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「お前は何時もそうだったな」


そうだ、窓から目を離し左の座席を向く、父は続ける


「8歳の時、妻が連れていくと何度もせがむから遊園地に連れていってやった

山に囲まれた盆地の・・そう、耕堀こうくつ盆地と言ったな、そこの遊園地だ

お前は遊具やアトラクションには目もくれず

柵の向こう側の山や森や川を飽きずに眺めていた」


聞いたことの無い話だ

父が私をどこかに連れて行った事があったのか、それも遊園地に

かすかに残っている、母と遊園地に行った記憶

そのとき父もいたのか


「それで、どこにいくんだ、まさか明日巣州あぴすしまじゃないだろうな」

と、父は言う


「ハラフ県です」


「なに、ハスナ・グナの生態系の改造はまだ終わっていないのか

あそこはアノマロカリスとスライムぐらいしかいないだろう」

と、父はいらだった様子で続ける


うなずく

「いかんせんハスナ・グナは広いんです」

「ハラフ県や、アルカディア県の奥地にはまだ野生のアノマロカリスや

スライムが生息しています、正確な数は不明ですが」


「カニス島にはまだ手を付けていないのだな」


「はい」

と肯定し分かり切った事を続ける

「あそこは本来の極めて複雑な生態系が残っています、時期尚早です」


「そうか」


父もまた生態系の改造に生涯の殆どを捧げた

主にバルベス島で、ハーディア島で、そしてハスナ・グナで

エルフ・エイスで勤務した事もあったが明日巣洲あぴすしまにはいかなかった


父は”みょん”を忌み嫌っており

「人間は人間、スライムはスライム、アノマロカリスはアノマロカリス」が

口癖だった、明日巣洲あぴすしまの山奥に今も”みょん”が出没すると言う

オカルト話の類を真に受けて

明日巣州あぴすしまには死んでもいくものか」と、息巻いていた


勤務を命じられたことはあった

父は母の実家を最大限に利用しての命令を取り消させた

「人事発令をはねつけてやったぞ」と

あまり自慢するような事とは思えぬ事を自慢していた


「エリーゼはどうしている、私が死んでから落胆していないか」


「母は元気です、特にあなたが死んでからは生き生きとしています」


しまった、余計な事を





もう遅い、後の祭りだ


重苦しい沈黙が続く

取り繕おうとして口が回る


「”私が死んだら別の良い人を見つけなさい”と

あなたが言ったとおりに・・・」


「私がそう言ったのか」


「ええ、あなたが亡くなる半年前に・・そう言っていました」


「そうか」


父の姿がかき消える、左側の窓が見える

自ら電源を落としたのだ

いつもの父との会話だ、また同じ失敗だ


左座席に置いた3次元幻灯機を手に取り、折りたたみ、懐中に入れる

父が選んだのは分離定常アップロードであり

成長することも無く新しい情報が定着する事もない

このリヴィジョン3.0は亡くなる2年半まえのもので

母と私と私の息子との最後の日々の記憶は無い


車いすで出かけた洋服店にて笑顔で断る母へ

時代錯誤のボンネットを勧め続けた事も

たどたどしく話しかける息子に珍しく笑顔を見せた事も


それらの話は次の仕事が落ち着いたら父に話してやろう

苦虫を噛み潰したような顔が目に浮かぶ


父は永遠に生きる事を望まなかった

イドビル病が見つかった時、治療も完全なアップロードも拒否した

「永遠などとてつもない」そう、言っていた

だが、成長はしないままただのアルゴリズムとして自身の亡霊を残すことはした

「お前にはまだしばらくは話し相手が必要だろう」と、言っていた

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