。

 

「でもね」

「え?」

 

 結梨の声が聞こえて、俺は顔を上げる。そこにはいつものように無邪気な笑顔を浮かべる姉がいた。

 

「今は貴方のお姉ちゃんでいる方が楽しいわ」

 

 結梨のその言葉を聞いた途端、先程までの暗い気持ちは消え失せて、俺の心はとても温かくなった。

申し訳ありませんが、

ストックが尽きてしまったので、しばらくの間更新をお休みします。

更新再開は5月2日を予定しています。

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