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親戚の結婚式に参列したら同い年の姉ができました  作者: 海外空史


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17 姉弟らしくなってきたわね

 土曜日の午前中、俺は街にある図書館に来ていた。目当ては手芸の本だ。普段は雑誌やインターネットにある動画を見て、勉強をしている。けれど、たまにはこうして図書館に足を運び手芸に関する本を探している。

 本当ならば本屋で買うべきなのだが、金のない高校生にとっては中々専門書に手が届かない。その点図書館なら気軽に本を読むことができる。

 今、俺は館内の手芸に関する本が並べられた棚の前に来ていた。俺の身長よりもずっと大きい本棚に囲まれて、自分が子供の頃に戻ったように錯覚する。

 

「やっぱり専門書はいいな」

 

 タイトルから気になる本を取って、パラパラとめくる。雑誌や動画よりもより詳しい情報が手に入る。本を棚に戻して、何気なく横を振り向いたその時だった。

 

「あら? 和哉君?」

 

 棚の端から明るいベージュ色の髪をした女子が顔を覗かしていた。その整った顔立ちを見た瞬間、いつもとは違う衝撃が俺を襲った。

 

「まさかこんなところで会うなんて姉弟らしくなってきたわね」

 

 俺の内心とは裏腹に野上は妙なことを口走っていた。彼女はとても嬉しそうな顔を浮かべていた。

 

 

***

 

 

「野上も図書館に来るんだな」

「ええ、たまにだけどね」

 

 俺と野上は館内のロビーにあるソファに腰掛けていた。流石に本棚の森であのまま話を咲かせるわけにはいかない。図書館は静かに利用するところと教わったからである。

 

「今日は何の本を探していたの?」

 

 野上は純粋な興味で聞いただけなのだろう。けれど、俺にとっては背筋が凍るような質問だった。

 正直に手芸の本を探していたなんて言えない。だから、誤魔化すしか俺に手はない。しかし、どうやって誤魔化したものか。俺は必死に頭を働かせた。

 

「最近料理の本を読むのにハマっていてな。それを探しに来たんだよ」

「それはとても良いことだわ」

 

 俺の答えを聞いた瞬間、野上は目を輝かせた。俺は嘘をついた罪悪感から視線を逸らした。


「もしかして私が料理を教えたから?」 

「……まあ、そうだな。たまの休みの日に作ったりしているよ」

「そうなのね! ふふっ、お姉ちゃんのお陰なのね」

 

 野上は無邪気な笑顔を浮かべていた。厳密に言うと、真っ赤な嘘ではなく、本当に土日の昼ご飯は自分で作るようになった。といっても簡単なものだけだが。

 

「和哉君が料理をするようになって嬉しいわ。今日はどんな料理本を借りるの?」

「そ、それは、えーと」

 

 俺はかつてないほど頭を回転させていた。テストの時よりもはるかに激しく回っている。

 

「中々良い本が見つからなくてさ、野上におすすめのものを聞きたかったんだ」

「ふむ、なるほどね」

「頼むよ、姉さん」

「良いわよ、お姉ちゃんに任せなさい!」


 俺が両手を合わせてお願いすると、同い年の姉は胸に手を当てて誇らしそうにしていた。まるで後光が差しているように見える。

 

「それだったら早速行きましょう。和哉君にピッタリの本をお姉ちゃんが見つけてあげる」

 

 野上は俺の腕を掴んで、ソファから立ち上がった。そのまま、俺たちは再び本棚が立ち並ぶ場所へと向かった。

 野上に手を引かれながら、気恥ずかしい気持ちと罪悪感で俺の中はぐちゃぐちゃだった。

 

 

***

 

 

「お陰で色々本を借りることができたよ、ありがとう」

 

 野上と一緒に本を探した俺はおすすめされた本を何冊か借りることにした。もちろん本を探している時は静かにしていた。

 今は再びロビーに戻ったところだ。今日はこのまま帰るのが無難だ。まあ、手芸の本はまた今度にすればいいだろう。

 

「そう言ってくれて私も頑張った甲斐があったわ」

 

 野上は達成感に満ちた顔をしていた。確かに野上が選んだ本は興味深いものがあり、とても参考になった。せっかく姉が頑張ってくれたのだ。これを機に料理も勉強しようと思う。

 

「そういえば、野上は何の本を借りたんだ?」

「私はね」

 

 俺の問いかけに野上は持っていた鞄に手を入れた。恐らく借りた本を取り出そうとしたのだろう。けれど、その手が鞄から出てこない。

 

「どうした?」


 思わず野上の顔を見ると、戸惑った表情を浮かべていた。やがて野上は鞄から手を出して、そのまま髪を掻き上げた。その手の中に本はなかった。

 

「私は小説を借りたわ」

「へー、どういう小説なんだ?」

「それは、えーと」

 

 野上らしくなく歯切れが悪い返事だ。そんな彼女の様子に俺は違和感を覚えた。この反応はどこかで見た、というか、あったような……。

 

「まあ俺は小説を読まないからな。別にいいか」

 

 俺は適当な言い訳を並び立てた。野上の反応に覚えがあったからだ。少し前野上にどんな本を探していたか聞かれていた時の俺の反応に似ていたのだ。

 つまり、野上も俺と同様に人には言いたくないことを隠しているのだ。それなら詮索するのは不粋だろう。

 

「今日は本当にありがとうな。助かったよ」

 

 俺は早めに会話を切り上げて、家に帰ろうとした。こうすれば、野上も言いたくないことを言わなくて大丈夫だろう。

 俺は野上に背を向けて帰路へと足を向けようとした。

 

「和哉君」

「どうした?」

 

 不意に名前を呼ばれ、俺は背後を振り返った。振り返った先には決死の表情をした野上がいた。鞄の紐をぎゅっと握りしめて、真っ直ぐに俺を見つめていた。

 

「私は嘘をついたわ」

「え?」

「借りたのは小説じゃないの。この本よ」

 

 野上は鞄から1冊の本を取り出して、俺に見せてきた。本自体はシンプルな表紙だ。俺は本の題名に目を通した。

 

「『尊敬される姉になるには』?」

「そうよ。この本を借りたの」

 

 俺が顔を上げると、頬を赤く染めた野上がいた。顔は赤い野上だが、佇まいは堂々としたものだ。彼女は本を鞄に仕舞い込んだ。

 

「え、えーと……」

「笑いたければ笑っていいわ」

 

 俺がコメントに困っていると、野上は腰に手を当てていた。その姿は押しても引いても微動だにしそうにない。俺は目の前にいる姉にただ圧倒されていた。

 

「……いや、野上はすごいよ。正直に言うことができてさ」

 

 そう声を絞り出すことで精一杯だった。実際野上は堂々と言えたのだ。

 自分の好きなことを人に言えない俺とは違って。その眩しさを直視することができなかった。

 

「それは和哉君のお陰よ」

「え?」

 

 野上の言葉に俺は真正面を向く。そこには優しい笑みを浮かべた同い年の姉がいた。

 

「貴方なら、和哉君ならきっと大丈夫だと思ったからなの」

「俺ならか……」

「ええ、そうよ」

 

 野上は髪をかきあげて笑った。目の前にいる姉から俺は思いの外信頼されているようだった。そのことを知って、俺の心は温かく感じた。

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