ホンとデウーゾ
赤い大地に黒く続く揚水ポンプに沿って歩く
両側にはソーラーパネル、遠く向こう側に見える灰色の建築物は食料工場
兼、貯蔵所であり、水と電力から高栄養溶液を生産・備蓄している
その大きな四角形の端に付いた複数のプレハブこそがハラフ2基地であり
私の向後の職場となる
任期は僅か1年半、新型のNC-Z型アンドロイドがお披露目されたのは1月前
量産体制が整えば労働力としての人間は不要になると
少なくとも上層部はそのように判断した
私とデウーゾが”労働”を経験する最後の世代となるのだろう
基地の軒先に赤い肌の女性が立っている
手を振りながらこちらに駆け寄ってくる
「こんにちは」
お互い頭を下げる
「こんにちは」
「私はNC-93112-NC-Yと申します、ホンとお呼びください」
「私はアリス、アリス・ノーウィック
このたびハラフ2管理区に着任した、よろしく」
「よろしくお願いします」
挨拶を終え、ホンに導かれて小屋に入る
「こっち!、こっちだ!、ヤッ、ヤッ、どうだ!、アッ、ヤラレタッ」
部屋の隅、人物、ゴーグルをつけて機械に吊るされ片手を突き出す
「申し訳ございません、少しお待ちください」
ホンは微笑みながら言う
仮想空間に没入して四肢を振り回しているのはデウーゾ氏で間違いない
「ようし、3対2だ次は俺が取ってやる」
独り相撲は続く、私は苦笑を浮かべて待つ、しばらくして
「ごめん、時間が来た、俺はもう帰らないと
いい、いい、それよりキイチを可愛がってやれ
また来月には来れるから、じゃあな」
「ふひぇー」
デウーゾ氏はゴーグルを外す
満足げな顔、それが見る見る青ざめていく
「あっ」と、短く声を発し此方に駆け寄ろうとして
四肢が宙を掻く、腰のベルトを外し手のグローブと足の靴を脱ぎ捨てて
こちらに走ってくる
「すまない、失敬した」
「問題ない、それよりタダシコフは元気か」
中程度の知的障害がある彼の兄の事をたずねる
「元気、元気だ、隣の家族がよく気をかけてくれてね
仕事が無くなって暇だからと言って遊び相手をしてくれてるんだ
それとフィオーレ型汎用アンドロイド、名前はフワナ
彼とも仲良くやっている、以前のバウム型介護アンドロイド、キイチは
不得手な所もあったがフワナはとても自然だ
ああ、そうだ、今は僕がタダシコフとフェンシングをやっていたのさ
もちろん危ない事は無い、ビームフェンシングっていう遊具で
円筒形の棒からビームが出る、こう、6サンチぐらいの
それで相手に当たればビィーッと音が鳴る
アバターの予約が取れたのさ、人型のドローン、VRで遠隔操作が出来る
大人気だ、めったに予約は取れない、久々にタダシコフと触れ合えたよ」
と、デウーゾは一気にまくしたてる
それからホンに向き直り
「なんで、知らせてくれなかったんだよう」
と、子供のように言う
ホンはあきれ顔で
「外で待たせるわけにはいきません」
と、答える
デウーゾは答えにつまる、そして渋々と言った風情でうなずく
それからお子さんは大丈夫だったかと聞いてくる
あのときデウーゾに心配をかけていたのだと思い当たる
「問題ない、ただのコウゾ熱だ、今は元気に学校に通っている」
デウーゾは今日はじめて笑顔になる
「それは良かった」
それから私たちは部屋の壁からせり出した長方形の機械
フードディスペンサーに食事を注文して卓につく
「頭を取り外してよろしいですか?」
と、ホンが聞いてくる、もちろん了解する
ホンは壁際のソファーに座り両手で自分の頭部を取り外して胴体の横に置く
人が食事をしているあいだアンドロイドがそこに立ったままなのは
どことなく気まずい、そこでアンドロイドは頭部を取り外して
わかりやすく停止中である事を示す、このようなマナーが普及して久しい




